認知症の方が入浴拒否をする理由
対処法や利用できる介護サービス


認知症の症状がある家族を入浴介助するときに、入浴を拒否されるケースは少なくありません。「入浴に誘うと怒り出してしまう」など、対応に悩む方は多いのではないでしょうか。

認知症の方は、記憶障害や認知機能障害の影響など、さまざまな理由から入浴を拒否することがあります。

本記事では、認知症の方が入浴を拒否する原因や対処法、入浴介助を依頼できる介護サービスを紹介します。

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認知症の方が入浴を拒否する7つの原因

認知症の方が入浴を拒否する背景には、認知症によるさまざまな症状の影響があります。
ここでは、入浴を拒否する理由を7つ解説します。

1.入浴の必要性を理解できない

認知症の方が、入浴の必要性を理解できない理由は、大きく2つに分かれます。

1つ目は「入浴」や「お風呂」といった言葉の意味がわからなくなっているケースです。
失語・言語障害を抱えている場合、障害の特性上、言葉の理解ができません。そのため、本人に説明をしても、意味が伝わらず「一体なにをされるのか」と不安に思い、結果として拒否につながってしまうことがあります。

2つ目は、認知症による記憶障害の影響により、入浴したと思い込んでいるケースです。記憶障害の症状は、入浴した日を思い出せない、自分の衛生状態を客観的に認識できなくなる、などです。

そのため、認知症の本人から「入ったばかりじゃないか」「汚いとはなんだ」などと反発され、入浴を促せないことがあります。

2.入浴の方法を思い出せない

認知症の中核症状の一つである「実行機能障害」は、物事の段取りや計画を効率的に行うことが困難になる障害です。実行機能障害の症状があった場合、入浴の方法が思い出せなくなります。

例えば、入浴する際にも、以下のように複数の工程が必要です。
  • 脱衣所に行く
  • 衣服を脱ぐ
  • 浴室に行く
認知症の方は、今まで当たり前にできていた入浴動作が難しくなります。家族や介護者に対して「できないことを知られたくない」という思いから、入浴を拒否するケースがあります。

3.入浴するのが面倒

入浴することを面倒、大変だと思っている可能性もあります。認知症の方は、記憶障害や実行機能障害の影響で、手順を考えながら動くことが大変な作業だと感じている可能性があるためです。

また、行動を起こすときに踏ん切りがつかないことも認知症の症状の一つです。本音では入浴したいと思っていた場合でも、面倒だという意識が先行し、入浴を躊躇してしまうことがあります。

4.入浴に対して恐怖や不安がある

過去の入浴や入浴介助で嫌な思いをした体験から、入浴を拒否されることがあります。例えば、次のような場面が挙げられます。
  • お湯が顔にかかる
  • お湯が目や耳に入る
  • 浴室で転倒してしまった
  • 入浴を無理強いされた
入浴を拒む理由には、入浴の行為が怖い、介護者に対して不安がある、といった直接的なことだけではありません。浴室や脱衣所が見慣れない環境の場合、認知的な混乱を招き、入浴拒否につながる可能性もあります。

5.入浴を介助してもらうことに抵抗がある

入浴を受け入れたものの、介助を断られてしまうケースです。

一人で入浴が難しい場合、家族や介護職員などによるサポートが必要となります。しかし、介助されることが恥ずかしい、人前で衣服を脱ぐことに抵抗がある、という理由で介助を断られる場合があります。

6.体調が悪いことをうまく伝えられない

認知症の中核症状の一つに「失認」という症状があります。失認とは、五感(視覚・聴覚・臭覚・味覚・触覚)が正常に機能しなくなることです。

失認によって、自分自身の身体の状態を把握する、伝えることが難しくなります。入浴を促されたときに、体調不良をうまく伝えられず、その意思表示として入浴拒否をするケースもあります。

7.入浴する気分ではない

入浴タイミングによっては、本人の気分が乗らず、入浴を拒否することもあります。「今はテレビが見たい」「疲れて動きたくない」など、入浴に興味が向いていない状態です。

ほかにやりたいことがあるタイミングで、無理に入浴を促してしまうと、反発や入浴拒否につながることがあります。

認知症の方の入浴拒否への対処法

入浴拒否をする理由は、認知症の症状や本人の状態によってさまざまです。この章では、入浴拒否への対処法を解説します。

言葉やイラストで「入浴」をわかりやすく説明する

入浴の意味を理解できない方の場合、違う言葉で説明をするなど、まずは「入浴」という意味を理解してもらう必要があります。

例えば、お風呂のイラストを見せる、風呂桶やタオル、石鹸など入浴に使うグッズを見せるなど、視覚的にイメージしてもらうことも効果的です。

入浴の気持ちよさや楽しさを感じてもらう

本人が入浴する必要がない、面倒だと思っている場合、入浴に興味を持ってもらう働きかけが有効です。

例えば、湯気が上がる浴槽を見せながら温かさを感じてもらう、浴槽に手を入れて心地よさを感じてもらう、などです。感覚的に入浴の気持ちよさや楽しさを思い出してもらえるかもしれません。

また、入浴剤を活用することもおすすめです。温泉気分を味わえる入浴剤を活用して「今日は温泉ですよ」と声がけをしましょう。もともと温泉が好きだった方であれば、入浴に興味を持つ可能性があります。

