認知症による徘徊はなぜ起こる?徘徊の原因と予防・対応方法


認知症によって起こる症状の一つに徘徊があります。本人はもちろん、介護する周囲も悩ませる認知症の徘徊には、どう対処すればよいのでしょうか?

認知症の徘徊を理解するには、徘徊の原因や本人への対応方法を知っておくことが大切です。また、徘徊を予防するため、事前に準備できる対策もあります。

この記事では、認知症による徘徊の背景にある原因を押さえながら、本人への対応方法を紹介します。また、徘徊が予測される場合にあらかじめ準備しておきたいポイントと、実際に徘徊が起きて行方不明になった場合の対処法も解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

認知症による徘徊とは

はじめに、認知症による徘徊とはどのようなものかを解説します。

徘徊は認知症の周辺症状の一つ

徘徊とは認知症の方に表れる周辺症状の一つで、昼夜問わず、屋内や屋外を当てもなくうろうろ歩き回っているように見える行動を指します。

特に家の外に出てしまう徘徊は、行方不明になったり、事故やケガの原因になったりすることもあり危険です。例えば、車や電車などによる交通事故に巻き込まれる、徘徊中に熱中症や低体温症などの病気になる、などの例があります。

また、夜間の徘徊は、本人だけでなく介護者にとっても負担が大きいため、何らかの対策が必要です。

行方不明になるケースもある

認知症による徘徊は、そのまま行方不明になってしまうケースもあり、社会問題化しています。

警察庁生活安全局人身安全・少年課が発表している令和4年のデータでは、行方不明者のうち18,709名が認知症又はその疑いによるものを原因としています。
認知症による行方不明者は近年増加傾向にあり、発見されてもケガをしていたり、命にかかわる状況になっていたりする場合があります。また、保護されても身元がわからず、行方不明者として介護施設や病院などで過ごしているケースも見られます。

このような状況を防ぐためにも、認知症による徘徊への対策は急務です。

認知症による徘徊が起こる背景

徘徊は抑止しようとすればするほど、本人は出かけようとしてしまいます。まずは徘徊が起こる背景について、解説します。

徘徊の背景には理由がある

認知症による徘徊は、周りから見ると当てもなく歩き回っているように見えるかもしれません。しかし、背景には本人なりの理由が隠れているものです。

例えば、子供の頃に住んでいた家に帰ろうと思い、歩いているうちに道がわからなくなり、そのうち目的も忘れて歩き続けてしまう、ということがあります。この場合は、「家に帰ろう」という気持ちが徘徊のきっかけであると、周囲が理解することが大切です。

徘徊の背景として多い理由

認知症の徘徊でよく見られる背景としては、次のようなものがあります。

身体的な違和感

「おなかが痛いのでトイレに行きたい」「おなかがすいたから食べる物を探そう」などのように、排泄や空腹、のどが渇いたなどの身体的な理由がきっかけとなり、徘徊が始まるケースがあります。

この場合は、日頃から健康観察をしっかり行ない、排泄をうながす・飲食に目配りすることで落ち着いてくる場合があります。

習慣の再現

「出勤時間になったから会社に行く」「夕方になったから子供のお迎えに行く」など、過去の習慣を再現しようとして外出してしまう場合があります。

本人は普段どおりの生活をしているつもりなので、「もう定年退職しているでしょう?」などと事実を突きつけて否定しては逆効果です。

「今日、会社はお休みですよ」「まだお子さんのお迎えには早いですよ」などと話を合わせて、落ち着けるようにすることが大切です。

不安やストレス、不満

認知症の方は、これまでできていたことができなくなっていくことで、「自分はどうなってしまったのか」と自信をなくしていきます。そのような不安やストレスも、徘徊が起こるきっかけの一つです。

また、介護者の対応や、環境の変化による不満・不信が徘徊のきっかけになるケースも見られます。

このような徘徊は、認知症による認知機能障害にストレスが重なった場合に起きると見られているので、本人の負担になっていることがないか注意してみましょう。

記憶障害

家族の顔が認識できず、知らない人だと思って外に出たり、持ち物の置き場所を忘れてしまい、探して家の中や外を歩き回ったりするケースは、記憶障害がベースにあります。

そのほか、「慣れた場所でも道に迷ってしまう」「どう行動すればいいかわからず、混乱してとにかく外に出ようとしてしまう」といった行動例もあります。

前頭側頭型認知症の症状

認知症のなかの「前頭側頭型認知症」である場合は、同じパターンの行動を繰り返す症状が見られます。このタイプの認知症は、脳全体が萎縮する一般的な認知症とは進行が異なり、前頭葉・側頭葉に萎縮が見られるのが特徴です。繰り返し行動以外にも、人目を気にしなくなったり、感情的になったりするなどの症状が起こりえます。

「家の中を一周してベッドに戻る」「家の周りを決まったコースで一周する」などの行動が見られたり、衝動性が高まって徘徊につながったりするケースもあります。

以上が徘徊のおもな理由となりますが、徘徊が持続すると前述のように重大な事故に発展する可能性があります。困ったときは医師に相談しましょう。

徘徊が見られる場合の対応法

徘徊が始まった場合、どのようなかかわり方や声かけをすればよいのでしょうか。ここでは、徘徊が見られた場合の本人への対応法をまとめました。

責めない・怒らない

認知症の徘徊による介護者の苦労は大変なものです。しかし、徘徊する人に対して、感情的に責めたり怒ったりしないことが大切です。

認知機能が衰えている認知症の方は、怒られている内容がわからなかったり、怒られたこと自体を忘れてしまったりする一方で、怒られたことによる不快な感情だけは残ることがあります。

