認知症の進行を遅らせる「作業療法」とは?
効果がある理由やプログラム


「認知症を患った高齢の親がいる」「自分が将来認知症にかかったとき子どもに負担をかけたくない」などのように、認知症に関する悩みを抱えている方も多いのではないでしょうか。

認知症を完治させる治療法は現時点では発見されていないものの、作業療法によって進行を遅らせることはできる可能性があります。

作業療法は日常生活にかかわる活動を軸とした治療を施し、「その人らしい」生活を送れるようにサポートすることが目的です。

この記事では認知症における作業療法がどのようなものであるかを紹介するとともに、作業療法が求められる理由やその療法のポイントなどを解説します。

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認知症に効果的な「作業療法」とは?

認知症の進行を遅らせるためには無理のないリハビリが重要だといわれます。リハビリに効果的であるとされる「作業療法」とは、どのような治療法なのか解説します。

「薬物療法」と「非薬物療法」

これまで大きな進歩を遂げてきた現代の医学をもってしても、なお認知症の完治は困難です。そのため認知症にかかったら、認知機能をできる限り維持しながら機能低下の進行を遅らせるための治療が行なわれます。

認知症の治療法は、薬を用いる「薬物療法」と薬を使わない「非薬物療法」の2つに分けることが可能です。薬物療法では症状そのものに作用する認知機能改善薬(抗認知症薬)のほか、認知症がもたらすストレスや不安を和らげるため、睡眠導入剤・抗不安薬などを処方するケースもあります。

非薬物治療はリハビリなどを通じて脳を刺激することによって認知機能を維持することを目的としており、作業療法もこちらに含まれます。

2つの治療法はどちらが良い・悪いということではなく、患者本人の状態に応じて適切に組み合わせるのが基本です。

「その人らしい」生活を作っていく作業療法

認知症において非薬物療法の代表格といえるものが作業療法です。作業療法とは食事・入浴・家事・着替え・趣味など、日常生活に関係する活動(作業)にフォーカスした治療や援助のことをいいます。精神障害や身体障害を負う人の治療に幅広く取り入れられており、認知症の治療にも一定の効果があると考えられている治療法です。

認知機能や身体機能が徐々に失われていくなか、自分でできることに一生懸命取り組みながら社会とのつながりを感じることにより、「その人らしい」生活が送れるようサポートする治療法が作業療法といえるでしょう。

作業療法で維持・改善を目指す3つの能力

作業療法では、次に挙げる3つの能力を維持・改善するものとされています。
  1. 基本的動作能力:運動能力、感覚や知覚のレベル、心肺機能、認知機能など
  2. 応用的動作能力:日常生活を送るうえで必要な活動を実施する能力
  3. 社会的適応能力:地域活動や就労などに適応する能力
人が生活するには①が必要なのはもちろん、②や③によって社会とのつながりを持つことも欠かせません。上記3つの能力の維持・改善を図り、「その人らしい」生活を実現するのが作業療法の目的です。

認知症に作業療法が効果的な理由

なぜ認知症治療において作業療法が効果的とされているのでしょうか。おもな理由を3つ解説します。

生活密着型ゆえ自然に取り組めるから

作業療法では、日常生活にかかわる活動に必要な能力(応用的動作能力)を取り戻すことも目的の一つです。

認知症を発症すると徐々に自分でできることが減っていくために、自信を失ったり心を痛めたりするケースが多く見られます。長年普通に暮らしてきた経験やプライドがあるので、自分にできない内容を試されたり、治療されたりすることへの抵抗感も強いでしょう。

作業療法では新たに何かを覚えることではなく、本人が今までやってきたことやすでにある能力を活用するので、取り組む際の心理的なハードルは低くなります。日常生活に密着した内容であるため、いかにも「治療」といった形ではなく自然に取り組めることが大きなメリットです。治療に対して強い抵抗感がある認知症患者にも向いています。

作業療法を通して日常生活における活動・能力を回復できれば、自信の回復や精神の安定につながるため、本人だけでなく家族や周囲の人にもプラスの効果が見込めるでしょう。

他人や社会とのつながりにより生きがいを見いだせるから

認知症になるとこれまで当たり前にできていたことができなくなり、ただでさえ精神状態が不安定になりやすいものです。そのような精神状態をさらに悪化させてしまうのが孤独です。

作業療法では、他人と日常的にコミュニケーションを取る機会が増え、社会とのつながりが生まれることもあるでしょう。人とつながり、人から必要とされている感覚が、認知症の方にとっての生きがいにつながることが期待できます。

自分でできる喜びを感じられるから

作業療法は日常生活にかかわる活動を念頭に置いて行なわれるため、取り組む本人にとっても作業の目的が明確です。「この作業に取り組めば、日常のこうした動作ができるようになる」という具合に、取り組んだ先に生活が充実するイメージが見えます。

結果として日常生活の自由度が上がり、作業が自分でできる喜びを強く感じられるようになるでしょう。目的が明確で達成する喜びを得やすいことから、自主的な継続が見込めるのも作業療法が認知症治療に向いているとされるポイントです。

