認知症と嚥下障害の関係は?
食事の介助やリハビリのポイント


認知症の家族を介護する方のなかには「最近、飲み込みが悪くなった」「食事中にむせることが増えた」と不安を感じる方もいるでしょう。

認知症はこれらの嚥下障害を引き起こす原因の一つと考えられていることから、安全で楽しい食事を続けるには、認知症についての正しい理解とケアが必要です。本記事では認知症によって高まる嚥下障害のリスクを解説し、今日から実践できる食事の介助方法やリハビリの内容を紹介します。

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「嚥下障害」とは?

 
「嚥下(えんげ)障害」とは、食べ物や飲み物を飲み込む機能に何らかの異常が生じた状態を指します。

私たちは普段、「食べ物を認識する」「口に入れる」「かみ砕いて飲み込む」「喉から胃へと送り込む」という一連の動作を行っています。このプロセスのうちのどこか1カ所でもスムーズにできなくなる状態が摂食嚥下障害です。
「嚥下障害」は、さらに「食べ物を飲み込む」動作に絞って障害が起きている状態を指します。

嚥下障害のサインとしてよく見られる症状は以下の3つです。
  • 食事中や食後に激しくむせる
  • ガラガラと痰絡みのような声になる「湿性嗄声(しっせいさせい)」
  • 食べ物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」
これらの症状は、窒息や誤嚥性肺炎などのリスクにも直結するため「おかしいな」と感じた場合は早めに適切な対応をとることが重要です。

嚥下障害の原因は認知症?

 
嚥下障害の原因の一つとして認知症が挙げられますが、それ以外に、加齢による筋力低下とも深い関係があります。以下では、認知症が嚥下機能に与える影響や老化との関係、さらに認知症の種類別に、起こり得る嚥下障害の特徴を解説します。

おもな原因は認知症と老化による筋力低下

嚥下障害は、認知症のほか、くも膜下出血・脳梗塞・脳出血などの脳疾患による後遺症、パーキンソン病や口・喉の腫瘍などによって起こると考えられています。

一方で、特定の病気がなくても高齢になることで筋力が低下し、噛む力など嚥下機能が衰えていくケースも少なくありません。

認知症の種類別に見る嚥下障害の特徴

認知症にはおもに「アルツハイマー型」「レビー小体型」「脳血管性」「前頭側頭型」の4つの種類があり、嚥下障害の表れ方がそれぞれ異なります。各種の特徴を理解し、適切なサポートにつなげましょう。

① アルツハイマー型認知症

認知症の型のなかで最も多いタイプで、進行すると「食事をしたこと自体を忘れる」といった記憶障害が表れます。飲み込む機能そのものは維持されやすい傾向がありますが、症状が進行して脳全体の機能が低下すると「食事を拒否する」「食べ物だということ自体がわからない」「飲み込まずに口の中に溜めてしまう」といった障害が表れることが多くなります。

② レビー小体型認知症

脳の身体機能を司る部位がダメージを受けるため、ほかのタイプの認知症に比べると早い段階で嚥下障害が起こりやすいのが特徴です。飲み込む動作が困難になり、むせやすくなります。

③ 脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血などによって生じる認知症で、損傷が起きた場所によって症状が異なることが特徴です。そのなかで、誤嚥やむせるといった症状が表れることがあります。また、食事に関する行動に異常が見られることもあるでしょう。

④ 前頭側頭型認知症

大脳皮質の前頭葉や側頭葉が萎縮するため、食事の行動に変化が出やすくなります。例えば「他人の食べ物を奪う」「食べ物を口いっぱいに入れる」「スプーンなどを使わず器から直接食べようとする」といった行動が見られ、誤嚥や窒息のリスクが高まります。

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嚥下障害の症状とリスク

嚥下障害の具体的な症状として、食べ物や飲み物を胃へ送る過程に異常が生じ、食事中に激しくむせたり、喉に水分が絡んだような湿性嗄声(させい)が見られたりすることがあります。

嚥下障害は「食べ物が飲み込みにくい」というだけではなく、命にかかわる重大なリスクをはらんでいます。特に注意すべきリスクは、食べ物が気管に入ることで起きる窒息や誤嚥性肺炎です。中でも誤嚥性肺炎は、高齢者にとって死亡の危険性が非常に高い病気です。

また、うまく食べられないことが原因で、栄養不足(栄養障害)や脱水症状も起きやすくなります。これによって体の抵抗力が弱まり、肺炎のリスクが高くなるだけでなく、筋力低下によって嚥下障害がさらに悪化するという負の循環をもたらすおそれがあります。

嚥下障害がある方の食事の介助方法や注意点

 
嚥下障害がある方にとって、食事は危険と隣り合わせです。安全においしく食べ続けるには、どのような配慮が必要なのでしょうか。具体的な介助方法や食事の工夫、相談先について詳しく解説します。

介助方法

食事のサポートをする際、介助者は立ったままではなく椅子に腰かけ、相手の目の高さに合わせて接するようにしましょう。上から見下ろす形になると、相手の様子を確認しにくいうえ、対象者のあごが上を向いてしまうことで誤嚥を招くおそれがあります。

また、言葉だけでなくジェスチャーを交えて、献立内容や、してほしい動きを伝えます。食事中は常に様子を観察し、声かけを行うなどして、飲み込んだあと口の中に食べ物が残っていないかを確認しましょう。こうした配慮が、安全な食事につながります。

