認知症の方にどう対応する?
家族の向き合い方と症状別の対応方法


「家族が認知症になったらどう対応すれば良いのか」と不安を抱えている方は多いのではないでしょうか。認知症の方と向き合うには、認知症への正しい理解と、適切な対応が求められます。
高齢化が進むなか、認知症患者は今後も増え続けることが予想されており、将来のために備えておくことが大切です。

本記事では、認知症の方とその家族がより良い関係を築くために、家族や介護者に求められる姿勢や、症状別の具体的な対応方法、介護者自身のケアの重要性について解説します。

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認知症の方に対応するときの基本

認知症の方と向き合い、適切に対応するためには、認知症の症状やその影響について深く理解することが重要です。まずは、家族に求められる基本姿勢を押さえておきましょう。

関連記事:認知症の方とのコミュニケーションのコツとは?ポイントを押さえて信頼関係を築こう

認知症を理解する

認知症は、さまざまな病気を原因として脳の機能が低下している状態です。おもな症状としては記憶障害、理解力・判断力の低下、見当識障害などがあります。
  • 記憶障害
    最近のことを覚えられない、出来事そのものが記憶から抜け落ちる
    (例:食事をしたことを忘れる、何度も同じ質問を繰り返すなど)

  • 理解力・判断力の低下
    物事の意味や状況を正しく理解し、適切に判断する能力が低下する
    (例:未会計の商品を持ち帰る、信号を無視して道路を渡ろうとするなど)

  • 見当識障害
    時間や場所、相手が誰なのかといった認識が曖昧になる
    (例:自分の家にいるのに「ここはどこ?」と尋ねる、夜中に「朝だから出かける」と言い出すなど)

これらの症状を正しく理解することが、認知症の方に適切に接するための第一歩となります。

家族に求められる基本姿勢

認知症の方と接する際に、家族が意識すべき基本姿勢は以下の3点です。
  • 否定しない
  • 叱らない
  • 放置・無視しない
否定や叱責は認知症の方の自尊心を傷つけるだけでなく、認知症の方が心を閉ざしたり、態度を硬化させたりする原因となります。また、放置や無視は孤独感を与え、認知機能の低下を加速させる恐れがあります。

家族は穏やかな態度で寄り添いながらコミュニケーションを取ることが大切です。認知症の方の言葉や行動に共感しつつ安心感を与えることで、信頼関係を築けます。こうした姿勢は認知症ケアの基盤となり、介護をする方の精神的な負担軽減にもつながるでしょう。

認知症の方との接し方のポイント

 
認知症の方と向き合うときには、相手の気持ちや行動を理解しながら接する姿勢が求められます。認知症の方と接する際に心がけたい基本的なポイントについて見ていきましょう。

共感する

認知症の方とのコミュニケーションでは、相手の気持ちに寄り添うことが大切です。「大変ですね」「つらいですね」といった言葉をかけるようにすれば、不安や戸惑いを和らげることができます。

また、否定的な言葉は避け、「それはおもしろい考えですね」「その気持ちもよくわかります」といった肯定的な声かけを心がけることで、信頼関係を築く助けとなります。相手の自尊心を傷つけないコミュニケーションを意識しましょう。

ペースを合わせる

認知症の方は情報処理能力が低下しているため、急かしたり早口で話したりすると混乱してしまう可能性があります。そのため、あせらせたり遮ったりせず、相手のペースに合わせることが重要です。

ゆっくりと丁寧に話しかけながら、反応を見て会話のスピードや内容を調整するようにしましょう。これは、介護者自身の精神的・身体的負担を軽減することにもなり、より良い介護につながります。

簡潔に話す

認知症の方との会話では、相手の認知機能や聴力の低下に配慮し、具体的で簡潔な言葉を使うことが重要です。長い説明や複雑な内容は認識しづらく、誤解や不安を招きやすいため、短くわかりやすい言葉を選ぶようにしましょう。

