介護うつの症状とは?事前に予防するための5つの対策


家族の介護を続けていると、気付かないうちに心身の負担が蓄積されていくものです。孤独や不安、疲労が積み重なると「介護うつ」を発症してしまうことがあります。

介護うつを未然に防ぐためには、その兆候を早期に察知し、適切な対策を講じる必要があります。介護者が一人で悩みを抱え込まないよう、周囲のサポートも欠かせません。

この記事では、介護うつの具体的な症状や、なりやすい人の特徴、予防策について詳しく解説します。

「介護うつ」とは?

「介護うつ」とは、身内などの介護をする人が、介護を原因としてうつ病の症状を発症した状態のことです。介護は身体的な負担だけでなく、精神的なストレスも大きいため、うつ状態に陥ることがあります。

介護うつを発症すると、介護そのものが困難になるだけでなく、日常生活に支障が出ることが少なくありません。食欲や睡眠の乱れ、意欲の低下を引き起こし、介護者の生活の質が大きく損なわれてしまいます。そのため、介護うつは早期発見と予防が重要です。

介護うつの症状

介護うつを早期発見するには、どのような症状かを知っておく必要があります。介護うつの症状には、下記のようなものがあります。
  • 食欲不振
  • 倦怠感
  • 焦燥感
  • 疲労感
  • 睡眠障害
  • 思考障害
上記のような症状がある場合には、その症状が継続している期間を確認しておきましょう。症状が一時的ではなく2週間以上続く場合には、うつ病の可能性が高いとされています。

介護うつの初期症状のポイントは、食事と睡眠がうまくとれなくなることです。
急に食欲を失ったり、夜中に何度も目が覚めるようになったりした場合、それは介護うつのサインかもしれません。

なお、介護うつの前段階として「介護疲れ」という状態を生じることがあります。介護疲れとは、介護にともなう負担を原因として心身に不調をきたすことです。介護疲れについて詳しく知りたい方は、下記の記事もご参照ください。

介護うつのセルフチェック

「介護うつかも?」と思ったら、まずはセルフチェックが有効です。

<介護うつのセルフチェックリスト>
  • 寝つくのに30分以上かかる
  • 眠りが浅く、夜中に目が覚める
  • 起きるべき時間よりも30分以上早く目が覚める
  • 夜間や日中に眠りすぎる
  • 悲しいと感じる
  • 普段より食欲が低下(または増加)している
  • 最近2週間で体重が減少(または増加)した
  • 集中力や決断力が鈍っている
  • 自分を責めてしまう
  • 死や自殺について考えてしまう
  • 物事に興味が持てなくなっている
  • 普段よりも疲れやすい
  • 動きが遅くなった気がする
  • 落ち着かない気持ちになる
より詳しいセルフチェックを行いたい場合は、厚生労働省の「簡易抑うつ症状尺度(QIDS -J)」を利用してみてください。

簡易抑うつ症状尺度(QIDS -J)は16項目の自己記入式の評価尺度で、うつ病の重症度を評価し、アメリカ精神医学会の診断基準DSM-IVの大うつ病性障害の診断基準に対応しています。

ただし、セルフチェックはあくまでも参考です。本人や家族が「何かおかしい」と感じたら、早めに医療機関を受診するようにしましょう。専門家の診断を仰ぐことで、介護うつの重症化防止にもつながります。

「介護うつ」のおもな原因

長期にわたって介護を続けると、介護者の負担も重くなっていきます。「介護うつ」のおもな原因は下記の3つが挙げられます。
  • 孤独や不安などの精神的な原因
  • 疲労や睡眠不足などの身体的な原因
  • 介護による出費などの経済的な原因
これらの複数の原因が重なることで、うつ病に至る可能性が高まります。ここでは、それぞれの原因について解説します。

孤独や不安などの精神的な原因

介護は長期化しやすいため、先の見えない不安やストレスが蓄積しがちです。介護する家族が認知症を患っている場合、暴言や暴力を受けることもあります。親しい人から攻撃的な言動を受けると、介護者の精神的な負担が重なってしまいます。

また、介護者自身が孤立しやすい点にも注意しましょう。昼夜を問わず介護にあたっていると、家族や友人との接触が減ってしまいます。社会的なつながりを失い、孤独感を抱くことが少なくありません。

