家族が認知症になったら

家族が認知症になった場合は、介護の方法やよくある悩みなどを確認しておくことが大切です。
手探りで介護をすると失敗が増えてしまい、介護される人と介護する人の両方の負担が増加します。
本記事では、家族が認知症になったときに確認しておきたい介護の内容や、よくある悩み、介護拒否への対応方法などについて詳しく解説します。

認知症介護の主な内容

認知症介護は、主に次の4つを主軸に行います。

・見守り・観察
・健康管理
・気持ちのケア
・生活基盤のケア

それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。

見守り・観察

見守り・観察は、介護対象者の様子を観察しつつ、徘徊のような危険が伴う行動に対処することです。

健康管理

認知症になると、服薬管理や健康管理が難しくなるため、介護者によるサポートが必要です。

気持ちのケア

認知症の方は、新しい出来事の記憶が難しい一方で、そのときの感情は残ります。例えば、怒った人に対して恐怖や不安などの感情を抱くことがあります。少しでも精神的に安定した日々を過ごせるように、気持ちに寄り添うことが大切です。

生活基盤のケア

認知症の方は、今の時刻やトイレの場所、自分がいる場所などを認識できない場合があります。トイレの場所に目印をつけたり、今の日付がわかるようにカレンダーに印をつけたりと、これまでどおりの生活ができるように環境を整えてあげましょう。

認知症介護とほかの介護の違い

介護対象者の健康状態によって、介護の内容全くは全く異なります。例えば、歩行が困難であるものの認知機能に問題がない場合は、排せつや入浴の介助を行います。

認知症の方の場合、新しいことを記憶できない、今自分がいる場所がわからない、迷子になる、理解にかかる時間が長くなる、自分で計画を立てられないなどの症状を考慮して介護しなければなりません。例えば、日付がわかるようにカレンダーに印をつける、入浴の時間を伝える、トイレまで誘導するなどの介護が必要です。

また、自分の感情を抑えられなくなったり突然怒り出したりと、介護者にとって理解が難しい症状が現れる場合もあります。

このように、認知症の方の介護は他の介護とは内容や注意点、介護者の精神的な負担などが異なります。

介護者の負担

認知症の方の介護において、介護者には心身に大きな負担がかかります。認知機能が低下しているために介護に抵抗する場合は、介護を受けられるように促す必要があります。介護を受けるように促すにしても、意思疎通が難しい状況であれば、介護者の精神的な負担はさらに大きくなるでしょう。

そして、見守りや付き添いの必要があることも介護者の負担が大きくなる理由の1つです。特に外出先では、常に見張っておかないと道路に飛び出したり迷子になったりする恐れがあるため、片時も目を離すことができません。

このようなことから介護者は気が休まらず、疲弊してしまう恐れがあります。

レスパイトケア

介護におけるレスパイトケアとは、介護者の心身状態の回復を目的に、デイサービスやショートステイ、場合によっては入院などを利用することです。レスパイトは、「息抜き」や「小休止」を指します。

認知症の介護は1人で行えるものではありません。悩みを抱え込むと心身の状態が悪くなり、介護の内容にも影響が及ぶ恐れがあります。

介護は続けなければならないため、家族はもとよりケアマネジャーや主治医、介護施設、地域包括支援センターなどの協力を得て、長期にわたり続けられる介護環境を整えることが大切です。

介護をする上で気をつけること

認知症の介護における注意点は、他の介護と異なります。
本人に対して、また介護者自身に対して気をつけるべきことがあります。それぞれの気をつけるべきことについて詳しく見ていきましょう。

本人に対して気をつけること

認知症の方に対して、「何を言ってもわからない」「感謝することなんてない」と思う方もいます。しかし、認知症の方は新しい出来事の記憶はできない一方で、そのときどきで抱く感情はあります。そして、その感情は記憶されるため、相手の気持ちを認識して寄り添うことが大切です。

例えば、介護拒否に関しても、何か理由があって拒否していると考えられます。その理由を突き止めて解消してあげることができれば、介護を拒否しなくなるでしょう。

介護者自身に対して気を付けること

認知症の方を介護すると、言うことを聞いてもらえなかったり介護拒否をされたりすることで、ネガティブな感情を溜め込みがちです。
「自分がなんとかしないといけない」と強く思えば思うほどに、精神的な負担が増加します。介護者がうつ病を発症したり、虐待したりする恐れもあるでしょう。

