認知症の方に言ってはいけない言葉とは?
接し方のポイントや介護の注意点


認知症の方と接するうえで、患者本人に言ってはいけない言葉があるのはご存じでしょうか。一例として、「相手を否定する言葉」や「責める言葉」などが挙げられます。

これらの言葉を発すると、場合によっては症状を進行させるおそれもあるため要注意です。

今回は、認知症の方に言ってはいけない言葉に関する概要や言葉の例を紹介したうえで、認知症の方にやってはいけないことを解説。併せて、認知症の方への接し方のポイントや、介護の際に気を付けたいことも紹介します。

認知症の方に対して言ってはいけない言葉がある

認知症になった方は、知的機能・認知機能の障害などで、物忘れをしたり、過去と現在の区別がつかなくなったりすることが特徴です。

しかし、感情は末期の段階まで残っているため、言ってはいけない言葉を使わないように気を付けなければなりません。

認知症になると、抱いた感情が残像のように相当時間継続するといわれており、この状態は、「感情残像の法則」とも呼ばれています。例えば、認知症の方を頭ごなしに否定したり、無理に説得したりすると、本人に負の感情だけが残ってしまう可能性が高いので要注意です。
認知症の方に接する際は、あくまで本人の気持ちに寄り添いながら、共感的態度で臨むことが重要です。

認知症の方に言ってはいけない言葉

続いて、認知症の方に言ってはいけない言葉を4つのパートに分けて紹介します。日常生活で不意に使ってしまう言葉もあるかもしれませんので、ぜひ参考にしてください。

否定する言葉

認知症の方が信じていることについて、頭ごなしに否定する言葉をかけるのはよくありません。例えば、ご飯を食べていないと思っている人に対して「さっきご飯は食べたばかり」と言ったり、まだ働いていると思っている人に対して「仕事はもうずっと前に退職している」と言ったりするのは控えましょう。

認知症は初期の頃から記憶障害が現れるケースも珍しくありません。しかし、本人の信じていることを否定したり、物忘れを指摘したりすると、孤独や怒りを覚えやすくなるため、本人の世界に寄り添った言葉をかけることが大切です。

強制する言葉

本人の意向を無視して、行動を強制する言葉をかけると、ネガティブな感情をもたらし、信頼関係にも影響を及ぼしかねないので注意しましょう。具体例を挙げると、不安が募って同じ所を歩き回る人に対して、「ここに早く座って」と強い口調で言うのはおすすめしません。

また、認知症の方に行動をお願いして拒否されたときは、その理由を聞くことが重要です。本人の気持ちを理解し、納得してもらったうえで行動を促せば、スムーズに介護が行えるでしょう。

責める言葉

認知症の方に対して「行動がおかしい」「要領が悪い」と感じても、本人を責める言葉をかけてはいけません。例えば、トイレがうまくできなかった人に対して「どうしてトイレができないの?」と言ったり、物を盗られたと言う人に対して「自分で落としたんじゃないの?」と言ったりするのは禁物です。

特に認知症の場合は、記憶障害、思考力の低下などが原因で、「物盗られ妄想」と呼ばれる症状を起こし、お金や貴重品を盗られたと妄想するケースも多くあります。対処法として、「一緒に探そう」と冷静に言ったり、別の話題を振ってみたりすることが有効です。

ペースを乱す言葉

認知症の方の行動が遅い場合も、ペースを乱す言葉をかけるのはよしましょう。例えば、食事を食べるのが遅い人に対して「もっと早く食べてよ」と言ったり、トイレに時間がかかる人に対して「早くして」と言ったりすることが該当します。

このような言葉は、本人に不満を抱かせたり、萎縮させたりすることにつながります。認知症の方がうまく行動できていないときは、タイミングを見計らって、本人にサポートが必要か確認するような言葉をかけるとよいでしょう。

認知症の方にやってはいけないこと

ここからは、認知症の方にしてはいけない行動について解説します。言ってはいけない言葉と併せて心に留めておくことで、認知症の方とスムーズに接しやすくなるでしょう。

行動を制限する

認知症の症状の一つに「徘徊」があります。例えば、外出中に見当識障害で自身の場所がわからなくなった結果として道に迷うケースや、外出先で記憶障害が起こり、なぜこの場所にいるのかを思い出せず外に出てしまうケースなどが該当します。

しかし、徘徊行動がある方を制限する目的で家に閉じ込めると、外との接点を持つ機会が減ってしまいかえって症状が悪化する可能性もあるため気を付けましょう。

行動を制限する方法ではなく、以下のような対策を講じるのがおすすめです。

・玄関にセンサーを設置して、徘徊のタイミングを家族で共有する
・所持品にGPS端末を入れて居場所を把握する
・生活リズムを整えて、1人で外出する気分にならないようにする

