治療可能な認知症とは?
ビタミンB12欠乏症による認知機能の低下と治療法


年齢とともに物忘れがひどくなると「もしかして認知症かも?」と不安になるのではないでしょうか。

しかし、その症状はビタミンB12欠乏症が原因かもしれません。

ビタミンB12欠乏症は認知機能の低下を引き起こしますが、適切な治療によって改善が期待できる「治療可能な認知症」の一つとして知られています。

この記事では、ビタミンB12の働きと認知症の関連性、さらにビタミンB12欠乏症の症状・原因・治療方法について解説します。

ご自身やご家族の症状に不安を感じている方は、ぜひ参考にしてください。

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治療可能な認知症とは?

認知症は特定の病名ではなく、脳の疾患などのさまざまな原因から記憶力や判断力といった認知機能が低下し、日常生活に支障をきたすようになる状態の総称です。

現在の医療では、認知症の多くは根本的な治癒が難しいとされていますが、なかには原因を取り除くことで改善が期待できる認知症もあります。

以下に認知症のおもな種類と、治療が困難な認知症、治療が可能な認知症について説明します。

認知症の種類

認知症は4大認知症と、そのほかの疾患による認知症の5つに大きく分けられます。

4大認知症とは患者の多い順に、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つです。

認知症と診断された患者の9割以上がこの4大認知症のいずれかに該当しており、なかでもアルツハイマー型認知症は発症頻度が最も高く、患者数の7割近くにのぼります。
一方、そのほかの認知症原因疾患には、神経変性疾患、感染性疾患、アルコール性疾患、内分泌・代謝性中毒疾患があります。

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根本的な治療が困難な認知症

アルツハイマー型認知症を代表とする4大認知症は、現在のところ根本的な治療法が確立されていません。そのため、症状をできるだけ軽減し、進行を遅らせることが治療のおもな目標となり、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。

治療可能な認知症

さまざまな疾患のなかには、認知症と間違われやすい疾患がいくつかあります。代表的な疾患は、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症、葉酸欠乏症、ビタミンB1欠乏症、ビタミンB12欠乏症などです。これらの疾患はいずれも原因を取り除くことで症状の改善が期待できます。

今回は、「治療可能な認知症」として重要かつ発生頻度が高い疾患である「ビタミンB12欠乏症」について解説します。

ビタミンB12の働きと認知症の関連性

 
ビタミンB12(別名:コバラミン)は、赤血球の形成を助けるほか、DNAの合成や神経系の健全な働きを支えるなど、身体のさまざまな機能に欠かせない水溶性のビタミンです。

肉(特にレバー)、魚(サケ、マグロなど)、貝類(アサリ、カキなど)、卵、乳製品などの動物性食品に豊富に含まれています。

ビタミンB12は体内、特に肝臓に長期間にわたって蓄積される性質があるため、日常的に栄養バランスの取れた食事を心がけていれば、欠乏するリスクは非常に低いとされています。

ただし、食生活が偏っている場合や吸収障害がある場合はビタミンB12欠乏症のリスクが高くなるので注意が必要です。

ビタミンB12の欠乏により神経系に異常が生じると、手足の感覚が鈍くなる、筋力が弱まる、歩くのが困難になるといった身体的な症状のほか、認知症などの症状が現れます。

ビタミンB12欠乏症になりやすい人の特徴

ビタミンB12欠乏症になりやすい人には、共通する特徴が見られます。

以下のケースに該当する場合は、ビタミンB12を豊富に含む食材を食事に積極的に取り入れたり、必要に応じてサプリメントを活用したりするとよいでしょう。

動物性食品を食べない

ビタミンB12は動物性の食品から摂取できますが、植物性の食品から摂取するのは難しい栄養素です。

したがって、肉・魚介類・卵・乳製品といった動物性食品をあまり食べない人は、ビタミンB12欠乏症になりやすいと考えられます。

特に、動物性由来の食品を控えているベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(卵・乳製品を含め動物性食品を食べない完全菜食主義者)は、ビタミンB12不足のリスクが高く注意が必要です。

なお、ビタミンB12は体内にある程度蓄積されているため、短期的に動物性食品を摂らなかったとしても、すぐに欠乏症を引き起こすことは少なく、数年程度は体内のストックでまかなえます。

