介護について知る

遠距離介護に向けた8つの準備
情報収集して自分の生活と介護を両立しよう


親と離れて暮らしている方の中には、「遠距離介護が必要になったらどうしよう?」「どのような準備をしておけばいい?」と不安を抱いている方も多いのではないでしょうか。

遠距離介護があり得る場合、親が元気なうちに介護の希望や交友関係などを聞いておくことが重要です。また、いざ介護が始まったときに備えて、今のうちから遠距離介護に関する情報収集や兄弟間での話し合いもしておくと安心です。

この記事では、遠距離介護のためにしておきたい準備や無理なく続けるコツ、役立つサービスなどを解説します。

遠距離介護をしている人の割合やその背景について

遠距離介護とは、離れた場所で暮らしつつ、高齢の親の日常生活をサポートする介護方法です。

厚生労働省の調査によると、別居している家族が介護をする割合は、2013年は9.6%、2016年は12.2%、2019年は13.6%でした。

2022年には、11.8%と少し下がったものの、要介護者の単独世帯が増えていることから、遠距離介護をする人の割合は今後も少しずつ増加することが予想されます。

親の体調の変化にすぐに気付ける

また、遠距離介護をしている理由として考えられるものは、大きく分けて以下の2つです。
  • 仕事や学校などの事情で今の生活環境を変えるのが難しい
  • 住み慣れた地での生活を親が望んでいる
現在仕事をしている人からすると、いざ親の介護が必要になった場合でも、自身の生活拠点を急に変更して介護に専念することは難しそうだと感じる方は多いでしょう。また、親自身も、生活拠点を変えるとなると地域の知り合いや友人と離れてしまったり、環境の変化により認知症を発症する可能性が生じることもあり、住み慣れた地での生活を続けたい、と考える場合も多いでしょう。

たとえ親の状態が心配であっても、現実的に考えると遠距離介護を選択せざるを得ない状況もあります。

遠距離介護のメリット・デメリット

遠距離介護のメリット・デメリットは以下のとおりです。

遠距離介護のメリット

遠距離介護のデメリット

  • 転居する必要がない
  • 精神的・肉体的ストレスを軽減できる
  • 介護サービスを利用しやすい
  • 緊急時にすぐ対応できない
  • 負担すべき費用が大きい
  • 仕事を休む機会が増える可能性がある
遠距離介護であれば、親も子も生活拠点を変えずに済むため、子は仕事を変えなくて済むことが多いでしょう。親も住み慣れた土地で生活できるメリットがあります。 ただし、遠距離介護の場合、帰省する回数が多いほど交通費や宿泊費といった介護者が負担すべき費用が大きくなることには注意が必要です。病院への同行や突発的な呼び出しなど、仕事を休まなくてはいけない場面が生じる可能性もあることは覚悟しておきましょう。

遠距離介護のためにしておきたい8つの準備

介護はいつ始まるかわかりません。万が一のときに慌てないためにも、早いうちから準備を進めておくのが望ましいとされています。

親本人の希望を聞く

親が元気なうちに、「どのような介護が良いか」「どこで過ごしたいか」など、介護が必要になったときの希望を聞いておくことは大切です。

介護が実際に始まると、親自身が意思決定しなければならない場面が出てきます。親の代わりに家族が対応するとしても、事前に聞いておかないと、親の意思とは真逆の方向性になったり、頭を悩ませたりすることが多くなります。

本人の希望を確認できたら、いつでも見返せるようにアプリや紙に記録として残しておくのがおすすめです。

親の貯金額や生命保険の種類を把握する

親の貯金額や加入している生命保険の種類、借金の有無などを把握しておくことも大切です。介護に必要なお金は、親の年金や貯金から支払うのが基本であり、経済状況によって、どのような介護を行えるかは変わってきます。

親のお金でまかないきれず、子どもや親族が負担することになった場合、金銭トラブルに発展する可能性もあるため注意が必要です。

また、認知症になると、詐欺や悪徳業者の被害に遭ってしまうリスクが高まります。印鑑や権利証といった貴重品類の保管場所も確認しておくのが賢明です。

親の生活リズムを把握する

親の起床時間や就寝時間、外出状況など、普段の生活リズムを把握しておきましょう。そのうえで、以下のような点も確認しておけば、介護サービスを利用する際の参考になります。
  • 日常生活のなかで困っていること
  • 不安なこと
  • 日々の楽しみ
  • 好きなこと(趣味)
とはいえ、「普段何か困っていることはある?」と突然聞いても、なかなかすぐには出てこないものです。まずは普段の過ごし方から順を追ってヒアリングしましょう。