例えば、極力「はい」「いいえ」で答えられる質問にすれば、相手の負担が少なく、スムーズなコミュニケーションが可能になります。

スキンシップを図る

認知症の進行によって言葉によるコミュニケーションが難しくなった場合には、非言語的な手段としてスキンシップを図ることが有効です。

スキンシップによる触れ合いには、「オキシトシン」というホルモンの分泌を促し、ストレスを軽減する効果があるといわれています。例えば、笑顔で接したり手を優しく握ったりすることで、不安や孤独感を和らげる効果が期待できるでしょう。

ただし、人によっては触れられることに抵抗を感じる場合もあるため、反応に注意しながら行うことが重要です。

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【6つの症状別】認知症の方への対応方法

認知症の方の行動や心理的な症状は多岐にわたり、家族や介護者が対応に悩むことも少なくありません。本人の安心感を高め、介護者の負担を軽減するためには、症状に応じた適切な対応が必要です。以下では、代表的な症状別に、具体的な対応方法をご紹介します。

同じことを繰り返し聞く

認知症の方は、記憶障害により同じ質問を繰り返すことがありますが、決して責めたり否定したりせず、初めて聞かれたように答えることがポイントです。

重要な情報は目につきやすい場所にメモで貼り出す、カレンダーや予定表を活用するなどの工夫も効果的です。加えて、日課を決めて規則正しい生活リズムを作るのもよいでしょう。

物を盗られた・隠されたと訴える

認知症の方は、記憶障害や混乱から生じる被害妄想から、「物を盗られた」「隠された」と訴えることがあります。このような行動が見られる場合は、否定せず、本人の気持ちに寄り添うことが大切です。

まずは「一緒に探しましょう」と声をかけて安心感を与えましょう。探す過程で話題を変えるなどして気分転換を図るのも有効です。自分が疑われた場合は、第三者が間に入ることで症状が落ち着くでしょう。

どちらの場合においても重要な点は、本人の心情を尊重しつつ、不安感を和らげることです。

関連記事:認知症の妄想はなぜ起こる?妄想の原因と種類・妄想が出現したときの対処法

目的もなく歩き回る・外出しようとする

目的もなく歩き回る、または外出しようとする徘徊行動は、周囲から「無目的」と見える場合がありますが、本人には何らかの理由や動機があることが多いため、配慮した対応が求められます。

否定や制止をすると不安が強まり、行動がエスカレートする可能性があるため、「出かける前にお茶でも飲みましょうか」と気を逸らしたり、一緒に歩いて落ち着かせたりするなどの寄り添った工夫が必要です。

また、徘徊は特に夕方から夜にかけて起こりやすく、安全対策も大切です。万が一の場合に備え、GPS機能付きの靴やキーホルダーを利用する、近隣住民に協力を依頼するなどの対策をしておきましょう。ほかにも、規則正しい生活リズムを作り、日中の活動量を増やすことで夜間にしっかり眠れ、徘徊を減らせる可能性があります。

関連記事:認知症による徘徊はなぜ起こる?徘徊の原因と予防・対応方法

急に怒り出したり、泣き出したりする

認知症の方は、ささいなことで怒り出したり、急に泣き出したりするなど、感情の起伏が激しくなることがあります。その際は、落ち着いた態度で接し、本人の気持ちを受け止めることが重要です。

感情が高ぶっているときには無理に説得しようとせず、いったん時間を置いてから話しかけることで気分が落ち着く場合があります。

介護者が感情的になってしまうと事態は悪化する一方です。常に冷静な対応を心がけ、相手への理解と尊重を示しましょう。

関連記事:認知症の初期症状「怒りっぽい」の原因とは?対策方法とその他初期症状

食事の量や回数が極端に変わる

認知症が進行すると、認知機能の低下や脳の満腹感を調整する機能の障害によって、過食や拒食など食事に関する問題行動が表れます。例えば、食事をしたことを忘れて何度も食べる、反対に食欲が低下してほとんど食べないといった状況です。