胃に病気がある/胃酸の分泌が少ない

ビタミンB12は、胃で分泌されるタンパク質(内因子)と結びついたのち、小腸で体内へ取り込まれます。

そのため、胃の不調や疾患により内因子の分泌が低下していると、ビタミンB12を多く含む食事をしていても、体内にうまく取り込めないケースがあります。

また、胃潰瘍などの治療で胃酸の分泌を抑える薬を服用していると、体内でのビタミンB12の吸収効率が下がり、不足するリスクが増加します。

高齢者

高齢になると胃の酸性度が低下する傾向があり、食事に含まれる栄養素がスムーズに分解・吸収されにくくなります。

さらに、年齢を重ねるにつれて食事の量が減少することもあり、十分な量のビタミンB12を摂取できずに欠乏症のリスクが高まる可能性があります。

そのため、貧血や手足のしびれといった症状が見られないか、普段から体調の変化に注意をはらい、異常があれば早めに察知できるようにすることが大切です。

ビタミンB12欠乏症とは?症状・原因・診断・治療法

 
ビタミンB12欠乏症とは、さまざまな原因により体内のビタミンB12が不足して、健康トラブルを引き起こした状態のことです。

以下では、ビタミンB12が欠乏することで現れるおもな症状、その背景にある原因、そして診断や治療の方法について説明します。

ビタミンB12欠乏症の症状

ビタミンB12が不足することで現れるおもな症状には、貧血、手足のしびれ、認知機能の低下が挙げられます。

貧血:赤血球の形成に必要な栄養素であるビタミンB12が不足すると、立ちくらみ・めまいといった貧血症状が出やすくなるのが一般的です。重度の貧血になると息切れや心拍数の増加をともないます。

手足のしびれ:ビタミンB12は、神経機能の健康を保つためにも欠かせない栄養素です。不足すると、神経伝達の仕組みに支障をきたしやすくなり、手足にしびれを感じたり、筋力の減退を感じたりすることがあります。

認知機能の低下:ビタミンB12の欠乏状態が長引くと、認知機能(思考力、判断力、記憶力など)の低下や精神機能障害に至るおそれがあります。

ビタミンB12欠乏症の原因

ビタミンB12が不足するおもな原因は、摂取不足・吸収不良・貯蔵不足の3つに分けられます。

摂取不足:ビタミンB12は、おもに動物由来の食品に多く含まれるため、植物性食品中心の食生活を送っていると不足しやすくなります。

吸収不良:体内でビタミンB12を効率良く吸収するには、胃が分泌する内因子というタンパク質の助けが不可欠です。胃や小腸の疾患がある場合や、内因子が正常に分泌されない場合、摂取したビタミンB12を十分に吸収できなくなります。

貯蔵不足:ビタミンB12は、おもに肝臓に蓄えられますが、肝機能に問題があると、必要な量を保持できずに慢性的な欠乏を引き起こすこともあります。

ビタミンB12欠乏症の診断

ビタミンB12欠乏症の診断には、おもに血液検査が行われます。

ビタミンB12不足で起こる貧血は、赤血球が通常よりも著しく大きくなることが特徴です。血液検査で大型の赤血球が発見された場合、ビタミンB12欠乏症の可能性が強まります。その際は、血液中のビタミンB12のレベルを測定することで、実際に不足しているかどうかを判断することが可能です。

ビタミンB12欠乏症の治療法

ビタミンB12欠乏症のおもな治療法には、食事療法、サプリメントの摂取、ビタミンB12の注射の3つがあります。

食事療法:ビタミンB12を含む食品が食べられる場合は、日々の食事において意識的に摂取量を増やすことが大切です。肉(特にレバー)・魚介類・乳製品・卵など、動物性食品をバランス良く取り入れることが推奨されます。

サプリメントの摂取:動物性食品を食べない、または吸収不良など、食事からビタミンB12を摂取できない場合は、食事よりも吸収しやすいサプリメントの利用が選択肢として挙げられます。しかし、サプリメントは他の栄養素などとともに摂取する場合が多く、他の栄養素が過剰摂取となる可能性もあり注意が必要です。

ビタミンB12の注射:重度の欠乏症や吸収障害がある場合は、経口摂取では十分な吸収が期待できないため、注射によって直接体内に補給する必要があります。

認知症を疑ったら、早めに診断を受けよう


ビタミンB12欠乏症は治療可能な認知症の一つです。アルツハイマー型認知症を代表とする4大認知症とは違い、適切な診断と治療を受ければ、症状の改善が見込めます。

ビタミンB12欠乏症を予防・治療するには、肉(特にレバー)・魚介類・乳製品・卵など、動物性食品をバランス良く食べることが大切です。

植物性食品中心の食生活を送っている場合は、ビタミンB12のサプリメントを摂取する方法が有効です。

「もしかして認知症かも?」と感じたときは、原因の早期発見と治療のため、早めに診断を受けましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2025年6月13日

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