介護について知る

親の介護の備え方・注意点

「いつか自分の親に介護が必要になった時、誰が介護するのだろうか」
「もしも自分が介護することになったら今の生活はどうなるのだろう」
などと、漠然と不安を感じている…という方は多いのではないでしょうか。
親の介護が始まると何が起こるのか、どう備えればよいのか、見ていきましょう。

親の介護に不安を抱えている人は多い

人生100年時代と称される昨今、介護は誰にとっても他人事ではない時代になりました。

生命保険文化センターの18歳~69歳を対象とした調査では、親などを介護する場合の不安について、80.9%の人が“不安感がある”と回答しており、多くの人が親などを始めとする身近な人の介護に不安を抱えていることがわかります。
また、不安の内容としては、介護の肉体的・精神的負担や、自分の時間が拘束されること、経済的な負担などが多く挙げられました。

親の介護への不安

【親などを介護する場合の不安の有無】

 
(N=4,014)

出典)生命保険文化センター 「令和元年度 生活保障に関する調査」


【親などを介護する場合の不安の内容】(%)
 自分の肉体的・精神的負担  66.7
 自分の時間が拘束される  57.9
 自分の経済的負担  52.4
 介護サービスの費用がわからない  50.2
 公的介護保険だけでは不十分  49.0
 介護がいつまで続くかわからない  48.1
 介護の人手が不足する  38.9
 適切な介護サービスが利用できるかわからない  35.2
 希望の介護施設に入れられない  30.3
 自宅に介護する場所がない  18.1
 わからない  0.7
 その他  0.6

N3,239/複数回答>
出典)生命保険文化センター 「令和元年度 生活保障に関する調査」

増加する要支援・要介護認定者

公的介護保険制度の要支援・要介護認定者は年々増加しており、2025年には65歳以上の約5人に1人※が要支援・要介護認定を受けることになる見通しです。
※厚生労働省「第74回社会保障審議会介護保険部会資料」より当社推計

※1 厚生労働省「平成22年度、令和元年度 介護保険事業状況報告(年報)」 ※2 厚生労働省「平成27年度 介護保険事業状況報告(年報)」および 「第55回社会保障審議会介護保険部会資料」より当社推計

もしも親の介護が始まったら、生活はどう変わる?

親の介護を担うことになったら、生活はどう変わっていくのでしょうか。
介護にはどれくらいの時間を要するのか、見ていきましょう。

介護にかかる時間

公的介護保険制度において、介護が必要な度合いに応じて、要支援1・2および要介護1から要介護5までの、7段階に分けられます。

【「公的介護保険制度」における要介護認定の目安】
要支援1
  • 日常生活の一部に見守りや手助けが必要
  • 立ち上がりなどに何らかの支えを必要とすることがある
要支援2・要介護1
  • 食事や排せつなど、時々介助が必要
  • 立ち上がりや歩行などに不安定さがみられることが多い
上記の2つと次のいずれかに該当する場合は「要介護1」となります。

認知機能の低下が見られる

おおむね6か月以内に介護の手間が増加する可能性がある

要介護2
  • 食事や排せつに何らかの介助が必要
  • 立ち上がりや歩行などに何らかの支えが必要
要介護3
  • 食事や排せつに一部介助が必要
  • 入浴などに全面的に介助が必要
  • 片足での立位保持ができない
要介護4
  • 食事に一部介助が必要
  • 排せつ、入浴などに全面的に介助が必要
  • 両足での立位保持がほとんどできない
要介護5
  • 日常生活を遂行する能力は著しく低下し、日常生活全般に介助が必要
  • 意思の伝達がほとんどできない


厚生労働省による同居の介護の介護時間に関する調査結果では、介護に要する時間は要介護度が高まるほど長くなり、「要介護4」では半数近く、「要介護5」では半数以上が「ほとんど終日」となっています。


【要介護度別にみた同居の主な介護者の介護時間の構成割合】



出典)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)

介護はどれくらい続く?

