介護における食事の重要性
基本知識・作る際のポイント・食材の選び方


高齢者のなかには、病気などの理由により食事に配慮が必要な方もいます。そのような場合は介護食を提供することになりますが、提供の経験がない方にとっては、何の食材をどのように提供すれば良いのかわからないこともあるでしょう。

介護食を提供する際は、介護される方の状態に合ったものを提供する必要があります。そのためにも、介護食への理解を深めることが大切です。

この記事では、介護食の基本知識や、作る際のポイント、食材の選び方などを紹介します。

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「介護食」とは?

介護食とは、病気・障害を抱えた方や高齢の方のために作られる特別な食事です。嚥下(飲み込むこと)が困難な方や、特定の栄養ニーズを持つ方に向けて提供されます。

介護食の目的は、要介護者の健康と生活の質を維持することであり、栄養不足や食事摂取の困難を解消することを目指しています。

介護食の調理にあたっては、食材の選択や特別な調理方法による、栄養バランスや嚥下の安全性への考慮が重要です。

介護食が必要な理由

高齢になると、身体機能の衰えにより食事に関するさまざまな問題が生じやすくなります。

まず、加齢とともに歯の本数が減少し、義歯の使用が増えることで、咀嚼力が低下する傾向があります。これにより、硬いものや大きな食材をかみ砕くことが難しくなるため、食事に対する意欲も低下しがちです。

また、飲み込む力(嚥下機能)も衰え、食べ物が気管に入りやすくなることで、誤嚥や窒息のリスクが高まります。

食事中にむせる、飲み込むのに時間がかかるといった変化が見られるようになり、誤嚥性肺炎などの重篤な病気につながる恐れもあるでしょう。誤嚥性肺炎は高齢者にとって命にかかわる危険性があり、特に注意が必要です。

こうしたリスクを回避し、安全に食事を楽しめるようにするためには、食事をする方に合わせた食事に切り替えることが重要です。食材の硬さや大きさ、とろみの活用などを調整することで、嚥下機能に合わせた食事環境を整えられます。

また、専門家による嚥下機能の評価に基づき、適切な食事形態や介助方法を取り入れることが事故の予防にもつながります。窒息事故を防ぐためにも、食事形態に配慮した介護食の導入は不可欠です。

介護食のおもな形状5種類と特徴

 
介護食は、その形状によっていくつかの呼び方で分類されています。以下では、介護食のおもな形状5種と、その特徴を紹介します。

きざみ食

通常食を小さく刻んだもので、かむ機能が低下している方に適しています。刻む細かさは介護される方の状態によって異なりますが、一般的には5ミリから2センチ程度です。

軟菜食(ソフト食)

食材を舌や歯茎でつぶせるくらいやわらかく調理したものを指します。かむ機能や飲み込む機能が低い方に適しています。やわらかく仕上げているだけなので、見た目や味は通常食に近く、食事の楽しみも得やすいでしょう。

ムース食

食材をすりつぶし、型にはめて整形したものです。その形状からムース食と呼ばれており、咀嚼力が弱い方や唾液量の少ない方に適しています。やわらかく仕上げた介護食という意味で、軟菜食とムース食をまとめてソフト食と呼ぶこともあります。

ゼリー食

食材をすりつぶしたものに、でんぷんや寒天、ゼラチンなどを加えて、ゼリー状に加工したりとろみを付けたりした食事です。おもな目的は、嚥下力が低く、誤嚥が心配な方への食事の提供です。

つるりとした口当たりやのどごしの滑らかさがあり、形状があることから、流動食と比べて視覚的に食欲もわきやすいでしょう。

ミキサー食

食事を液体状に加工したもので、食材を混ぜ合わせ、ポタージュ状に仕上げます。流動食の一種で、かむことが難しく、嚥下力が低下した方に適しています。

一方で、食感や見た目の問題から、満足感や食事の楽しみが低下する可能性があるため、食べる方の心理的な側面にも注意が必要です。

市販の介護食|2種類の規格

市販の介護食(レトルト)のパッケージには、咀嚼力・嚥下力の状態を目安に区分された規格が表示されています。規格には以下の2種類があります。
  • 日本介護食品協議会が制定した自主規格「ユニバーサルデザインフード」
  • 農林水産省が整備した介護食の枠組み「スマイルケア食」
レトルト品はスーパーやドラッグストアのほか、インターネット通販などでも手に入ります。初めて介護食を作るときは、これらの規格と実際の中身の形状・やわらかさを見比べ、調理方法や仕上がりの参考にするのがおすすめです。また、味付けの濃さなども市販品が参考になるでしょう。

