介護をした人は遺産を多く相続できる?
生前にできることも解説


親の介護をしている方のなかには、「親族の中で介護をした人は遺産を多く相続できるのだろうか?」と、疑問に思っている方もいるのではないでしょうか。

結論からいうと、介護をしている人が遺産を多く相続できるという定めはありません。介護をした人が、ほかの相続人よりも有利になることを示す法律がないためです。

ただし、介護したことを「寄与分」と主張することで、ほかの兄弟よりも多くの遺産を相続できる可能性があります。

本記事では、介護をした人が介護をしていない兄弟姉妹よりも多くの遺産を相続する方法の「寄与分」について解説します。また、寄与分を認めてもらうための要件や方法、親の生前に行える相続対策についても解説します。
介護中の方や、相続について気になっている方は参考にしてください。

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介護をしても遺産の相続額には影響しない

原則として、親の介護をした人が、介護をしていない兄弟姉妹よりも多くの遺産を相続できるとする法律はありません。親の介護は「扶養義務」に該当するためです。

扶養義務とは「親族間で互いに扶養する義務」という意味で、民法877条に定められています。扶養義務を負うのは直系血族と兄弟姉妹のみですが、特別な事情がある場合は3親等内の親族も扶養義務を負います。扶養義務には、経済的な援助のほか介護や看護も含まれます。

つまり、介護はあくまでも扶養義務として行うべきものであるため、介護をした人だけ相続分が増える理由にはならないのです。

介護が「寄与分」と認められれば相続額を増やせる可能性がある

介護をしていない兄弟姉妹よりも、多くの遺産を相続できる可能性を高めてくれる制度「寄与分」について解説します。

寄与分とは

原則として、介護をした人が、介護をしていない兄弟姉妹よりも多くの遺産を相続することはありません。しかし、介護をした人が、ほかの相続人よりも多くの相続分を受け取れる「例外」があります。

それが、民法904条2に定められている「寄与分」という制度です。寄与分とは、被相続人の財産を維持するために貢献した人が、貢献度に応じて遺産を多くもらえる仕組みです。

ただし、扶養義務の範囲内の介護は、寄与分としては認められません。日常的につきっきりで介護を行うレベルでないと、寄与分として認められにくいでしょう。

特別寄与料とは

介護に関しては、「夫の親を介護していた」というケースもあるでしょう。しかし、配偶者の親を介護していても法的な相続人ではないため、原則として遺産は受け取れません。

ただ、故人の生前に献身的な介護を行った場合は、ほかの相続人に対して「特別寄与料」を請求できます。特別寄与料が認められるのは、6親等以内の血族と3親等以内の姻族です。

特別寄与料は、故人の財産形成に貢献した場合に請求できます。請求する際には、ほかの相続人と話し合うか、家庭裁判所に処分調停を申し立てなければなりません。

介護をした場合の遺産相続で「寄与分」が認められる要件8つ

介護の「寄与分」をほかの相続人に認めてもらうためには、以下の要件を満たす必要があります。なお、大前提として「寄与分」の主張ができるのは相続人のみです。

1. 寄与行為が相続開始よりも前に行われた

寄与行為が、相続開始の前に行われた場合のみ「寄与分」として認められます。

被相続人が亡くなったあとの貢献は、寄与分として認められません。そのため、遺産の維持管理や法要の実施などは寄与分に該当しません。

2. 扶養義務を超えた特別な貢献であった

寄与分は、親族間の扶養義務を超えたレベルでないと認められません。通院の付き添いや日常の買い物、食事作りなどは扶養義務の範囲内であるため、特別な貢献とはみなされないでしょう。

しかし、介護施設への入所が相応な状態にもかかわらず、自宅で排泄や入浴、食事などの世話をしていた場合は、特別な貢献とみなされやすくなります。

3. 介護や看護が被相続人にとって必要不可欠であった

被相続人にとって介護が必要不可欠であったかも、重要な判断のポイントです。

例えば、次のような状態の被相続人に対する介護は、寄与分の要件に該当します。
  • 脳梗塞によって半身不随や認知症になり、人の助けが必要
  • 介護なしでは生活できない
おおむね「要介護2」以上の被相続人を介護していた場合は、寄与分が認められやすくなります。

