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もの忘れ・認知症の専門医が答える

認知症クリニック

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認知症に関する
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毎回、専門医が
ていねいに
お答えする連載コラムです。

認知症の介護をしている家族を
上手にサポートする方法はありますか?

認知症の介護者は、精神的ストレスで、うつ予備軍になりがちです。
心や身体に、ストレスによる悪影響が出ないようにサポートをしてあげることが大切です。

 介護は重労働です。多くのエネルギーを使うため身体への負担が大きく、精神的なストレスを抱えることも多いため、うつ予備軍となっている介護者は少なくありません。

 特に認知症の介護の場合は精神的負担が大きく、老介護の場合などは、介護者がうつをはじめとする精神疾患にかかりやすい傾向があります。

 心の病を患わないためには、何より介護でのストレスを溜めないことが大切です。そこで今回は、介護者がストレスを溜めない方法をアドバイスします。ぜひ認知症の介護をされている家族をサポートするうえでの参考になさってください。

厚生労働省「平成28年 国民生活基礎調査の概況」より

老年期うつの特徴

  • 抑うつ気分
    気分が沈みがちで、ふさぎ込んだ状態が続く。
  • 興味の喪失
    何事にも興味を持てなくなり、何をしても楽しめない。
  • 食欲の変化
    食欲減退、または食欲増加。
  • 睡眠の変化
    ぐっすり眠れない、または眠りすぎてしまう。
  • 動作・行動の変化
    動作が遅くなり、言葉が出てこない。じっとしていられない。
  • 気力の低下
    身体が重く疲れやすい。気力が低下し、すべてが億劫に感じる。
  • 罪責感
    自分のことを責める。自分は価値のない人間だと感じる。
  • 思考力・集中力の低下
    物事に集中できない。考えがまとまらない。物事を決めることができない。
  • 不安・焦燥感
    不安や焦燥感、落ち着きのなさなどが目立つ。
  • 記憶力の低下
    もの忘れ、物事が理解できない、記憶力の衰え。
  • 死・自殺念慮
    死について考えることが多くなる。自殺のことを考える。
  • 体調不良
    頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、倦怠感、吐き気、食欲不振、しびれ、下痢、便秘などの体の不調。
該当することがある場合、まずは、かかりつけの医師に相談してみましょう。
早期に精神科や心療内科を受診して相談や予防、治療を検討してみることもおすすめします。

介護ストレス軽減アドバイス 
その1

無理せず続けられる環境作り

 認知症の介護は1人の頑張りで乗り切れるものではありません。1人で抱え込まず、家族や地域包括支援センター、ケアマネージャー、主治医、介護施設など、周囲の方と協力しながら、「続けられる」介護環境を作ることが大切です。

 家族と介護を交代する時間を作る、訪問介護やデイサービスを利用するなど、介護から解放されて、心と身体の深呼吸をする「自分のための時間」を作るようにしましょう。

 そのような時間が作れない場合には、レスパイトケアサービスの利用も検討してみてください。

レスパイトケアサービスとは?

レスパイトとは、英語で小休止や息抜きを意味します。
介護でのレスパイトケアとは、介護者の心身を癒すために、一時的に介護を代行する家族支援サービス。介護疲れはもちろん、冠婚葬祭や私用などで家を空けるときにも活用できます。
デイサービスやショートステイ、場合によっては入院も、家族のレスパイトを目的に利用するという考え方も重要です。
レスパイトケアサービスのご利用については、地域包括支援センターで相談してみてください。

介護ストレス軽減アドバイス 
その2

睡眠の重要性を認識する

 認知症の患者さんは認知症による睡眠障害などで昼夜が逆転する場合があり、在宅介護の辛さにこのことを挙げる介護者が非常に多くいらっしゃいます。

 患者さんが夜間に起きていれば、当然介護者は睡眠をとることができなくなります。睡眠不足は、体力の回復だけでなく、ストレスによる身体の変化にも大きな影響を及ぼします。

