介護は同居して行うべき?
同居介護のメリットやデメリット


親の介護が必要となり、何をしたらよいか悩んでいる方は多いのではないでしょうか。

介護方法には、離れた所に住む親のもとに通いながら介護を行なう遠距離介護や、近くに住みながら介護する近距離介護などのほか、同居介護もあります。

この記事では、同居介護のメリットとデメリットについて説明し、どのような場合に同居介護が向いているのか解説します。さらに、同居介護を成功させるポイントや世帯分離についても紹介します。

同居介護の3つのメリット

同居介護の主なメリットとして、次の3点が挙げられます。

親の体調の変化にすぐに気付ける

同居していれば親の様子をこまめに見られます。高齢になると体調を崩すことも増えますが、そのようなときにすぐに対応できるのは同居介護のメリットです。容態の急変にもすぐに気付けるため、大事に至らずに済む場合もあるでしょう。

夜間の様子も観察しやすく、気になったときはすぐに目で見て確かめられるため安心です。親の様子を毎日観察していれば、ちょっとした様子や体の変化にも気付けるため、状態によっては病院の受診も勧められます。

家事や育児の一部を任せられる

夫婦共働きの場合、家事が疎かになることもしばしばあるでしょう。そのようなとき、同居介護なら親と家事を分担できることもあります。また、お子さんがいる場合には育児を手伝ってもらえる場合もあるでしょう。

家事で忙しく手が離せないようなときでも、親に子どもの面倒を見てもらえることは大きな助けとなるでしょう。つい目を離して子どもが怪我したり事故に遭ったりするリスクも低くなり安心です。子どもが病気のときでも、親に預けて夫婦ともに仕事ができるメリットもあります。

ただし、高齢の親に負担の大きい家事や育児は任せられない点には注意が必要です。特に、介護の度合いが大きい場合や認知症の場合は、家事や育児をサポートしてもらうのは困難でしょう。

経済的な負担が軽くなる

別居介護と比べて同居介護は経済的な負担が少ないというメリットがあります。例えば、別々に暮らしているよりも家賃が抑えられます。遠距離介護の場合は別途交通費がかかりますが、同居なら必要ありません。

光熱費も別々に暮らしている場合よりも、同居して折半する支払い額のほうが安くなるでしょう。食費も折半できます。同居して自ら介護するとなれば、介護サービスの利用料も抑えられるでしょう。また、親を扶養家族にすれば税金の控除が得られる場合もあります。

同居介護の3つのデメリット

同居介護はメリットばかりではありません。デメリットもあるため、同居介護を検討する際はあらかじめこれらについて確認しておきましょう。

同居介護はメリットばかりではありません。デメリットもあるため、同居介護を検討する際はあらかじめこれらについて確認しておきましょう。

同居介護は、介護者と被介護者のどちらにもストレスが溜まりやすい側面があります。

介護者である親を自宅に呼んで同居介護をする場合、親が新しい環境に慣れずストレスになる可能性があります。もともと住んでいた地域の友人と疎遠になるうえに、新しい地域で友人がなかなかできず、人間関係でストレスが溜まることもあるでしょう。

一方、介護者は、介護で疲れが溜まりストレスになる場合があります。同居介護は常に被介護者の世話をしている状態となり、介護者が休む暇はほとんどありません。夜間もトイレなどの介助が必要となれば、睡眠時間も少なくなります。

このような状態が続くと親に強く当たってしまう場合もあり、親子関係が悪化するおそれもあります。生活リズムの違いからお互いストレスが溜まる可能性もあるでしょう。

介護離職となるケースもある

介護と仕事の両立は難しく、心身ともに疲労が溜まりやすくなります。そのため介護と仕事の両立ができず、やむを得ず退職して介護に専念する方も多くいます。これを介護離職といいます。

仕事を辞めればその分の負担が減り、介護しやすくなるメリットはありますが、それ以上のデメリットがあるため避けたほうが無難です。特に収入がなくなることの経済的なデメリットは大きくなります。

勤務時間を短縮する制度や介護休暇制度などがあれば積極的に活用して、可能な限り介護離職は避けてください。

利用できない介護サービスがある

同居介護だと利用できない介護サービスもあるため注意が必要です。特に自宅にヘルパーが来て介護を行なう訪問介護は利用条件が多く、利用できない可能性が高くなります。

ただし、同居介護でも訪問介護が利用できる場合もあります。例えば、介護者に障害や病気がある場合はサービスを利用できる可能性が高いでしょう。介護者が健康な場合でも、条件がそろえば利用できるサービスも一部あります。例えば家族全員が仕事などで外出しており、日中は介護者が不在という状態なら、昼食の準備や片付けはヘルパーに任せられるでしょう。

その他、失禁が多く滑って転倒しやすい状況などでは、トイレも掃除してもらえる可能性が高くなります。一方、買い物や部屋の掃除、洗濯などは訪問介護の利用範囲に含まれない可能性が高いでしょう。

同居介護が向いている場合とは?

