認知症のケアに用いられる「回想法」とは
期待される効果や注意点


認知症のケアに用いられる「回想法」について、「どのような方法なのか」「どういった効果が期待できるのか」と気になっている方も多いでしょう。

回想法とは、昔の写真や生活用品などに触れながら、本人に過去の経験や思い出を語ってもらう方法です。認知症を発症した方へのアプローチの一つとして用いられ、精神的な安定やコミュニケーションの促進、生活の質(QOL)の向上などの効果が期待されています。

この記事では、回想法の概要や期待される効果、具体的な方法について解説します。実施する際の注意点も紹介するので、認知症の方とのコミュニケーションや日々のケアに取り入れたい方は、ぜひ参考にしてください。

認知症ケアに用いられる「回想法」とは

 
回想法とは、昔の写真や音楽、懐かしい品物などを手がかりに、本人に過去の体験や思い出を語ってもらう心理療法の一種です。認知症の方の非薬物的なケアにも用いられており、1対1で行う「個人回想法」と、複数人で思い出を語り合う「グループ回想法」があります。

回想法はアメリカの精神科医であるロバート・バトラーが1960年代に提唱し、その後、高齢者福祉や介護の現場などでも活用されるようになりました。

認知症の方は、最近の出来事を思い出しにくくなっても、子ども時代や若い頃など、昔の記憶が比較的保たれているケースがあります。回想法では、ケアを通じて認知症の方に過去の記憶を思い出してもらい、他者と共有することで、心理的な安定やコミュニケーションの促進などを図ります。

回想法の4つの効果

 
回想法には、認知症の方の精神面やコミュニケーション面などにおいて、さまざまな効果が期待されています。ここでは、回想法によって期待される4つの効果を解説します。

①精神的な安定につながる

昔の出来事や楽しかった思い出を振り返り、誰かに話すことで孤独感や不安がやわらぎます。また、自分の経験や思いを相手に受けとめてもらうことで、安心感や満足感を得られる場合もあります。

会話をきっかけに、認知症の方の気持ちが落ち着くケースは少なくありません。これにより、うつ症状の予防や改善につながる可能性があると考えられています。

②自己肯定感や自信の回復が期待できる

自分の経験や思い出を語り、それを相手に受けとめてもらう体験は、自己肯定感や自尊心の向上につながる場合があります。

また、これまでの人生で経験してきたことや果たしてきた役割を振り返ることは、自分らしさや自身の価値を再確認するきっかけにもなります。このようなプロセスの積み重ねが、失いかけていた自信を取り戻すことにつながる可能性もあるでしょう。

③コミュニケーションが生まれやすくなる

昔の出来事や思い出についてゆっくり話す機会を設けることは、認知症の方の発言を引き出し、コミュニケーションの促進につながる場合があります。特にグループで回想法を行う場合、同世代の方と共通する思い出や経験を語り合うことにより、自然な会話や交流が生まれやすくなるでしょう。

また、回想法には、家族間のコミュニケーションが円滑になるメリットもあります。認知症の方がこれまで歩んできた人生や大切にしてきた価値観などを家族が知ることで本人への理解が深まり、その後のかかわり方やケアに活かせるケースもあるでしょう。

④認知機能の維持や認知症の進行抑制が期待できる

昔の出来事を思い出し、それを言葉にして伝える行為は、脳の血流を増やすことにつながると考えられています。これにより脳が活性化し、認知機能の維持や認知症の進行抑制が期待できることも、回想法の効果の一つです。

ただし、回想法は認知症の進行を止めたり、記憶力を確実に改善したりするものではありません。あくまでも認知症の方の認知機能維持に向けた支援の一つです。

回想法を始める前の3つのステップ

回想法では、認知症の方が安心して思い出を語れるよう、事前に準備をしておくことが重要です。以下では、回想法を始める前に行いたい準備を3つのステップに分けて解説します。

