認知症にみられるBPSD(周辺症状)とは?


認知症になると、性格の変化や徘徊などの症状がみられる場合があります 。認知症の方を介護する際に、このような精神面や行動面に現れる症状に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。

精神面・行動面に現れる症状は「BPSD(周辺症状)」と呼ばれ、症状を抑えるためには周囲の適切な対応やケアが重要となります。

この記事では、BPSDの概要や症状、適切な対応のポイントなどを解説します。

BPSDとは

BPSDは、「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字を取った言葉です。日本語では「認知症の行動・心理症状」と訳され、認知症の方の行動や精神状態に表れる症状を指します

そもそも、認知症によって引き起こされる症状は、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」の2種類があります。中核症状とは、加齢や病気などによって脳の細胞が破壊され、記憶や認識などの機能に直接的な障害が起きている状態のことです。一方、周辺症状とは、中核症状によって二次的に引き起こされる不安や混乱、行動の変化など精神面・行動面にみられる症状です。

2種類のうち、「周辺症状」のほうはBPSDとも呼ばれます。

BPSDは、中核症状に加え周囲の環境や体の不調、精神状態などの要因が重なることで引き起こされます。そのため、適切な対応で認知症の方の不安や混乱を解消すれば、抑制につながる可能性があります。少しでもBPSDの悪化を抑えて、本人や周囲の苦痛・負担を軽減させるためには、認知症の方に対して適切な対応や心のケアを心がけることが大切です

認知症の中核症状について詳しく知りたい方は、こちらの記事もぜひご覧ください。

BPSDにはどのような症状がある?

BPSDでは具体的にどのような症状がみられるのでしょうか。BPSDでみられるおもな症状や、認知症の種類ごとの特徴などについて、解説します。

BPSDのおもな症状

BPSDによってみられるおもな症状には、次のようなものがあります。

・不安や抑うつ
・徘徊
・妄想
・幻覚
・暴力や暴言
・介護拒否
・睡眠障害
・失禁
・弄便(ろうべん)
・異食

認知症の種類ごとにみられる症状の特徴

認知症にはさまざまな種類があり、特に代表的なものは「4大認知症」と呼ばれます。それぞれ表れやすい症状の特徴が異なるので、1つずつ紹介します。

アルツハイマー型認知症

日本で最も多い アルツハイマー型認知症は、アミロイドβなどのたんぱく質が脳に溜まることが原因とされる認知症です。徘徊や妄想 、うつや無関心(アパシー)などの症状が現れやすいとされています。
中核症状では物忘れなどの「記憶障害」からゆっくりと進行し 、自分がいる場所などがわからない「見当識障害」等が現れます。
BPSDでは徘徊や妄想がみられやすく、自分の物を盗まれたと思い込む 「物盗られ妄想」もしばしば現れます。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳卒中や脳梗塞など、脳の血管の病気が原因となって発症する認知症です。
おもな中核症状は、「記憶障害」や「判断力障害」であり、感情のコントロールができなくなる「感情失禁」は脳血管性認知症に特徴的な症状です。
他に無反応やうつなどの周辺症状も見られます。一日のなかで症状の表れ方に波がある「まだら認知症」が起こりえるのもこちらの認知症です。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体という特殊なたんぱく質が集まって脳の神経細胞が破壊され、命令伝達がうまく行なわれないことで発症します。
レビー小体型認知症の特徴として、実際にはないものが見える幻視があります。また、症状が1日の中でも大きく変動する症状の日内変動、体が動かしにくくなるといったパーキンソン症状や、眠っている時に大声で叫んだり体を大きく動かしたりするレム睡眠行動障害を起こすことも特徴の一つです。

前頭側頭型認知症

前頭葉と側頭葉が委縮することで発症する前頭側頭型認知症は、難病指定を受けている認知症です。感情のコントロールや言語機能にかかわる脳の部位に障害が生じるため、初期段階では物忘れよりも異常行動や暴言、性格の変化などが多くみられます。

BPSDはどのように治療する?

BPSDの治療方法は、非薬物療法と薬物療法があります 。それぞれの具体例やメリットなどを紹介します。

非薬物療法

BPSDの治療には、薬を使う前に非薬物療法を試すことが推奨されています

具体的な方法として、昔の思い出話や写真で脳に刺激を与える「回想法」や、音楽を聴かせる「音楽療法」、家事などの役割を与える「作業療法」などが挙げられます。また、なるべくストレスを感じにくい環境を作ったり、生活のリズムを整えたりすることでも、良い効果が期待できます。

薬物療法

非薬物療法で症状が改善されない場合は、薬の投与が選択肢となります。薬物療法をしたからといって認知症を完全に治せるわけではありませんが、精神や行動に表れる症状を抑え、本人や家族の負担を減らせる場合があります。

用いられる薬は、抗認知症薬や抗うつ薬、抗精神病薬 、睡眠薬などさまざまで、症状に合わせた薬が処方されます。ただし、副作用がみられる可能性もあるため、自己判断で薬を服用するのではなく、医師と相談し薬を服用する必要があります。

BPSDへの正しい対応のポイント3つ

BPSDがみられる認知症の方に対して、家族など周囲の方はどのように対応すれば良いのでしょうか。BPSDと接する際のポイントを3つ解説します。

相手の気持ちに寄り添い理解する

認知症になると、それまで当たり前にできていたことができなくなったり、わかっていたことがわからなくなったりします。家族など周囲の人にとっても、負担や迷惑に感じるような言動がみられるかもしれません。しかし、誰よりも戸惑いや不安、焦りを強く感じているのは本人だということを、まず理解することが大切です

認知症の方は、起こった出来事を忘れたとしても、そのときに抱いた感情は残っているとされています。相手の気持ちに寄り添って思いやりを持ったコミュニケーションを心がけ、信頼関係を築きましょう。

なるべく環境を変えない

認知症の方は環境の変化に敏感で、些細な変化でも大きなストレスになりがちです。ストレスによってBPSDの症状が悪化する可能性もあるため、認知症の方を介護する間はなるべく自宅の環境や生活リズムを変えないように注意しましょう

変化の少ない安定した生活を続けることが、心の安定にもつながります。認知症の方が少しでも安心して過ごせる生活環境を確保しましょう。

自己肯定感を大切にする

認知症による劣等感や孤独感は、精神状態とBPSDを悪化させる原因になります。そのため、少しでも症状を抑えるには、認知症の方に自己肯定感を高めてもらい、心の安定を図ることが大切です。
もし、認知症の方が何か失敗しても、責めたり笑ったりせず、思いやりを持って接しましょう。

また、「失敗するから」と家事などの役割から遠ざけるのではなく、認知症の方でもできそうな役割を任せることも、自己肯定感を高める方法の一つです。
生活のなかで、「自分は必要とされている」という自信が持てる環境・習慣を作るように心がけましょう

BPSDを理解して適切な対応を心がけよう


BPSDとは、認知症による脳機能の障害が直接引き起こす中核症状と精神状態などが重なり、二次的に発症する精神面・行動面の症状を指します。不安や抑うつ、徘徊、妄想などさまざまな症状がみられ、本人だけでなく介護する家族への負担も大きいといえるでしょう。

少しでもBPSDの症状を抑えて本人や家族の負担を軽減するためには、BPSDに対する周囲の理解と対応がポイントになります。

適切な対応をこころがけ、認知症の方がなるべくストレスなく安心して生活できるような環境づくりを心がけましょう

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年7月25日

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