なお、本人が認知症であることを周囲に隠すのはあまりおすすめしません。というのも、日頃から近隣住民の方とコミュニケーションを取っていれば、徘徊行動を起こしたときに近隣の方が見守ってくれるケースもあるためです。

叱る・口論する

認知症の方が誤った行動をしても、叱ることは逆効果です。本人の尊厳を守るため、怒りそうになってしまったら、まずは冷静になり、否定しないことが重要です。

また、細かな指摘が積み重なって、口論に発展しないように注意する必要もあります。認知症の方の失敗に気付いたら、家族がこまめにフォローしてあげるのがベストです。

役割を奪う

認知症の方が、家事や仕事、趣味などを以前のようにできなくなったからといって、その役割を無理に奪うのはやめましょう。認知症の方は役割をまっとうすることによって自己肯定感を高められ、自信を身に付けられるためです。

役割を奪われた結果、運動不足や脳の刺激が減ることにつながり、認知機能の低下に発展するおそれもあります。小さなことでも良いので、本人が活動できる役割をなるべく残してあげることが大切です。

子ども扱いする

認知症の方を子ども扱いすると、大人として培ったプライドを傷つけることになります。例えば、以前は1人で実行できていたトイレを、人の手を借りないと行えないことで、本人に焦燥感や悔しさが募っているケースも多いでしょう。

すぐに手伝ってあげるのではなく、あくまで本人の自主性を尊重しつつケアを行なうことで、自尊心を傷つけにくくなります。

認知症の方に対する接し方のポイント

続いて、認知症の方に対する接し方のポイントを3つ紹介します。

目線を合わせて話す

認知症の方がベッドに寝ている場合であれば、相手に合わせてこちらの目線を下げ、目を見ながら話すことで威圧感を与えづらくなります。

また、話すときは大きめの声で、耳元でゆっくりと話しかければ、老化で耳が遠くなっている方ともコミュニケーションが取りやすいでしょう。話の要点をまとめて、手短に伝える工夫も必要です。

相手が安心する言葉で話す

コミュニケーションを取る際、「褒める・感謝する・共感する」というポイントを押さえておくとよいでしょう。例えば、認知症の方が何か成功したときに「すごい!」と褒めたり、お願いしたことを実行してくれたときに「ありがとう」と感謝したりするのがおすすめです。

肯定的に接すれば、本人が抱えている不安感を取り除くことにもつながります。

相手を放置しない

認知症の方へ、常に丁寧な態度で接するのは難しいものです。しかし、放置したり無視したりすると、孤独感や不安感を募らせて、認知症の進行を招くおそれがあります。

介護サービスなども適切に利用しながら、普段から介護に携わる側も休息を得られる環境をつくることが重要です。

認知症の方を介護するうえで気を付けたいこと

ここでは、認知症の方を介護するうえで気を付けたいことを2つ解説します。

信頼関係を築く

認知症の方が自身の不調やストレスなどが原因で、怒りっぽくなったり活動意欲が低下したりする行動・心理症状(BPSD)を起こすケースがあります。具体的な症状は「怒りっぽくなる」「暴言を吐く」「暴力をふるう」などが該当します。

家族側に立ってみると、親などが認知症になった場合、それらの症状や、認知症の症状そのものに対してショックのあまり、思わず怒ったり強く指摘したりしてしまうケースもあるかもしれません。常に共感的態度で接することは難しいうえ、意識しすぎると家族の負担も増してしまいます。

そのため、認知症の方が不安や不快な気持ちを抱かないように、焦らず信頼関係を築くことが重要です。

外部のサポートも頼る

認知症の方を介護する際、家族がすべての役割を抱え込んでしまうと大きな負担になってしまいます。負担を感じた際は、地域包括支援センターなどにも相談して、受けられるサポートがないか積極的に探すとよいでしょう。

ただし、家事支援・代行や認知症の方の見守りなどのサービスは、公的介護保険の適用外であるため、自己負担しなければなりません。その際、民間介護保険に加入していれば、介護サービス以外にかかった費用に対しても充てられるため、家計の負担を軽減する効果が見込めます。

認知症の方への言葉・接し方は相手を尊重することが大切


認知症の方に対しては、否定する言葉や責める言葉を使うのは控えましょう。
また、行動を制限したり、役割を奪ったりすると、認知症の進行を助長してしまうおそれもあります。

認知症の方を介護するうえでは、外部のサポートも受けながら取り組むことが大切です。

 

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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月23日

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