80代の認知症は進行が早い?進行の原因や遅らせるためにできることを解説


高齢の家族が認知症を発症した場合、認知症の進行も早いのではないかと不安になるかもしれません。しかし、認知症の進行を早める要因を避け、適切な対処をすることで、80代の認知症でも進行を遅らせることができます。

この記事では、認知症はどのように進むのか、症状を進行させる要因と遅らせる方法について解説します。認知症の進行について悩んでいる場合は、ぜひ参考にしてください。

80代では5人に1人が認知症。80代の認知症は進行が早い?

2019年の厚生労働省の調査 によると、80代では5人に1人以上が認知症であるとされています。少し細かく見てみると、認知症の割合は80代前半では男性20.0%、女性24.0%ですが、80代後半になると男性35.6%、女性48.5%と大きく増加します。

※出典:厚生労働省『令和元年 認知症施策の総合的な推進について』

この結果を見て、「やはり、80代は認知症の進行が早いのでは?」と思われたかもしれませんが、必ずしもそうではありません。認知症の進行は、認知症のタイプによって異なります。また、患者さんの日常生活からも影響を受けるため、進行の早さには個人差があります

そのため、80代の認知症であっても、認知症の進行を早める要因を避け、進行を遅らせる対策をすることが大切なのです。

認知症の進行段階は大きく分けて4つ

まず、認知症はどのように進行していくのかを解説します。認知症の進行は、前兆・初期・中期・末期の4段階に分けられ、それぞれ次のような症状や特徴があります。

前兆

認知症の前兆段階は、「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれます。認知症の一歩手前の状態であり、もの忘れに近い記憶障害があるものの、日常生活への支障はほとんどありません。
また、MCIの状態であっても必ず認知症に進行するというわけではなく、その状態がずっと続くことや改善することもあります。

初期

初期段階では、直前の出来事を忘れて何度も質問したり、曜日や日付がわからなかったり、といった記憶障害が目立ちます。また、判断力が低下するため、仕事や家事などが難しくなる場合があります。できないことが増えていくことで意欲が低下し、無気力になったり、趣味に興味が湧かなくなったりするのも特徴です。

中期

中期段階になってくると、より記憶障害が深刻化します。例えば、食後に食べたこと自体を忘れたり、自分が今いる場所がわからなくなったりします。自立した生活が困難になってくるため、周囲のサポートが必要です。

末期

末期段階になると、記憶障害が目立たなくなる一方で認識力が著しく低下するため、コミュニケーションが困難になります。例えば、相手が誰であるかわからなかったり、会話の内容を理解できなかったりします。また、失禁や嚥下障害、歩行障害なども見られます。寝たきりになる場合もあり、より手厚い介護が必要です。

<種類別>認知症はどのように進行するのか

認知症の進行の仕方や速さは、認知症のタイプによっても異なります。ここでは、認知症の種類別におもな進行の仕方と速さを解説します。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳が小さく萎縮していくことで症状が現れる認知症です。症状はゆっくり進行し、8年~10年ほどをかけて徐々に悪化します。初期のもの忘れが軽症なほど、症状の進行がゆるやかな傾向があります。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳梗塞や脳出血といった脳の血管障害によって起きる認知症です。そのため、脳の血管障害が起こるたびに症状が進行します。進行具合は損害された血管の位置によって大きく異なり、少しずつしか進行しないこともあれば、一気に進行することもあります。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体といわれる異常なタンパク質の塊が脳の大脳皮質や脳幹に蓄積されることで脳神経細胞が破壊され、症状が引き起こされると考えられている認知症です。認知機能の障害以外にも、幻視やパーキンソン症状といったさまざまな症状が出ます。

レビー小体型認知症の進行具合は人によってさまざまで、時間や日によって症状の出方に大きく波があります。そのため、進行度合いを把握しづらいですが、進行速度はアルツハイマー型と比較すると早く、初期から末期の状態まで10年未満といわれています。

前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の萎縮により症状が出る認知症です。記憶への影響は少なく、人格の変化や行動障害、運動障害といった特徴的な症状が見られます。

発症から平均6~8年で寝たきりの状態になるといわれています。症状の表れ方は人によって異なり、誤嚥や呼吸にかかわる筋肉の麻痺といった症状がある場合には寿命に大きく影響することもあります。