認知症介護は1人で行うものではないと考えて、ケアマネジャーや地域包括支援センターなどに相談することが大切です。適切なアドバイスを受け、そのとおりに対応することで、今抱えている悩みや不安を解消できる可能性があります。

介護拒否の時の対応方法

介護拒否をされると、「自分の介護方法に問題があったのではないか」、「もっと良い方法があるのではないか」などと悩むこともあるでしょう。
この場合は、認知症介護の経験者やケアマネジャーなどに相談すると、良いアドバイスを得られる可能性があります。また、悩みを抱え込まずに人に話すだけでも精神的な負担が多少は軽くなります。

また、介護拒否は誰もが一度は経験するものと言っても過言ではありません。自分を責めるのではなく、どうすれば拒否されなくなるのか、そもそもなぜ拒否するのかを考えてみましょう。
例えば、排せつの介護においては、近くにいられることが恥ずかしくて拒否する場合があります。このように、さまざまな可能性を考えて対応方法を変えると、拒否がなくなるかもしれません。

最初から認知症介護が全てうまくいくケースは稀だといわれています。焦らず、なるべく前向きな気持ちを持ちつつ、専門家や経験者の協力を得ながら介護を続けましょう。

「認知症」の人のために家族が出来る10ヵ条

最後に、「公益社団法人 認知症の人と家族の会」が考案した“「認知症」の人のために家族が出来る10ヵ条”をご紹介します。
認知症介護における不安や悩み、負担などに対する心構えの参考にしてみましょう。
  1. 見逃すな「あれ、何かおかしい?」は、大事なサイン
    認知症の始まりは、ちょっとした物忘れであることが多いもの。単なる老化現象とまぎらわしく、周囲の人にはわかりにくいものです。
    あれっ、もしかして?と気づくことができるのは、身近な家族だからこそです。

  2. 早めに受診を。治る認知症もある。
    認知症が疑われたら、まず専門医に受診すること。認知症に似た病気や、早く治療すれば治る認知症もあるのです。
    また、適切な治療や介護を受けるには、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などをきちんと診断してもらうのは不可欠です。

  3. 知は力。認知症の正しい知識を身につけよう。
    アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症では、症状の出方や進行、対応が違います。
    特徴をよく知って、快適に生活できるよう、その後の家族の生活や介護計画づくりに役立てましょう。

  4. 介護保険など、サービスを積極的に利用しよう。
    介護保険など、サービスを利用するのは当然のこと。家族だけで認知症の人を介護することはできません。
    サービスは「家族の息抜き」だけでなく、本人がプロの介護を受けたり社会に接する大事な機会です。

  5. サービスの質を見分ける目を持とう。
    介護保険サービスは、利用者や家族が選択できるのが利点。
    質の高いサービスを選択する目が必要です。
    また、トラブルがあったときは、泣き寝入りせず、冷静に訴える姿勢を持ちましょう。

  6. 経験者は知恵の宝庫。いつでも気軽に相談を。
    介護経験者が培ってきた知識や経験は、社会資源の一つ。
    一人で抱え込まずに経験者に相談し、共感し合い、情報を交換することが、大きなささえとなります。

  7. 今できることを知り、それを大切に。
    知的機能が低下し、進行していくのが多くの認知症です。
    しかし、すべてが失われたわけではありません。
    失われた能力の回復を求めるより、残された能力を大切にしましょう。

  8. 恥じず、隠さず、ネットワークを広げよう。
    認知症の人の実態をオープンにすれば、どこかで理解者、協力者が手をあげてくれるはず。
    公的な相談機関や私的なつながり、地域社会、インターネットなどのさまざまな情報を上手に使い、介護家族の思いを訴えていきましょう。

  9. 自分も大切に、介護以外の時間を持とう。
    介護者にも自分の生活や生き甲斐があるはず。
    「介護で自分の人生を犠牲にされた」と思わないように自分自身の時間を大切にしてください。
    介護者の気持ちの安定は、認知症の人にも伝わるのです。

  10. 往年のその人らしい日々を。
    認知症になっても、その人の人生が否定されるわけではありません。
    やがて来る人生の幕引きも考えながら、その人らしい生活を続けられるよう、家族で話し合いましょう。

村上友太〔医師〕

医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事。現在、東京予防クリニックで勤務。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、神経内視鏡技術認定医、抗加齢医学会専門医。
日本内科学会、日本認知症学会などの各会員。

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