親の交友関係を把握する

親がよく会っている人や近所の人など、すでに信頼関係を築けている相手であれば、いざというときに頼れる味方となってくれる可能性が高くなります。そのため、親の交友関係や普段参加している集まりなどを聞いておくのがおすすめです。

すぐ近くに住んでいる人がいれば、緊急連絡先を渡しておく、もしくは親に問題が発生した場合に備えて連絡が取れるようにしておきましょう。ときどき様子を見に行ってもらうようお願いしておくと安心です。

遠距離介護に必要な費用を調べる

交通費や通信費、介護サービス費など、遠距離介護にかかる費用をあらかじめ調べておきましょう。離れた場所に住んでいる場合は、特に交通費の負担が大きくなります。

「親の貯金額や生命保険の種類を把握する」の項目でもお伝えしたとおり、基本的に介護費用は、親の年金や貯金でまかなわれます。

しかし、本人以外が負担しなければならない可能性もゼロではありません。そのため、「万が一のときは誰がどのぐらい負担するか」を家族間で話し合っておくことが重要です。

介護サービスや施設の情報を集める

遠距離介護が成り立つのは、あくまで親本人が1人で生活できるほど自立している場合に限ります。容態が悪化した場合や、認知症が進行した場合などには、介護サービスの利用、もしくは介護施設への入所・入居を検討する必要があります。

そのときに備えて、今のうちから介護サービスや施設に関する情報を集めておきましょう。特に介護施設は、それぞれ入所や入居の条件があり、かかる費用やサービス内容も異なります。

なお、「まだ介護は必要ないけれど、介護に関することを相談したい」という方は、地域包括支援センターを利用するのも一つの方法です。介護サービスの利用方法や遠距離介護での心配事など、さまざまな相談に乗ってもらえます。

兄弟間で介護の役割分担について話し合う

兄弟姉妹がいる場合は、介護の役割分担についてよく話し合っておきましょう。遠距離介護は精神的・肉体的負担が大きいため、負担が1人に集中しないよう協力する姿勢で取り組むことが重要です。

話し合いの際は、一人ひとりの生活状況や能力からできること・できないことを明確にし、それぞれの役割を決めておきます。例えば、「なかなか帰省できないから資金援助をする」「お金の確保が難しいから生活のサポートをする」などです。

このときに、ケアマネジャーや介護サービス事業者などと連絡を取り合う代表者を決めておくことも大切です。

ICT機器の設置や住宅のリフォームを検討する

親の自宅に、ICT機器を設置するのも一つの方法です。

ICT機器とは、冷蔵庫や照明といった家電に通信機器を設置し、一定時間使用が確認できないと家族に通知が送られてくるというものです。監視カメラとは違って、緊急時のみ通知されるため、プライバシーに配慮しつつ親を見守れます。

そのほか、トラブルが起こった際にボタンを押すと、警備会社が駆け付けてくれる「緊急通報システム」を利用するのもよいでしょう。自治体によっては無料で設置してもらえる場合もあります。

また、「親の自宅がケガをしやすい構造になっている」「親自身が暮らしにくさを感じている」といった場合は、住宅のリフォームが必要になるかもしれません。

要介護認定を受けている場合は、高齢者1人につき、20万円まで助成金が支給されます。詳しく知りたい方は、ケアマネジャーへ相談してみましょう。

一人っ子で親の介護をするなら「頼れる場所」を見つけよう

一人っ子の方が親の介護をする場合、頼れる場所(協力者)を見つけることが非常に重要です。自分1人で抱え込んでしまうと、心身や経済面の負担が重くのしかかってきます。無理をした結果、共倒れになったり、虐待につながったりする可能性もあるため、とても危険です。

この場合の「頼れる場所」とは、具体的に以下のようなものを指します。
  • 地域包括支援センター
  • 親のかかりつけ医
  • ケアマネジャー
  • 地域のボランティアやNPO法人
  • 親の配偶者
協力者を見つけて少しずつ乗り越えていくことが、遠距離介護を成功させる鍵になります。

遠距離介護を無理なく続ける4つのコツ

介護は長期化しやすい分、たとえ遠距離であったとしても、さまざまなストレスがかかります。そのため、以下のようなコツを押さえて、無理なく続けられるよう努めましょう。

積極的にコミュニケーションをとる

Webツールや電話などで、積極的にコミュニケーションをとるよう心がけると、たとえ遠距離介護であっても親のちょっとした変化に気付きやすくなります。

親は、「子どもに迷惑をかけたくない」という思いから、困りごとや悩みがあってもなかなか言い出せず、そのまま状態が悪化してしまうおそれがあります。待ちの姿勢ではなく、自分から連絡するのがポイントです。