日本介護食品協議会が制定した自主規格「ユニバーサルデザインフード」

ユニバーサルデザインフード(UDF)は、利用者の咀嚼・嚥下機能に応じて1~4の区分に分類されています。パッケージに記載された区分を確認することで、本人の状態に合った食品を選べます。

区分

かむ力の目安

飲み込む力の目安

容易にかめる

硬いものや大きいものはやや食べづらい

普通に飲み込める

歯茎でつぶせる

硬いものや大きいものは食べづらい

ものによっては飲み込みづらいことがある

舌でつぶせる

細かくてやわらかければ食べられる

水やお茶が飲み込みづらいことがある

かまなくて良い

固形物は小さくても食べづらい

水やお茶が飲み込みづらい

農林水産省が整備した介護食の枠組み「スマイルケア食」

スマイルケア食は「青・黄・赤」の3色の識別マークで区分されており、食べる力や栄養状態に応じた選択が可能です。

識別マーク

対象者

内容

青マーク

かむことや飲み込むことに問題はないが、健康維持上栄養補給を必要とする方向け

 

黄マーク

かむことに問題がある方向け

5:容易にかめる食品

4:歯茎でつぶせる食品

3:舌でつぶせる食品

2:かまなくて良い食品

赤マーク

飲み込むことに問題がある方向け

2:少し咀嚼して飲み込める性状のもの

1:口のなかで少しつぶして飲み込める性状のもの

0:そのまま飲み込める性状のもの

介護食作りの4つのポイント

介護食作りでは、通常食を作るときとは異なる配慮が必要になります。ここでは、介護食作りのポイントを4点紹介します。

食材は適切に調理する

介護食作りでは、食べる方の状態に応じて食材を調理することが大切です。同じ食材でも、調理方法によって食べやすさが変わります。

包丁の入れ方や油分・水分の加減、とろみ付けなどの工夫を施し、食べる力をサポートしましょう。

おいしそうな見た目にする

介護食は普通の食事と比べると見た目が劣るため、食欲がわきにくいという問題があります。液体状の食事など、何を食べているかわかりにくいものは、介護される方も食べたいと思いづらいものです。

スムーズに栄養を摂ってもらうためにも、できるだけおいしそうに見せ、食欲を引き出すよう工夫しましょう。例えば、ブレンダーにかけるときは食材同士を混ぜない、彩りや型抜きを工夫する、メニュー表を添える、食器や盛り付けにこだわるなどの方法が考えられます。

味付けと香りを工夫する

個人差はありますが、高齢になるほど味覚が衰えることから、濃い味を好む傾向があります。要望どおりに味付けを濃くすると、塩分の摂りすぎにつながるため注意が必要です。

ただ、単純に塩味を減らすだけでは、味気ない食事になってしまいます。対策として、出汁を上手に利用する、香辛料の使い方を工夫するなど、旨味や香りでおいしさを維持することがおすすめです。

飽きないメニューにする

介護食に向いている食材と向いていない食材があるため、メニューが固定化することもあるかもしれません。ただ、同じようなメニューでは、早い段階で飽きてしまい、食事が楽しくなくなってしまいます。できる範囲で飽きのこないメニューを考えるのは、介護食をスムーズに食べてもらうためのコツです。

例えば、ご飯、主菜、副菜、汁物などで、バリエーションとメリハリをつけたり、レトルト・作り置きをうまく使い、より少ない手間で献立の幅を広げるよう工夫したりするのもよいでしょう。

介護食を作る際の食材の選び方

介護食を作る際に迷うのが、どのような食材を使うべきかについてです。以下では、高齢の方が食べやすい・食べにくいと感じる食材を紹介します。

高齢者が食べやすい食材

やわらかいものや、ぬめりがあるものは、高齢の方にとって食べやすい食材です。以下に挙げる食材はその具体例です。ただし、個々の健康状態や嗜好に合わせて選ぶようにしましょう。
  • 脂ののった魚や肉
    まぐろやぶりのような脂ののった魚や、脂身のある薄切り肉は、かむ力が弱い方でも食べやすく、栄養価も豊富です。

  • 豆腐
    やわらかい食感の豆腐は、タンパク質やカルシウムを含み、カロリーが控えめでありながら栄養豊富です。木綿豆腐は絹ごし豆腐と比べてやや水分量が少なく、口に残りやすいことから、そのままではなく豆腐ハンバーグのような調理に使うとよいでしょう。

