要介護者の口腔ケア
高齢者の口腔内の問題や口腔ケアの効果を知ろう


高齢者を介護しているとき、口臭や口内の汚れが気になったことはありませんか?口腔ケアをしてあげたいけれど、どのようなことに注意したら良いのかわからないと思う方もいるでしょう。

口腔ケアを実施する際は、「口内が乾燥していないか」「傷がないか」などに注意して、優しく歯磨きや舌磨きをしてあげることが大切です。嚥下機能が低下している場合もあるため、うがい時には水分量に注意するなど細やかにサポートしましょう。

本記事では、高齢者が抱える口腔内の問題や口腔ケアによって得られる効果、ケアをする際の注意点などを解説していきます。

高齢者の口腔内にはどのような問題がある?

年を重ねると身体の変化だけでなく、口腔内にも変化が起こります。高齢者の口腔内にはどのような問題があるのでしょうか。

自浄作用の低下

本来、口腔内には汚れや細菌を唾液によって洗い流し、清潔に保つ「自浄作用」があります。しかし、身体能力が衰えている高齢者は唾液の分泌量が減少しており、自浄作用が低下しています。

特に運動障害や麻痺がある場合、口腔機能や自浄作用のさらなる低下が見られるため、口腔内の環境の悪化が気になるところです。

虫歯や歯周病が多い

高齢になると歯茎は下がってくるので、歯の根もとと歯茎の間が開き、虫歯や歯周病になりやすくなってしまいます。

高齢者は自浄作用が低下しており、本来は唾液によって流されるはずだった細菌が残って増殖してしまうため、歯周病にかかりやすい状態となります。加齢による免疫力の低下も、虫歯や歯周病が増える一因といえるでしょう。

入れ歯や治療跡が多い

多くの高齢者は虫歯や歯周病を経験しており、治療跡が残っていたり、入れ歯になっていたりします。虫歯の治療で詰め物や被せ物をしている場合、詰め物の下で虫歯が進行している可能性もあり、注意が必要です。

歯周病によって歯が抜けて入れ歯をしている場合は、入れ歯と粘膜のすき間で細菌が繁殖しやすくなっています。

ドライマウスになりやすい

加齢によって噛む力が衰えてくると、唾液量も減少するのでドライマウスになりやすい傾向があります。特に薬を定期的に飲んでいる場合、副作用によってさらに唾液の分泌量が減り、口腔内の乾燥が進むこともあるでしょう。

唾液には口腔内の汚れや細菌を洗い流す役割があるため、ドライマウスになると虫歯や歯周病を進行させたり、口臭の原因になったりします。

味覚が変化する

高齢者は自浄作用の低下にともない、味を感じる器官である舌の表面に「舌苔(ぜったい)」が付きやすくなり、味を感じにくくなってしまいます。また、偏った食生活による栄養不足も、味覚が変わる原因の一つに挙げられるでしょう。

口腔ケアの種類は2つ

口腔ケアには、器質的口腔ケアと機能的口腔ケアの2種類があります。2つのケアを継続的に行っていくことが重要です。

器質的口腔ケア

器質的口腔ケアとは、食事後のうがいや歯磨きにより、歯(義歯)や歯茎・舌などに付着している汚れをきれいに取り除き、口のなかを清潔に保つケアです。口腔内を清潔に保つことで、細菌による歯周病や誤嚥性肺炎などを予防できます

機能的口腔ケア

機能的口腔ケアは、口のなかや口の周りのマッサージをしたり、飲み込む機能を鍛えるトレーニングやリハビリなどを行ったりして、口腔機能の維持・向上を目指すケアです。身体の筋肉と同様に、口周りの筋肉も鍛えなければ衰えていきます。口周りの筋肉がスムーズに動くようになることで、口腔機能が問題なく働くのです。

口腔ケアによる6つの効果

口腔ケアを行うことで、さまざまな効果を得られます。ここでは6つの効果を紹介します。

虫歯・歯周病予防

口腔ケアで歯と歯の間や歯と歯茎の境目などに溜まった汚れを落とし、口腔内の細菌を減らせれば、虫歯や歯周病といった細菌を原因とする病気を防げます。また、歯茎と入れ歯のすき間に食べ物が挟まるといった症状の改善も期待できます。

唾液分泌の促進

口腔内に食べかすが残っていたり、歯垢(しこう)が溜まっていたりする不衛生な状態だと、唾液が出にくくなり、口のなかが乾燥してしまいます。唾液には、歯や口の粘膜の保護、虫歯や歯周病の予防などの役割があるため、分泌量を増やすことはとても重要です。

口腔ケアで口内を清潔にすることで、唾液の分泌促進を図ります。そのほか、歯ブラシなどで「唾液腺」を刺激し、意図的に唾液の分泌量を増やすことも可能です。

口臭の改善

口腔内の食べかすや歯垢(しこう)などの汚れに生息する細菌が、口臭の原因です。虫歯や歯周病などが進行することでも細菌は増殖し、さらに口臭が悪化する場合もあります。

口腔ケアで汚れをきれいに取り除いて細菌を除去し、口腔内の衛生環境を改善すると、口臭も改善されます。また、口腔ケアで唾液分泌が促されて自浄作用が働けば、口臭を予防できるでしょう。