4. 寄与行為が一定期間以上行われていた

介護が一時的なものではなく、継続的に行われていたかも基準となります。

明確な定めはありませんが、数年以上の介護でないと寄与行為と認められにくいでしょう。数カ月程度の介護では、寄与分として認められにくいのが実情です。

5. 被相続人から対価を受け取っていなかった

被相続人から、介護に対する報酬を受け取っていた場合は寄与行為に該当しません。報酬のほか、不動産や株式などを受け取っていた場合も、介護の対価とみなされる可能性が高いため注意しましょう。

結婚式の費用を多く出してもらった場合や、被相続人の財産を生活費に充てていた場合も対価とみなされます。

6. 寄与により、被相続人の財産を維持または増加できた

寄与分を認めてもらうには、被相続人の財産維持や増加に貢献しなければなりません。介護を行うことで財産を維持できた場合は、寄与分として認められます。

例えば、自宅介護を選んだことにより、施設の入居費用や介護ヘルパーの費用を削減できた場合は、財産を維持したとみなされて寄与分が認められやすいでしょう。

7. 片手間ではなく多くの負担があった

被相続人の介護をするにあたり、多くの労力や時間を費やしたことも寄与分の要件となります。

介護のために退職や休職、時短勤務への切り替えをするなど、自分の生活を変えて貢献した場合は寄与分が認められやすくなります。

8. 要件を裏付ける証拠資料を提出できる

介護の寄与分を認めてもらうには、要件を満たしたことを証明する資料が必要です。

介護の寄与分を主張できる資料には、次のような種類があります。
  • 医師の診断書やカルテ
  • 医療機関の領収書
  • 要介護認定通知書
  • 要介護認定資料
  • 介護サービスの利用表
  • 介護日誌
  • 介護の状況を知っている人(ケアマネージャーなど)の意見書

介護の相続で寄与分が認められにくい理由3つ

親族の介護を寄与分として認めてもらうのは、簡単なことではありません。その理由を解説します。

1. 寄与分の要件を満たすことが難しい

寄与分を認めてもらうには、先述の要件を満たす必要があります。しかし、特に「扶養義務を超えた特別な貢献」の要件を満たすのはなかなか難しいでしょう。病院の送り迎えや家事程度では、親族の扶養範囲内とみなされるためです。

そもそも、寄与分が認められた場合は、ほかの相続人が受け取る遺産が減ってしまいます。そのため、ほかの相続人が納得できるだけの理由と貢献が必要になるのです。

2. 証拠となる資料を集めるのが難しい

要件を満たしていることを証明するための資料が集まらず、寄与分が認められない場合もあります。献身的な介護をしたことを裏付ける証拠がそろわないと、ほかの相続人や裁判官を説得しづらくなるためです。

介護中の方は、介護や医療関係の領収書を保管する、介護日誌を記録するなどの対策をしておくと、寄与分を請求する際に役立つかもしれません。

3. 相続人の間で対立しやすい

相続人のうち一人、もしくは一部の人だけが寄与分の主張を行うと、感情的な対立が起きる可能性があります。被相続人に貢献したとしても、証拠資料に記載された数値では貢献度が伝わりにくいためです。

話し合いだけで折り合いが付かない場合は、家庭裁判所での調停や審判となるため、なかなか相続まで進めないケースもあります。

遺産相続時に介護の寄与分を認めてもらう方法と流れ

遺産相続時に、介護の寄与分を認めてもらう方法を解説します。寄与分の認定は、次の順番で進みます。

1. 遺産分割協議で相続人全員に介護の寄与分を認めてもらう

まずは、遺産分割協議で自分には介護による寄与分があることを主張し、ほかの相続人全員に認めてもらう必要があります。

寄与分の権利は、性質上自分から主張しない限り認められにくいものです。医師の診断書や介護記録などの証拠資料を提示し、ほかの相続人に寄与分を認めてもらいましょう。

2. 弁護士に依頼し交渉してもらう

相続人同士の話し合いで合意が得られなかった場合は、弁護士に交渉を依頼するとよいでしょう。弁護士が代理人として寄与分を主張してくれるため、相続人同士で話し合うよりも感情的になりにくい点がメリットです。

ほかの相続人も寄与分の主張を認めやすくなるため、スピーディーな解決につながります。この段階で解決できず調停に進む場合も、引き続き同じ弁護士に相談可能です。

3. 遺産分割調停を起こす

遺産分割協議で合意を得られなかった場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てます。遺産分割調停では、調停委員会が間に入りながら、当事者同士で解決策について話し合いをします。

