昼夜逆転によって夜眠れなくなるため夜中に行動し始め、自宅内や外で徘徊に至ります。こうした行動は、昼夜逆転の原因となるだけでなく、転倒や交通事故のリスクを非常に高めるため注意しなければなりません。
認知症には中核症状(認知機能の低下)とそれに伴い引き起こされるBPSD(行動・心理症状)があり、BPSDの中に「興奮」の症状が含まれています。認知症者は認知機能の低下で興奮しやすく、夜間に大声を出すなどの行動が現れます。
連日にわたり興奮症状や大声を出す行動が見られると、介護者も精神的に追い詰められ、近所に影響が出ることもあります。
せん妄とは、脳の障害によって起こる軽度の意識障害のことです。せん妄では時間や場所、人の認識の障害をはじめ、幻覚症状、気分の障害が生じます。一時的に、興奮症状や混乱した様子が見られます。せん妄の原因は明確になっていませんが、昼夜逆転による心身のストレスが一つの原因になると考えられています。また、アルコールの過剰摂取や薬の副作用で起こる場合もあります。
ここからは昼夜逆転の原因を解説します。昼夜逆転は、さまざまな原因が絡み合い引き起こされています。昼夜逆転を改善するためには、一つ一つ原因を取り除く必要があります。原因を把握し、昼夜逆転の治療方法につなげましょう。
認知症になると、体内時計を調節する機能が低下する「概日リズム睡眠障害」を起こします。体内時計の機能低下は、日中の活動量低下や夜間せん妄、見当識障害などが原因です。
実際の時間と体内時計に時間のズレが生じるため、日中と夜間の区別が付きにくくなります。屋内にいることが日常的になると、窓から日差しが差し込んでいても「もう夜だね」といった発言が見られる場合があります。そうすると昼に寝て夜に活動をする完全な昼夜逆転となってしまうのです。
認知症の症状に「抑うつ」があります。活動に対する意欲が低下するため、日中の活動量が低下してしまうのです。日中の活動量が低下すると、体内時計の基になる「メラトニン」が含まれた日光の刺激が入らなくなります。それにより、体内時計が乱れ昼夜逆転の1つの原因となり、昼間に寝てしまう現象が起きます。そうすると、日中の活動量がさらに低下し、体内時計もさらに乱れる「悪循環」に陥ります。
また、日中の活動量低下は、疲労感がなくなるため夜ぐっすり眠れなくなるデメリットもあります。
見当識障害とは、時間や場所、人の認識に障害が起こることです。昼夜逆転に影響を及ぼすのは時間と場所の認識です。時間の見当識で障害が生じると、夜にも関わらず昼だと勘違いして行動する原因となります。また、場所の見当識で障害が生じると、自宅に居るにも関わらず別の場所にいると勘違いし、自宅に帰ろうと「徘徊」してしまいます。
夜間は脳機能が低下しているため、せん妄を生じやすい状態です。暗闇の環境による不安感や昼夜逆転による睡眠障害、内服薬の副作用が影響して夜間せん妄が起こります。他にも、水分不足や体内にある電解質(ナトリウムやカリウム)のバランスも原因となる場合があります。特に認知症者では、水分不足や電解質バランスの乱れが起こりやすいため、普段から注意しておかなければいけません。
認知症の症状の一つに夕暮れ症候群や帰宅願望があります。新しい環境にいる場合や、見当識障害で場所の認識を誤っている場合に生じ、漠然とした不安感を覚えてしまいます。それにより夜眠れなくなり、眠れても浅い睡眠となってしまいます。
痛みや不快感は眠りの妨げになります。みなさんも身体に異常をきたし、痛みや不快感がある場合は寝つきが悪くなるでしょう。認知症者も同様に、痛みや不快感があると眠れなくなり昼夜逆転の原因になる場合があります。認知症者は痛みや不快感を、自ら訴えることが少ないです。普段と比べて様子に違いがないかをチェックする必要があります。解決できない痛みや不快感である場合や原因がわからない場合は、病院を受診して医師に診てもらいましょう。