ここまでに紹介してきた同居介護のメリットやデメリットに加え、介護者の就業状況や被介護者の介護の度合いなどから、同居介護が向いているパターンがわかります。

まず、介護者が就業していない場合、同居介護が向いている場合が多いです。ただし、ほとんど寝たきりの状態である要介護4、5の場合は、施設への入居を検討したほうがよいでしょう。

また、介護者が就業していても被介護者が要介護2、3であれば、休日に介護をしながらの同居が可能な場合が多いです。

同居介護を成功させるための4つのポイント

メリットやデメリット、就業状況、介護の度合いなどを考慮して同居介護が向いていると考えられる場合でも、簡単に介護ができるわけではありません。そこで、同居介護を成功させるポイントを紹介します。

相談する人を決めておく

介護は実際に始めてみないとわからないことも多く、思わぬ悩みに直面する場合もあります。悩みや困りごとを放置しておくとストレスが溜まり、介護を続けられない状態に陥ることもあるでしょう。

そのような場面に備え、あらかじめ身近な相談先を決めておくと安心です。相談先として適切なのは、被介護者のかかりつけ医やケアマネージャーです。同居を始める前にその旨を伝えておけば、何かあった際もスムーズに対応してもらえます。

また、各自治体にも地域包括支援センターなど専門の相談窓口があるため、自分の住んでいる地域の相談窓口がどこにあるのかあらかじめ確認しておくとよいでしょう。

すぐに同居を始めない

いきなり慣れ親しんだ地域から離れた場所で生活を始めると、環境の変化や生活リズムの変化についていけず、トラブルに発展するおそれもあります。まずは短期間の同居生活を試してみるなど、段階を踏んで同居介護をスタートさせたほうがよいでしょう。

近くの賃貸マンションに親を住まわせる近距離介護から始めるのもおすすめです。お互いの生活リズムをある程度把握してから同居介護に移行するようにすれば、大きなトラブルは避けられるでしょう。いろいろ試してみて同居介護は難しそうだと判断した場合、施設への入居も検討しましょう。

同居についての家族全員の考えを確認する

同居介護に関して家族全員の考えを確認することも重要です。特に被介護者本人が、本当に同居介護を望んでいるのかきちんと確認してください。望んでいない場合は、遠距離介護や近距離介護、施設への入居などを検討します。

また、それぞれの生活習慣についても確認しておきましょう。例えば食事や入浴の時間、掃除のタイミングなどを事前に確認しておくとトラブルを回避できます。特にキッチンの使い方や料理の味付けなどは、親子問題や嫁姑問題に発展するおそれもあるため、念入りに確認しておきましょう。

二世帯住宅での同居にする

二世帯住宅で同居介護を始めるのもおすすめです。近距離介護や遠距離介護よりも親の体調の変化に気付きやすく、完全な同居介護よりもストレスが溜まりにくいメリットがあります。

二世帯住宅での同居にもいくつかのスタイルがありますが、玄関を含め生活空間をすべて分離した「分離同居」は、最も生活習慣の違いによるストレスが生じにくいスタイルです。玄関やキッチン、リビングなど一部を共有している「共有同居」の場合、お互いの団欒の時間をとりやすいのがメリットです。

寝室以外のほとんどを共有している「融合同居」では、親の様子や体調の変化を観察しやすいメリットがあります。これらのなかから自分たちに合ったスタイルを選ぶのが重要です。

同居介護の費用を抑えるための世帯分離

世帯分離とは、同じ住所に住む家族を2つの世帯に分けることです。同居介護を始める際に介護者と被介護者の世帯を分けると、費用が抑えられるなどのメリットがあります。そこで最後に、世帯分離について説明します。

世帯分離のメリットとデメリット

世帯分離のおもなメリットは、介護サービスの自己負担額を軽減できる点です。介護サービスの自己負担額は世帯収入で決まります。世帯分離をすれば被介護者の世帯収入は分離前より少なくなり、自己負担額も軽減されるでしょう。

国民健康保険料の負担額も減る場合が多いのですが、介護者が自営業などでもともと国民健康保険に加入していた場合は注意が必要です。

国民健康保険料には世帯ごとの負担上限額があるため、世帯分離によって保険料が増える可能性もあります。また、被介護者が2人以上いる場合の高額介護サービス利用費の合算ができない点もデメリットです。

世帯分離の手続き方法

世帯分離をする際は、住民登録している自治体に届け出る必要があります。基本的に本人や世帯主が手続きをしますが、委任状があれば代理人でも手続き可能です。手続きの際は、運転免許証やパスポートなどの本人確認書類が必要となります。

国民健康保険に加入している場合は国民健康保険証も必要で、念のため印鑑も持参したほうが安心です。該当窓口で世帯変更届の書類を受け取り、必要事項を記入して提出すれば手続きは終了です。

世帯分離の際のポイント

被介護者と長男家族、次男家族など、複数の家族が同居している場合、収入が多い家族と被介護者を世帯分離したほうが介護サービス利用費の負担が減ります。また、世帯分離するか否かは、高額介護サービス費の負担額が上限に達しているかどうかで決めるとよいでしょう。

上限に達していない場合は、世帯分離しても費用面でのメリットが少ない可能性があります。介護者の勤務先に扶養手当がある場合、世帯分離によって被介護者が扶養家族から外れて手当がなくなる可能性もあるでしょう。世帯分離する際は、事前に扶養手当の条件を確認するようにしてください。

同居介護が向いているのかよく確認しよう


同居介護にすると、親の体調の変化に気付きやすい、家事や育児を分担できる、経済的な負担が軽くなるといったメリットがあります。しかし、被介護者と介護者の両方にストレスが溜まりやすく、介護離職せざるを得ないケースも増えています。

また、同居介護の影響で利用できない介護サービスもあるため、介護者の就業状況や被介護者の介護の度合いなども考慮して同居介護が向いているのか判断しましょう。

今回紹介した同居介護を成功させるポイントや費用を抑えるための世帯分離も参考に、無理のない同居介護を行いましょう。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2023年12月18日

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