味覚の改善

口腔ケアにより、舌の汚れを取り除いたり、唾液分泌を促進したりすることで、味覚が改善する場合があります。味覚は、唾液や水に溶けたものにしか反応しないため、舌に汚れが溜まっている状態だとうまく働きません。

味覚が改善されることで、食欲不振の改善や、低栄養状態・脱水症状の予防にもつながります。

認知症の予防

口腔ケアで口周りの筋肉を鍛えると、口を開け閉めする動きや食べ物の咀嚼がスムーズになります。これらの動きは脳へ刺激を伝えます。特に、「噛む」という行為によって脳の記憶部分である海馬の神経細胞が増えると、認知症予防につながるといわれています。

誤嚥性肺炎の予防

口腔内に細菌が多く繁殖していると、食べ物が気管から肺に入ってしまう誤嚥の際に、細菌も肺に入って肺炎を引き起こすリスクが高くなります。予防するためには、口腔内の細菌をできるだけ減少させる必要があります。口腔ケアにより、口内環境を常に清潔な状態に整えておくことが大切です。

要介護者の口腔ケアの手順

要介護者の口腔ケアを行う際には、すぐに手に取れる位置に必要な口腔ケア用品を準備しておくことが大切です。ここでは、具体的な口腔ケアの手順を解説します。

うがいや水分保湿を行う

まずは、食べかすや汚れを簡単に落とすためにうがいをしましょう。口を閉じた状態でのうがいには、機能的口腔ケアの役割もあります。

口腔内が乾燥していると感じたら、ソフトガーゼや専用スポンジブラシなどで唇や口腔内を湿らせましょう。乾燥状態のまま口腔ケアを行うと、出血の原因になるので注意が必要です。

入れ歯を外し清掃する

入れ歯をしている場合は、入れ歯の清掃から始めます。上下とも総入れ歯のときは、下の入れ歯から外します。部分入れ歯など小さな入れ歯は、誤って飲み込んでしまわないように注意してください。

入れ歯は水ですすぎながら歯ブラシで磨いたり、濡れタオルで拭き取ったりして汚れを落とし、水か専用の消毒液で保管します。歯磨き粉は入れ歯を傷付けてしまう可能性があるため、使わないようにしましょう。

歯磨き・粘膜・舌の清掃

歯ブラシで歯をきれいにします。ポイントは力を入れすぎず、優しい力で小刻みに磨くことです。歯ブラシを持っていないほうの手で、あごをしっかりと固定し磨いていきましょう。歯ブラシの毛先を歯の面にまっすぐ当てるように歯磨きをすると、歯肉を傷付けずに歯磨きができます。

続いて、歯茎や頬の内側の粘膜を清拭します。口腔用ウェットティッシュや口腔用綿棒を使って、優しくマッサージするように行うとよいでしょう。

舌が汚れている場合は、専用のブラシを使って汚れを落とします。舌の奥から前に向かって、優しくこすり取ってあげましょう。舌の清掃をする際は、ケアを受ける方が苦しがっていないか、様子を見ながら行うことも大切です

うがいをする

最後にうがいを数回行い、残った汚れを落とします。このときに洗口液を使うと、口腔内の浄化や口臭予防に役立つのでおすすめです。

うがいをするのが難しい場合は、口腔用のウェットティッシュで優しく汚れを拭き取りましょう。

入れ歯をしている方は、うがいが終わってから入れ歯を装着します。

これで口腔ケアは完了ですが、唇や口の周り、口腔内の乾燥を防ぐため、必要に応じて保湿剤を塗布しましょう。

口腔ケア時に注意すべき3つのポイント

ここからは、口腔ケアを行う際に注意したいことを3つ挙げて解説します。

口腔内をチェックする

痛みの原因となる口内炎や歯肉の腫れ、義歯による傷などがないか、事前に口腔内をチェックしておきましょう。トラブルを残したまま口腔ケアを行うと、状態を悪化させてしまったり、介護を受ける方が口腔ケアを嫌がったりする可能性があるので、無理に行わないようにしましょう。

誤嚥に注意する

嚥下機能が低下している場合は特に注意が必要です。うがい時には水が誤って気管に入らないように注意しましょう。吐き出しが難しい方に対しては、うがいの代わりにウェットティッシュやガーゼを使って拭き取り、誤嚥を防ぎます。

口腔内の乾燥に注意する

加齢や薬の副作用の影響で唾液の分泌が減少すると、口腔内は乾燥が気になるようになります。口腔内が乾燥していると、粘膜が脆弱になって傷付きやすくなるため、口腔ケアをする際には注意が必要です。保湿剤で口腔内を潤しながらマッサージや口腔機能訓練を行い、唾液の分泌を促しましょう。

正しい口腔ケアで心身ともに健やかに


高齢になると、口腔内の汚れや細菌を洗い流す「自浄作用」が低下したり、虫歯になりやすかったり、唾液量が減少したりと、さまざまな問題が発生します。それらの問題を解決する手段の一つが口腔ケアです。

口腔ケアには、口のなかを清潔に保つための「器質的口腔ケア」と、口腔機能を維持・向上させるための「機能的口腔ケア」があります。2つの口腔ケアを行うことで、虫歯や歯周病予防だけでなく、認知症や誤嚥性肺炎の予防にもつながります。

正しいやり方を身に付けて、効果的な口腔ケアを行いましょう。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年5月30日

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