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【知っておきたい】
介護の未来を決める「介護保険法」とは?

介護保険制度の内容を決める「介護保険法」が2024年に改正されます。

「そもそも介護保険法とは、どのような法律なの?」
「介護保険法の改正で、自分たちにどのような影響があるのだろう?」
といった疑問を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。

介護保険法とは、介護保険制度の内容を決めるための法律のことです。
介護保険法を知ることで、介護保険の活用、将来への備えや不安解消につながるでしょう。

この記事では、介護保険法の目的、施行の背景、
改定の歴史と2024年の改正内容について解説します。

介護保険法とは?

介護保険法とはどのような法律なのか、介護保険制度との関係も含めて解説します。

「介護保険法」は、介護保険制度を運用するための法律

介護保険制度は、介護が必要な高齢者とその家族を社会全体で支える仕組みです。介護保険制度における給付の負担額や施設の運営基準といった決まりを定めているのが「介護保険法」になります。

介護保険法の改正は、今後の介護保険制度や介護を取り巻く環境に大きく影響します。そのため、介護保険法の内容や改定について知ることで、将来の介護への備えになるでしょう。

現在の介護保険制度を簡単におさらい

まず、介護保険法で定められた現在の介護保険制度をおさらいしましょう。

介護保険制度は、市町村と特別区(東京23区)が運営する公的な保険制度です。40歳以上の方全員が加入し、介護保険料を納めています。介護サービスを受ける際、要介護・要支援と認定されると介護給付や予防給付を受けられます。

介護度に応じて受けられる介護サービスは異なり、費用は所得によって1~3割の自己負担があります。残りの費用は介護保険の財源で、財源の50%は保険料、残り50%は国や自治体の公費となっています。

介護保険法ができた背景

介護保険法は1997年12月に国会で成立し、2000年4月に介護保険制度が施行されました。

介護保険法の公布前は、「老人福祉法」と「老人保健法」に従い制度が運用されていました。しかし、急速に進む高齢化で介護を必要とする高齢者が増加、さらに介護の重要度が増したことで既存サービスの見直しが必要になりました。そのほかにも、核家族化や少子化、介護をする家族の高齢化などのさまざまな状況の変化も深刻な問題となっていました。

そこで、介護をする家族の状況変化や介護ニーズに対応するため、介護保険法の施行、介護保険制度が開始されました。介護保険制度は、介護が必要な高齢者とその家族を社会全体で支え合っていく仕組みを前提とし、以前の制度とは次のような違いがあります。
以前の制度と介護保険制度の違い

以前の制度

介護保険制度

利用者は行政の窓口に申請し、市町村がサービスを決定

利用者が自らサービスの種類や事業者を選べる

医療と福祉は別々に申し込む

介護サービスの利用計画(ケアプラン)を作成し、医療と福祉のサービスを総合的に利用できる

市町村や公的な団体を中心としたサービスの提供

民間企業、農協、生協、NPOなど、多様な事業者によるサービスの提供

中高所得者にとって利用者負担が重く、利用しにくい。

所得にかかわらず、利用したサービスの費用の1割を負担(20158月以降、一定以上所得者は利用者負担2割)


介護保険法は3年おきに改正されている

 
介護保険法の施行から20年以上が経ち、介護保険制度も定着してきました。しかし、介護保険法の施行後も、高齢者を取り巻く環境や介護に関するニーズは変化しています。

例えば、介護保険法が施行された2000年には約6人に1人が高齢者※1でしたが、2022年現在では総人口の約3割が高齢者※2という状況であり、今もなお高齢化が進んでいます。
高齢者が増加する一方で支え手が減っていく状況のなかでも、時代に合った必要な介護サービスを提供する必要があります。そのため、介護保険法は3年に一度という頻度で改正され、財源確保に向けた制度の見直しや介護予防の強化、地域包括ケアシステムの推進といった取り組みがされています。

2021年度の介護保険法の改正では何が変わった?

直近の介護保険法の改正は2020年、施行は2021年です。ここでは、改正で特に介護サービス利用者に大きく影響した内容を解説します。

高額介護サービス費の上限額の引き上げ

高額介護サービス費とは、1カ月に支払った自己負担の上限額を超えたときに、超えた分の金額が払い戻される制度です。一定以上の収入や預貯金などがある人を対象に、公平性や能力に応じた負担を図る観点から自己負担の上限額が変更されました。

以下の表は、改正後の高額サービス費の設定区分および上限額を示したものです。改正前、第4段階の負担の上限額は、一律44,400円でしたが、改定後は年収に応じて最大140,100円へ引き上げられています。
 (改正後)高額介護サービス費の設定区分および上限額

設定区分

対象者

負担の上限額(月額)

1段階

生活保護を受給している方等

15,000円(個人)

2段階

市町村民税世帯非課税で公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下

24,600円(世帯)
15,000円(個人)

3段階

市町村民税世帯非課税で第1段階及び第2段階に該当しない方

24,600円(世帯)