介護経験者によると、要介護者の介護期間は平均61.1か月となっており、長期にわたります。また、半数以上の方は3年以上の介護が必要となっています。
出典)生命保険文化センター 「2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査」

親の介護 準備不足だとどんな問題が起こりうるか

多くの人にとって、親の介護は積極的に考えたくはない話題かもしれません。 しかし、先延ばしにし、準備をしないまま放っておくと、いざ介護に直面したとき、たとえば以下のような問題が起こりえます。

「介護は誰がやる」問題

在宅介護の場合、配偶者・兄弟姉妹・親戚など、介護の担い手候補が複数いらっしゃるケースがありますが、役割分担を事前に決めていないと、いざ介護が始まってから揉めてしまう…という事態があり得ます。
また、遠方に住んでいるご家族は、同居のご家族と同じように介護を担うことは難しいことが多く、急な話であれば調整がさらに難しいことでしょう。

【要介護者等との続柄別主な介護者の構成割合】

出典)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)

介護疲れ・介護うつ

周囲のサポートを得られず、一人で介護の負担を抱え込んでしまうと、介護疲れから、介護者が鬱(うつ)状態(介護うつ)になってしまうこともあり得ます。
介護うつは、ご自身がつらい思いをするだけでなく、症状が悪化することで、介護放棄(ネグレスト)につながってしまう可能性もあります。

「介護はどこでやる」問題

親本人の介護への希望の確認や、家族間での意見交換が事前にされていないと、「施設に預けるなんてかわいそう」「段差がある自宅のままではあぶない」「本人の希望はこうだったはず」…など意見がまとまらず、施設介護・在宅介護、どちらが適しているのか迷ったまま介護が始まってしまう、という事態もあり得ます。

「こんなに負担があるとは思わなかった」問題

介護の肉体的・精神的負担はもちろん、ご自身の時間が想像よりも奪われて立ち行かなくなってしまう…ということもあり得ます。仕事と介護の両立ができずに、介護を理由に離職することになるケースもあります。

介護離職

1年間で7万人以上が介護等を理由に離職しています。
介護者の離職によって安定した収入がなくなり、介護者・被介護者ともに経済的に困窮するケースもあり、深刻な問題です。

【介護・看護を理由とした年代別離職者数】
 年代  人数(千人)
 全体  70.5
 19歳以下  0.4
 20~24歳  3.5
 25~29歳  3.5
 30~34歳  1.4
 35~39歳  5.0
 40~44歳  6.5
 45~49歳  7.6
 50~54歳  7.1
 55~59歳  11.3
 60~64歳  8.1
 65歳以上  16.0
出典)厚生労働省「雇用動向調査」2020年

突然訪れるかもしれない「親の介護」 今から準備を

介護になった主な原因として、1位は認知症、そして2位が脳卒中(16.1%)となっています。
また、要支援・要介護度別に見てみると、「骨折・転倒」も原因として多く挙げられていることから、介護は急に始まることが少なくない、ということが想像できますね。

【介護が必要になった主な原因(全体)】

第1位 認知症 17.6%
第2位 脳血管疾患(脳卒中) 16.1%
第3位 高齢による衰弱 12.8%

出典)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)



【介護が必要になった主な原因(要支援・要介護度別)】

要介護度 第1位 第2位 第3位
要支援1 関節疾患 20.3% 高齢による衰弱 17.9% 骨折・転倒 13.5%
要支援2 関節疾患 17.5% 骨折・転倒 14.9% 高齢による衰弱 14.4%
要介護1 認知症 29.8% 脳血管疾患(脳卒中)14.5% 高齢による衰弱 13.7%
要介護2 認知症 18.7% 脳血管疾患(脳卒中)17.8% 骨折・転倒 13.5%
要介護3 認知症 27.0% 脳血管疾患(脳卒中)24.1% 骨折・転倒 12.1%
要介護4 脳血管疾患(脳卒中)23.6% 認知症 20.2% 骨折・転倒 15.1%
要介護5 脳血管疾患(脳卒中)24.7% 認知症 24.0% 高齢による衰弱 8.9%

出典)厚生労働省「国民生活基礎調査」(2019年)

