あなたの「?」に
もの忘れ・認知症の専門医が答える

認知症クリニック

こんなときどうすればよいの?
どのように対応するのが正解なの?
認知症に関する
さまざまな疑問・質問に
毎回、専門医が
ていねいに
お答えする連載コラムです。

離れて暮らす認知症の親の介護。
サポートの仕方がわからず、悩んでいます。

頻繁に通うのが難しい距離に住む親御さんの介護では、
“無理なく継続できることをする”
ポイントになります。

ここでは、離れて暮らす親御さんのサポートについて、認知症が疑われる場合、すでに認知症の診断を受けている場合の2つに分けて見てみましょう。

認知症が疑われる場合

 帰省した際に、何となく感じる親御さんの行動への違和感や、親せきや近所の方から聞く、親御さんの気になる行動。「もしかして認知症?」と思ったら、まずは病院で専門家の診察を受けましょう。

 認知症は、早期発見・早期の治療開始がとても大切です。どの段階で治療を始めるかによって、その後の進行や暮らしを左右しますので、本人が病院に行くことに難色を示したとしても、上手に誘導して診察を受けてもらうようにしてください。

 とは言え、素直に受診してくれる方ばかりではありません。ある認知症の家族会の調査では、家族や周囲の方が、「もしかして認知症?」と思ってから受診に至るまで、約半年かかるケースが多いようです。

 また、私自身の経験では、認知症という病気への認識がない方や、認知症による不安・焦燥、妄想などの心理症状によって拒否や拒絶が強くなったり、怒りっぽくなった方などは、2年以上の歳月を経てから受診されるケースが多いようです。講演会での質問や相談などでも「本人がどうしても病院に行ってくれない…」「どうしたら病院に連れていけるでしょうか?」というご家族の声をよく聞きます。

 病院に連れていく方法として、まずは正攻法で、もの忘れの検査や認知症の検査に誘って、拒否された場合には、次のような誘い方も検討してみてください。

親御さんが通院している
病院に相談する

内科や整形外科、眼科など、親御さんが普段からクリニックや病院に通っているようであれば、そこを足がかりとしてみましょう。「この機会に先生にごあいさつしておきたい」「現在の治療のことを聞いてみたい」など、現在の親御さんの状況を家族である自分が知りたいことを強調して、親御さんを誘ってみてください。
病院には、予め認知症の疑いがあることを伝えたうえで受診し、その観点での診察をしてもらうか、または認知症専門医がいる病院への紹介状を書いてもらいましょう。信頼する医師の勧めであれば、すんなりと専門病院の受診を受け入れてくださる方も多いです。

一緒に 健康診断を受ける

「認知症の検査」と言うと抵抗はありますが、「身体全体の健康診断の一環」として認知症の検査を受けるという方法もあります。
親御さんが嫌がる場合には、自分が受ける健康診断に同行してもらう、または、一緒に健康診断を受けようと、親御さんを誘ってみることも一つの方法です。
この場合にも、健診医療機関に事前に相談しておくことが大切です。事情を説明して、2人で一緒に健診を受けたいことと、認知症の観点での検査や診察、診断をしてほしいことを伝えておくとスムーズです。

気軽に相談できる
無料相談に誘う

病院に行くことへの拒否感が強い場合には、まずは病院以外の所に行ってみるのも一つの手段です。
今後のことも考えた方が良いことや、自分がとても心配していることを伝えて、一度市役所や保健所などの公的な機関でどんなことに対応してもらえるのか相談に行かないか、と誘ってみてください。ただし、相談先が、もの忘れや認知症の相談に応じているかは、事前に確認が必要です。

近所の方やお友達に
健診や受診に誘ってもらう

家族に言われるのは嫌でも、近所の方やお友達など、普段からお付き合いのある方にさり気なく誘われたり、「私も行ったことがあるよ」などと勧められれば、行ってみようと思う方も多いようです。
このような時のためにも、普段から、親御さんの周囲の方とコミュニケーションを取っておくことが大切です。

上手に誘うポイントは、親御さん自身が
「不安に思っていること、心配していること」に
着目することです。

 「頭がもやもやする」「眠れない」「いつもと違う」「やる気が出ない」など、あいまいな体の不調を訴える認知症の方は多くいらっしゃいます。このような親御さん自身の心配事を切り口に、「相談に行こう」「検査しに行こう」と誘うと受け入れられやすくなります。

 また、「離れて暮らしているから余計に心配」「度々は来られないので、この機会に」など、親御さんを思いやる気持ちを伝えることも受診の原動力になるでしょう。

認知症の診断を受けている場合

 離れて暮らす親御さんが認知症の診断を受けた場合には、継続可能なサポート体制を整えることが大切です。

介護の体制を整える

 親御さんの元へと何回か通って、介護の体制を整えましょう。

 これは、一度の帰省では無理だと考えてください。

 ここで決める介護の体制は、親御さんとあなた自身の今後の暮らしに大きな影響を与えることになります。その場しのぎで決めるのはNG! 最初にしっかりと体制を整えることで、遠距離からのサポートもラクになりますので、忙しい中であっても、何度か通って介護方法の選定や手続きなどをするようにしましょう。