食べたことを忘れている場合には、事実をそのまま伝えるのではなく「準備中なので少し待ってください」などと声がけすることで混乱を避けられます。また、規則正しい食事時間を設定し、落ち着いた雰囲気で食事できる環境づくりも重要です。食事が終わった後も、すぐに片づけないことで「ご飯を食べた」と自然に認識してもらえるでしょう。

関連記事:食事をしたのに「ご飯を食べていない」と言われたら?認知症患者への対応方法

排せつの失敗や失禁が増える

排せつトラブルは認知症介護で大きな負担となりますが、まずは怒らず冷静に対応することが重要です。また、本人のプライドを傷つけないよう、「おもらし」などの言葉は避け、「少し濡れてしまったね」というように優しく声をかけることが大切です。

失禁は、トイレの場所をわかりやすく表示したり、定期的にトイレに誘導するスケジュールを設定したりすることで予防できます。衣服や寝具など後始末しやすい環境を整えることで介護者の負担も軽減できますが、無理はせず必要に応じて介護サービスの活用も検討しましょう。

関連記事:認知症による尿失禁はなぜ起こる?原因と6つの予防策を知ろう

家族・介護者のセルフケアも大切

 
認知症の方の介護は精神的・身体的な負担が大きく、介護者自身のケアも重要です。ここでは、介護を続けるうえで心がけたいセルフケアのポイントについて解説します。

一人で抱え込まない

介護は一人で抱え込まず、家族や友人、同じ立場の人々と悩みを共有することが大切です。周囲との交流は孤独感を和らげ、精神的な負担を大きく軽減できます。また、介護はできるだけ家族など複数人で協力し、負担を分散させましょう。

加えて、地域包括支援センターやケアマネジャーといった専門機関・専門家への相談も有効です。介護者が抱える問題に対して具体的なアドバイスや解決策を提供してくれるため、積極的に相談しましょう。

休息を取る

介護者自身の心身の健康維持には定期的な休息が欠かせません。無理をして介護を続けると、「介護うつ」につながる可能性があり、共倒れしてしまうリスクがあります。

しかし休息が取れるように自分で調整することが難しいケースもあるかもしれません。そのような場合には、介護者が一時的に介護から離れられる介護休息(レスパイトケア)サービスを利用するのも一つの方法です。長期的に安定した介護環境を維持するためにも、必要に応じて利用を検討しましょう。

関連記事:レスパイトケアとはどのようなサービス?利用効果や注意点

介護サービスを活用する

介護者の負担を軽減するために、介護サービスは積極的に活用しましょう。デイサービスや訪問介護サービスなどを利用すれば、認知症の方の日常生活支援が行われるだけでなく、介護者自身も自由な時間を確保できます。

要介護認定を受けた場合には、市区町村によって提供されるさまざまなサービスが利用可能となります。公的介護保険だけではなく民間介護保険のサービスも含め、自分に合った選択肢を検討しましょう。

認知症が進行し介護が難しくなった場合は、施設に入所することも選択肢のひとつです。

介護サービスの種類

在宅サービス

  • 訪問介護
  • 福祉用具購入費の支給
  • 通所介護(デイサービス)
  • 住宅改修費の支給
  • 通所リハビリテーション(デイケア)
など
または

施設サービス

  • 特別養護老人ホーム
  • 老人保健施設
  • 療養型病床
など

認知症の方とのコミュニケーションでは、共感を示しながら急かさず対応しよう


認知症の方への対応は、相手の気持ちに寄り添い、共感を示しながら穏やかに接することが大切です。急かしたり叱ったりせず、相手のペースに合わせて簡潔でわかりやすい言葉を使うことで、不安や混乱を軽減できます。

また、より良い介護のためには、介護者自身の心身の健康も重要です。決して無理をせず、周囲へ協力を仰ぐことはもとより、介護サービスや地域の支援も積極的に活用しましょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2025年5月14日

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