認知症の症状<異食症>~認知症による異食とは?理由や対策方法について~

認知症の症状の1つである「異食症」。目の前にある食べ物以外のものを口に入れてしまい、対応に困っているのではないでしょうか。本記事では、異食してしまう理由や対策方法を解説します。異食は命の危険を脅かす可能性があるため、十分な対策をとりましょう。

異食とは

異食とは、食べ物以外のものを食べてしまうことを言います。認知症のBPSD(行動・心理症状)の1つで、中核症状(認知機能の低下)に伴って引き起こされます。ティッシュや消しゴム、植物など何でも口に入れてしまうのが特徴です。たばこやカギなど、中には非常に危険なものもあります。認知症者が異食しないよう、自身で注意することは困難なため、介護側が注意しなければなりません。

異食の理由

異食は、認知症の中核症状に起因しています。そこに空腹状態や不安、ストレスなどの心理症状が加わり異食が起こってしまうのです。では、詳しい異食の理由を見ていきましょう。

認知症の中核症状

認知症の中核症状の中でも、理解力・判断力の低下や失認、記憶障害が大きく関わっています。失認とは、視覚に異常は見られないのにも関わらず、対象を認識できないことです。

例えば、目の前に消しゴムがあったとします。私たちは、消しゴムを見れば「鉛筆で書いたものを消す道具で食べ物ではない」と認識できます。しかし、失認や記憶障害を起こしていると、消しゴムがどのような物で、食べ物なのかそうではないのかの区別ができません。結果、異食をしてしまうのです。

食べ物だと誤認している

認知機能の低下によって食べ物とそれ以外のものを誤認していることが一つの原因です。口に入れると食べ物ではないと気づきそうだと思う方もいるでしょう。しかし、認知症では味覚や嗅覚などの感覚が低下し、口に入れても食べ物ではないことに気づかず、飲み込んでしまうのです。他にも、認知症を発症するのが高齢者に多く、感覚機能の低下が起こっていたり、認知症の症状の一つである「注意機能の低下」で対象物に注意が向いていなかったりすることも原因として挙げられます。

食事をしていると認識している

食べ物だと誤認している場合、本人にとっては単に食事をしている認識です。また、普段食事を摂っている場所に座ることで「食事の時間」だと勘違いしている可能性があります。異食のリスクを下げるために、食事を摂る場所に座らなければならない場合は仕事や趣味を与えるようにしましょう。

空腹である

単純に空腹の場合もあれば、認知症によって満腹中枢の機能が低下したことが原因となり、空腹に感じている場合もあります。認知症では満腹中枢に対して刺激が入りづらいため、いくら食べても空腹に感じる現象が見られます。「まだご飯食べてないよね」といった症状は、記憶障害だけでなく満腹中枢の機能が低下していることも原因にあるのです。

このような空腹状態で、そのうえ食べ物と他のものの区別がつかない症状が加わると、異食してしまいます。

不安・ストレス・体調不良など

異食症の一種で、精神疾患の症状に氷をバリバリ食べたり土を食べたりするものがあります。これらは精神的なダメージやストレスを、食べることで解消しているのです。同様に、認知症で現れる異食症でも、食べることで不安やストレスを解消している場合があります。

異食をした時の対応方法

異食をしてしまったときは、基本的に緊急対応を取りましょう。危険物でなくとも健康を害するおそれがあります。病院を受診して医師に診てもらいましょう。また、本人に対しての接し方として、怒らないようにしてください。


危険物の場合は緊急対応を

危険物の場合でも、そうでない場合でも基本的に緊急対応が必要です。しかし、危険物の場合は特に早い対応が求められます。すぐに救急車を呼び、喉に詰まっている場合は待っている間に「腹部突き上げ法」や「背部叩打法」を行います。腹部突き上げ法を優先して行い、次に背部叩打法を行ってください。

「腹部突き上げ法」
1. 立たせた状態で背後に回り、へそあたりに手を回す
2. 片方の手は握り拳を作りもう片方の手で包む
3. 両方の手で斜め上方に向かって突き上げる

「背部叩打法」
1. 背後に回り、本人を少し前かがみにさせる
2. 肩甲骨の間あたりを手のひらで何度も強く叩く

腹部突き上げ法や背部叩打法で異物を吐き出せなければ、窒息を防ぐために本人を横向きにして寝かせましょう。意識を失わないよう声かけも重要です。

また、異食した瞬間を見つけた際は、すぐに口の中を確認します。本人は食べ物を食べているつもりのため、口を開けようとすれば拒否される場合があります。そこで怒ってしまうと反対に開けなくなるため、近くにあるお菓子や食べ物を用意して「これ食べてみて」などと声かけをするとよいです。口の中を確認して、異物がある場合は手袋を装着してすぐに取り除きましょう。
※参考:日本医師会「救急蘇生法