 ストレスによる身体の変化はさまざまですが、そのどれもが、早期であれば十分な睡眠により副交感神経が優位になることで改善する場合があります。体力だけではなく、心身の休息の意味でも睡眠は大切なのです。

ストレスによる身体の変化

 一方、高齢になってくると睡眠障害などにより若い頃のように、瞬時に寝て6時間以上ぐっすり眠る、というような効率的な眠り方ができなくなりがちです。40~50代になると、夜中に一度は起きてしまったり、さらに年齢を重ねるにつれて、2度3度と目が覚めてしまったりするのは生理的なことです。

 「6時間はまとめて眠らなければいけない」などと、自分にプレッシャーをかけず、短時間でも自分に合った質の高い睡眠を心掛けてください。そして、夜間に十分眠れなかった場合は、日中にリラックスをする時間をしっかりと設けるようにしてみましょう。ただし、日中に眠ってしまうと、またその夜に眠れない、という睡眠不足のスパイラルに陥ってしまうので注意が必要です。

介護ストレス軽減アドバイス 
その3

与薬*・薬管理のストレスを減らす

 認知症の患者さんの症状をコントロールするために薬はとても重要ですが、薬の服用を嫌がる患者さんも多くいらっしゃいます。また、薬を飲んだことを忘れて「飲んでいない」と主張するケースも多く見受けられます。

 認知症治療にとって薬が重要な位置づけであるからこそ、「正しい時間に正しい種類、正しい量の薬を飲まさなければ」とプレッシャーに感じている介護者も少なくありません。「薬の管理は介護者がやらなければいけない」という考えは捨てて、与薬や薬の管理にストレスを感じたら、まずは主治医に相談してみてください。
*病気の症状に合わせて処方された薬を介護者などが患者に与えること。

与薬・薬の管理に関して主治医に相談してみよう!

一包化

服用時間が同じ、何種類かの薬を1袋にまとめること。飲み間違いや薬の紛失の防止に効果的です。

剤形の再考

認知症の薬には、口から摂取する錠剤やシロップなどのほかに、貼り薬や注射などもあります。

与薬の大変さ

どのように大変なのかを主治医に伝えて、現在処方されている薬の必要性について相談してみましょう。

飲ませ方の変更

複数の薬効成分を1つの薬の中に配合した合剤(配合薬)の使用や、服薬時間・回数などについて相談してみましょう。

在宅患者訪問薬剤管理指導の活用

主治医の指示によって、薬剤師が自宅に薬をお届けし、服薬状況の確認や服薬指導をしてくれるサービスがあります。
 薬剤師に服薬を総合的に考えてもらえる訪問薬剤管理指導は、服薬の負担や不安の解消につながるのでおすすめです。さらに、第三者が介在することで、患者さんの刺激になり、認知症の進行予防の訓練にもなるというメリットもあります。

 また、薬の管理には、市販の「お薬カレンダー」や「服薬ボックス」などを利用するのがおすすめです。配薬することで認知訓練にもなりますし、介護者はもちろん、誰が見てもわかるように管理できるので「自分しか把握していない」「必ず、自分がやらなければ」という思いからも解放されます。