また、近所に住んでいる人とのコミュニケーションも大切です。帰省した際には、手土産を持ってあいさつに行くなど、日頃から良好な関係を築いておくと、万が一の場合に助けてもらいやすくなります。

航空会社や鉄道会社の割引制度を利用して交通費を節約する

一部の航空会社では、介護割引サービスを実施しており、条件によっては3~4割の割引きを利用できることがあります。必要書類を用意するなど申請する手間はかかりますが、割引制度を活用すれば、交通費を大幅に節約できるでしょう。

鉄道会社では、介護割引サービスは実施していないものの、会員登録することで通常より安価で利用できるサービスを提供しています。

勤務先の介護休暇・介護休業制度を確認しておく

介護休暇は、要介護状態の家族が1人の場合は年間5日、2人以上の場合は年間10日まで休みが取得可能です。

一方、介護休業は、要介護状態の家族1人に対して通算93日、かつ3回まで休みを取得できます。条件を満たしていれば、介護休業給付金を受け取れる場合もあります。

どちらも労働者の権利として認められていますが、護休暇・介護休業中の給与には法的な定めがなく、無給の可能性もあるため注意が必要です。

また、介護が始まった段階で周囲の人や上司に相談しておくことも忘れてはいけません。急に休みを取得することで、勤務先に迷惑をかけてしまうおそれがあるためです。

ケアマネジャーやかかりつけ医に相談する

ケアマネジャーやかかりつけ医は、遠距離介護の成功に欠かせない存在です。こまめに連絡をとり、気になることがあれば相談するようにしましょう。

できるだけ病院の受診日に同行し、かかりつけ医と直接会って親の状態を聞いておくのが望ましいです。かかりつけ医がまだいない場合は、今後のためにも地域の医療機関で探しておくことをおすすめします。

なお、「介護費用をまかなえるお金がない」などの悩みは、ケアマネジャーや地域包括支援センターへ相談すれば、状況に応じた解決策を提案してもらえます。

遠距離介護に役立つサービス

遠距離介護に役立つサービスは、以下のようなものがあります。
  • 見守りサービス
  • 配食サービス
  • 安否確認サービス
  • 家事代行サービス
  • ゴミ出しサービス など
遠距離介護の際は、親が困っていることや苦手なことをサポートしてくれるサービスを上手に活用しましょう。本人ができることは、なるべく自分でやってもらうのも、自立した生活を継続させるために大切です。

また、訪問介護や訪問入浴介護などの介護サービスを利用するのもおすすめです。ただし、介護サービスを利用するには、要介護認定を受ける必要があります。介護認定を受けている場合、介護サービス利用料の自己負担額が1割(所得によっては2~3割)で済み、経済的負担を軽減できるため、親の状態に合わせて利用してみるとよいでしょう。

遠距離介護にするか呼び寄せるか迷ったら

遠距離介護か、親を呼び寄せるかで悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

結論から言うと、「親が同居を望んでいる」「呼び寄せに納得している」「自分が住んでいる地域のほうが、充実した介護サービスが受けられる」などの場合は、親を呼び寄せて介護するほうが適している可能性が相応にあるでしょう。

上記以外の場合は、遠距離介護のほうがお互いにとって良い可能性があります。呼び寄せる場合、急激な環境の変化によって認知症を引き起こすおそれもあるなど様々なデメリットがあるためです。どちらにすべきか迷っている方は1人で決断せず、まずはケアマネジャーに相談するのがおすすめです。

なお、「ショートステイを活用しつつ帰省したときに介護を行なう」「呼び寄せた地域の施設へ入居してもらう」などのような選択肢もあります。

遠距離介護に限界を感じたら施設への入居も視野に入れる

「親の介護に疲れた」「遠距離介護はもう限界」と感じている方は、施設への入居も視野に入れましょう。施設には介護のプロが在籍しており、離れた場所に住んでいても安心して任せられます。

介護施設には、介護付き有料老人ホーム、特別養護老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅など、いくつかの種類があります。それぞれ入所や入居の条件が異なるので、要介護度や親の状態に合わせて選ぶことが大切です。

共倒れになってしまわないためにも、少しでも限界を感じたら、地域包括支援センターやケアマネジャーへ相談してみてください。

遠距離介護を検討しているなら情報収集から始めてみよう


遠距離介護では、緊急時にすぐに対応できない、交通費の負担が大きくなるなどがデメリットとして挙げられます。そのため、遠距離介護が必要になった際に冷静に行動できるように、今のうちから情報収集しておきましょう。

また、親や近所に住んでいる人と積極的にコミュニケーションをとり、見守り体制を整えておくことが、遠距離介護を成功させるのに重要なポイントとなります。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行なう。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行なっている。

公開日:2023年12月26日

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