食べ物の工夫

嚥下障害がある場合、食材の選び方や調理方法を工夫することで、誤嚥のリスクを減らすことができます。基本は、まとまりやすく楽に飲み込める形状にすることが大切です。

パサついた食材やサラサラした液体は、そのままでは気管に入りやすいため、とろみ剤を利用しましょう。適度な粘り気を付けることで、食べ物が喉をゆっくりと通過し、飲み込むタイミングをとりやすくなります。

また、以下の特徴を持つ食材は食べにくいため注意が必要です。個々の嚥下機能に合わせて形状を調整しましょう。
  • 噛みにくいもの:いか、たこ、きのこ、こんにゃくなど
  • 水分量が少ないもの:パン、ふかし芋、ゆで卵など
  • 繊維質の強いもの:れんこん、ごぼう、ふきなど
  • 喉に貼り付きやすいもの:餅、わかめ、薄切り野菜など
  • 酸味の強いもの:酢の物、柑橘類(むせやすいため注意が必要)
  • とろみのない液体:水、お茶、サラサラした味噌汁など

専門の窓口に相談

嚥下障害のケアには、リハビリや栄養管理、口腔ケアなど、多方面からのアプローチが必要です。家族だけで抱え込まず、かかりつけの医師や歯科医師に相談し、嚥下機能の評価を受けることをおすすめします。

また、生活全般のサポートについては、地方自治体の地域包括支援センターも頼りになる窓口です。ケアマネジャーなどの専門職と連携し、適切な介護サービスやリハビリの体制を整えることが、食事の安全と介護者の負担軽減につながります。

嚥下障害のリハビリ・嚥下体操

日本臨床耳鼻咽喉科医会は「人生の最期までおいしく食べる幸せを目指しましょう」と呼びかけています。こちらからもわかるように、嚥下機能を守ることは人生の質を守るために重要です。

嚥下機能の衰えは、早期にトレーニングを始めることによって改善する可能性があります。ここでは、日本歯科医師会や厚生労働省などがすすめる嚥下障害のリハビリや嚥下体操を紹介しますので、ぜひ日常生活に採り入れてみてください。

口・頬を動かす体操

噛む力や飲み込む力の維持・向上、唾液の分泌を促進します。

「パタカラ体操」
  1. 「パ」唇をはじくように発音する
  2. 「タ」舌の先を上の前歯の裏に付けるように発音する
  3. 「カ」舌の奥を上あごの奥に付けるように発音する
  4. 「ラ」舌を丸めるように発音する
    それぞれ8回を2セット行う
「ウー、イーの体操」
  1. 「ウー」という形に口をすぼめる
  2. 「イー」という形に口を横に開く

唇や舌を動かす体操

唇や舌を滑らかに動かすことで、食べ物が飲み込みやすくなり、表情も生き生きとしてきます。

「舌圧訓練」
  1. 舌を左頬の内側に強く押しつける
  2. 指で頬の上から口の中の舌の先を押さえる
  3. その指を押し返すように、舌を頬の内側にゆっくりと10回押しつける
    1~3を右の頬でも行う
「口の中で舌をぐるぐる」

唇を閉じて、口の中で舌をぐるぐる回す

嚥下機能を高める体操

飲み込む力を高めると同時に、嚥下と呼吸のタイミングを整える訓練です。食事中にむせる症状を防ぐことができます。

「開口訓練」
  1. ゆっくりと大きく口を開けて、10秒間そのままにする
  2. しっかりと口を閉じて、10秒間休憩する
    1日10秒間、朝夕2セット行う
「ごっくん体操」
  1. 喉に手を当てたまま、あごを少し引きゴクッと飲んで、喉仏のあたりが上がっていることを確認する
  2. 上げたまま5秒間キープする(無理をせず、できる長さで)
  3. 息をお腹から一気に吐き出す
「飲み込み訓練」
  1. 深呼吸をする
  2. 鼻から大きく息を吸って止める
  3. 唾液を飲み込む
  4. すぐに勢いよく息を吐くか、咳をする
    ※3と4の間で息を吸わないように注意

    これを10~20回繰り返す

唾液腺マッサージ

3つの唾液腺を刺激して唾液の分泌を促進し、消化作用や口の中の殺菌作用を高めます。
  1. 耳下腺マッサージ
    耳の前のほう、上の奥歯あたりに指を数本当て、円を描くように10回マッサージする

  2. 顎下腺マッサージ
    耳の下、下あごの内側の部分を親指で5回ほど押し、そのまま耳の下からあごの下まで順に3~4カ所押していく

  3. 舌下腺マッサージ
    あごの中心の下、やわらかい部分に両手の親指を当て、上にゆっくりと10回押し当てる

    1~3を3回繰り返す

嚥下障害かな?と思ったら早めに相談を


認知症にともなう嚥下障害は、本人や家族にとって不安の種ですが、病気への理解を深めることによって適切な対策が可能となります。

重要なのは認知症の型に合わせた細やかな観察と、食事を介助する際の姿勢や食材への配慮、そして嚥下機能を高めるリハビリの継続です。嚥下障害が原因となって起きる栄養不足や誤嚥性肺炎などのリスクを防ぐために、かかりつけ医や地域包括支援センターなどの専門窓口も積極的に活用してください。

少しでも長くおいしく楽しめる食生活をサポートするために、今日からできることを始めましょう。

 
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菊池 大和[医師]

医療法人ONEきくち総合診療クリニック理事長・院長。地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、活動が評価され2024年11月にTIMEアジア版に掲載される。

資格:日本慢性期医療協会総合診療認定医・日本医師会認定健康スポーツ医・認知症サポート医・身体障害者福祉法指定医(呼吸器)・厚生労働省初期臨床研修指導医・神奈川県難病指定医 など

公開日:2026年2月6日

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