認知症は歩き方にも影響?
認知症の方の歩き方の特徴や歩行障害について解説


認知症について気になっている方のなかには、「認知症が歩き方にも影響をおよぼす」と聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。認知症を発症すると、歩幅の変化や歩行の不安定化、すり足などが見られることがあります。

この記事では、認知症による歩き方の変化について、どのような変化が起こるのかを詳しく解説するとともに、認知症の各種類における歩き方の変化(歩行障害)の特徴を紹介します。

認知症によって歩き方はどう変化する?

まずは、認知症を発症すると歩き方はどのように変化するのか、具体的な例を3つ挙げて解説します。

ただし、歩き方の変化や歩行障害の原因は認知症だけでなく、足や股関節などに原因があるケースもあります。必ずしも、認知症のみが原因とは限らない点に留意しましょう。

歩幅が狭くなる

加齢による足の筋肉の衰えも影響し、認知症を発症する前よりも歩幅が狭くなるケースがあります。歩幅が狭くなると歩行速度が低下したり、小刻みにしか歩けなくなったり、足が前に出にくいといった傾向が見られるようになります。

歩行が安定しなくなる

認知症の影響により、足もとがふらつきやすくなり真っ直ぐ歩くのが難しくなるなど、歩行が不安定になることがあります。そのほか、歩く際に前かがみになってしまうなど体勢の悪化が見られることも少なくありません。

すり足

足が上がりにくくなり、地面に足を擦りつけるように歩く「すり足」も、よく見られる歩き方の変化の一つです。すり足には脳の認知機能だけでなく、足の筋肉の衰えも影響しています。

すり足になってしまうと段差につまずきやすくなるのはもちろん、何もない場所で転倒する原因にもなるため注意が必要です。

認知症の種類別・歩行障害の特徴

認知症には、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症、前頭側頭型認知症など複数の種類があり、種類によって歩き方の特徴が異なります。ここからは、認知症の種類ごとにどのような歩き方の変化(歩行障害)が見られるのかを解説します。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβなどのたんぱく質が脳に蓄積し、脳神経が変性することで生じるとされている疾患です。

進行は比較的遅く、歩行障害も初期段階ではあまり見られないのが特徴です。重度に進行することで生じるケースが多く、小刻みな歩行や前傾姿勢などが見られます。

脳血管性認知症

脳出血やくも膜下出血、脳梗塞などの脳血管障害を起こしたあとに、後遺症として生じやすいのが脳血管性認知症の特徴です。脳血管性認知症の歩行障害では、麻痺による足を引きずるような歩き方が見られます。

歩行障害以外では、認知機能がまだらに障害された状態である「まだら認知症」になりやすい点も、脳血管性認知症の特徴といえます。

前頭側頭型認知症

脳の前頭葉や側頭葉の障害が原因となり発症するとされているのが、前頭側頭型認知症です。おもな症状には、性格の変化や同じ動作を繰り返す、社会性の欠如や無気力化などが挙げられます。

また前頭側頭型認知症では、筋力の低下や筋萎縮を引き起こすほか、一定の時刻に同じ散歩コースを歩き回るなどの「常同的周遊」が見られる場合があります。このほかにも、体のバランスと取りづらくなることで、直立の状態を維持することが困難になったり、転倒しやすくなったりします。

正常圧水頭症

正常圧水頭症は、おもに高齢者に多く見られる疾患の一つです。症状としては、歩行障害や認知障害、尿失禁などが見られます。

歩行障害は早期に生じやすいのが特徴で、歩幅が狭くなったり足が開き気味になったりするほか、すり足が見られる場合もあります。歩行が不安定になり、転倒の危険性が高まるため注意が必要です。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、脳の神経細胞に発生する特殊なたんぱく質が原因となる疾患です。記憶力・理解力・判断力の低下、睡眠障害やうつ症状のほか、幻視などが見られる場合があります。

