認知症の親が結んだ契約は無効にできる?
条件・証明方法と契約トラブルを防ぐ対策


認知症の親が結んだ契約を「無効にしたい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
認知症では、意思能力の低下により思わぬ契約トラブルに巻き込まれるケースがあります。

本記事では、認知症の親が結んだ契約が無効になる条件や具体的な対応方法、トラブルを防ぐ対策についてわかりやすく解説します。

認知症の親が結んだ契約は無効になる?

 
認知症の親が結んだ契約でも、状況によっては無効や取り消しが認められる可能性があります。例えば、次のような契約に当てはまる場合です。
  • 契約時に意思能力が低下していた
  • 訪問販売・電話勧誘で不安を煽られ契約した
  • 費用や解約条件などの重要事項の説明が不十分だった
  • 健康食品を購入するまで帰ってくれなかった
  • 1人では使いきれない量の商品を購入させられた
このような契約を無効・取り消しにする方法を、具体的に確認していきましょう。

認知症の親が結んだ契約を無効にする3つの方法

認知症の親が結んだ契約は、一定の条件を満たせば無効や取り消しが認められる可能性があります。以下では代表的な3つの方法を解説します。

「意思能力」がなければ契約は無効となる

契約が有効と認められるためには、契約時の本人に「意思能力」があることが前提です。
民法では、意思能力がない状態で行われた契約は無効とされています(民法第3条の2)。そのため、契約を結んだ親が認知症のため意思能力が無い状態であれば、契約は無効となります。

認知症であっても、症状が軽度で意思能力があると判断された場合は契約が有効になる可能性がある点は注意が必要です。

クーリング・オフ制度で取り消せる

訪問販売や電話勧誘販売などで契約した場合には、クーリング・オフ制度を利用して契約を解除できる可能性があります。これは消費者保護のために特定商取引法で定められている制度で、訪問販売や電話勧誘販売などの場合、契約書面を受け取った日から8日以内であれば、理由を問わず契約を取り消せる仕組みです。なお、契約を取り消せる期間は取引形態によって異なります。

不安を煽られて契約してしまった場合でも、冷静になってから見直せる点が大きなメリットでしょう。

ただし、すべての契約に適用されるわけではなく、対象外となる取引もあります。また、期間を過ぎると利用できなくなるため、気付いた時点ですぐに対応することが重要です。

消費者契約法で取り消せる

契約時の勧誘方法に問題がある場合は、消費者契約法によって取り消しが認められることがあります。この法律は、消費者と事業者の情報量や交渉力の差を踏まえ、不当な勧誘や不利な契約によるトラブルから消費者を守るための法律です。

例えば、重要な事実を適切に説明しなかった場合や、不安を煽って契約を迫ったケース、契約するまで帰らせないといった強引な勧誘、明らかに過剰な量の商品を購入させられた場合などが該当します。

なお、取り消しには期限があり、追認できる状態になってから原則1年、または契約締結から5年とされています。

「意思能力」とは?認知症の親が結んだ契約が無効になる条件

「意思能力」とは、自分の行為の意味や結果を理解し、判断できる能力を指します。契約を無効とするためには、契約時にこの意思能力がなかったことの証明が必要です。

ただし、認知症であっても常に意思能力がないと判断されるわけではありません。症状が軽度の場合は、内容を理解して契約していると判断されることもあります。また、意思能力の有無は契約ごとに判断される点も重要です。

さらに、認知症は症状に波があるため、契約内容を理解できるときと難しいときが混在します。そのため、契約時の状態によって判断が分かれるケースも多く、トラブルにつながりやすい点に注意が必要です。

「意思能力」の証明方法

 
契約を無効とするためには、「契約した時点で本人に意思能力がなかったこと」を証明する必要があります。しかし、契約時の状態をあとから客観的に示すのは難しく、当事者間で争いになり、裁判に発展するケースも少なくありません。

意思能力の証明方法

意思能力の有無は、さまざまな証拠を基に総合的に判断されます。具体的には、医師の診断書や要介護認定の資料、日常の様子を知る家族や介護職の証言などが参考になるでしょう。契約時のやり取りを記録した録音や録画が残っていれば、それも証拠となり得ます。