家庭裁判所では、「寄与分を定める処分調停」を行うこともできます。調停委員会が間に入る形式で、寄与分を決めるための調停が行われます。「遺産分割調停」と「寄与分を定める処分調停」のどちらも、弁護士に代理人になってもらうことが可能です。

調停では調停委員が間に入るため、ほかの相続人も比較的冷静さを保てます。法的にも公平な分割となるため、寄与分が認められやすいでしょう。

4. 遺産分割審判で主張を行う

遺産分割調停でも話がまとまらなかった場合は、自動的に「遺産分割審判」に移行します。遺産分割審判とは、相続人同士の主張と提出書類をもとに、裁判官が遺産分割の内容を決定する手続きです。

複数回の審判期日を繰り返し、最終的に裁判官が遺産分割に対する審判を下します。遺産分割審判の結果に異議があったとしても、確定した審判は覆りません。

現在介護をしている人が相続で有利になる方法4つ
(親の生前にできる対策)

遺産相続時に介護の寄与分を認めてもらうには、多大な労力と時間がかかります。そこで、被相続人が生前のうちにできる対策を紹介します。現在介護をしている人が相続で有利になるための対策を解説しますので、参考にしてください。

1. 負担付死因贈与契約を結ぶ

最もおすすめなものが、介護をする人とされる人の間で「負担付死因贈与契約」を交わす方法です。「財産を贈与する代わりに介護をして欲しい」といった内容の契約を結びます。

契約は、双方の合意によって成立します。口頭でも契約は成立しますが、書面を作成しておくとより安心です。

契約が成立すれば、介護中一方的に撤回されることはありません。介護をする側には「遺産を多めに受け取れる契約がある」という安心感があり、介護される側も「確実に介護をしてもらえる」という安心感を持てる契約なのです。

2. 生前贈与をしてもらう

生前贈与を利用することで、介護をした人だけが別で財産を受け取ることもできます。生前贈与によって相続できる遺産総額が減るため、結果的に介護をしていない人が受け取れる遺産の額が少なくなるという仕組みです。

この方法であれば、贈与したい相手に間違いなく財産所有権を移せるため、遺言書よりもトラブルになりにくいでしょう。

3. 遺言書に取得分を明記してもらう

介護をしていない兄弟よりも多くの遺産を相続するために、その旨を遺言に明記してもらう方法もあります。故人の意思は、原則として「法定相続分」よりも優先されるため、遺言のとおりに遺産を分割することが可能になります。

遺言を書いてもらう場合は、公正証書遺言か自筆証書遺言を選ぶと、安全性や確実性を担保できるでしょう。

しかし、自筆証書遺言は自身で作成する必要があるため、内容に不備があると無効になったり、トラブルにつながったりする可能性がある点に注意が必要です。

4. 生命保険の受取人にしてもらう

介護をした人がほかの兄弟よりも多くの遺産を相続するため、生命保険の受取人になる方法もあります。介護をした人が受取人になることで、保険金が固有財産になります。

死亡保険金は相続財産とみなされないため、遺産分割の対象にならない点がメリットです。介護をしていない人より多く遺産を相続する手段として、生命保険を活用してみてもよいでしょう。

介護をした人が多く遺産を相続するためには対策が必要


本記事では、親の介護をした人が多くの遺産を相続できる可能性をもった仕組みである「寄与分」について解説しました。

寄与分をほかの相続人に認めてもらうには、さまざまな要件を満たす必要があります。遺産分割協議で寄与分を認めてもらえなければ、調停や審判に進むケースもあるため、なかなか相続まで進まずに疲弊してしまうかもしれません。

しかし、親の生前に、負担付死因贈与契約を結んだり、生命保険を活用したりすることで、介護をした人がより多くの遺産を相続しやすくなります。

現在介護中の人は、相続対策として生命保険を活用するほか、介護保険で介護費用にも備えておくとよいでしょう。

2021(令和3)年度の「生命保険に関する全国実態調査」によると、平均的な介護期間は61.1カ月となっています。介護期間が5年以上続く計算になるため、介護費用も早めに備えておくと安心でしょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

CFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2024年5月30日

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