4段階

    市区町村民税課税世帯~課税所得380万円(年収約770万円)未満

44,400円(世帯)

    課税所得380万円(年収約770万円)~690万円(年収約1,160万円)未満

93,000円(世帯)

    課税所得690万円(年収約1,160万円)以上

140,100円(世帯)

「世帯」とは住民基本台帳上の世帯員で、介護サービスを利用した方全員の負担の合計の上限額を指し、「個人」とは介護サービスを利用したご本人の負担の上限額を指します。

第4段階における課税所得による判定は、同一世帯内の65歳以上の方の課税所得により判定します。

地域住民に対する包括的な支援体制の強化

現代は介護以外にも、育児や生活困窮といった複数の問題を同時に抱えているケースが増えています。一方で、自治体の相談窓口は相談内容ごとに別れており、手続きの煩わしさや、窓口の連携不足といった問題がありました。

そこで、本法改正により、国の交付金による支援で自治体の総合相談窓口を開設する施策が進められています。総合相談窓口をはじめとした包括的な支援体制を構築することで、複雑な問題の解決を目指しています。

医療・介護領域でのデータ利活用の推進

医療・介護のデータ基盤の整備の推進が盛り込まれました。医療や介護、健康診断などのデータ分析により、地域に住む高齢者の現状把握とニーズに合わせたサービス提供を目的としています。

例えば、佐賀県佐賀市ではビッグデータを活用し、生活習慣病の重症化リスクの高い高齢者を抽出して医療専門職が指導するなど、高齢者の介護予防に役立てています。

介護人材の確保・質の向上

介護人材の不足は、高齢化が進むなかで深刻な問題となっています。そこで、国と自治体が連携し、介護人材の確保・サービスの質の向上・介護業務の効率化に向けて総合的かつ計画的に取り組むという内容が追加されました。

介護人材の確保の取り組みは、介護職員の賃金向上や福祉系高校の学生に対する就学資金の貸付が実施されています。また、介護ロボットや見守りセンサー、ケア記録ソフトなど、ICTの活用による業務改革も進められましたが、関係団体や現場から反発の声があり実施にはいたっていません。

次の介護保険法の改正は2024年、今後どう変わる?

介護保険法の次の改正は2024年です。2024年は、医療保険や障害者総合支援法といった介護保険法と関連する法制度の改正時期でもあるため、大きな転換期となることが予想されます。そこで、2024年の介護保険法改正に向けた政府提言から、注目すべきポイントを解説します。

なお、2024年の改正で注目されていた、「ケアプランの有料化」「軽度要介護者へのサービスを地域支援事業に移行」という2つのトピックスは見送りとなっています。

(注記)当記事の内容は掲載当時の情報であり、今後変更になる可能性があります。

利用者負担を原則2割に

現在、要介護認定を受けている方の介護サービスの自己負担は、1割負担の方が90%を占めています。そこで、今後さらに増加する介護費用をまかなうため、「利用者負担を原則1割から2割へ引き上げる」、または「2割負担の対象を広げる」という提言がなされています。
ですが、負担額が増えることで介護サービスの利用控えが起こる可能性が指摘されています。負担額の引き上げに関しては、2023年の夏ごろに決定する見通しです。

多床室の室料負担の見直し

現在、特別養護老人ホームは多床室の室料を徴収しています。ですが、介護老人保健施設と介護医療院、介護療養型医療施設では室料負担が設定されていません。

どの介護保険施設であっても公平な居住費を求めていくという観点から、介護老人保健施設、介護医療院、介護療養型医療施設の3施設の室料相当額を、基本のサービス費用から外す方向で議論が進んでいます。

介護職員の人員基準の見直し

介護人材不足への対応として、前回の改正から引き続き、介護職員の人員基準の見直しが議論されています。

そのなかでも、特定施設におけるICTや介護ロボットの活用による人員基準緩和は、前回の改正で実施の方向が決まったものの実現にはいたりませんでした。そのため、2024年の改正では論点になる可能性が高いと考えられます。

介護保険法を知って、これからの介護に活かそう


介護保険法とは、介護保険制度を運用するための法律であり、いわば介護の未来を決める法律です。そのため、介護保険法の改正状況を把握することは、将来に向けた備えへの第一歩となります。

介護保険法は、時代のニーズや高齢者を取り巻く環境の変化に合わせて、3年に一度の頻度で改正されます。今後さらに高齢化が加速することで、介護保険法の改正で自己負担の増加が見込まれるでしょう。将来慌てないためにも、正しい理解とともに変化に対する準備が大切です。

 

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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

赤上 直紀

元銀行員。住宅ローンを通じて、多くのお客様のライフプランニングに携わる。住宅ローンは人生で一番の買い物と言われているため、慎重に契約すべきだと考える。現在は、編集者として金融機関を中心に、ウェブコンテンツの編集・執筆業務を行う。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士

公開日:2023年8月9日

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