主治医との面接

親御さんの主治医と面接して、現在の進行具合や今後の見通しについて、意見を聞きましょう。直近も今後も同居が難しい場合は、そのことをはっきり伝えて、サポート体制に関するアドバイスをもらうのもよいかもしれません。診断を受けただけで通院していない場合は、主治医探しからスタートしましょう。

公的機関と連携したサポート

親御さんが住む自治体の地域包括支援センターを訪れて、相談しましょう。
公的な介護サービスでどのようなサポートを受けることができるのか、事前に調べておくとスムーズです。調べることで、気になることについて質問ができますし、認知症に関する意識度合いも高まります。
今現在のことだけではなく、今後のことも考えて、どんな介護サービスがベストなのかをセンターのスタッフと相談してみてください。

介護スタッフや周囲の方との関係性を確立する

親御さんのケアマネージャーがどんな方なのか、介護をしてくれているスタッフがどんな方なのかをご存知ですか?
ケアマネージャーをはじめとする介護スタッフはもちろん、親御さんの周囲に住む親せきや近所の方、お友達にごあいさつをしましょう。
連絡先を交換して、連絡方法を確認しておくことも忘れてはいけません。周囲の方々には、可能であれば定期的に様子を見てもらえないかを相談して、何かあったら連絡してもらえるようにしておくと安心です。

継続的なサポート

 介護の体制を整えたら、その後は遠距離から継続的にサポートをすることになります。

 もちろん、定期的に帰省できればよいのですが、いつまで続くかわからないのが介護です。大きなミッションを自分に課すとご自身の生活や健康に影響が出てしまうこともありますので、大きな負担を抱えず、少しの努力を長く継続することがポイントです。

 また、離れているため、親御さんへの頻繁な直接のサポートは難しいので、近くで介護してくれている親せきや近所の方をサポートする視点も大切です。自分にできるサポートが何かを考えて行動しましょう。

電話での連絡を欠かさない

兄弟姉妹や親せきなどの身内が介護をしている場合は、介護者の相談相手になりましょう。
1回5分でもいいのでこまめに電話をして、介護している方の不安や不満、親御さんの様子など、とにかく相手の話しを丁寧に聞いて、ストレス発散の助けになってあげてください。時には、親御さんをショートステイに預けて、介護者の方を旅行や買い物に連れ出し、羽を伸ばさせてあげるのも一つの手段です。
介護をする人は、自分が休むために認知症患者さんをショートステイに預けることや、自分のために時間を使うことに必要以上に罪悪感を持っている方が多くいらっしゃいます。しかし、介護者がリフレッシュすることは、介護において必要不可欠なことです。「そういう時間も大切だね」「いいね、ゆっくりして来てね」という言葉に救われることが多いことを覚えておいてください。

定期的に贈り物をする

介護をしている方への気遣いとして、季節のものや介護をしている方が好きなもの、おいしいもの、または必要としているものをお贈りすると喜ばれるでしょう。
「不要なものを送り付けてくる」と言われたり、「ものだけで解決している」という印象にならないように、定期的な連絡でのコミュニケーションや帰省を欠かさないことも大切です。

金銭的な負担をサポート

「お金に物を言わせて」という意見もありますが、介護にかかるお金を援助することは立派なサポートです。
ただし、この場合にも周囲の方とのコミュニケーションが大切になります。介護全体にかかる費用を把握して、何の費用に関して、どれだけ、どの期間負担するのかを周囲の方とよく話し合ったうえで、金銭的なサポートをするようにしましょう。

便利グッズを活用する

昨今では、介護に役立つ便利グッズがたくさんあります。それらを上手に活用して離れて暮らす親御さんをサポートしている方も多くいらっしゃいますので、いろいろと情報を集めてみてください。
もしものときに、家族の代わりに駆けつけてくれる見守りサービス。
ご自宅にいる親御さんの様子を確認できるネットワークカメラ。
親御さんの現在地がわかる小型GPS。靴に設置すれば、外出も安心。
危険な電話をシャットアウトしてくれる防犯電話機や、耳が遠くなった方との会話をケアした高齢者対応の電話機。
一定距離を離れるとアラートが鳴る紛失&置き忘れ防止用のタグやキーホルダー。
薬や予定を書いたカードを日毎に入れられるポケットカレンダー。

こんな困った事例も…

 今年65歳になる私の姉は、遠距離であることに加えて、生活に余裕がなく、高齢により体が思うように動かず、夫の世話だけで手一杯だと訴えて、認知症の親の介護にまったく協力してくれません。しかし、「みんなには感謝している」「何もできなくて申し訳ない」と言うので仕方ないと思っていたのですが…。

 ある日、私の娘が見つけた姉のSNSには、たびたび海外旅行に出かけたり、おしゃれなレストランで食事をしたりといった、楽しそうな写真がたくさんアップされてました。

 あの言葉も気持ちのないうわべだけのことだったとわかり、兄弟だけではなく親せき中があきれ顔です。もしも姉に介護が必要になった時、どうなることかと心配になってしまいます。

