せん妄とは?認知症との違いや4つの対策方法


「声をかけても反応が鈍い」「夜中になると活動的になる」など、親や配偶者などの家族、周囲の人などにこのような症状がある場合、せん妄ではないかと疑うこともあるでしょう。加えて、「認知症とはなにが違う?」といった疑問を持たれるかもしれません。

せん妄は、急性の意識精神障害を指します。せん妄の症状が現れた際は、医師に相談し、適切な指導や治療を受けることが大切です。

この記事では、せん妄の概要や3つのタイプ、せん妄の要因や認知症との違いについて解説します。せん妄の対処法についても紹介するのでぜひ参考にしてください。

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「せん妄」は急性の意識精神障害の一つ

せん妄とは、何らかの原因による急性、かつ軽度から中等度の意識障害の状態にあることです。また、錯乱状態を総称する際にも使われることがあります。

せん妄の具体的な症状を見てみましょう。

● 幻覚
● 妄想
● 意識障害
● 見当識障害
● 興奮
● 睡眠障害
● 覚醒リズム障害
など

せん妄の特徴は、突然に発症することです。また、症状の継続時間が数時間から数週間など、一時的であることも挙げられます。せん妄の症状が現れる時間が短い場合は、周囲の人や医師などがせん妄の症状を見逃す場合があります。

せん妄の症状が現れやすい人の特徴は、以下のとおりです。

● 高齢者
● 過度にお酒を飲む
● 認知症を患っている
● 最近病気にかかった、または手術をした
● せん妄の既往歴がある
など

せん妄の3つのタイプ

せん妄は、過活動型・低活動型・混合型の3つのタイプに分けられます。ここでは、それぞれのタイプについて詳しく解説します。

過活動型

過活動型の特徴は、普段よりも落ち着きがなくなることです。過活動型の具体的な症状には、以下のようなことが挙げられます。

● 暴力を振るう
● 大声を出す
● 理由もなくイライラする
● 点滴のカテーテルを抜いてしまう
● 急にベッドから出て転倒する

過活動型は、興奮のため夜間に睡眠が取れず、昼夜が逆転し、睡眠障害を併発する場合があります。また、認知症の行動・心理症状と症状が似ているため、誤認されるケースもあるでしょう。

低活動型

低活動型は、普段よりも活動量が衰えるタイプのせん妄です。具体的な症状は、以下のとおりです。

● 無気力で無表情な状態が続く
● 声をかけても反応が乏しい
● ぼんやりする時間が多くなる
● 食事の量が減る
● 家族を認識できなくなる
● 日にちや曜日を忘れる

低活動型は、過活動型のように介護に障害が出る、症状がわかりやすいといった特徴がないため見過ごされたり、うつ病と間違われたりすることがあります。

混合型

混合型は、過活動型と低活動型の特徴が混在するタイプのせん妄です。例えば、夜間は過活動型、日中は低活動型といったように、24時間以内にそれぞれの症状が現れます。

せん妄を引き起こすと考えられる3つの因子

せん妄には3つの因子があり、それぞれの因子が組み合わさり、脳に影響を与えた場合に症状が現れるとされています。ここからは、せん妄の症状を引き起こすと考えられている3つの因子について見ていきましょう。

準備因子

準備因子は、加齢・認知症・脳神経系の疾患(パーキンソン病・脳卒中など)・アルコールの多飲・重篤な身体疾患など、患者がもともと持っているせん妄の危険因子のことです。

促進因子

促進因子はせん妄を引き起こしやすくしてしまう因子のことで、入院や転院などの環境の変化や、身体的または精神的なストレスが該当します。身体的または精神的なストレスには、脱水・疼痛・抑うつ・不安・睡眠関連の障害などがあります。

直接因子

直接因子とは、以下のように身体疾患や薬剤などの影響によるものです。

● 身体疾患:感染症、電解質異常、糖代謝異常、ガン末期、アルコールの影響、脳神経系の疾患など
● 薬剤:抗不安薬・抗うつ薬などによる副作用
● 手術

「せん妄」と「認知症」の違いは?