レビー小体型認知症の歩行を含む運動障害では、別の疾患であるパーキンソン病に見られる症状(パーキンソン症状)が生じる点も特徴です。

パーキンソン症状による歩行障害の特徴

前述のとおり、パーキンソン症状はレビー小体型認知症で見られるケースがあり、運動機能が低下し、思うように体を動かせなくなるのが特徴です。レビー小体型認知症とパーキンソン病は、いずれも脳細胞に「レビー小体」という特殊なたんぱく質が出現する点が共通しており、近い関係にあるとされています。

以下では、レビー小体型認知症で見られるパーキンソン症状による歩き方の変化(歩行障害)について、より詳しく解説します。

小刻み歩行

小刻み歩行では、歩くときの歩幅が2~3cmなど極端に狭くなるのが特徴です。脳機能が低下して歩行のリズムが不安定になってしまううえに、認知症の影響により注意力が低下して悪化することがあるため注意が必要といえます。

小刻み歩行は、意識が別の作業に逸れてしまうような場面でよく見られる傾向にあります。

突進歩行

突進歩行とは、姿勢が傾いたうえで早足になり、一度歩き始めると止まれなくなってしまう状態のことです。突進歩行は前方への歩行だけでなく、後ろに下がる場合でも生じることがあるため、転倒などの危険性が高い歩行障害といえるでしょう。

すくみ足

すくみ足は、急に足の裏が地面や床にくっついたような感覚に陥ることで、歩き出すことに躊躇してしまったり、歩行途中で足が止まったりする状態のことです。おもに歩く方向を変える場面や信号を渡るために足を踏み出そうとしたとき、狭い場所で歩行するときなどに生じやすいのが特徴です。

歩き方の変化以外の認知症の症状は?

歩き方の変化以外にも、認知症にはさまざまな症状があります。以下のような症状がないかチェックしておくと、認知症の早期発見や治療にもつながるでしょう。
  • 何度も同じ話をしたり聞いたりしてしまう
  • 物の紛失や置き忘れが増える
  • 簡単にできていた家事や買い物に手間取るようになる
  • お金の計算ができなくなる
  • 意欲が低下し、これまで続けていた好きなことや趣味に対して興味を示さなくなる
  • 疑い深くなった、怒りっぽくなったなどの感情の起伏の変化

認知症かもしれないと思ったらすべきこと

ここまでに紹介した歩き方の変化や認知症の初期症状について、もし当てはまる症状があれば、早めに医師の診断を受けましょう。診断を受けて認知症を早期発見できれば、進行を抑える治療ができるだけでなく、認知症と似た症状が出るほかの病気の早期発見や治療につながる可能性があります。

例えば、甲状腺機能低下症やうつ病などは、認知症と似た症状が出るケースもあります。また、正常圧水頭症など脳に起こる病気で治療可能なものもあり、一部は「治る認知症」と呼ばれています。これらは、早期の発見や治療により治る可能性があるとされ、原疾患の治療により認知機能の改善か期待できる場合があります。

歩き方の変化や記憶障害などが見られる場合はかかりつけ医や認知症専門医を受診し、かかりつけ医がいない場合は地域包括支援センターへ相談しましょう。

認知症の疑いがある場合に受診する診療科としては、専門医がいる病院や精神科、心療内科、脳神経内科や脳神経外科が選択肢として挙げられます。また、老年科やものわすれ外来などもおすすめです。

歩き方の変化をチェックして、認知症の早期発見・治療につなげよう


認知症では、歩幅の変化やすり足、歩く際の姿勢の悪化、ふらつきなどの歩行障害が表れる場合があります。種類によっては小刻み歩行やすくみ足、突進歩行などの特徴的な変化が生じるケースもあるため、注意深く歩き方をチェックしておくことが大切です。

歩き方の変化はもちろん、ほかにも認知症が疑われる症状が見られる場合は、早めに医療機関を受診しましょう。早期発見により症状の進行を抑えられるだけでなく、ほかの疾患の発見や治療にも役立ちます。

また、万が一の認知症発症に備えて民間介護保険に加入しておくと、将来の治療や介護における経済的な負担の軽減につながるでしょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年11月28日

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