前述のアルツハイマー型認知症の症状がみられた場合も、必ずしも認知症とは限りません。症状のなかには、認知症によく似た疾患もあるため、見極めが必要です。
記憶力の低下や理解力の衰えは、年を取れば誰にでも起こることです。
認知症の場合は日常生活に影響をおよぼし、体験したこと自体を忘れてしまう傾向があります。加齢による生理的もの忘れでは、日常生活に支障をきたすことはなく、体験したことの一部だけを忘れてしまうことなどが特徴です。
学習能力や感情コントロールにも問題はなく、新しいことを覚えることができ、人が変わったように怒りっぽくなったり、活動的だったのが一転意欲的ではなくなったりすることもありません。
「軽度認知障害(MCI)」とは、認知症の前段階とされる症状です。アルツハイマー型認知症の多くは、健常の状態から急激に発症・進行するのではなく、健常と認知症の境目であるMCIの状態を通過していく傾向にあります。
MCIは認知症と似たような症状が見られることがありますが、基本的な日常生活には支障がないため、本人だけではなく周囲も見過ごしがちです。
MCIを放置しておくと、1年で約10~30%が認知症に進行するとされ、認知症まで進行すると健常に戻りにくくなります。しかし、MCIの状態の間に適切な治療を開始すれば、認知症の発症を遅らせたり、なかには健常に回復したりすることも見込めるため、なるべく早く専門医のいる病院を受診することが大切です。
のどぼとけの下には、新陳代謝をうながすホルモンを分泌する甲状腺という臓器があります。この甲状腺が正常に機能せず、甲状腺ホルモンの分泌量が減り、新陳代謝が鈍ってしまう状態が「甲状腺機能低下症」です。
甲状腺機能低下症による症状の表れ方には個人差があります。記憶力や意欲が低下したり、疲れやすく倦怠感が続いたりするケースも少なくありません。
認知症と勘違いされやすいのですが、これらの症状は適切な治療により改善が可能です。そのため、甲状腺機能低下症による認知機能の低下症状は、「治療可能な認知症」とされています。
認知症を疑う症状が出始めると、本人はもちろん、家族も大きな不安やストレスにさらされるでしょう。そのようなときに頼れる相談窓口を紹介します。
気になる症状があったら、まずはかかりつけ医に相談しましょう。いつも診てもらっている医師なら、それまでの健康状態や服用中の薬などを踏まえた診察が可能です。
その結果、専門的な検査が必要だと診断されれば、適切な医療機関を紹介してもらえます。紹介状を書いてもらえば、病院間で既往歴なども共有されるため、初診もスムーズです。
かかりつけ医がいない場合は、後述の地域包括支援センターへの相談や、精神科・脳神経内科・老年内科の受診をしましょう。総合病院やクリニックで物忘れ外来を専門に行っているところがありますので、探してみるとよいでしょう。
かかりつけ医を持たなかったり、認知症かもしれない本人が受診に難色を示したりする場合には、市区町村が設置する地域包括支援センターで相談してみるのも一案です。
地域包括支援センターでは、地域住民が安心して生活できるように、さまざまな相談を受けられます。
保健師・社会福祉士・主任ケアマネジャーといった専門スタッフが配置され、認知症の診断ができる医療機関をアドバイスするなど、必要とする人を適切なサービスにつなぐことも、地域包括支援センターのおもな役割の一つです。
厚生労働省によると、地域包括支援センターは全国で5,431箇所、ブランチやサブセンターを含めると7,397箇所が設置されています(令和5年4月末現在)。具体的な場所は各市区町村の介護保険担当窓口で確認しましょう。
気軽に情報交換がしたい人には、オレンジカフェ(認知症カフェ)がおすすめです。オレンジカフェは、認知症の人やその家族と、保健や介護の専門家や地域の人々が交流を持てる場です。
介護事業所・病院・公民館などで行われ、お茶を飲んでゆっくりおしゃべりができ、講話やイベントが開催されることもあります。
参加費は無料か数百円程度であることがほとんどです。詳しい開催場所は、地域包括支援センターなどで確認できます。