【家族が知っておきたい】
認知症による暴力の原因と対処方法


認知症の家族が暴力的な行動を取るようになってしまい、どのように対応すればいいのかわからず悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

突然の暴力行動に戸惑いや不安を感じるのは無理もありません。また、介護者自身の心身への負担も大きく、出来る限り早めに解消したい問題でしょう。

この問題に向き合うためには、認知症によって引き起こされる暴力行動の原因を理解し、症状に合わせた適切な対応を知ることが重要です。

本記事では、認知症による暴力行動の原因や適切な対処方法を解説するとともに、暴力行動が出た際にしてはいけない行動などを紹介します。

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【症状別】認知症による暴力行動の原因

認知症は、脳の認知機能が低下し、思考力や理性、感情のコントロールが難しくなる症状です。その結果、認知症患者が家族や介護者に対して暴力を振るう場合があります。
暴力行動の原因は認知症の種類によって異なるため、適切な対処をするためには、それぞれの症状の理解が重要です。

以下は、認知症のタイプ別の特徴と暴力行動の傾向をまとめたものです。

認知症のタイプ

特徴

暴力行動の傾向

アルツハイマー型認知症

記憶力の低下がおもな症状で、時間や場所、人物の認識が難しくなります。

混乱やせん妄、状況判断能力の低下からくる不安が原因で暴力を振るうことがあります。

前頭側頭型認知症

脳領域の破壊が原因で起こる認知症です。感情の抑制や社会的行動の制御が困難になり、自己中心的で衝動的な行動が見られます。

人格の変化が顕著に表れ、以前は穏やかだった人でも、興奮による攻撃的な言動や暴力的な行動をする場合があります。

レビー小体型認知症

幻視や幻聴などの視覚的・聴覚的な症状が現れます。パーキンソン症状(震え、筋肉の硬直)をともなう場合もあります。

幻覚や幻聴、誤解などが原因で恐怖や不安を覚え、暴力につながる場合があります。

血管性認知症

脳血管障害による認知症で、運動機能や記憶、判断力に影響をおよぼします。

突発的な気分変動や感情の爆発が原因で、暴力的な行動が見られる場合があります。

認知症の分類と症状について詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください。

認知症の方が暴力を振るうおもな内的・外的要因

認知症の方が暴力行動を起こす背景には、本人の心理的・身体的状態(内的要因)や、環境や周囲の人とのかかわり方(外的要因)が関与しています。
暴力行動を減少させるには、それぞれの要因を理解し、適切な対策を講じることが重要です。

認知症患者の暴力行動のおもな要因と理由は、以下をご覧ください。

要因

理由

不安や焦りなどネガティブな感情の高まり

認知症の方は、状況理解に時間がかかり、不安や焦りの感情が高まる場合があります。そのようなネガティブな感情を表現する手段として、暴力を振るう場合があります。

感情のコントロールが難しい

前頭葉の機能低下により、感情のコントロールが困難になります。ささいな刺激でも突然の怒りや興奮、情緒不安定な状態が現れ、暴力につながる場合があります。

自尊心が傷ついたことによる怒りの感情

他者から軽視されたと感じる言動や過保護な扱いが、羞恥心や無力感を引き起こし、攻撃的な行動として現れる場合があります。

周囲の人の感情に振り回されている

認知症の方は、周囲の人々の感情や表情に非常に敏感です。介護者の焦りや困惑が伝わると、不安やストレスを感じ、攻撃的な行動につながる場合があります。

体調不良によるストレス

認知症の方は、体調不良や痛みをうまく伝えることが難しい傾向にあります。その不快感や不安がストレスとなり、暴力につながる場合があります。

薬の影響

認知症の方が服用している薬が、予期しない副作用を引き起こし、暴力につながる場合があります。

認知症の方から暴力を受けた際の対処法4つ

認知症の方から暴力的な行動を受けた場合、大きなショックやストレスを感じるかもしれませんが、冷静な対応が状況の改善につながります。

ここでは、適切な対処法を4つご紹介します。

1. 物理的に距離を取る

暴力的な行動を受けた場合、まずは自分自身や周囲の人々の安全を最優先に考え、物理的な距離を取りましょう。

認知症の方は、予測不可能な行動を取る場合もあり、冷静に距離を取ることで、さらなるトラブルを防げます。
認知症の方による暴力的な行動は、多くの場合、一時的な感情の高ぶりや不安から来ています。距離を取って刺激を減らし、本人が冷静になる時間を確保しましょう。

