認知症の余命に影響する要素とは?
末期を迎えるまでにできること


年齢を重ねるごとに、認知症に対する不安を感じる機会は多くなるでしょう。特に、高齢で認知症を発症した場合、その後の余命はどの程度なのか、気になる方も多いのではないでしょうか。

認知症の余命には、病型(種類)や年齢といったさまざまな要素が影響するため、患者によって個人差があります。認知症への理解を深めて、自身で行える対策を考えるとよいでしょう。

この記事では、認知症を発症した場合の余命や、余命を左右する要素などを紹介します。また、末期を迎えるまでにできることも解説するので、認知症への備えを考えている方はぜひ参考にしてください。

認知症の余命(生存年数)はどれくらい?

認知症の発症は、その後の余命にどのような影響があるのでしょうか。ここでは、認知症の余命や、死因として考えられるものを解説します。

認知症の余命は5年~12年

認知症の余命に関しては多くの専門機関が研究しており、研究結果も多様です。生存期間に関連のある研究によれば、認知症の余命はおおむね5年~12年とされています。ただし、認知症の余命にはさまざまな要素が関係しているため、患者によって実際の余命は異なることを理解しておきましょう。

診断からの10年生存率においては、病型によっても違いが見受けられます。アルツハイマー型認知症は18.9%、血管性認知症は13.2%、混合型は10.4%、レビー小体型認知症は2.2% 程度といわれています。

出典:J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2009[PMID:18977814]

また、認知症のなかには、高齢者ではなく若い人でも症状が出現する「若年性認知症」があるのをご存じでしょうか。
若年性認知症のなかでも、若年性アルツハイマー型認知症の平均余命は10年~15年 といわれており、いくつか病型のある若年性認知症のなかでは長いほうだとされています。ただし、個人差が大きいためあくまでも参考として念頭に置いておくとよいでしょう。

死因として考えられるもの

認知症を発症したとしても、直接的な死因とされることはほとんどなく、認知機能や身体機能の低下による合併症状が死因に大きく関係しています。実際に認知症の死因として多いのは、衰弱死や肺炎といわれています。

認知機能が低下すると、寝たきり状態になったり食欲の低下から衰弱したりします。また、嚥下機能の低下によって、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性も高まる傾向です。

ほかにも、転倒などの事故が死因につながるケースもあることを理解しておきましょう。

認知症の余命を左右する要素とは

認知症の余命を左右する要素はさまざまですが、特に関連のある要素としては「年齢」「進行速度」「性別」が関係していると考えられます。

年齢を重ねるにつれて、認知症の発症からの余命は短くなるといわれています。その理由として考えられるのは、加齢とともに免疫機能や身体機能など、あらゆる機能が低下することです。機能低下にともない、感染症や肺炎を引き起こすリスクが高まることから、一層の注意が必要となるでしょう。

また、アルツハイマー型認知症のように進行が緩やかなタイプの認知症は、進行の速い認知症よりも余命が長い傾向があります。一方で、進行の速いレビー小体型認知症は、余命が短いといわれています。

性別に関しては、明確に根拠が示されているわけではありません。しかし、多くの研究データでは、男性のほうが余命は短いと指摘しています。早期対策のためにも、これらの要素を念頭に置き、不安を感じたら早めに受診することが大切です。

認知症の末期に見られる症状

認知症の末期を迎えると、さまざまな症状が見られるようになります。症状が重くなるほど苦痛になる可能性があるため、症状に応じて適切に対応することが大切です。ここでは、認知症末期を迎えた際に見られる症状や、対応方法などを解説します。

食欲不振

認知症が進行することで、食欲不振の症状が見受けられるようになります。その原因として挙げられるのは、中核症状、合併症、嚥下機能の低下です。

「今までできていたことができなくなった」、「場所や日時がわからない」など、破壊された脳細胞が担ってきた役割が損なわれることで起こる症状を「中核症状」といいます。

中核症状が出現するようになると、食べ物を箸で取り、口に運ぶといった一連の動作ができなくなることで食欲不振につながっている可能性があります。

また、食べ物を飲み込めず舌苔ができてしまうこともあるため、口腔ケアを念入りに行なうことが大切です。

免疫機能や体力が低下している場合は、肺炎や腎盂腎炎などの感染症を引き起こす可能性があります。合併症による食欲不振は、感染症を治療することで改善できるケースもあるため、原因を見極めることが大切です。

嚥下機能が低下すると、誤嚥しやすい状態になったり、経口摂取が難しくなったりします。

また、肺炎などの急性期にも、嚥下機能にかかわっている筋肉が萎縮するケースがあるため注意が必要です。低下した機能の程度や進行具合に応じたケアを行なうことが大切になります。

