認知症について知る

認知症を自覚させる方法とは?
自覚をするきっかけや周囲が気を付けるべきポイント


もし家族や周囲の方に「認知症かも」と思われる症状が現れたとき、どうしたらよいのでしょうか?本人が認知症だと自覚できているのか、疑問に思う方も多いでしょう。

初期症状の場合、本人が自覚していることも少なくありません。しかし、進行度合いによっては本人が忘れたことを自覚できない場合や、心理的に認知症の受容ができずに受診や相談を拒んでいるケースもあります。

まずは、周囲が認知症について正しく理解し、適切な対応をとることが重要です。そのうえで、本人の気持ちを考慮しながら受診を促すことが望ましいでしょう。

この記事では、認知症が疑われる方と接する際の心得や注意点を紹介したうえで、ご本人に認知症を自覚してもらうためにできる具体的な行動について解説します。

認知症かも?と思ったときに心得ておきたい4つのこと

まずは、認知症を疑われる方に接する際の心構えを知っておきましょう。

認知症への正しい理解を深める

認知症とは、病気や加齢によって脳の機能が衰えることで記憶力や判断力が低下し、それまで当然のようにできていた日常生活に支障が出た状態を指します。

認知症は、誰もがかかりうる病気です。厚生労働省によると、2012年時点で高齢者(65歳以上)の約7人に1人が認知症※といわれています。高齢者が増え続けていることを考慮すると、今後も認知症の方も増加していくと考えられています。
これほど身近な病気でありながら「認知症になると何もできなくなるのでは」と不安を感じる方もいるでしょう。しかし、認知症が疑われるからといってすぐに何かできなくなるわけではありません。また、認知症に似た症状が出る病気にかかっていたケースや、認知症を予防することで進行を緩やかにできるケースがあることもわかっています。

本人の行動や気持ちに寄り添う

周囲が違和感を持ったからといって、いきなり「認知症ではないか」と本人に伝えてしまうようなことは避けましょう。

周囲が認知症を疑うようになる前から症状に気付き、不安を感じて一番苦しんでいるのは本人かもしれません。周囲の発言や行動に敏感になり、傷つきやすくなったり、混乱しやすくなったりしている可能性もあります。

仮にご本人が約束を忘れたりミスしたりしても、むやみに行動を責めたり注意したりせず、共感して理解しようとするスタンスが大切です。そのうえで、本人の行動をさりげなく観察して、加齢によるもの忘れなのか、認知症が疑わしいのかチェックしてみることをおすすめします。

強引な行動はしない

認知症の疑いがある場合、すぐに病院を受診させたいと考える方もいるでしょう。とはいえ、本人に嘘をつき、無理やり病院に連れていくような行動はやめましょう。

早期受診が認知症の進行を緩やかにする可能性があるのも事実です。しかし、本人の意思に反して病院に連れていけば、周囲の方との信頼関係が崩れてしまう原因となります。本人の心が深く傷つく可能性もあるでしょう。

大切なのは、本人の自尊心を傷つけないことです。仮に家族や医療機関に対する不信感が高まれば、先々の治療や支援が難しくなることも考えられます。強引な行動はせず、否定せず、怒らない姿勢が重要です。

一人で抱え込まずに協力者を見つける

認知症の方のサポートは、非常に大変なことです。今後、介護が長期化する可能性もあるため、ひとりだけで抱え込もうとすると体力的にも精神的にも限界が来てしまう可能性があります。

認知症が疑われる本人を大切にすることはもちろんですが、周囲の方々も自分自身の気持ちや時間を大切にすることを忘れてはいけません。

ほかの家族や親族、友人や近所の方など、信頼できる方に相談したり、かかりつけ先の医師や看護師、ケアマネジャーなど協力者を早めに見つけたりすることをおすすめします。

認知症の自覚が難しい理由を知っておこう

ご本人が認知症を自覚して自ら受診するケースもありますが、自覚が難しいケースも少なくありません。その理由としておもに下記の3点があげられます。

そもそも本人が症状に気付かない

年を重ねれば、誰もが忘れやすくなったり、物覚えが悪くなったりするものです。そのため、加齢によるもの忘れと認知症の境目は判断が難しく、本人も認知症というほどではないと考えているケースがあります。

認知症の場合、もの忘れと違って自分の行動自体を丸ごと忘れてしまいます。例えば、加齢による物忘れではお昼は食べたがメニューを思い出せないのに対し、認知症では食べたこと自体を忘れてしまっているのです。

仮に約束を忘れた場合でも、約束したこと自体を思い出せないため、周囲から指摘を受けても相手が間違っていると判断してしまうことも珍しくなく、症状に気付けないのです。

認知症への否定的なイメージが強い

道に迷う、約束を忘れてしまうなど行動面での失敗が続き、本人が不安を感じてはいるが、認知症であることを認めたくなくて拒否しているケースもあります。

病気を受け入れることは簡単ではなく、本人が自覚を拒むのもやむを得ないことです。認知症かもしれないと思いながら「何もわからなくなってしまうのが怖い」、「周囲から偏見を持たれるのでは」と心配しているかもしれません。

認知症だと自覚して受診することは、本人にとって大きなハードルであることを理解しましょう。感情面が繊細になっている可能性も高いため、心理状態を把握したうえでサポートする姿勢も必要です。