せん妄と認知症は異なるものですが、せん妄と認知症の初期症状は似ているため、間違われる場合があります。

せん妄と認知症の大きな違いは、せん妄が一過性であるのに対し、認知症は持続性を持つ点です。せん妄と認知症の違いを見てみましょう。

 

せん妄

認知症

基本症状

意識障害・注意障害

運動不穏・幻覚

攻撃的になるなど

認知機能障害

記憶障害

見当識障害など

発症

亜急性・急性

緩徐

意識

意識障害あり

おおむね正常

発症期間

一過性(数時間~数週間)

持続性

日内変動

多い

ほぼなし

身体疾患

多い

ときにある

環境の関与

多い

なし

せん妄は、認知症との合併も珍しくありません。せん妄と認知症が合併した場合、「認知症の症状が急に進んだ」と誤解されることがあります。一方で、せん妄の症状が改善すると「認知症の症状が軽くなった」と思われることもあるでしょう。

せん妄と認知症を見分けることは難しいため、症状が出た場合は個人で判断せず、医師の診断、適切な治療を受けることが大切です。

せん妄を予防する4つの対策

せん妄を予防するには、安心して生活できる環境作り、体調を整えることなどが重要です。最後に、せん妄を予防する4つの対策法を紹介します。

生活リズム・体調を整える

せん妄を予防するには、生活リズムや体調を整えることが大切です。昼間に活動する、夜に睡眠を取る生活リズムを崩さないように注意しましょう。

昼夜逆転の生活を防ぐには、起床後に日光を十分に浴びる、運動する、夜間は騒音が出ないようにするなどの心がけが重要です。

せん妄は、睡眠不足・脱水・尿路感染症などが原因で症状が現れることがあります。水分補給を欠かさない、定期的にトイレを促す、アルコールを控える、生活習慣病にならないように注意するなどの配慮も必要です。

なるべく環境を変化させない

住み慣れた家を引っ越す、家をリフォームする、部屋の模様替えをする、施設に入所する、入院する、家族構成が変わるなどの環境の変化は、せん妄の症状を引き起こす場合があります。

例えば、入院の際はベッドの周りに家族やペットの写真などを配置する、使い慣れた補聴器やめがねを用意するなど、安心できるものに囲まれた環境作りを心がけるとよいでしょう。

すぐに日時や時間がわかる環境を作る

せん妄を予防するには、現状を理解しやすい環境作りも大切です。見やすい場所に時計やカレンダーを設置する、会話の際に時間や日にちを告げることなどが、見当識を保つ助けになります。

症状が出たら恐怖や不安を和らげる

せん妄の症状が出たら、むやみに怒る、行動を制止するなどの行為は控えましょう。目線を合わせ、優しい口調でゆっくり話しかける、話を遮らず内容にしっかりと耳を傾けることが大切です。

騒音や臭いなど、せん妄を発症させる不安要素があれば取り除いてください。特に夜間に症状が現れるせん妄は、暗さで状況判断が難しくなるため、恐怖感や不安感が増すことを覚えておきましょう。

「せん妄かな」と思ったら医師に相談を


せん妄は、急性の軽度から中程度の意識精神障害です。せん妄の症状には、幻覚・妄想・意識障害や見当識障害などがあります。

せん妄と認知症は異なるものですが、症状が類似している、せん妄と認知症が合併しているなどのケースがあるため、個人でせん妄と認知症を見分けることは難しいでしょう。

せん妄は認知症と異なり、可逆性の疾患、つまり治る病気です。原因を取り除き、生活のリズムの構築を心掛ければ症状は改善していくでしょう。治療を行っても症状の改善がない場合は、せん妄以外の疾患の可能性を考える必要があります。家族や周囲の人に「せん妄かな」と思われる症状が現れた場合は、専門の医師に相談することをおすすめします。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年10月25日

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