【ステップ1】参加者の背景を把握する

回想法を行う前に、参加者の家族、職業、生い立ち、趣味などを把握しておきます。特に、聞き手と参加者の世代が異なる場合は、参加者が生きてきた時代の出来事や文化、流行などを調べておくと、思い出を引き出すきっかけを作りやすくなるでしょう。

把握しておくとよい情報の例は、以下のとおりです。

生年月日、出身地、家族構成、学歴、職歴、性格、趣味、こだわり、病歴、認知症の状態や症状、視力や聴力、過去の体験(うれしかったこと、ショックだったこと)など

さらに、本人の気持ちに配慮し、家族や周囲の人から情報を得ながら避けたほうがよい話題を確認しておくことも大切です。

また、事前に得た個人情報や回想法のなかで語られた内容は、プライバシーにかかわる事柄が含まれることがあります。本人の許可なく第三者に伝えないなど、情報の取り扱いにも十分配慮しましょう。

【ステップ2】思い出につながるテーマや品物を準備する

次に、本人が昔の出来事を思い出しやすくなるよう、写真や音楽、懐かしい品物などを準備します。何が思い出につながるかは人によって異なるため、ステップ1で把握した情報を参考にしながら、複数の品物やテーマを準備しておくとよいでしょう。

例えば、以下のようなものがあります。

カテゴリ

具体例

品物

写真、手紙、昔流行した歌謡曲のレコード、生活用品やおもちゃ(衣類、そろばん、駄菓子、けん玉、お手玉など)、季節の花、旬の食べ物など

テーマ

家族旅行、子どもの頃の遊び、友人、学生時代、仕事、結婚、夏の過ごし方、朝ごはんなど

【ステップ3】話しやすい環境を作る

回想法を実践する際は、参加者がリラックスして思い出を語れるよう、静かで落ち着いた環境を整えましょう。

1対1で行う場合は、居室など本人にとってなじみがあり、安全で落ち着いて過ごせる場所が適しています。グループで行う場合は、リビングや公園なども選択肢となります。

できるだけ同じ場所や時間帯に継続して行うと、本人が活動を認識しやすくなり、安心して参加することにつながるでしょう。また、本人の緊張感をやわらげるため、お茶やお菓子を用意して、なごやかな雰囲気を作るのもおすすめです。ただし、飲食物を用意する場合は、本人の嚥下機能や食事制限などを確認し、安全に配慮しましょう。

「個人回想法」と「グループ回想法」の実践方法

回想法には、1対1で行う「個人回想法」と、複数人で行う「グループ回想法」があります。ここでは、それぞれの特徴や基本的な進め方を紹介します。

個人回想法

個人回想法は、聞き手と本人が1対1で行う手法です。本人の人生や思い出にじっくりと耳を傾けられる点が特徴です。

話の進め方としては、何気ない日常会話から始める方法のほか、用意しておいた品物やテーマをもとに話を聞く方法があります。いずれにしても、聞き手に求められるのは、相手とじっくり向き合い、語りに耳を傾ける姿勢です。

個人回想法は、基本的に週1回行います。1回1時間程度を目安に、4回から10回を1クールとして実施するとよいでしょう。基本的な流れは、以下のとおりです。

流れ

内容

    導入

天気や季節など、本人が話しやすい身近な話題から会話を始める

    語り合い

テーマや品物をきっかけに、思い出を語ってもらう

    傾聴

話をさえぎらずに聞き、共感する

    まとめ

語られた内容を一緒に振り返り、本人が前向きな気持ちで終えられるようにする

グループ回想法

グループ回想法は、一般的に10人前後のグループで昔の出来事や思い出を語り合う手法です。

グループ回想法では、懐かしい品物や共通のテーマなどをきっかけに、一人ひとりの思い出を語ってもらいます。ほかの参加者の話を聞くことで認知症の方の記憶が呼び起こされ、会話が広がるケースも少なくありません。また、思い出の共有により参加者同士の交流が深まることが期待されるほか、介護者も日頃のコミュニケーションやケアに活かせるようになるでしょう。