寝たきりによる褥瘡(じょくそう)

認知症が終末期に進行すると、ほとんど寝たきり状態になります。褥瘡は、体重で圧迫されている場所の血流が停滞して、皮膚がただれたり傷ができたりする症状です。

また、皮膚が弱くなっているときや栄養状態が悪いときは、より褥瘡をともないやすくなるため注意が必要です。

臨死期が迫るほど循環不全などが引き起こされやすくなり、褥瘡を生じる確率も増加傾向にあります。この際の褥瘡ケアでは、苦痛に対する緩和ケアが選択されることが一般的です。

コミュニケーション不足

認知症末期になると、記憶がなくなったり失語状態になったりすることで、コミュニケーションが不足し孤独を感じるようになります。

話しかけても反応しなくなることはありますが、こちらの会話を聞き取れているケースもあるため、コミュニケーションを欠かさないようにすることが大切です。また、否定的な内容の会話は避けるのが賢明です。

会話が難しい状態の場合は、身振り手振りや表情など、非言語コミュニケーションを交えながら会話するとよいでしょう。

認知症の末期を迎える前にできること

認知症の末期を迎える頃には、症状が深刻化して自身では対応しきれないことが増えるかもしれません。ここでは、認知症の症状が深刻化する前にできることを解説します。

介護施設への入所を検討する

認知症の介護は、症状が進行するごとに対応しなければならない範囲が広がるため、介護者の負担も大きくなることが予想されます。介護を継続するのが難しいと判断した場合は、介護施設への入所も検討するとよいでしょう。

介護施設に入所することで、患者本人は社会とのつながりを持てるようになります。また、介護側の負担を軽減できるメリットがあるのです。

一方で、介護施設に入所すると、余命が短くなるといった話を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。

介護施設に入所すると、環境の変化や服薬の調整によって一時的に症状が悪化する可能性が考えられます。時間の経過によって症状は落ち着くため、余命への影響は心配しなくてもよいでしょう。

アドバンス・ケア・プランニングを実施する

認知症の症状が深刻化する前に、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の実施を検討してみてはいかがでしょうか。

アドバンス・ケア・プランニングとは

アドバンス・ケア・プランニングとは、認知症患者の希望を聞いて、終末期介護や医療について話し合うことです。意思疎通が困難になる前に、受けたい医療やその理由を医療チームと共有することで、包括的なケアの実現に貢献します。

アドバンス・ケア・プランニングを行なう際は、「最期はどうなるのか」ではなく「どのように最期を迎えたいか」を前向きに話し合うことが大切です。患者と家族の意向を尊重し、納得のいく終末期の迎え方について話し合うとよいでしょう。

アドバンス・ケア・プランニングのメリットとデメリット

アドバンス・ケア・プランニングの実施によって得られるメリットは、患者本人の自律性の向上です。患者自身の決断を家族や医療チームに共有することで、自身が決断したことに責任を持つことが期待されます。

患者本人の希望を関係者全員が共有することでコミュニケーションが良好になり、患者本人や家族の満足度が高まることも期待できるでしょう。

一方で、アドバンス・ケア・プランニングを実施することは、患者や家族にとって辛い経験になることが懸念される側面もあります。実施するタイミングが難しいことや、時間と手間を要することを考慮した場合、実施することがデメリットになる可能性もあるでしょう。

これらを踏まえると、すべての患者に適用するのは難しいかもしれませんが、望まない医療の回避にも貢献します。全員が納得のいく終末期を迎えるためにも、アドバンス・ケア・プランニングを取り入れてみてはいかがでしょうか。

認知機能が低下する前に備えておく

認知症の進行によって症状が深刻化すると、自力で生活するのが難しくなります。介護を要する生活となれば、医療費のほかに介護費用も捻出しなければなりません。

公益財団法人生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査2021年度」 によれば、2021年における介護にかかる月額費用は平均で8万3,000円であることがわかります。
40歳を迎えるタイミングで公的介護保険に加入 することになりますが、公的制度だけではカバーしきれない可能性があります。十分な介護を受けるためにも、民間の保険への加入も検討し、将来に備えておくとよいでしょう。

認知症の余命を考慮して自身にできる対策を講じよう


認知症を発症した場合の余命は、おおむね5年~12年であることがわかりました。年齢、進行速度、性別などが余命に大きく関わっていますが、個人差があることも念頭に置いて経過を見守ることが大切です。

認知症が進行して末期を迎えると、介護を要するケースが多くなり、症状によっては家族による介護の継続が困難になるかもしれません。

症状が深刻化すると、自身の希望を周囲に伝えられなくなる可能性が高まります。望まない介護や医療を回避するためにも、末期を迎える前に備えておくことが大切です。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年11月10日

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