介護ストレス軽減アドバイス 
その4

自分自身を大切に考える

 介護は、介護者が無理をしないこと、納得のいかないことを続けないことが大切です。自分を犠牲にして、自分の生活を切り崩して行う介護はいつの日か破綻してしまいます。

 自分自身を大切にしながら介護を続けるために、次のようなことを参考にしてみてください。
  • 介護を休む日を予定に入れる
    介護体制のなかに、自分の時間もしっかりと組み込んでください。「この日はNG!」と言ってもいいのです。その際には、家族やヘルパーさんに自分の予定や居場所を伝えるようにしましょう。
  • 自分の居場所を作る
    24時間、患者さんとずっと一緒にいれば、心は次第にすり減ってしまいます。
    家の中で、患者さんと離れてほっとできる場所を確保しましょう。
  • 自分の楽しみを持つ
    介護だけの暮らしになると、介護が終わったあとに「ぽっかり…」という事態も招きかねません。日常的に楽しめることを作って、1日のなかで数時間は自分の時間を取るようにしましょう。以前やっていたことや、一度やってみたかったことを始めたりするのもよいでしょう。
    ぼんやり考え事をする、黙々と買い物をする、好きなテレビ番組を見る、友人と連絡を取るなど、趣味と呼べるようなことでなくてもOKです。自分にとっての楽しみを見つけてみましょう。
  • 手抜きをする
    自分以外の人の生活にも気を配り、時間と労力を使う「介護」をしているのですから、限られた時間と気力、体力の中でやっていくためには、手抜きも必要です。
    「手抜き」は言い換えれば「作業工程の簡素化」。既製品や配送サービス、介護サービスなどを上手に利用した効率化を考えてみましょう。しかし、自分が関わる介護の手抜き法を自分で見つけるのは難しいものです。周囲の方の「手抜き例」を参考にしたり、アドバイスを得る機会を増やしてみてください。
  • 罪悪感を捨てる
    介護者が毎日を楽しく過ごすことは罪でも裏切りでもありません。患者さんも介護者に苦労をしてほしいとは思っていません。
    患者さんに寄り添う心のゆとりを持つためにも、自分が楽しいと思うことをやることは大切です。
  • すき間の時間を有効活用する
    どうしても時間がとれない場合は、すき間の時間を使って息抜きをしましょう。
    例えば、5分のトイレ休憩でも、1日8回とれば40分になります。何もせずにぼーっとするのも有意義なすき間の時間の使い方です。
  • 誰かに話してみる
    一人で抱え込まないようにすることが大切です。ちょっとしたことでも構いませんし、アドバイスを受けた場合でも、それを必ず実行しなければいけないわけでもありませんので、気軽に話してみてください。誰かと話しをして自分の心を軽くしてあげることで、解決策が見えてくるかもしれません。
  • 発想の転換をする
    「こうでなければいけない」という思い込みによって、自分を苦しめていませんか?
    押してダメなら引いてみる!
    上手くいかないときには、見方や考え方を180度変えてみましょう。
 介護者のストレスは、巡り巡って患者さんのストレスにもなります。そして、患者さんがストレスを抱えれば、介護の難易度は上がり、介護者はさらに多くのストレスを抱えることになります。この負の連鎖を止めるためにも、介護者自身の体調にもしっかり目を向けてください。そして介護者自身の生活を守ることが大切です。

 介護者は長期の旅行などは難しいかもしれませんが、「できない」ことよりも「できること」に目を向けて、自分の楽しみを持つとよいでしょう。介護者が前向きに介護をできるよう、適宜家族が気にかけ、必要なサポートをすることが何よりの助けとなります。

介護ストレスを抱えていませんか?
認知症の介護者の事例を見てみましょう。

 5年前に軽度のアルツハイマー型認知症と診断された妻。

 妻はAさんの会社で事務の仕事をしていたが、計算ができなくなったり、頼まれたことを忘れるようになったため、3年前に仕事を辞めた。

 認知症と診断されてから数年は、仕事帰りのAさんと外で待ち合わせをして通院していたが、最近は待ち合わせも困難になり、今はAさんが一度妻を迎えに自宅に帰宅してから一緒に通院している。

 通院前日には、保険証と診察券とお薬手帳の3点を用意しておくようにと、紙にも書いて妻に説明しているのだが、揃っておらず、片づけられなくなって散らかった部屋の中から探し出すのに苦労していた。Aさんは、そのことが悩ましく通院への同行を面倒にさえ感じるようになった。

 この通院の苦労を息子の嫁に話したところ、「会社に保険証、診察券、お薬手帳の3点をおいておいたらどうですか?」と提案されたが「妻は“自分の物は自分で保管できる”と言い張るので、自分が触ることはできない」ことを伝えると、「保険証はコピーを取って置いて、診察券とお薬手帳は古いものを形式的に渡しておいてはどうですか?」と助言があった。