家族・親戚のだれがどの程度介護の役割を担うのか、親本人はどこでどのように介護してほしいと思っているのか、介護費用の準備はしているのか…など、事前の話し合いもままならないまま、介護が始まってしまうことがあり得ます。
いざというときに慌てないために、事前の準備として、今からできることはやっておきましょう。

準備1:家族・親戚間で介護に関する役割分担を話し合っておく

互いに親を大事に思っている家族同士でも、それぞれの生活・人生があり、家庭の事情や仕事、経済的な理由から介護への関わり方・度合いには差が生じることも考えられます。
お互いの気持ち、状況に配慮しながら、「自分には何ができるのか」を中心に話し合い、誰が介護を中心で担うのか、それ以外の人はどのようにサポートをするのか、などを決めていきましょう。

親の介護にかかる費用の具体的な額や、介護保険サービスで何ができるのかについても共有しながら進めると、より建設的な話し合いが期待できます。
介護の担い手が不足しそうな場合は、施設介護や介護サービスなどの利用可能性・頻度が高まるということになり、費用面でも相応の備えが必要となります。

準備2:親自身の希望や経済的な準備状況を聞いておく

在宅介護か施設介護かなど、介護に対する要望を聞いておきましょう。
在宅介護であればリフォーム、施設介護であれば入居費用などが当初からかかる場合があります。

介護に必要なお金の見通しをしっかり立てておくことも大切です。
希望する内容に対して、経済的な備えの状況もヒアリングできると良いでしょう。

また、ご本人が認知症になった場合、資産の確認や管理が難しくなることも考えられます。
預貯金・借入金がどれくらいあるのかなどは事前に確認しておくと、介護費用にどの程度使えて、どれくらいご家族で負担をしなくてはいけないのかという見通しも立てることができます。
また、通帳や印鑑などの保管場所は、親にあらかじめまとめて整理しておいてもらうことも有効です。

準備3:介護費用を備えておく

親の経済的準備が十分でなさそうな場合、またはなかなか面と向かって金銭面の話をするのが難しい場合、ご家族みなさんでどの程度負担できそうかを確認し、不足する部分は民間の介護保険などによって準備することを検討しましょう。

介護費用はどのくらい?

介護費用に関する調査では、月々の費用が平均8.27万円、一時的な費用が平均74.4万円という結果があります。
介護期間の平均は先述の通り61.1ヵ月であることを鑑みると、合計の介護費用は約579万円にのぼります。

【介護費用(一時的な費用の合計)】
出典)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021(令和3)年度

【介護費用(月額)】
出典)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」2021(令和3)年度

参考記事:介護に必要な費用はどのくらい?

必要な知識 公的介護保険制度

介護を支えるものとして、公的な介護保険制度が存在します。
何が支援の対象となるのか・ならないのか、事前に確認しておくのが良いでしょう。

参考記事:公的介護保険制度とは

介護する人・される人、双方にとって最適な選択ができるよう準備を

「もしも介護になったら」という話は、多くの方にとって話しづらいことかもしれません。
しかし、より良い介護生活のためには事前の準備がとても大切です。
ご自身のために、そして親御さんのために、今からできる準備を一つずつ始めてみてくださいね。

黒田尚子FPオフィス代表
黒田 尚子

CFP®、1級FP技能士、CNJ認定乳がん体験者コーディネーター、消費生活専門相談員資格、NPO法人がんと暮らしを考える会・理事、城西国際大学・経営情報学部非常勤講師

1998年FPとして独立。2009年末に乳がんに告知を受け、自らの体験から、がんなど病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行うほか、老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「おさいふリング」のファシリテーター、 NPO法人がんと暮らしを考える会のお金と仕事の相談事業の相談員、NPO法人キャンサーネットジャパン・アドバイザリーボードメンバーなどを務める。
著書に「お金が貯まる人は、なぜ部屋がきれいなのか」(日本経済新聞出版)、「がんとお金の本」(BKC)、「50代からのお金のはなし」(プレジデント社)、「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)、「病気にかかるお金がわかる本」(主婦の友社)、「三大疾病ライフプランニングハンドブック」(金融財政事情研究会)、「親の介護とお金が不安です」(主婦の友社)など多数。
http://www.naoko-kuroda.com/

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