見当識障害では、時間・場所・人の認識に障害が生じます。障害が生じる順番としては「時間→場所→人」になります。それぞれの見当識障害について一つずつ詳しく見ていきましょう。
時間の見当識で障害が生じると、日にちや時間、季節の認識にズレが生じます。現在の日にちや時間がわからないため、質問をしても「推測」で回答するか「わからない」と回答することが特徴です。時間の認識ができないと、自身の年齢もわからなくなります。また、季節の認識にズレが生じると「夏にもかかわらず厚着をして出かける」のように、季節感のない服装をして外出しようとする様子が見られます。
場所の見当識が障害されると、今居る場所がわからなくなります。認知症が進行することで、馴染みのある場所でも迷子になる場合があります。例えば、「自宅内のトイレの場所がわからない」「いつも食事を摂っている場所がわからない」のような状態が起こります。
場所の見当識は、徘徊の直接的な原因になります。「いつもの場所に買い物に行くだけ」と外出すると、自分が今居る場所や自宅のある場所がわからなくなり、うろうろと歩き回る状態に陥ります。
人の見当識は、見当識の中で最後に生じます。人の見当識が障害された状態は、認知症がかなり進行した状態と言えるでしょう。親しい友人、家族(配偶者や子どもなど)の顔がわからなくなり、実際に会っても別の人の名前を呼ぶ場合があります。
また、自身に配偶者や子どもがいること自体を忘れたり、家族と頻繁に会っているにもかかわらず消息が思い出せなかったりします。反対に、子供がいない場合でも初めて会った人に対して「私の子どもだよね」と発言し、存在しない架空の人物が作り出される場合もあります。場所と人の見当識障害が重なり合い、存在しない人物に会いに行こうとする行動も見られるため注意しなければいけません。
ここでは、すべての認知症で生じやすい「時間の見当識障害」と「場所の見当識障害」への対応方法をご紹介します。
時間の見当識障害に対しては次の3つで対応しましょう。
● いつでも時間を確認できる環境を整える
● 行動を無理に引き止めない
● 失敗を責めない
それぞれ詳しく見ていきます。
見当識障害を改善することは困難なため、補う方法として時間や日付を確認する習慣を付けましょう。
● 大きめのカレンダーを壁や机、トイレのドアなどに貼る
● デジタル時計を自宅内の各所に置く
意識しなくても時間や日付を確認できるようにすると、習慣化しやすくなります。アナログ時計ではなく、デジタル時計を置く理由として、認知症者は時計を読むことが難しくなるためです。デジタル時計であれば一目で時間がわかるため時間を認識しやすいのです。
時間の見当識障害で、夜に外出しようとする行動が見られる場合があります。そのとき、無理に引き止めないようにしましょう。本人の考えを傾聴し、受容することが大切です。傾聴した後、自宅から出ないように促すとよいです。どうしても外出したい訴えがある場合は、少しの間一緒に歩いてみましょう。目的が達成されて落ち着きを取り戻したところで、帰宅を促してみてください。
例えば、約束をしていたのにもかかわらず、その時間を過ぎても責めないようにしましょう。約束を破ろうとしたわけではなく、時間の認識にずれが生じているために起こっています。失敗を許容して、相手の自尊心が傷つかないように注意が必要です。
また、認知症者は理解力が低下しているため、こちらは優しく声かけをしたと思っていても認知症者にとっては「責められた」と認識する場合があります。「約束は守らないとダメだよ」「どうしてそんなこともできないの」「また失敗したの?」など、相手を否定する言葉遣いは認知症者に対して禁忌です。相手に共感するような声かけを意識しましょう。
場所の見当識障害に対しては次の3つで対応しましょう。
● 一目でわかる案内を自宅内に作る
● 「家に帰りたい」と話すときは傾聴する
● 安心できる環境を整える
それぞれ詳しく見ていきます。