中等度の認知症はどのような状態?症状の進行段階や進行を遅らせる方法


認知症の進行段階は、症状の内容などによって、前兆(軽度認知障害)、初期(軽度)、中期(中等度)、末期(重度)の4段階に分けられます。

このうち、認知症中期(中等度)は、認知機能の低下が進み、周囲のサポートが必要になってくる段階です。認知症初期よりも記憶障害や見当識障害の程度が重くなり、介護者にも症状に合った対処が求められます。

今回は、認知症の進行段階を紹介したうえで、認知症中期(中等度)に発生する症状と症状の進行を遅らせる可能性がある方法を解説します。

認知症とは? 知っておきたい認知症の基本

認知症とはどのような状態なのでしょうか。初めに、認知症の概要と種類を解説します。

認知機能が低下し生活に支障が出る「認知症」

さまざまな原因で、脳の神経細胞の働きが低下し、認知機能が失われ、生活に支障が出た状態を「認知症」と呼びます。

内閣府が公表している「平成29年度版高齢社会白書」によると、2012年時点では、65歳以上の高齢者のうち約7人に1人が認知症でしたが、2025年には65歳以上の高齢者のなかで約5人に1人が認知症になると予測されています。

参照:内閣府「平成29年度版高齢社会白書」より、各年齢の認知症有病率が上昇する場合の数値を使用

高齢化が進むなか、認知症の患者数は年々増加しています。認知症は将来誰もがなり得る症状だといえるでしょう。

認知症を完全に治療する方法はありませんが、早い段階で気付ければ症状の進行を遅らせることが期待できるでしょう。認知症の状態を知るための検査には、身体検査や神経心理学検査などの種類があります。いち早く症状の発生に気付き、医療機関とつながることが、認知症への対処法の基本だといえるでしょう。

認知症のおもな種類

認知症にはアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症などの種類があります。認知症の種類によって、進行度合いや症状、治療方法が異なるため、発症したらまずはどの種類の認知症なのかを見極めることが大切です。

● アルツハイマー型認知症
認知症患者に最も多いといわれるタイプです。症状はゆっくりと進行します。

● 脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血などにより認知症になるタイプです。脳血管に障害が発生するたびに、階段状に症状が進行します。

● レビー小体型認知症
脳に特定のたんぱく質が蓄積されることで認知症になるといわれているタイプです。一部ではパーキンソン症状が出現することに加え、一日のうちでも症状が変動するなど症状自体に大きな波があるため、進行度合いを正確に把握するのが難しいという特徴があります。

● 前頭側頭型認知症
前頭葉と側頭葉を中心として症状が進行するタイプです。一般的に、症状はゆっくりと進行します。

認知症の4つの進行段階

認知症の進行段階は、前兆、初期、中期、末期の4段階に分かれています。それぞれの段階における症状を解説します。

前兆(軽度認知障害)

認知症の前兆は軽度認知障害とも呼ばれており、物忘れなどの症状が出るものの、生活への影響はほとんどない状態をいいます。記憶力の低下以外に明らかな認知障害が見られないため、この段階では認知症の前兆と認識されない場合も多くなっています。

軽度認知障害の人のうち、年間で5~15%が認知症に移行するとされています。その一方で、年間で約16~41%は健常な状態に戻るとも考えられています。※
この段階で認知症にならないよう予防できれば、認知症への進行を遅らせられるかもしれません。
軽度認知障害のおもな症状は物忘れの増加です。該当する症状が見られたら、認知症の前兆でないか疑ってみましょう。

初期(軽度)

軽度認知障害が進行すると認知症初期(軽度)段階に移行します。認知症初期のおもな症状は、物忘れや気分の落ち込み、混乱、集中力の低下などです。

症状によって日常生活やコミュニケーションに支障が出始めるため、家族や親しい人が、認知機能の低下に気付き始めるのもこの時期にあたります。また、認知症の症状により、不安感や孤独感などをおぼえるようになり、これらの感情から症状がより進行してしまうこともあるでしょう。

中期(中等度)

認知症中期(中等度)は日常生活にさらに支障が出始め、より周囲のサポートが必要になってくる段階です。認知症中等度は、最も介護がしづらい時期だともいわれています。

認知症中等度で見られる症状は次の見出しで詳しく解説しますので、併せてご確認ください。

末期(重度)