疲労や睡眠不足などの身体的な原因

大人一人を介護するのは重労働です。要介護度が上がると、食事、トイレ、入浴など、日常生活のあらゆる場面において介助が必要となります。介助一つとっても体力が必要となるため、長期間にわたると疲労が溜まってしまいます。

さらに、仕事をしながら介護をしている場合には、仕事の疲れも重なり、疲労はますます蓄積されるでしょう。介護疲れは睡眠不足につながることが多く、身体的な不調を引き起こします。結果として、精神的な不調をきたす恐れがあるので注意が必要です。

介護による出費などの経済的な原因

介護にともなう経済的な負担も、介護うつの原因となります。

介護には、介護用品の購入やリフォームなどの一時的な費用に加え、介護サービスなどの利用による継続的な費用がかかります。公的介護保険制度による支援はあるものの、出費が無くなるわけではありません。

2021年9月の生命保険センターの調査結果によると、介護に要した費用のうち、一時費用の平均は「74万円」、月々の費用の平均は「8.3万円」にのぼります。

引用:生命保険文化センター「2021(令和3)年度生命保険に関する全国実態調査(速報版)」

介護が始まると、休職や離職、勤務時間短縮などで収入が減ることも多いため、経済的な負担が相対的に大きくなります。介護費用が家庭の経済状況を圧迫し、精神的に追い込まれてしまうことも少なくありません。

介護うつになりやすい人の特徴

介護者の性格によっては、通常よりも介護うつになりやすいことがあります。下記に示すような特徴を持つ方は、特に注意が必要です。

完璧主義:介護に対しても完璧を求め、些細なミスや不足を許せない

几帳面:介護の計画や手順にこだわり、計画どおりに進まないとストレスを感じてしまう

責任感が強い:介護の全責任を自分一人で負おうとしてしまう

人に頼ることが苦手:他人に助けを求められず、すべて自分で解決しようと抱え込んでしまう

気を遣いすぎる:周囲に過度に気を遣い、自分のことをあと回しにする

繊細:相手の感情の機微を敏感に察知するため、ストレスを感じやすい

気が弱い:自分の意見を主張することが苦手で、周囲に流されやすい

体が弱い:健康状態が良くないため、介護の身体的負担が大きい

上記のような特徴を持つ方は、介護の負担を一人で抱え込んでしまいがちです。誰にも相談できずに負担を背負い込んでしまうと、うつ病を引き起こすリスクが高まります。

介護うつになってしまったら?3つの対処法

介護うつは心の病気であり、休息や治療が欠かせません。介護うつの症状をそのまま放っておくと、介護だけでなく、日常生活にも深刻な影響をおよぼします。

すでに介護うつの症状が出ている場合、迅速かつ適切な対処が必要です。ここでは、介護うつを克服するための3つの対処法を紹介します。

しっかりと休息をとる

介護うつに対処する第一の方法は、しっかりと休息をとることです。まずはストレスの原因となっている介護から離れ、心と体を休めましょう。

介護には精神的・身体的・経済的な負担が伴います。前向きな気持ちで家族と向き合い、介護を続けるには、健康な心と体を取り戻すことが最優先です。

周囲の人に協力を求め、可能であれば一時的に誰かに介護を任せることをおすすめします。一人で抱え込んでいる負担を分散させ、自分自身の回復に専念する時間を持ちましょう。再び介護に向き合えるようになるまでエネルギーを蓄える必要があります。

カウンセリングを受ける

うつ病への対処には、専門家のカウンセリングを受けることも有効です。心理的なサポートを受けることで、自分の気持ちを整理してストレスを軽減できるでしょう。

うつ病の治療には「認知行動療法」という方法があります。これは、うつの原因を探り、物事の考え方や見方を変えることで症状を軽減するものです。カウンセラーとの対話を通じて、自分自身の思考パターンを見直せれば、うつ病の再発予防につながるかもしれません。

病院を受診する

うつ病は目に見えにくいため、身体の病気よりも軽く考えてしまいがちです。しかし、心は確実に傷ついており、治療を必要としている状態であることを忘れてはいけません。

うつ病を疑ったら、心療内科や精神科などの病院を受診しましょう。医師の診断を受ければ、抗うつ剤などの薬を処方してもらえます。薬物療法により、気分の落ち込みや不安感を緩和し、日常生活に支障をきたさないようにできます。