グループ回想法は、週1回または月2回、1回につき1時間程度を目安とし、8回から10回以上を1クールとして行います。基本的な流れは、以下のとおりです。

流れ

内容

    導入

共通のテーマを提示し、会話を始める

    語り合い

誰もが会話に参加できるよう話題を提供し、思い出を語ってもらう

    傾聴

参加者の話をよく聞き、共感しながら話題を広げる

    まとめ

語られた内容を振り返り、温かい雰囲気で終えられるようにする

回想法を行う際に知っておきたい注意点

回想法を行う際は、本人が安心して思い出を語れるように配慮することが大切です。また、先述した個人情報の取り扱いやプライバシーへの配慮にも十分注意しましょう。

以下では、かかわり方を誤って逆効果になってしまわないように押さえておきたい注意点を解説します。

話を否定せずに最後まで受けとめる

回想法では、思い出の内容が正しいかどうかを確認することよりも、参加者が自分の経験や気持ちを安心して語れる環境作りが大切です。そのため、参加者の話に事実と異なる部分があっても、否定や訂正はせず、最後まで耳を傾ける姿勢が欠かせません。

聞き手は参加者の気持ちに寄り添うことを優先し、信頼関係の構築を心がけましょう。

無理せずに前向きな雰囲気を大切にする

回想の途中で参加者が話したくなさそうな様子を見せた場合は、無理に話を続けてもらう必要はありません。例えば戦争や震災、つらい経験など、参加者が触れられたくない話題は無理に取り上げないようにしましょう。

また、ほかの参加者から反論や否定的な反応があった場合は、聞き手が間に入ってフォローし、話した人が責められたり不快な思いをしたりしないよう配慮することが大切です。一人ひとりの気持ちやペースを尊重し、誰もが安心して参加できる雰囲気作りを心がけましょう。

心地よい余韻が残るように終える

回想法では、参加者が穏やかで前向きな気持ちで終われるよう、楽しい話題などで締めくくることが大切です。途中で疲れた様子が見られた場合は無理に続けず、区切りのよいところで終了しても問題ありません。

終了時には、思い出を話してくれたことや参加してくれたことへの感謝を伝え、次も参加したいと思えるように締めくくりましょう。会の終わりに参加者が好む音楽を流したり、お茶を飲んだりするなど、なごやかな雰囲気を作るのも一つの方法です。

参加者の心に「楽しかった」という余韻が残ることで、終了後にリラックスした気持ちになり、また「話したい」と思ってもらえるでしょう。

回想法を通して「その人らしさ」を取り戻そう


回想法は昔の出来事や思い出を語ってもらい、本人の気持ちやこれまでの人生に寄り添うケアの一つで、認知症の方への心理療法としても用いられています。回想法を実施すると、認知症の方の精神の安定やコミュニケーション促進などの効果が期待できます。

回想法を行う際は、本人の生活歴や趣味、触れられたくない話題などをあらかじめ把握するとともに、安心して話せる環境を整えることが大切です。また、話の内容を否定したり、無理に思い出してもらったりせず、本人の気持ちやペースを尊重して耳を傾けましょう。

思い出を語ってもらうことは、認知症の方がこれまで歩んできた人生や大切にしてきたものを知る機会にもつながります。回想法を通して認知症の方への理解を深め、「その人らしさ」を尊重したケアにつなげていきましょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

菊池 大和[医師]

医療法人ONEきくち総合診療クリニック理事長・院長。地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、活動が評価され2024年11月にTIMEアジア版に掲載される。

資格:日本慢性期医療協会総合診療認定医・日本医師会認定健康スポーツ医・認知症サポート医・身体障害者福祉法指定医(呼吸器)・厚生労働省初期臨床研修指導医・神奈川県難病指定医 など

公開日:2026年9月16日

介護について知る

介護を予防する

介護について考える

公的制度・支援サービス

介護の費用

介護が始まったら

認知症について知る

認知症とは

認知症の予防

もの忘れ・認知症の専門家の
特別コンテンツ

生活習慣病について知る

生活習慣病とは

生活習慣病の予防

老後の備え方

年代別アドバイス