末期(重度)は認知症の最後の段階です。中期(中等度)にあった症状がさらに進行し、自立できず、生活のすべてで介助を必要とします。

身体的な障害も見られるようになり、少しずつ寝たきりになる場合もあります。人を認識できない、言葉を理解できないなどの症状から、コミュニケーションも非常に困難になり、意思疎通をはかるのが難しくなってくる時期です。

末期まで症状が進行しないよう、初期や中期など、可能な限り早い段階で治療を開始し、症状の進行を遅らせることが大切です。

認知症中等度でみられる症状

認知症中等度では、記憶障害や見当識障害、失認・失行・失語などの症状が現れます。各症状の内容を見ていきましょう。

記憶障害

記憶障害は、認知症が発症してから早い段階で発現することの多い症状です。

直近のことだけではなく昔のことも忘れてしまい、症状が進行すると住所や電話番号といった重要な情報も思い出せなくなり、予定を把握できなくなります。日常生活にかかわることも忘れてしまうと、生活に支障が出たり、周囲の人とコミュニケーションできなくなったりします。

見当識障害

見当識障害とは、自分が置かれている状況がわからなくなる症状です。時間や季節、場所や人物などを正しく認識できず、生活に支障が出てしまいます。

軽度の認知症では時間に関する見当識障害が見られ、認知症が中等度に進行すると場所に関する見当識障害も見られるようになります。これにより、自分がどこにいるかわからない、トイレの場所がわからない、などの症状が現れます。

見当識障害は徘徊などの行動の原因にもなります。徘徊を放置してしまうと、事故や事件に巻き込まれるケースもあるため、より周囲のサポートが必要になるといえるでしょう。

失認・失行・失語

失認・失行・失語も認知症中等度で現れる症状です。失認は見えているものや聞こえているものがなにか理解できなくなること、失行は今まで日常的に行なっていた動作ができなくなること、失語は話を理解したり言葉を発したりするのが難しくなることを指します。

これらの症状が現れると、ハサミの使い方がわからない、ボタンをかけ違えるなど、日常生活のさまざまな場面で不都合が生じます。

認知症の進行を遅らせるには?

認知症が発症した場合、どのように対処すればよいのでしょうか。認知症への対処法を解説します。

認知症は早期発見が重要

認知症を根本的に治す方法はありません。ただし、早期に医療機関とつながることで、認知症の種類によっては、一時的に症状を改善したり進行を遅らせたりできます。認知症症状の改善には、いかに早く適切なケアとつながれるかが重要なのです。

認知症の方本人が、症状の発生に気付けるとは限りません。そのため本人だけでなく、周囲が症状に早く気付くことが大切です。日常生活を通して気になることがあれば、違和感や疑問を放置せず、認知症の発症を疑ってみてください。

認知症の治療法

認知症の治療法には、薬物療法と非薬物療法の2種類があります。認知症の方の症状や生活環境に合わせて、より良い治療法を選択しましょう。

薬物療法は、認知機能障害の進行を遅らせるといわれている抗認知症薬の投与や、行動・心理症状を抑える薬を服用して対症的に症状を抑える治療法です。

抗認知症薬や睡眠薬、抗不安薬などの投与により、症状の進行を抑制したり行動・心理症状をある程度改善したりといった効果が見られます。

ただ、高齢者に対しては加齢、基礎疾患や体格などから薬の効き方の予測が難しく、投与量には注意が必要であり、一定の睡眠薬や抗不安薬にはせん妄の原因となりうる薬もあるため、医師による慎重な調整が必要です。

非薬物療法は、認知機能リハビリ、生活リハビリなどを通して脳へ刺激を与えて活性化させ、症状の進行を抑制する治療法です。

園芸や音楽などを活用する治療法や、アニマルセラピー・アロマセラピーといった手法もあります。また、良質な睡眠、バランスの良い食事の摂取などの基本的な健康管理も有用です。

認知症の進行段階に合ったケアをしよう


認知症は、前兆、初期、中期、末期の順に進行します。進行のスピードは人それぞれであり、各段階で現れる症状も人によって異なります。可能な限り早くケアへつなげられるよう症状をよく観察するとともに、認知症の進行段階に合わせたケアを受けることが大切です。

認知症の症状にいち早く気付いて医療機関とつながるには、認知症の方の周囲にいる方の存在が欠かせません。認知症の方が適切な介護を受けられるよう、介護に備えて環境を整えておきましょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年10月25日

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