認知症は4大認知症と、そのほかの疾患による認知症の5つに大きく分けられます。
4大認知症とは患者の多い順に、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症の4つです。
認知症と診断された患者の9割以上がこの4大認知症のいずれかに該当しており、なかでもアルツハイマー型認知症は発症頻度が最も高く、患者数の7割近くにのぼります。
アルツハイマー型認知症を代表とする4大認知症は、現在のところ根本的な治療法が確立されていません。そのため、症状をできるだけ軽減し、進行を遅らせることが治療のおもな目標となり、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて行います。
さまざまな疾患のなかには、認知症と間違われやすい疾患がいくつかあります。代表的な疾患は、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫、甲状腺機能低下症、葉酸欠乏症、ビタミンB1欠乏症、ビタミンB12欠乏症などです。これらの疾患はいずれも原因を取り除くことで症状の改善が期待できます。
今回は、「治療可能な認知症」として重要かつ発生頻度が高い疾患である「ビタミンB12欠乏症」について解説します。
ビタミンB12(別名:コバラミン)は、赤血球の形成を助けるほか、DNAの合成や神経系の健全な働きを支えるなど、身体のさまざまな機能に欠かせない水溶性のビタミンです。
肉(特にレバー)、魚(サケ、マグロなど)、貝類(アサリ、カキなど)、卵、乳製品などの動物性食品に豊富に含まれています。
ビタミンB12は体内、特に肝臓に長期間にわたって蓄積される性質があるため、日常的に栄養バランスの取れた食事を心がけていれば、欠乏するリスクは非常に低いとされています。
ただし、食生活が偏っている場合や吸収障害がある場合はビタミンB12欠乏症のリスクが高くなるので注意が必要です。
ビタミンB12の欠乏により神経系に異常が生じると、手足の感覚が鈍くなる、筋力が弱まる、歩くのが困難になるといった身体的な症状のほか、認知症などの症状が現れます。
ビタミンB12欠乏症になりやすい人には、共通する特徴が見られます。
以下のケースに該当する場合は、ビタミンB12を豊富に含む食材を食事に積極的に取り入れたり、必要に応じてサプリメントを活用したりするとよいでしょう。
ビタミンB12は動物性の食品から摂取できますが、植物性の食品から摂取するのは難しい栄養素です。
したがって、肉・魚介類・卵・乳製品といった動物性食品をあまり食べない人は、ビタミンB12欠乏症になりやすいと考えられます。
特に、動物性由来の食品を控えているベジタリアン(菜食主義者)やビーガン(卵・乳製品を含め動物性食品を食べない完全菜食主義者)は、ビタミンB12不足のリスクが高く注意が必要です。
なお、ビタミンB12は体内にある程度蓄積されているため、短期的に動物性食品を摂らなかったとしても、すぐに欠乏症を引き起こすことは少なく、数年程度は体内のストックでまかなえます。
ビタミンB12は、胃で分泌されるタンパク質(内因子)と結びついたのち、小腸で体内へ取り込まれます。
そのため、胃の不調や疾患により内因子の分泌が低下していると、ビタミンB12を多く含む食事をしていても、体内にうまく取り込めないケースがあります。
また、胃潰瘍などの治療で胃酸の分泌を抑える薬を服用していると、体内でのビタミンB12の吸収効率が下がり、不足するリスクが増加します。
高齢になると胃の酸性度が低下する傾向があり、食事に含まれる栄養素がスムーズに分解・吸収されにくくなります。
さらに、年齢を重ねるにつれて食事の量が減少することもあり、十分な量のビタミンB12を摂取できずに欠乏症のリスクが高まる可能性があります。
そのため、貧血や手足のしびれといった症状が見られないか、普段から体調の変化に注意をはらい、異常があれば早めに察知できるようにすることが大切です。