怒らない

異食に対しての対応が終わった後、本人を怒ってはいけません。本人によっては単に食事をしたつもりであり、怒られれば否定された気持ちになります。また、ストレスが蓄積して症状の悪化にもつながります。強い口調や言葉遣いはせず、優しく注意喚起の範囲で留めることが大切です。そのうえで、もう一度異食しないように環境の整備などの対策を行うことが大切です。

異食への対策方法

異食への対策方法は次の5つです。

● 環境を整える
● 食事の回数を増やす
● 生活リズムを整える
● ストレスを取り除く
● 専門家・医師に相談する

異食は直接的に健康を害すおそれがあり、介護側にとって非常に神経がすり減る症状です。しかし、常に目を見張っておくわけにはいきません。そのため、生活の中で行える対策を実践し、少しでも異食行動の減少を目指しましょう。

環境を整える

異食行動が見られる認知症者の周囲には、物を置かないようにしましょう。万が一、目を離している間に食べ物以外のものを食べると、身体に異常を起こす可能性があります。また、収納しておいても開けてしまい口に入れてしまうことが考えられます。異食すると生命に関わるようなものは特に、開けられないようにしたり手の届かない場所に置いたりしましょう。

他にも、以下の点に注意して環境を整えましょう。

● 落ち着ける空間になっているか:なじみのある家具の有無や音の響きやすさなど
● 寝具が本人に合っているか:枕や布団の柔らかさ、枕の高さなど
● 不安や混乱を招くような物を置いていないか:消化器など
● 物が散乱していないか:物の散乱によって動線を妨害したりしていないかなど
● 照明の明るさは適切か:明るすぎたり暗すぎたりしないかの確認

これらは、認知症者の精神状態を安定させ異食を抑えるために行います。

食事の回数を増やす

満腹中枢の機能低下による空腹感や、食事を摂ったこと自体を忘れてしまうことが原因で異食が起こっている場合、食事の回数を増やすと改善できる可能性があります。基本的に、一日の食事量は増やさず小分けにしましょう。
それでも改善が見られない場合は、医師に相談して一日の摂取カロリーを見直してみるとよいです。食事量を増やしても問題ないと判断されれば、一日の食事量を増やし、異食症が改善されるか観察してみましょう。

生活リズムを整える

食事をする時間を一定にすると「食事はした」という感覚が生まれやすいです。食事の後に行うルーティンを決めると、さらに食事に対する満足感が得られます。おすすめは、食事の後に必ず歯磨きをすることです。理由は、認知症を発症する前も普段行っていた内容で、習慣化しやすいからです。また、口の中の清潔さは認知症の進行予防に効果があるとされています。異食防止のために、まずは1週間程度実践してみてください。

ストレスを取り除く

認知症の方は、認知機能の低下でストレスを蓄積しやすい状態です。日々のストレスが症状の悪化につながります。

ストレスを取り除くには、コミュニケーションや環境の整備、相手を尊重し味方になることが重要です。理解しやすい言葉を使ったコミュニケーションで、どのようなことがストレスになっているかを聞きましょう。その後は、原因や相手のニーズに応じて可能な範囲で対応をとります。本人の中でストレスが漠然としていて明確でない場合も、傾聴することで緩和される場合も多いです。相手のペースに合わせて話を聞き、安心感を与えましょう。


専門家・医師に相談する

異食する原因がわからない場合や、対応に困っている場合は専門家に相談してください。できれば、かかりつけの医師や担当のケアマネージャーが望ましいです。認知症者の状態を把握しているため、具体的なアドバイスを得られます。介護者一人で解決するのは困難です。専門家を頼りながら異食へ対処していきましょう。

認知症の症状「異食」への対策を

認知症の症状の一つである異食は、直接的に健康を害すおそれのある危険な症状です。異食は認知機能の低下が原因となり引き起こされているため、認知症者自身でコントロールすることが困難になります。本記事でご紹介した対策方法を実践し、異食の改善を目指しましょう。

村上友太〔医師〕

医師、医学博士。福島県立医科大学医学部卒業。福島県立医科大学脳神経外科学講座助教として基礎・臨床研究、教育、臨床業務に従事。現在、東京予防クリニックで勤務。
脳神経外科専門医、脳卒中専門医、神経内視鏡技術認定医、抗加齢医学会専門医。
日本内科学会、日本認知症学会などの各会員。

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