入浴に対してのイメージが良くなれば、入浴に応じてくれる可能性も高まります。

入浴しやすいように環境を整える

浴室や脱衣所など、環境への不安が理由で入浴を拒否している場合、不安を取り除く環境整備が大切です。環境に対する不安は、次の理由が挙げられます。
  • 脱衣所や浴室が寒い
  • 床が滑りやすい
  • つかまれる手すりがない
  • 浴槽を跨ぐのが大変
環境整備は、脱衣所や浴室を温める、手すりや滑り止めマットを設置するなどの方法が有効です。入浴に対する不安を解消できれば、安心して入浴してもらえるでしょう。

ホットタオルや部分浴から入浴に慣れてもらう

水への恐怖心が強い、入浴を頑なに拒否する場合は、無理に入浴させないことも一つの方法です。身体をホットタオルで拭く、部分浴をするなど、少しずつ入浴に慣れてもらいましょう。

入浴を拒否された場合でも、清拭や部分浴は受け入れてもらえる可能性があります。少しずつ入浴の気持ちよさを体感してもらい、入浴へのハードルを下げる工夫を行いましょう。

入浴に対する負担を軽減する

入浴を負担と感じている方の場合、本人とコミュニケーションを取り、入浴を負担だと感じる理由を具体的に把握することが大切です。理由はさまざまですが、例として以下のような理由が考えられます。
  • 着替えの用意
  • 衣服の脱ぎ着
  • 身体を洗うこと
  • 髪を乾かすこと
本人が負担に思うことがわかれば、負担を軽減させるサポートができます。例えば「着替えを用意してありますよ」「髪を乾かすのを手伝いますよ」など、負担を補う声がけを心がけましょう。

すべてを介助せず、できることは本人に任せる

できることを見極めて、本人に任せることも大切です。心配な動作があった場合でも、すぐに手伝うと自尊心を傷付けてしまう可能性があります。

例えば、衣服の着脱や頭を洗う、身体を洗うなど、時間がかかっても本人ができそうであれば見守るサポートを行いましょう。

本人だけで対処が難しい動作は、手伝うことを声かけしてから介助に入るとスムーズです。

認知症の方の入浴拒否に対して避けたほうが良い対応

入浴拒否をされた場合に、対処した内容によっては入浴拒否が進むリスクがあるため、注意が必要です。この章では、入浴拒否に対して避けたほうが良い対応を解説します。

本人の気持ちを無視して無理に入浴させる

本人の気持ちを無視して無理に入浴させることは、極力避けましょう。清潔を保つために入浴をする必要はあるものの、叱ることや無理に入浴させる行為は、入浴への不安や恐怖につながり、ますます入浴拒否が進んでしまう可能性があります。

本人とコミュニケーションを取り、入浴を拒む理由を明確にしたうえで、適切な対応を心がけましょう。

本人の気持ちや要求を聞きすぎてまったく入浴をしない

本人の意思を尊重するあまり、入浴を促すことを諦めてしまうこともあるでしょう。しかし、十分な入浴ができていない場合、衛生状態が悪化して健康を害するリスクが高まるため、根気よく声かけをする必要があります。

入浴を拒否する理由を、普段の会話や観察などから読み取り、本人が気持ちよく入浴できるよう適切なサポートを行いましょう。本人にとって、最も良い状態を考えてケアすることが重要です。

認知症の方の入浴介助に活用できる介護サービス

「入浴を拒否される」「浴室が狭くて介助できない」など、自宅で入浴が難しい場合は、介護サービスを利用することも選択肢の一つです。

入浴には以下のような介護サービスが活用できます。
  • デイサービス
  • ショートステイ
  • 訪問入浴介護 など

デイサービス

デイサービスは、日常生活のサポートが必要な方が、食事やレクリエーション、入浴をするなど、日中を安全に過ごすための介護サービスです。

一般的な浴室に加えて、チェアー浴やリフト浴、ストレッチャー浴などの設備を整えている施設もあります。身体の状態に合わせてサポートができる体制が整っています。

ショートステイ

ショートステイとは、自宅介護が一時的に難しくなった際に、期間限定で老人ホームや介護施設に入所する介護サービスです。デイサービス同様に、身体状況に合わせた入浴介助を依頼できます。

訪問入浴介護

訪問入浴介護とは、自宅に訪問し専用の簡易浴槽を使って入浴をサポートする介護サービスです。基本的には、看護職員1名以上、介護職員2名以上で自宅に訪問します。自宅の浴室の環境では入浴が困難であったり、デイサービスなどの通いサービスの利用が難しかったりする場合などに活用されています。

介護サービスの活用は、転倒などの事故防止だけでなく、介護者の負担軽減にもつながります。また、入浴介助スタッフは入浴拒否への心得があるため、入浴拒否に悩む家族の力になってくれるでしょう。

入浴拒否の原因を理解して本人に寄り添う対応を心がけよう


入浴拒否の原因は、本人の性格や認知症状によってさまざまです。本人が気持ちよく入浴できるよう、声かけや浴室環境を工夫するなど、入浴拒否の原因に合わせたサポートが大切です。

とはいえ、入浴拒否が続いて入浴ができていない場合、本人の衛生状態が悪化し、健康を害するリスクが高まります。また、サポートする家族も疲弊してしまう恐れがあるため、負担が大きい場合は無理をせず、介護サービスの活用を検討しましょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年5月31日

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