  • バナナ
    熟れたバナナはやわらかくて消化も良く、高齢の方にとって食べやすい果物です。果物をメニューに取り入れることで、飽きさせない工夫にもなります。

  • 納豆
    納豆はやわらかい食感で、良質なタンパク質や食物繊維を含みます。咀嚼や嚥下に不安がある場合は、包丁の背でたたくなど、加工するとよいでしょう。つるつるしてかみにくい場合は、ほかの食材と混ぜておやきにするのもおすすめです。

  • とろろ昆布
    とろろ昆布は食べやすく、のどごしも滑らかです。口のなかでほかの食べ物のまとまりを補助してくれる効果もあります。味噌汁などの汁物に入れるのも、口当たりが滑らかになっておすすめです。

  • オクラ
    ぬめり成分のあるオクラは、食べやすい食材です。調理する際、種は取り除きましょう。

高齢者が食べにくい食材

まとまりがないもの、パサついたものは高齢者の誤嚥が起きやすく、食べにくい食材です。例としては、ひき肉やおから、芋類などが挙げられます。ただ、これらはしっかり煮込む、とろみを付けるなどで、水分量を調節すれば食べやすくなるため、介護食に利用することも可能です。

一方、ごぼうなどの繊維の多い野菜、いかやたこなどのかみにくいもの、かまぼこのような弾力があるものは、介護食の食材に基本的に向きません。これらの不向きな食材は無理に使わず、別のもので代替しましょう。

介護食の作り置きはできる?

毎日の介護食作りには手間がかかるため、まとめて作り置きできないか気になる方もいるのではないでしょうか。適切な調理方法と保存方法に気を付ければ、介護食は作り置きも可能です。作り置きを活用すれば、より効率的にメニューのバリエーションが出せるため、活用してみるのもよいでしょう。

ただし、一度にたくさん作りすぎると劣化や食中毒の原因になるため、作り置きの量は最大で2食分程度を目安にし、1食分ずつ小分けに保存しましょう。高齢者は若者と比べて免疫力が落ちている可能性があるため、衛生面には細心の注意を払う必要があります。冷凍や加熱によって死滅しない細菌も存在するため、調理や保存の段階からしっかり管理するのが鉄則です。

介護食を支えるサービスと制度

高齢者の介護において、毎回の食事を手作りで用意するのは、介護者にとって大きな負担となるかもしれません。

以下では、介護食に関連する便利なサービスや公的制度を紹介します。

宅配介護食サービス

宅配介護食サービスは、咀嚼・嚥下機能に配慮した食事を自宅まで届けてくれる便利な仕組みです。多くは冷凍やチルドで届けられ、必要なときに電子レンジで温めるだけで食べることができます。

献立は管理栄養士が監修しているケースが多く、栄養バランスがしっかりと考えられている点も魅力です。

また、食事形態を選べるサービスもあり、かむ力や飲み込む力に応じて「きざみ食」「ムース食」「ミキサー食」などから選択できます。

公的介護保険で受けられる食事支援

公的介護保険制度において、宅配の配食サービスは原則としてサービス対象外であるため、利用する場合は全額自己負担となることに注意が必要です。

自治体によっては、自立支援や在宅生活の継続を目的とした独自の食事支援制度を設けています。その場合、条件を満たせば一部助成を受けて配食サービスを利用できます。

こうした制度の有無や利用条件については、各自治体の窓口やケアマネジャーに相談すると、詳しい情報を得ることができるでしょう。

地域包括支援センターや栄養士への相談も視野に

食事に関する悩みや困りごとがある場合は、地域包括支援センターに相談するのも一つの手段です。

地域によっては、管理栄養士による個別相談や栄養指導、調理講座などを実施しており、介護者にとって大きな支えとなるサービスが充実しています。

さらに、地域の介護予防事業に参加することで、栄養や健康に関する知識が深まり、介護食の工夫や日々の食生活の改善にもつながります。

専門家のアドバイスを取り入れ、より安心・安全な介護環境を整えましょう。

介護食のポイントを知って食事体験を充実させよう


介護における食事は、単なる栄養補給にとどまらず、心と体の健康を支える大切な要素です。

高齢者の咀嚼・嚥下機能の低下に応じた介護食の提供は、誤嚥や窒息のリスクを防ぎ、安全で楽しい食事時間を実現するために欠かせません。

市販の介護食や宅配サービス、公的支援制度などを上手に活用することで、介護者の負担を減らしながら、高齢者本人にとっても満足度の高い食生活を送れるようになります。

健康の維持と食べることの楽しみを守るために、介護食に関する知識を深め、適切な選択と工夫を心がけましょう。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2025年9月10日

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