複数の資料や証言を組み合わせ、契約当時の状況を具体的に示していくことが重要です。

死後に契約が発覚した場合の対応

契約の存在が本人の死後に発覚することもあります。この場合でも、相続人が契約の無効を主張することは可能です。ただし、本人の状態を直接確認できないため、生前よりも証明の難易度は高くなる傾向があります。

そのため、トラブルを未然に防ぐための備えが重要です。具体的な対策は、「認知症の親の契約トラブルを防ぐ対策」で詳しく解説します。

認知症の方に起こりやすい契約トラブル

 
認知症の方は意思能力や記憶力の低下により、さまざまな契約トラブルに巻き込まれやすい傾向があります。特に、本人が自覚しないまま不利な契約を結んでしまうケースもあり、周囲が気付いたときには問題が大きくなっていることも珍しくありません。

ここでは、実際に起こりやすい代表的なケースを紹介します。

意思能力の低下を狙った訪問販売・電話勧誘のケース

悪質業者は、意思能力が低下している高齢者を狙って勧誘を行うケースがあります。

特に1人暮らしの場合、訪問や電話で何度も会話を重ねるうちに、警戒心が薄れ、相手の話を受け入れてしまいやすくなります。

「今すぐ契約しないと損をする」「このままでは大変なことになる」と不安を煽られることによって冷静な判断が難しくなり、その場の流れで契約してしまうこともあります。考える時間を与えずに、契約を急がせる点も特徴です。

その結果、本人が気付かないうちに不要な契約を結んでしまい、あとから解約や返金をめぐってトラブルに発展することもあります。

高額・複雑な契約で内容を理解できないケース

リフォーム工事や投資商品、不動産契約など、高額で内容が複雑な契約は特に注意が必要です。専門的な用語や仕組みが多く含まれるため、認知症の方にとっては内容を正確に理解することが難しい場合があります。

そのまま十分に理解しないまま手続きを進めてしまうと、契約の条件やリスクを把握できていない状態で合意してしまう可能性もあるでしょう。あとになってから「聞いていた内容と違う」と感じたり、想定以上の費用負担や損失に気付いたりするなど、トラブルにつながるケースも見られます。

家族が気付かないまま契約が進んでしまうケース

認知症による契約トラブルは、家族が気付かないうちに進んでしまう点も大きな問題です。契約したこと自体を忘れてしまったり、被害に遭ったことを知られたくないと考えていたりするケースもあり、発見が遅れがちです。本人が契約内容をうまく説明できないこともあるでしょう。

対応が遅れると解約や返金の交渉に時間や手間がかかるケースも少なくありません。被害額が膨らんでしまう可能性もあります。

認知症の親の契約トラブルを防ぐ対策

認知症の親が契約トラブルに巻き込まれるのを防ぐためには、制度の活用と家族による見守りの両方が重要です。以下では、具体的な対策を解説します。

成年後見制度を利用する

成年後見制度とは、認知症などにより意思能力が不十分な方に代わって、家庭裁判所が選任した成年後見人、または、あらかじめ本人が選んだ任意後見人が財産管理や身上保護を行う制度です。身上保護には、介護・福祉サービスの利用契約や入院手続きなども含まれます。

この制度を利用することで、本人に意思能力がない場合には、成年後見人が契約の無効を主張できる可能性があります。ただし、日常生活に関する買い物などは取り消しの対象とならない点には注意が必要です。

成年後見制度には「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。

法定後見制度

法定後見制度は、本人が自身の判断に不安がある場合に家庭裁判所へ申し立てを行い、後見人を選任する仕組みです。本人の状態に応じて型が「補助」「保佐」「後見」の3つに分かれており、それぞれ同意や取り消しができる範囲、代理できる内容が異なります。