離れて暮らす親御さんの介護サポート、みんなはどうしているの?
認知症の遠距離サポートの
事例を見てみましょう。

認知症が進行している父親は、何でも把握したがるにも関わらず、10分前のことは覚えていない状態。

夫の海外転勤でオーストラリアに住むAさんは、父親の病気も心配だが、何より父親の介護をしている母親を心配している。海外からでは何もサポートできないことを辛く思っている。

父親が発症して数年は、介護する母親に「ああしたら?」「こうしたら?」とアドバイスしていたが、それがかえって母親を追い詰めてしまうことに気づき、余計なことは言わないように心がけている。母親とは、毎日、無料のテレビ電話で会話しているが、母親がくよくよしないよう、聞くことに徹し、一日にあったことをその日のうちに話してもらうことで、しっかりと睡眠をとれるようにと思っている。

この毎日のテレビ電話のおかげで父親のことをそれなりに把握できている。数カ月ぶりに帰国したときにも慌てることなく対処することができるため、母親が介護から離れる時間を作ることができている。
 海外から、このようなサポートができているなんて、素晴らしいですね。

 介護をしているお母様を気遣い、テレビ電話という文明の利器の“便利グッズ”を使って、毎日継続的にサポート。今回私が伝えたかった遠距離からの介護のポイントを網羅して実践されていると思います。

 毎日のテレビ電話で、アドバイスを加えずに、聞くことに徹しているという姿勢もいいですね。人は相談されるとつい解決しようとしてしまうもので、「ただ聞く」というのは“言うは易く行うは難し”です。海外だからこそ、程よい緊張感や遠慮が奏功しているのかもしれません。日常の繰り返されている事実を知り、愚痴を聞くことでお母様の本音や苦労している部分を知っているからこそ、帰国した際に自然と介護の即戦力になれるのですね。

 何かが起こった時にすぐに駆け付けられるという強みを持つ、親御さんの近距離にいる家族や親せきと連携プレーが取れたら最強ですね。

病院に行きたがらない時、どうしたらいいの?
本人が受診拒否した場合の
事例を見てみましょう。

 Bさんの父親は、リタイア後も自治会などに参加していたが、76歳くらいから外に出ることが減り、その頃からもの忘れが増えた。最近では、ご飯を食べたことを忘れたり、草むしりを2時間以上続けてしまい、熱中症になったこともある。

 病院に連れて行きたいが「どこも悪いところはない、病院に行ったら病気にさせられてしまう」と拒否。義妹のアドバイスで父親が住む地域の市役所の福祉課に電話したところ、丁寧に話を聞いてくれ、保健所での専門医相談を紹介された。本人が不在でも相談可能と言われたので、休みを取って保健所に行ってみると、地域の総合病院で認知症外来を担当しているという医師が話を聞いてくれた。本人の病院嫌いや、5年前までがん治療をしていたことなどを説明したところ、がん治療していた病院に紹介状を書くので、本人に「5年も空いたので、がん検査にもう一度行かないか」と話してみてはどうかとアドバイスを受けた。

 早速父親の家へ行って、医師のアドバイス通りに誘うと「それだけは気がかりだった」とすんなり承諾してくれた。

 紹介状に、認知症の疑いがあることと、受診拒否が強いことを書いていただき、保健師さんも病院に連絡してくれていたのでスムーズに受診でき、がんの検査後に「75歳以上の方には脳の検査もしてもらっているんですよ」と上手にメモリー外来(もの忘れ外来)へと誘導してくれた。
 お父様が無事に認知症診断のスタートに立てたようで、良かったですね。

 本人を連れていけないと、何も始まらないと考えて相談や治療を諦めてしまっている家族の方も多いのですが、この事例のように本人不在でも相談できるところはありますので、チャレンジしてみてほしいと思います。

 この事例では、専門医相談で担当した医師が地域の病院の外来を担当しているということですし、保健所に相談したことで地域の保健師とも関係が出来ました。このように、いくつかの足掛かりができると、たとえ紹介してもらった病院の受診や治療が上手くいかなかったとしても、次の手が打てると思います。

さちはなクリニック
副院長 岡 瑞紀

琉球大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室にて研修。国家公務員共済組合連合会立川病院、桜ケ丘記念病院勤務後、慶應義塾大学病院メモリークリニック外来、一般内科医院での認知症診療、各種老人入居施設への訪問診療、保健所の専門医相談、地域研究、家族会など各種講演会での啓発活動を通して、様々なステージや状況下の認知症診療を経験。慶應義塾大学大学院医学研究科にて学位取得。2015年より、さちはなクリニック副院長として、もの忘れ、認知症の診療を担当。
免許・資格:医師/精神保健指定医/精神科専門医/日本老年精神医学会認定専門医/医学博士
所属学会:日本精神神経学会/日本老年精神医学会

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