公的介護保険による住宅改修とは
手続き内容や支給対象工事のポイント


老化による身体の衰えや怪我、病気などが原因で介護が必要になると、これまで住んでいた自宅が住みにくく感じることがあります。自宅で安心な生活を送るためには、住宅改修が必要となることもあるでしょう。

住宅改修は、公的介護保険の利用が可能ですが、手続きや対象となる工事について十分に理解していない方もいらっしゃるのではないでしょうか。

本記事では、公的介護保険を利用した住宅改修の申請の流れや対象工事、改修のポイント、費用相場などを解説します。介護が必要になったご家族のために住宅改修を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

公的介護保険の住宅改修とは?

介護を目的とした住宅改修には、バリアフリーに対応した設備への変更や、安全に配慮した新たな設備の導入などがあります。この住宅改修は「介護リフォーム」とも呼ばれ、公的介護保険が利用可能です。

そこでまずは、公的介護保険を利用した住宅改修について詳しく解説します。

公的介護保険を利用した住宅改修のメリット

介護にはさまざまな費用がかかります。公的介護保険を利用すれば、費用負担を抑えつつ介護しやすい環境に整えられます。

支給条件

公的介護保険を利用できるのは要支援1~2、または要介護1~5の認定を受けている要支援者・要介護者に限られます。そのためまずは、お住まいの自治体の地域包括支援センターや役所の窓口に相談し、要介護・要支援認定の申請を行ないましょう。

また、公的介護保険を利用するには、その要支援者・要介護者が改修対象の住宅に住んでいる必要があります。介護施設などに入所している場合は、公的介護保険の対象外となるため注意してください。

なお、支給額の上限は18万円(支給限度基準額20万円の9割)です。分割しての利用も可能ですが、使い切るとそれで終了し、通常2度目の受給はできません。ただし、要介護区分が3段階以上上がった場合や引っ越しをした場合は例外で、再度受給が可能になります。

支給対象工事

公的介護保険で費用が支給されるのは、下記の6つの工事です。
  • 手すりを取り付ける
  • 段差を解消する(つまずき防止や移動の円滑化が目的)
  • 床の材料を変更する(すべり防止や移動の円滑化が目的)
  • 扉の取り替え(引き戸やアコーディオンカーテンなど)や撤去
  • 和式便器を洋式便器に取り替える
  • 1~5の工事を行なうために付帯して必要な工事(下地補強や給排水設備工事など)
なお、これらはあくまでも介護目的の工事が対象です。例えば、模様替えなどで床の材料を変更する場合は、公的介護保険を利用できません。また、洋式便器を洗浄付き洋式便器に変更するといった工事も、公的介護保険の対象外です。

また、介護目的であっても、すべての工事が公的介護保険の対象というわけではない点にも注意が必要です。例えば、置き型の手すりやリフトは福祉用具の支給対象となるため、公的介護保険を利用した住宅改修の対象外となっています。

手続きの流れ

公的介護保険を利用した住宅改修の一般的な手続きの流れは、下記のとおりです。
  1. ケアマネジャーか地域包括支援センターに住宅改修したい旨を伝える
  2. 住宅改修事業者と住宅改修プラン(住宅改修が必要な理由書)を作成する
  3. 自治体に必要書類とあわせて申請する
  4. 審査結果が通知される
  5. 施工業者に費用を支払う
  6. 自治体の役場で払い戻し手続きをする
公的介護保険を利用した住宅改修を検討する場合は、住宅改修事業者に依頼するよりも先に、担当のケアマネジャーまたは地域包括支援センターに相談しましょう。

なお、役所からの審査結果が出るまで改修工事を行なわないように注意しましょう。やむを得ない事情があり先に工事を行なうケースもありますが、基本的には申請が承認される前の工事は、公的介護保険の対象外となってしまいます。

手続きには時間がかかるため、住宅改修が必要になったら早めにケアマネジャーに相談するとよいでしょう。

【場所別】公的介護保険による住宅改修のポイントや費用の目安

公的介護保険を使って住宅改修をする際、場所ごとにどのようなリフォームをすべきか解説します。また、一般的な費用の目安も紹介します。

浴室

近年、高齢者の自宅浴槽内での溺水事故が多発しています。そのため、浴槽をまたぐときにつかまる手すりや、浴槽内で立ったり座ったりするときに支える手すりを設置すると、危険を防げます。

また、浴槽を浅めのものに変えることで、安全に入浴できるようになるでしょう。ただし、浅すぎたり、浴槽の壁が斜めになっていたりすると危険が生じる場合があるので、注意する必要があります。

さらに、転倒を防ぐのに、洗い場の床材を滑りにくいものに変えるのも効果的です。扉の開け閉めをしやすくするため引き戸に取り替えたり、扉付近に手すりを設置したりするのもおすすめです。

浴槽を交換する場合の費用の目安は40万円~60万円程度、床材の交換には10万円~20万円程度かかります。

トイレ

トイレのリフォームは、手すりの設置や出入り口の段差解消、和式便器から洋式便器への変更などがあります。手すりは、便座に座ったり服を着脱したりするとき用と、扉を開け閉めするとき用のものがあると便利です。要介護者の膝や腰への負担を減らし、安全で快適に利用できるように改修するのがポイントです。

和式から洋式への便器交換の場合、工事費として25万円~30万円程度を目安に見積もっておくとよいでしょう。

玄関・外回り

足腰が弱くなると、外から玄関ドアまでの階段や、玄関で靴を脱いでフロアに上がる段差の昇り降りが難しくなります。外構に手すりやスロープを設置したり、玄関からフロアに上がる段差にステップを設置したりすることで、自宅への出入りがしやすくなります。

また、玄関の扉は室内の扉よりも重く作られており、開け閉めが負担になることもありますが、引き戸へ変更すれば負担が軽減されます。

玄関扉を引き戸に変更するリフォームの費用は約10万円からです。また、玄関外へのスロープ設置費用も約10万円からが目安ですが、扉のグレードやスロープの長さによって値段は大きく変わります。

廊下・階段

階段の昇り降りは、転倒・転落のおそれがあり危険です。両側に連続した手すりを付けることで、事故を防いで昇り降りしやすくすることができます。

階段の手すり設置にかかる費用の目安は、6万円~8万円程度です。また、階段だけでなく廊下にも手すりを設置すると、さらに安全性が向上します。

自治体の補助金制度が利用できる場合もある

前述のとおり、公的介護保険で住宅改修をする場合、支給される給付金は18万円までです。それ以上かかった場合は全額自己負担となりますが、自治体によっては独自の補助金制度を用意している場合があります。

自治体の補助金制度は、公的介護保険の上限金額を超えるものや、公的介護保険の対象でない工事も幅広く対象になることがあります。市町村によっては公的介護保険と併用できない場合もあるため、申請前に確認しておくと安心です。

公的介護保険による住宅改修で事故を未然に防ぎ環境を整えよう


身体が不自由になると、自宅での転倒や転落のリスクが高まります。要介護者の家庭内事故を防ぐ、また介護者の負担を軽減するためにも、住宅改修がおすすめです。

公的介護保険を利用することで、住宅改修にかかる費用を軽減できます。支給対象の工事や支給できる条件が定められているので、本記事の内容を参考に、不明点はケアマネジャーなどに相談してみましょう。

なお、公的介護保険だけでなく、独自の補助金制度を準備している自治体もあります。上手に活用すれば、コストを抑えて安全で快適な環境を整えられるでしょう。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年3月29日

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