2. 感情的にならない

認知症の方が暴力的な行動を取った際は、感情的な反応をしないことが大切です。こちらも感情的に反応してしまうと、相手の不安や怒りの感情が高まり、暴力行動を悪化させる可能性があります。

話しかける際は、声のトーンを落ち着かせ、やわらかい口調を心がけましょう。「大丈夫ですよ」「ゆっくりしましょう」といった声かけで、不安を和らげることが大切です。

3. 認知症の症状であることを理解して原因を探る

認知症の方の暴力行動は、認知症の症状の一部として現れるものであると理解しましょう。
暴力行動が起こる背後には、周囲の環境や身体的な不快感、薬の副作用など、さまざまな要因が関与しています。

状況に応じて、周囲の環境や体調の変化を確認し、何が暴力の引き金となったのかを冷静に分析しましょう。

4. 第三者に介助を依頼する

認知症の方の暴力は、ときに予測できない形で現れるケースもあるため、暴力行動が手に負えない状況に至った際は、第三者に介助を依頼しましょう。

特に、認知症ケアの経験が豊富なヘルパーや看護師、地域の支援機関の専門家に相談をすると、適切な対処をしてくれるでしょう。

場合によっては、状況を改善するための環境調整や、適切な治療法を提供してもらえます。介護者自身が限界を感じたときは、無理せず助けを求めることが大切です。

認知症の暴力症状が出た際にしてはいけない4つのこと

認知症の方が暴力的な行動を示した場合、適切な対応が事態の改善につながります。もしも適切に対応できなかった場合、事態が悪化しかねません。

以下では、暴力行動に対して避けるべき4つの行動を解説します。

1. 感情的な対応をする

認知症の方が暴力行動を示した際は、冷静な対応を心がけましょう。

例えば、怒鳴ったり否定的な言葉を投げかけたりすると、認知症の方がパニック状態に陥り、状況が悪化する可能性があります。冷静な態度を保ちながら、相手の感情に共感し、穏やかに接することが大切です。

2. 暴力で対抗する

暴力に暴力で対抗すると、自分も相手も怪我をする危険性があり、状況をさらに悪化させる可能性があります。
認知症の方は、状況を正確に認識することが難しく、暴力的な行動に対して過剰な反応を示す場合があります。また、介護者との信頼関係も損なわれ、関係が悪化するリスクが高まるでしょう。

3. 無理やり行動を抑制する

認知症の方の行動を無理に抑制しようとすると、相手は強く抵抗する可能性が高く、さらなる暴力行為や不安を引き起こす原因となる可能性があります。

例えば、動きを制限したり、部屋に閉じ込めたりすることは、認知症の方にさらなるストレスを与え、不安や混乱を助長する原因となります。また、強制的な行動制御は、相手の自尊心を傷つける行為であり、信頼関係の破綻にもつながります。
時には認知症の症状が進行してしまうこともあるでしょう。

こうした状況では、穏やかな声かけを心がけ、環境を整えて相手が落ち着くよう配慮することが重要です。

4. 無視をする

暴力行動の無視は、根本的な解決につながりません。認知症の方は無視をされると疎外感や孤独感を覚え、暴力行動がエスカレートする可能性があります。

興奮や暴力の背後にある理由や感情を理解し、相手の気持ちに寄り添いながら対応することが重要です。相手の気持ちに寄り添った対応をすると、心理的な安定が促され、自然と暴力行動が減少していきます。