 簡単な方法なのに、自分ではなかなか思いつかなかった。それ以来、時々妻のことを相談することようになったのだが、それだけで気持ちが少し軽くなり、気になっていた頭痛と耳鳴りが少し楽になった。
 Aさんは、夫として当たり前だと思ってやっていることに、いつの間にか疲れが出てきてしまっていますね。

 自分自身では、ストレスの状態に気付きにくく、気付けたとしても適切な対処法を見つけるのは難しいものです。ストレスの根本や解決策は、第三者の方が見えやすいものですので、恥に思ったり遠慮したりせずに、周りの方に話をしてみることが解決の糸口になります。

 ストレスや辛さ、不調を感じている時こそ、周囲に相談をする必要があることを思い出してください。些細なことでも相談できる相手が日頃からいるとベストですね。

 Aさんの場合、通院同行をお嫁さんや息子さんなどに代わってもらうとさらにストレスを減らせるかもしれません。それが難しければ、Aさんがやっている別の家事や奥様の見守り、介護の代行を専門の業者に依頼するのはいかがでしょうか。休日にたまに奥様だけを連れ出してもらうのもよいかもしれません。
 4年前に父が他界。Bさんの家から電車で40分程のところで一人暮らしをしているBさんの母は、2年前から弱気になってBさんへの電話が増え、医者からは認知症の始まりだと言われた。

 会いに行くと落ち着いた様子だが、夜や明け方になると心配事を抱えて電話をしてくる。次第に症状は進行して、風邪をひいたのをきっかけに「胸が苦しい」「薬を飲み間違えた」「眠れない」などの体調に関することや「とにかく早く来て」という電話が増え、始発電車で急いで行ったこともあった。

 Bさんは、夜寝ていても「いつ電話がかかってくるのか?」と気が休まらず、電話の音がしたかと思って飛び起きたり、動悸がするようになった。

 ある日、遊びに来たBさんの長女がBさんの異変に気がつき「お母さんどうしたの?」「ちゃんと寝られているの?」と問いかけたことで、Bさんは冷静さを取り戻した。Bさんは長女に介護状況について話をしたところ、「そんな大変な状況の中で、何でも1人でこなそうとするのがよくないところよ」「おばあちゃんに私の携帯にかけるように言って」などと言われた。

 長女はすぐに母に電話をかけて、毎週金曜日はBさんが長女の家で孫の面倒を見る日だと話し、母にはデイサービスをすすめて、週に1日の休息日をつくってくれた。長女の機転と素早い行動に感謝している。
 Bさんの場合も、気付かないうちに疲れが溜まってしまった事例です。「気が休まらない」「動悸がする」というのがシグナルといえるでしょう。その“身体からの声”に耳を傾けないで無理を重ねると、不眠症やうつ病になって、介護はもちろん、仕事や家事などもできなくなってしまう危険性があるのです。

 介護ストレスは、介護者本人が気付かないうちに蓄積してしまうものですので、意識して介護モードの「ON」「OFF」を作ることが重要です。Bさんの場合、相談を受けた娘さんが、適切なアクションをすぐに起こしてくれたのはよいですね。

 介護の悩みを相談された場合は、自分にとって負担になり過ぎずに継続できることで、介護者にとって良かれと思うことを1つ、まずは実行してみるのが良いのかもしれません。

さちはなクリニック
副院長 岡 瑞紀

琉球大学医学部卒業。慶應義塾大学医学部精神神経科学教室にて研修。国家公務員共済組合連合会立川病院、桜ケ丘記念病院勤務後、慶應義塾大学病院メモリークリニック外来、一般内科医院での認知症診療、各種老人入居施設への訪問診療、保健所の専門医相談、地域研究、家族会など各種講演会での啓発活動を通して、様々なステージや状況下の認知症診療を経験。慶應義塾大学大学院医学研究科にて学位取得。2015年より、さちはなクリニック副院長として、もの忘れ、認知症の診療を担当。
免許・資格:医師/精神保健指定医/精神科専門医/日本老年精神医学会認定専門医/医学博士
所属学会:日本精神神経学会/日本老年精神医学会

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