嫌な感情が残り、介護者への不信感が募ると徘徊をエスカレートさせてしまうこともあるので、注意してください。

気をそらすようにする

徘徊の気配を察したり、徘徊している人をみかけたりした場合は、話しかけてほかのことに気をそらす方法がおすすめです。

例えば、今にも外に出て行きそうなときに、「トイレに行ってからにしましょうか」「お茶を入れたので飲んでいきませんか?」などと気持ちをそらす声かけをしてみると、出かけようとしたこと自体を忘れて、徘徊を防止できることがあります。

理由を聞いてみる

徘徊には本人なりの理由があります。なぜ徘徊をするのか聞いてみると、会話から徘徊のヒントがみつかり、解決につながる可能性があります。

例えば、外に行こうとする理由を「家に帰るため」と言った場合は、今の環境に不満や不安があるのかもしれません。原因がわかれば、引き金になっている要因を取り除くといった対策がとれます。

拘束しない

拘束するなどして徘徊を無理やり止めようとすると、感情的になったり、逃げ出そうとしたりする状況を招くことがあり、かえって逆効果です。

まずは、本人の安全を確保しましょう。そのうえで、介護者が付き添える環境のもとで自由に動けるようにすると、本人も落ち着き、徘徊が緩和することもあります。

徘徊を予防するための対策

ここからは、徘徊を事前に防ぐための対策方法を解説します。

生活面でできる対策

何もやることがなく、話し相手もいないような環境だと、「ここは自分の居場所ではない」と感じ、「家に帰ろう」「外に行ってみよう」という気持ちになりやすいでしょう。

まずは見守りをするなかで、次のような対策をしてみてください。
  • 仕事や趣味、役割を持つ
    簡単な手作業や充実感が得られる役割などを与え、本人にできることをやってもらうようにします。趣味の活動でもよいでしょう。本人の自己肯定感を育むことが「自分の居場所」作りに役立ちます。
  • 外出などの運動を日課にする
    一日中、同じ場所で過ごすのはつらいものです。適度な運動でエネルギーを発散させ、充実感・疲労感を味わってもらうことで、外出衝動を抑えられることもあります。
  • 規則正しい生活リズムを作る
    脱水や体の痛みで夜に眠れないなど、生活のリズムが崩れてしまうと、徘徊につながることがあります。そのような場合は、まず体の状態を改善し、日々の生活リズムを整えることで気持ちが落ち着いてくるかもしれません。

徘徊のタイミングをキャッチする対策

家の外に出てしまう前に、家族・介護者が徘徊に気付ける工夫をしましょう。
  • 玄関にセンサーを付ける
    外出にいち早く気付けます。
  • ドアベルを付ける
    センサーと同じく、外出の気付きにつながります。
  • 玄関に本人が興味を持ちそうな物を置いておく
    玄関に花や絵画、鏡など本人が興味を持ちそうな物を置いて気をそらすことで、徘徊を回避できたり、家の外に出るまでの時間稼ぎになったりします。

行方不明になった際に役立つ対策

徘徊して行方不明になってしまった場合を想定して、事前に以下のような対策をしておくと役立ちます。
  • 連絡先や本人の氏名などがわかるようにしておく
    連絡先や氏名を書いた紙を財布などに入れたり、名札にして服に縫い付けたりしておくと、身元がわかるため早期発見につながりやすくなります。
  • GPSを利用する
    位置情報を確認できるGPSを利用するのも効果的です。GPSに対応した携帯を首からさげたり、端末を靴に付けたりするなどの対策を、日頃からしておくとよいかもしれません。
  • 顔写真を用意する
    顔写真など日頃の姿を撮影した写真があると、捜索の際に役立ちます。また、当日の服装も重要な情報であるため、毎朝服装を写真に撮っておくのもおすすめです。

地域との連携に関する対策

自治体が中心になり、認知症の方の徘徊に対応する「徘徊・見守りSOSネットワーク」という制度があります。徘徊が心配な場合は、地域包括支援センターや警察、自治体などの窓口にあらかじめ登録しておきましょう。

担当ケアマネージャーや介護事業所などとも日頃から連絡を密にし、本人が行きそうなお店や駅などを把握しておくと、いざというときに協力をお願いできます。

徘徊が起きて行方不明になってしまったら?

十分に注意していても、徘徊は起きてしまうことがあります。認知症の方の行方不明は事故などによる命の危険があるため、徘徊で行方不明になってしまった場合は以下のような対処を至急行なってください。

躊躇せず警察に連絡を!

まずは、迅速に警察に届け出ることが重要です。「家族の問題だから」「他人に迷惑をかける」などと躊躇しているうちに、徘徊している人は遠くに行ってしまいます。

少しでも早く連絡したほうが捜索範囲は狭く済み、発見できる可能性も高まります。

近所にも協力を仰ぐ

一人で、または家族だけで探そうとせず、近所にも協力をお願いしましょう。本人が立ち寄りそうな場所があれば、そこから探します。

「徘徊・見守りSOSネットワーク」を活用する

先ほど紹介した「徘徊・見守りSOSネットワーク」を活用することも重要です。担当ケアマネージャーや地域包括支援センター、介護事業所などにも連絡し、捜索のコツなどのアドバイスを受けながら、早期に探し出せるように努めましょう。

知症の徘徊の原因を理解し対処法や予防法を知っておこう


認知症の徘徊は命の危険もあり、家族や介護者は日頃から気を張って過ごさなければなりません。

しかし、徘徊の背景や対処法を知っておくことで負担を減らすことは可能です。結果として、介護による共倒れや虐待などといった不幸な事例を防ぐことにもつながるでしょう。

認知症の徘徊は、ご自身やご家族だけで悩まず、ケアマネージャーや介護事業所といった専門職の手も借りながら、対処法や予防法を試すのも有効です。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年10月2日

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