認知症の作業療法における代表的なプログラム事例

作業療法は具体的にどのような形で進められるのでしょうか。認知症における代表的なプログラム事例を3つ紹介します。

運動療法

運動療法の目的は基本的動作能力の一つである身体機能や運動能力を維持・改善し、生活の質の向上を図ることです。筋肉量の維持や関節機能・動作の改善へとつながる適度な運動を行ないます。

有酸素運動やストレッチといった自分自身で取り組むプログラムもあれば、他人が身体を動かすものまでメニューはさまざまです。

また、椅子に座りながら取り組めるプログラムもあり、個人の身体機能に合わせて日常生活のなかで気軽に取り入れることができます。

プログラムを続けることで日常の動作がスムーズにできるようになれば、効果を実感でき自信の回復につながるでしょう。

認知刺激療法

認知刺激療法では、他人との会話やクリエイティブな活動、何かに触れて温度を感じるといった身体的体験が行なわれます。

具体的には塗り絵、習字、音楽鑑賞や絵画鑑賞のようなアートに触れることが一般的です。このような体験を通じ五感を刺激することで、脳の活性化をうながすのが目的です。

認知刺激療法を治療に取り入れると、脳の機能の活性化や認知機能の維持・改善に対して効果が期待できます。治療といいながら、会話や創作活動自体に楽しく取り組める点が特徴です。

回想法

認知症にかかると一気にさまざまな物事を忘れてしまうのではなく、記憶には忘れる順番があるといわれています。そのなかで比較的忘れにくいとされるのが遠い過去の体験に関する記憶です。

回想法は、記憶している過去の体験やエピソードをほかの人に共有してもらうことで、脳に刺激を与える治療法です。漫然と共有をうながすのではなく、会話のきっかけとなるような写真や思い出の品などのアイテムを用意しておくと本人の記憶を引き出しやすくなります。

話を聞くことさえできれば誰でも相手ができるという手軽さから、近年注目を浴びている治療法です。

作業療法の国家資格「作業療法士」

作業療法の専門職として位置づけられる国家資格が「作業療法士」です。作業療法士の役割は「その人らしい」作業ができるよう、日常生活に関するあらゆる作業を通して患者をサポートすることです。

精神障害や身体障害を抱えている方からケガや病気で身体に不自由が生じた方まで、幅広く支援しています。

作業療法における「作業」は日常生活のなかで行なうあらゆる行為が該当します。それだけに、目的や成果をはっきりさせないまま、何となく作業療法を実施していても治療の効果は期待できません。

作業療法士は物理的なサポートに加え、プログラムの内容や進め方なども専門家の見地から検討します。作業療法士のサポートを受け、プログラムや目的を明確にした治療を実施することで高い効果を期待できるでしょう。

作業療法における3つのポイント

認知症の治療に対して作業療法を取り入れる際は、次の3つのポイントを意識しましょう。

(1)本人のモチベーションを第一にして強要しない

治療を効果的に進めるために何よりも大切なのは、本人がモチベーションを保って自発的に実践することです。

周囲が本人に対して作業療法を強要してしまうと「治療を受けさせられている」という否定的な感情に陥ってしまい、むしろ本人のやる気や積極性をそいでしまう可能性があります。

無理に取り組ませた結果、脳の疲れやストレスが蓄積して、かえって認知機能や精神状態に悪い影響をおよぼすリスクもあるでしょう。

あくまでも本人の意欲や自尊心に配慮しながら、自発的に実践してくれるまで辛抱強く待つ姿勢も大切です。

(2)期待しすぎず本人のペースで進める

認知症は現代の医療技術をもってしても完治は難しく、作業療法も現段階では認知症自体を治す効果があるとは認められていません。

効果があると聞き期待して取り組んだものの、残念ながら症状が進行し自分でできることが減ってしまうケースもあります。

周囲が過度な期待をかけておきながらできなかったとき、本人のプライドを大きく傷つけてしまいかねません。本人の意思とペースを尊重しながら治療を進め、小さなことでもできた喜びや楽しみを感じてもらうことが大切です。成功体験の積み重ねが本人のモチベーションアップにもつながります。

(3)作業療法士などの専門家に相談しながら実践する

作業療法は家族がサポートしながら日常的に実践するというのも一つのやり方です。ただ、家族だけで解決しようとすると、行き詰まったときに本人も家族もストレスを抱えてしまう危険性があります。

家族の不安を取り除いて本人が意欲的に取り組める環境を整えるには、作業療法士やその他の専門職、介護サービスを受けている事業所などに相談するのも有効です。専門家の力を借りつつ日常生活のなかから作業療法を実践することで、患者本人・家族双方のQOL(Quality of Life:生活の質)向上につながるでしょう。

認知症になっても「その人らしい」生き方を送ろう


認知症治療には「薬物療法」と「非薬物療法」があります。作業療法は非薬物療法の代表的なもので、日常生活のあらゆる行為(作業)を通して「その人らしい」生活が送れるようサポートを行ないます。

効果的に継続するには本人のモチベーションが何より大切なので、周囲は治療を強要せず、本人のペースを粘り強く見守る姿勢で取り組みましょう。

家族だけで悩むのではなく、国家資格である作業療法士などの専門家に相談しながら実践すると安心感が得られるほか、より高い効果を期待できます。

 
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社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2023年12月26日

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