日常でできる暴力行動への予防方法5つ

認知症の方が暴力的な行動を示す背景には、不安や混乱、環境の影響などさまざまな要因があり、日常生活のなかで適切な対策を講じることが予防につながります。
ここでは、実践しやすい暴力行動の予防方法を5つ紹介します。

1. やわらかい口調で接する

認知症の方との会話では、声のトーンを意識することが非常に重要です。認知症の方は、相手の話し方のトーンや表情に敏感であるため、やわらかい口調や表情で接すると、心理的な安定につながります。

2. 肯定的な反応を心がける

認知症の方に対して、否定的な言葉の使用は避け、肯定的な反応を心がけましょう。認知症の方は、自分の能力の低下に敏感で、否定的な対応を受けると自尊心が傷つき、暴力行動を引き起こす可能性があります。

認知症の方が取る行動は、周囲には理解しがたいことがあっても、本人にとっては理にかなったものです。行動を否定するのではなく、肯定的に受け止めることが、相手の自尊心を守り、安心感を与える鍵となります。

また、相手の行動に対して、「ありがとう」「助かります」といった感謝の気持ちを伝えると、認知症の方が自信を持つことにつながり、双方の関係性もより良好に保てます。

3. リラックスできる場所を作る

生活環境を整えると、認知症の方がより落ち着いて生活できるようになります。リラックスできる場所は、本人が「自分の居場所」と感じられるような空間であることが大切です。

例えば、窓辺のソファやリビングなど、普段から好んで過ごしている場所に使い慣れた家具や思い入れのあるインテリアを設置したり、照明の調整をしたりして、本人が過ごしやすい空間を整備しましょう。

4. 薬物療法を検討する

薬物療法は、認知症の症状を緩和し、興奮や攻撃性を抑える有効な手段です。

ただし、薬の効き具合には個人差があり、副作用もともなう可能性があるため、専門医と相談しながら慎重に進める必要があります。

薬物療法では、抗精神病薬や抗うつ薬、抗てんかん薬などが使用されます。ただし、特に高齢者は、代謝の遅さなどの理由から副作用が出やすいため、少量から始めて慎重に経過を観察しましょう。

5. 介護者側がストレスを溜め込みすぎないようにする

介護者が疲労やストレスを感じてしまうと感情的な対応になりやすく、認知症の方の不安や混乱を増幅させる可能性があります。

認知症の方は周囲の感情に敏感であるため、介護者自身が穏やかでいることが大切です。いらだちや怒りを感じた際には、その感情を自覚し、リフレッシュする時間を設けましょう。介護者の笑顔やポジティブな対応が、認知症の方の安心感につながります。

認知症による暴力に困った際の相談先

認知症による暴力行動に悩んでいる場合は、一人で抱え込まずに専門機関へ相談しましょう。

認知症の方が長年連れ添った家族であっても、介護に行き詰まることはよくあります。
介護者自身の心身の健康を守るためにも、定期的なカウンセリングや支援を受けることをおすすめします。

地域の福祉サービスや専門家が提供するアドバイスを受けることで、暴力行動の原因を分析し、適切な対応策を立てられる可能性が高まるでしょう。

以下に、認知症患者やその家族を支援する相談先をご紹介します。

・認知症疾患医療センター
・地域包括支援センター
・居宅介護支援事業所のケアマネージャー
・医療相談室・地域連携室

各相談先について詳しくは以下の記事をお読みください。

認知症による暴力行動には適切な対応をとり、困ったときは第三者に相談しよう


認知症による暴力行動に悩んでいる場合、まずは原因を理解し、適切な対応を心がけることが大切です。

暴力行動が発生した際には、安全を確保するためにもまずは物理的な距離を取り、落ち着いて対応しましょう。

困ったときには、認知症疾患医療センターや地域の支援機関に相談すると、状況に応じた適切なサポートを受けられます。決して一人で抱え込まず、第三者のサポートを求めましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年12月20日

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