「介護保険法」は、介護保険制度を運用するための法律
介護保険法の改正は、今後の介護保険制度や介護を取り巻く環境に大きく影響します。そのため、介護保険法の内容や改定について知ることで、将来の介護への備えになるでしょう。
現在の介護保険制度を簡単におさらい
介護保険制度は、市町村と特別区(東京23区)が運営する公的な保険制度です。40歳以上の方全員が加入し、介護保険料を納めています。介護サービスを受ける際、要介護・要支援と認定されると介護給付や予防給付を受けられます。
介護度に応じて受けられる介護サービスは異なり、費用は所得によって1~3割の自己負担があります。残りの費用は介護保険の財源で、財源の50%は保険料、残り50%は国や自治体の公費となっています。
介護保険法ができた背景
介護保険法の公布前は、「老人福祉法」と「老人保健法」に従い制度が運用されていました。しかし、急速に進む高齢化で介護を必要とする高齢者が増加、さらに介護の重要度が増したことで既存サービスの見直しが必要になりました。そのほかにも、核家族化や少子化、介護をする家族の高齢化などのさまざまな状況の変化も深刻な問題となっていました。
そこで、介護をする家族の状況変化や介護ニーズに対応するため、介護保険法の施行、介護保険制度が開始されました。介護保険制度は、介護が必要な高齢者とその家族を社会全体で支え合っていく仕組みを前提とし、以前の制度とは次のような違いがあります。
以前の制度 |
介護保険制度 |
利用者は行政の窓口に申請し、市町村がサービスを決定 |
利用者が自らサービスの種類や事業者を選べる |
医療と福祉は別々に申し込む |
介護サービスの利用計画(ケアプラン)を作成し、医療と福祉のサービスを総合的に利用できる |
市町村や公的な団体を中心としたサービスの提供 |
民間企業、農協、生協、NPOなど、多様な事業者によるサービスの提供 |
中高所得者にとって利用者負担が重く、利用しにくい。 |
所得にかかわらず、利用したサービスの費用の1割を負担(2015年8月以降、一定以上所得者は利用者負担2割) |
介護保険法は3年おきに改正されている
例えば、介護保険法が施行された2000年には約6人に1人が高齢者※1でしたが、2022年現在では総人口の約3割が高齢者※2という状況であり、今もなお高齢化が進んでいます。
2021年度の介護保険法の改正では何が変わった?
高額介護サービス費の上限額の引き上げ
以下の表は、改正後の高額サービス費の設定区分および上限額を示したものです。改正前、第4段階の負担の上限額は、一律44,400円でしたが、改定後は年収に応じて最大140,100円へ引き上げられています。
設定区分 |
対象者 |
負担の上限額(月額) |
第1段階 |
生活保護を受給している方等 |
15,000円(個人) |
第2段階 |
市町村民税世帯非課税で公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下 |
24,600円(世帯) |
第3段階 |
市町村民税世帯非課税で第1段階及び第2段階に該当しない方 |
24,600円(世帯) |
第4段階 |
① 市区町村民税課税世帯~課税所得380万円(年収約770万円)未満 |
44,400円(世帯) |
② 課税所得380万円(年収約770万円)~690万円(年収約1,160万円)未満 |
93,000円(世帯) |
|
③ 課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 |
140,100円(世帯) |
※「世帯」とは住民基本台帳上の世帯員で、介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額を指し、「個人」とは介護サービスを利用したご本人の負担の上限額を指します。
※第4段階における課税所得による判定は、同一世帯内の65歳以上の方の課税所得により判定します。
地域住民に対する包括的な支援体制の強化
そこで、本法改正により、国の交付金による支援で自治体の総合相談窓口を開設する施策が進められています。総合相談窓口をはじめとした包括的な支援体制を構築することで、複雑な問題の解決を目指しています。
医療・介護領域でのデータ利活用の推進
例えば、佐賀県佐賀市ではビッグデータを活用し、生活習慣病の重症化リスクの高い高齢者を抽出して医療専門職が指導するなど、高齢者の介護予防に役立てています。
介護人材の確保・質の向上
介護人材の確保の取り組みは、介護職員の賃金向上や福祉系高校の学生に対する就学資金の貸付が実施されています。また、介護ロボットや見守りセンサー、ケア記録ソフトなど、ICTの活用による業務改革も進められましたが、関係団体や現場から反発の声があり実施にはいたっていません。
次の介護保険法の改正は2024年、今後どう変わる?
なお、2024年の改正で注目されていた、「ケアプランの有料化」「軽度要介護者へのサービスを地域支援事業に移行」という2つのトピックスは見送りとなっています。
(注記)当記事の内容は掲載当時の情報であり、今後変更になる可能性があります。
利用者負担を原則2割に
多床室の室料負担の見直し
どの介護保険施設であっても公平な居住費を求めていくという観点から、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設の3施設の室料相当額を、基本のサービス費用から外す方向で議論が進んでいます。
介護職員の人員基準の見直し
そのなかでも、特定施設におけるICTや介護ロボットの活用による人員基準緩和は、前回の改正で実施の方向が決まったものの実現にはいたりませんでした。そのため、2024年の改正では論点になる可能性が高いと考えられます。