認知症の進行を早めてしまう要因とは

認知症の進行は、患者さんの過ごす環境からも影響を受けます。ここでは、認知症の進行を早めてしまう要因について解説します。

生活習慣の乱れ

睡眠不足や栄養バランスの乱れなど、生活習慣が乱れると、高血圧などの生活習慣病を発症しやすくなります。生活習慣病は血流を悪くし、脳細胞の壊死を進行させるため、認知症の進行にもつながります

無理のない範囲で、栄養バランスの取れた食事と規則正しい生活を送るように心がけましょう。

ストレス

ストレスは、認知症の進行に大きく影響することがわかっています。ストレスによって脳の血流が悪くなり、脳細胞が壊死するためです。

本人が認知症を自覚することで落ち込み、日常的にストレスを抱えてしまうこともあるでしょう。そのようなときは、家族が一緒に散歩するなど、日常のなかで気分転換やリラックスにつながる場面を作っておくのがおすすめです。

また、パートナーや友人を失うなどの大きな変化が強いストレスとなり、認知症が一気に進んでしまうこともあります。避けられない突然の出来事が起きた際には、本人の心が落ち着くまで静かに見守るのが大切です。

脳への刺激の減少

脳への刺激となるコミュニケーションや考える機会が減ると、脳の活動量が低下し、認知症が進行しやすくなります。

例えば、もの忘れを家族から強く指摘されて落ち込み、会話を控えるようになるケースがあります。また、ちょっとしたケガをきっかけに、患者さんができることまで家族がサポートしてしまう、といったことも考える機会を減らしてしまうので注意が必要です。

家族や介護者から積極的に話しかけ、コミュニケーションを取るようにしましょう。また、できることは患者さんが自ら行なうようにして、過度なサポートは避けましょう

認知症の進行を遅らせるためにできること

ここでは、自宅でできる認知症の進行を遅らせるための方法を解説します。

自宅でできるとはいえ、悩んだり難しく感じたりすることもあるかもしれません。専門家や介護施設などの周囲の手も借りながら、介護者にとって無理のない範囲で取り入れてみてください。デイサービスなど、施設で行なわれているリハビリのプログラムを利用するのもおすすめす。

脳のトレーニング

まず取り入れたいのは、パズルやクイズといった脳のトレーニングです。ゲーム感覚で楽しみながら取り組める一方で、考えることにより脳への刺激を増やせます。

また、定期的にトレーニングを実施して考えることを習慣化すると、より効果的です。脳の血流が良くなり、脳細胞の壊死による認知症の進行を遅らせることにつながります。

適度な運動

適度な運動は血流をよくするため、認知症の進行を遅らせることにつながります。ラジオ体操やストレッチ、散歩など、自宅で気軽に始められる簡単な運動から取り入れてみましょう。週に2回以上、1回あたり30分以上の運動が効果的といわれています。

ただし、無理な運動や運動のしすぎは、ケガや心不全のリスクにつながるため避けましょう。患者さんの体力や体調に合わせ、無理のない範囲で運動を続けることが大切です。

規則正しい生活

規則正しい生活習慣は、生活習慣病の予防につながるだけでなく、自律神経が正常化するため認知機能の向上を期待できます

認知症の症状として睡眠障害や神経障害がある場合、生活習慣を正すのはなかなか難しいことかと思います。少しずつ、できる範囲で良いので、生活習慣を正していきましょう。

また、生活習慣の改善にあたって、どこから取り組めば良いのか、改善されているのかよくわからない、といった悩みや不安もあると思います。そのようなときは専門家への相談や、生活習慣の改善を目的とした機器やアプリをうまく利用しながら取り組むのがおすすめです。

無理せずできることから進行を遅らせる取り組みを始めよう


認知症の進行は、病院での治療だけでなく、生活習慣の改善やトレーニングなどによって遅らせることができます。進行を遅らせる取り組みを長期的に続けることで、80代であっても、効果が期待できるでしょう。

ただし、80代になると体力が低下して運動しづらかったり、患者さんの性格によって向き不向きの内容があったりもします。無理な取り組みはストレスやケガ、別の病気につながるため、認知症の進行を遅らせたいからといって決して無理はしない、ということも大切です。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年7月24日

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