適切な治療を受けることが、つらい症状を軽減するための近道です。医師の指示に従い、生活改善やストレス管理を行いましょう。

介護うつを予防する5つの対策

介護うつは、一度発症すると長期的な治療が必要になります。介護のストレスに治療の負担が重なり、かえってうつ症状を悪化させてしまうことも考えられます。

特に、一人で介護をしている場合には、介護を受ける人と共倒れになるリスクもあるでしょう。そのため、介護うつになったあとに対処するよりも、事前に予防策を講じることが重要です。

リフレッシュをする

介護うつにならずに介護を続けるには、定期的なリフレッシュの時間が欠かせません。趣味や娯楽などに打ち込んだり、リラクゼーションやマッサージのケアを受けたり、自分をいたわる時間を大切にしましょう。思い切って介護から離れて旅行をしてみるのもおすすめです。

こうした時間を持つことで、介護のストレスを溜め込まずに、心身のバランスを保てます。自分を犠牲にしすぎず、たまには「自分へのご褒美」を確保してあげることも必要です。

介護の知識を持つ

介護の知識がなければ、「何に頼ればよいか」「どうすれば楽に介護ができるか」といった解決策を講じることもできません。新聞やインターネット、書籍などで介護の情報を集め、正しい知識を持つことが大切です。いざというときに利用できる制度や介護負担を減らす方法を知っておくだけでも、介護者の不安を減らせます。

ただし、インターネット上には誤った情報も含まれているため、書かれている内容をすべて鵜呑みにするのはやめましょう。なかには不安を煽るような表現をしているものもあります。個人のブログや出典が明らかでない情報は避け、専門家が監修した記事など信頼性の高い情報源を選ぶようにしましょう。

信頼できる相手や専門家に相談する

介護の悩みがある場合には、家族や友人など信頼できる相手に相談するのもおすすめです。ちょっとした悩みや不安であっても、誰かに話すことで気持ちが和らぐことがあります。身近な人に相談しにくければ、介護者の集まりなどに参加するのもよいでしょう。

周りに頼れる人がいない場合は、専門家に相談するのも一つの手です。相談先としては、役所や地域包括支援センター、介護支援専門員(ケアマネジャー)、医療ソーシャルワーカーなどが挙げられます。悩みを共有できるだけでなく、適切なアドバイスを得られます。

複数人で介護にあたる

介護を一人で抱え込むと、精神的・身体的・経済的な負担が増すばかりです。家族や兄弟姉妹、親族などと協力し、複数人のチーム体制で介護にあたることをおすすめします。親族だけでなく、地域の方々や会社の同僚にも協力を仰ぐとよいでしょう。

介護の負担を分散することで、一人ひとりの介護うつのリスクを下げることができます。また、周りとコミュニケーションをとりながら介護を行うことにより、介護の質の向上にもつながります。

介護の問題は、誰もが抱える可能性があるものです。「申し訳ない」と思わずに、積極的に周りのサポートを活用してください。

介護サービスや制度を活用する

介護を受ける人が65歳以上、または、40~64歳で特定疾病に該当する場合、公的介護保険の介護サービスを活用できます。対象となる介護サービスは、訪問介護や通所介護(デイサービス)、短期入所生活介護(ショートステイ)などです。利用には要介護認定を受ける必要があるため、近くの役所の窓口で申請しましょう。

公的介護保険制度で受けられる介護サービスについて、詳細を知りたい方は下記の記事も参考にしてみてください。
家族が要介護状態であれば、一時的に休業して介護に専念することも可能です。介護休業期間中は給付金の支給を受けられる可能性もあるため、勤め先やハローワークに確認しておくと安心です。

また、働きながら利用できる制度として、半日または1日単位で取得できる介護休暇や短時間勤務、残業免除などがあります。こうした制度を有効活用し、介護の負担を軽減するようにしましょう。

介護うつにならないために


一度介護うつになると、長期的な治療が必要です。介護を続けられないだけでなく、日常生活にも支障が出るリスクがあります。少しでも「おかしい」と感じたら、すぐに医療機関を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。

介護は一人で抱え込むものではありません。家族や友人、周囲の人々に頼り、介護負担を分散させる体制を整えることをおすすめします。専門家のサポートや介護サービスを利用しながら、介護者ご自身の心身の健康を大切にしてください。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年8月6日

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