記憶障害とは、一度記憶した出来事を忘れてしまう症状です。脳血管性認知症にともなう記憶障害には、特に最近の出来事を思い出せないという特徴があります。
具体的には「食事をしたことを忘れる」「財布をどこに置いたか忘れる」「少し前の約束を覚えていない」といった症状です。
アルツハイマー型認知症では、新しい記憶と古い記憶の両方に障害が見られますが、脳血管性認知症では、比較的長期の記憶(遠い過去の出来事)は保たれる傾向があります。
見当識障害とは、時間や今いる場所、周囲の人物などを正しく認識・理解する能力が低下する状態を指します。
この障害にともなって現れる症状としては、今いる場所がわからず外をさまよってしまう「徘徊」をはじめ、「夜間不眠・昼夜逆転」「家族や周りの人に対する攻撃的な態度」などが挙げられます。
一般的に見当識障害は、まず時間に関する認識から失われ、次に場所や方向、そして人間関係へと進行していく傾向があります。このような症状が進行すると、日常生活を営むうえでさまざまな支障が生じやすくなります。
実行(遂行)機能障害とは、計画を立てて準備を行い、段取り良く実行していく能力が低下している状態です。
日常生活では「レシピにしたがって料理が作れない」「同じメニューの料理を繰り返し作る」「洗濯機などの家電製品が使えない」といった症状として表れます。
この障害が進行すると、仕事や家事など、複数の工程や判断を必要とする活動を行うことが難しくなり、自立した生活に大きな影響をおよぼします。
脳血管性認知症は、脳の損傷部位によって身体的な症状をともなうことがあります。具体的な症状として挙げられるのは「歩行障害」「運動麻痺」「感覚麻痺」「言語障害」「嚥下障害」「排尿障害(頻尿、尿失禁)」などです。
これらの症状は、日常生活における自立度を大きく低下させ、介護の必要性を高める要因となります。
脳血管性認知症では、脳の損傷部位によって、できることとできないことの差が生じやすく、本人が自身の認知機能低下を比較的自覚しやすいという特徴があります。この自覚から、抑うつ(落ち込み)や怒りの感情が出やすくなることがあります。
性格・情緒面で表れるのは「無関心・意欲の低下」「感情表現が激しくなる」といった変化です。
これらの症状は、介護する家族にとって大きな負担となるケースがあるため、周囲の理解と適切な対応が重要になるでしょう。
脳血管性認知症の進行には、ほかの種類の認知症とは異なる特徴があります。
初期の段階では、もの忘れなどの記憶障害や、意欲の低下、自発性の低下、感情の波が激しくなるといった症状から徐々に始まるため「年のせい」と見過ごされやすく、気付きにくい点が特徴です。
また、症状が急激に悪化したり落ち着いたりと、階段状に進行する傾向があります。脳の損傷部位により、問題なくできることと、まったくできないことが混在する「まだら認知」が見られるのも大きな特徴です。
脳血管性認知症は、脳への血流が不足し、それによって神経細胞が破壊されることで発症します。具体的には、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害が原因です。
この認知症を起こしやすい危険因子として、おもに以下の疾患が挙げられます。
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高血圧
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糖尿病
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高脂血症
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虚血性心疾患(心臓の病気)
脳血管性認知症を発症する経緯には、以下の2つのパターンがあります。
どちらのパターンも、生活習慣病などを背景に、血管がもろくなることが根本的な原因と考えられます。
脳血管性認知症の診断は、ほかの認知症と同様に、多角的な検査を通じて総合的に行われます。具体的には、以下の手順を踏んで診断します。
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医療面接
患者や家族から、発症の経緯、症状の出方、身体症状、既往歴などを詳しく聞き取る
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神経心理検査
MMSE(ミニメンタルステート検査)や長谷川式スケール(改訂 長谷川式認知症スケール(HDS-R))などにより、記憶力、実行機能、計算力、言語能力などの認知機能領域や、気分の評価を行う
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画像検査
脳の状態を詳しく調べることで、脳血管障害の有無や程度を確認する
画像検査では、おもに以下の方法が用いられます。
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CTやMRI:脳梗塞や脳出血の部位・大きさ、脳の萎縮の程度などを確認する
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MR Angiography(MRA)や脳血管造影:脳の主要な血管の状態を調べ、狭窄や閉塞がないか確認する
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脳血流シンチグラフィー(SPECTなど):脳のどの部分の血流が低下しているかを画像化し、機能的な障害の程度を評価する
これらの検査結果から、認知症の原因が脳血管障害によるものと特定されれば、脳血管性認知症と診断されます。
脳血管性認知症の治療は、薬物療法と非薬物療法の2つの柱で進められます。
薬物療法では、脳血管障害の再発予防のため、高血圧や糖尿病、高脂血症などの危険因子を抑える薬や、血栓ができるのを防ぐ薬などが用いられます。また、認知機能の改善や行動・心理症状を和らげる薬も使用する場合があります。
非薬物療法としては、認知症の進行を緩やかにし、残された能力を活かすために、さまざまなリハビリテーションが行われます。
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認知機能向上が目的のリハビリ:脳を活性化するためのトレーニング
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身体機能向上が目的のリハビリ: 運動麻痺や歩行障害などに対する機能訓練
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日常生活動作(ADL)の訓練:食事・着替え・排せつなどで自立度を維持・向上させる訓練
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心理社会的リハビリ:感情の安定や生活の質(QOL)向上を目指す、回想法やレクリエーション療法など
脳血管性認知症の初期段階では、意欲や自発性の低下、運動麻痺、嚥下障害なども起きるため、リハビリの継続や薬の飲み忘れ防止などに関して、ケアする側も根気強く接する必要があるでしょう。
脳血管性認知症が進行すると、自宅での介護が必要になる場合があります。介護する際は、本人の状態を理解し、精神的な安定を保つことが大切です。日常生活での接し方では、以下の点に注意しましょう。
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否定的な言動を避ける:本人を傷つける言葉や、不安を煽るような刺激の強い言葉は避けましょう。
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まだら認知症の理解:日によってできたりできなかったりすることがあると理解しましょう。できないことを責めないことが大切です。
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本人の意思を尊重する:無理に何かをさせず、また、やりたいことを遠ざけないようにし、本人の自発性を大切にしましょう。
症状が進行すると、家族だけでの介護が難しくなり、ヘルパーや介護施設の利用を検討するケースもあります。家族の介護疲れを防ぐために、以下のことを心がけましょう。
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専門機関やサービスの利用:地域の専門医、カウンセリング、支援サービス(地域包括支援センターなど)を活用しましょう。
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情報共有:似た境遇の家族との交流や情報共有を通じて、孤立を防ぎましょう。
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公的介護保険や民間介護保険の活用:経済的な負担に備えるため、各種保険を活用することがおすすめです。
脳血管性認知症の予防
脳血管性認知症は、脳血管障害によって引き起こされるため、糖尿病や高血圧、脂質異常症、肥満などのリスク要因を取り除くことが重要です。また、喫煙やストレス、睡眠不足、運動不足なども脳血管障害のリスクを高めます。
定期検診で生活習慣病を発症していないか確認し、もし発症していれば早期に治療を始めることが大切です。生活習慣病の完治は難しく、生活習慣の改善や薬などでコントロールします。薬の飲み忘れ、生活習慣の乱れなどは症状の悪化を招き、脳血管障害のリスクを高めるため、家族の協力のもとで治療を進めましょう。