任意後見制度

一方、任意後見制度は、意思能力が十分なうちに、将来に備えて後見人や支援内容をあらかじめ決めておく制度です。本人の希望を反映しやすい点が特徴といえるでしょう。

なお、制度の詳細や活用方法は、下記記事でも詳しく解説しています。
認知症になった親の不動産を売却するには?成年後見制度の活用と注意点

家族で協力してできることを話し合う

制度の利用に加えて、日常生活のなかで家族ができる対策も重要です。例えば、以下のような工夫が考えられます。
  • 契約の場面にはできるだけ家族が同席する
  • 契約に必要な印鑑は家族が管理する
  • 定期的に様子を見に行き、不審な契約や郵便物がないか確認する
  • 認知機能の変化に気付けるよう、こまめにコミュニケーションを取る
  • クーリング・オフ期間内に気付けるよう、週に1回程度は状況を確認する
  • クレジットカードを解約し、プリペイドカードを利用する
ただし、家族が一方的に金銭管理を行うと、本人の自尊心を傷つけてしまう可能性があります。そのため、日常生活用と貯蓄用で口座を分けて、日常生活用の口座のキャッシュカードは本人が管理する、一定額以上の支出は家族に相談するルールを設けるなど、本人の意思を尊重しながら無理のない範囲で見守る工夫も必要です。

また、ルールを忘れてしまわないように、玄関や電話のある場所に「知らない番号や訪問には出ない!」など、メモを貼っておくとよいでしょう。

ご家族と本人が無理なくできる工夫を取り入れながら、日常のなかで見守っていくことが大切です。

認知症の親に契約トラブルが起こりやすい理由と注意点

認知症は徐々に進行するため、「まだ大丈夫」と感じている間にも、重要な意思能力が低下していることがあります。特に、理解できるときと難しいときが混在する時期は注意が必要です。一見問題がないように見えても、場面によっては十分に内容を理解できず、不利な契約を結んでしまう可能性があります。

対策として成年後見制度は有効ですが、柔軟に対応できない場合があることや、法定後見制度の場合は利用開始までに時間がかかることにも留意が必要です。制度を利用していない状態でトラブルが発生するケースも少なくありません。

こうしたリスクを防ぐためには、日常生活における小さな変化に気付くことが大切です。会話の内容や理解力に違和感がないかを定期的に確認し、早めに対応を検討していくことが、契約トラブルの予防につながるでしょう。

認知症の初期症状は、下記の記事でも詳しく解説しています。
軽度認知障害(MCI)とは?初期の認知症の症状・受診のサイン

経済的リスクに備えるなら民間保険も選択肢の一つ

認知症による契約トラブルは、思わぬ支出や損失につながるなど、経済的なリスクもあります。成年後見制度や家族による定期的な確認などで対策をする場合も、費用負担がかさむ可能性があります。こうした負担への対策として、元気なうちから認知症保険や介護保険といった民間保険で備えておくことも有効です。

これらの保険は、認知症と診断された場合や要介護状態になった場合など、所定の要件を満たすと一時金や年金が支払われる仕組みです。

そのため、万が一トラブルが発生した場合でも、一時金や年金を生活費や介護費用などに充てることで、経済的な負担の軽減につながる可能性があります。

公的制度ではまかなえない費用に備えられるため、介護に限らず、日常生活で発生するさまざまな支出への備えとして役立つでしょう。

高齢の親がいる方や、将来の認知症・介護に不安がある場合は、選択肢の一つとして検討してみてください。

認知症保険と介護保険の違いや必要性は、下記記事でも詳しく解説しています。
「認知症保険」と「介護保険」の3つの違い|認知症の特徴や保険の必要性も紹介

事前の対策で、認知症の親の契約トラブルを防ごう


認知症の親が結んだ契約は、契約時の意思能力や勧誘方法などによって有効・無効が判断されます。また、意思能力の有無をあとから証明することは容易ではなく、トラブルに発展するケースも少なくありません。

こうしたリスクに備えるためには、成年後見制度の活用や、家族による日常的な見守りなど、事前の対策が重要です。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

CFP 齋藤 彩

急性期総合病院において薬剤師として勤める中、がん患者さんから「治療費が高くてこれ以上治療を継続できない」と相談を受けたことを機にお金の勉強を開始。ひとりの人を健康とお金の両面からサポートすることを目標にファイナンシャルプランナーとなることを決意。現在は個人の相談業務・執筆活動を行っている。

資格:1級ファイナンシャル・プランニング技能士、CFP(Certified Financial Planner)

公開日:2026年5月22日

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