不安や苛立ちを感じやすくなっている

認知症によって引き起こる心理的な症状が、自覚できない原因の一つになっている可能性もあります。

認知症の症状は個人差が大きく多岐にわたりますが、物事に対して不安を感じやすい、怒りっぽくなる、些細なことでイライラするという心理症状が現れる方もいます。

理解力や判断力も低下しているなかで心理症状もある場合、自分自身が認知症かもしれないという考えにおよびにくくなるのは仕方がないことです。

本人に認知症を自覚してもらい医療機関を受診するための4つの方法

では、自覚が難しいといわれる認知症を、本人に自覚して受診してもらうには具体的にどうすればよいのでしょうか。ここでは、具体的な例を挙げて4つの方法を紹介します。

どの方法が合うのかは本人の性格や関係性によっても異なります。また、いずれの場合もオブラートに包んで受診を進めることを心得ておきましょう。

健康診断やもの忘れ外来を提案する

認知症が疑われる場合、脳神経内科、心療内科、精神科などの受診を検討する方も多いでしょう。とはいえ、認知症を理由にした受診は心理的ハードルが高いものです。

その場合、健康診断を一つのきっかけとして医療機関の受診を提案してみる方法があります。念のための健康チェックと伝えると、本人も医療機関への足を運びやすいでしょう。

もし、本人がもの忘れの症状を自覚し不安を感じているのなら「認知症」という言葉を使わずに「もの忘れ外来」を活用する手もあります。症状が老化によるものかどうかの専門的な判断も可能です。

認知症のセルフチェックを提案してみる

病院の受診に不安を感じている方には、自宅でのセルフチェックから始めてみる方法もあります。スマートフォンやパソコンを使ってできる、気軽にやりやすい方法の一つです。

例えば東京都福祉保健局のホームページに認知症が疑われる本人や家族など身近な方でもできるセルフチェックリストが用意されています。最終的には医療機関での診察が必要ではありますが、チェック結果に応じて受診を促してくれるため、病院へ足を運ぶきっかけにもなるでしょう。

ただし、「認知機能のテストを受けよう」といった直接的な表現をすると、本人の自尊心を傷つけたり拒否されてしまったりする可能性もあります。セルフチェックを提案する場合は「予防のために」、「念のため」などの前向きな理由で提案することをおすすめします。

ほかの人を例に話をしてみる

身近な方が認知症で受診した例を話してみるのが効果的な場合もあります。

認知症を自分ごととして考えることは難しくても、第三者のケースであれば冷静に話が聞けるという方もいるでしょう。

その際、受診のおかげでほかの病気が見つかった、適切な対処法を知ることで記憶の問題を和らげられたなど、状況が好転したケースを伝えておくと前向きに受診でしやすくなります。

第三者に協力してもらう

本人が話を聞き入れてくれそうな親族や友人に受診を促してもらう、かかりつけ医に事前に相談して専門医の受診を提案してもらうなど、第三者を介するのも一つの手段です。

協力を依頼できる第三者に心当たりがない方には、厚労省の取り組みの一つである「認知症初期集中支援チーム」を活用する手があります。全市町村の地域包括支援センターや市町村の本庁などに配置されており、認知症が疑われるが診断を受けていない方のサポートや、要望に応じて自宅への訪問も行なってくれます。

地域包括支援センターでは、支援チームによるサポートのほかにも高齢者の生活上の不安や悩み全般の相談を受けているため、認知症以外の話をきっかけに相談してみるのもよいでしょう。

周囲が認知症に気付いたときにできること

ここまで、認知症を自覚して受診してもらうための具体的な行動を挙げましたが、スムーズに受診できる方ばかりではありません。とはいえ、本人が認知症を自覚せず受診も拒否している状況でも、周囲がサポートできることがあります。

関係者に相談し、連携していく

本人の自覚がない場合でも、かかりつけ医をはじめ、地域包括支援センターや自治体の福祉課などに家族や周囲の方が相談することも可能です。本人が認知症を認めていなくても、認知症の予防や介護サービスの準備や導入など、支援が受けられる可能性もあります。

先ほども紹介したように、各市町村にある地域包括支援センターと連携しておくと、必要に応じて、地域の医療機関や保健福祉サービスも紹介してくれるでしょう。

医療機関や介護関係者と連携することで、専門的な対処法や治療法を知る機会も増え、認知症と診断されたあとも公的な支援サービスにつながりやすくなります。

介護度が進んだ場合の生活を考える

認知症が疑われる場合、現状は自力で生活できる段階でも、徐々に介護が必要になることが考えられます。

とはいえ、いきなり生活が変わるわけではありません。症状の進行度合いに応じてデイサービスやショートステイの利用をし、自宅での生活が難しくなったら施設入居や家族が同居しての介護などが必要になるのが一般的です。介護の必要性に応じて、周囲が選択を迫られることも増えてくるでしょう。

診断の有無に関わらず、将来どのような暮らしを望んでいるのか本人に直接聞いておくことも大切です。本人や周囲の希望する介護を事前に考えることで、将来的にかかるであろう経済的な負担も想定できます。

本人の気持ちに寄り添いながら支援に繋がっていくことが重要


認知症が疑われるからといって、誰もがすぐに症状を自覚して受診に繋がれるわけではありません。早期受診は大切ですが、何よりも本人の不安な気持ちに寄り添い、前向きな受診ができるよう周囲がサポートする必要があります。

また、認知症の診断が下りたからとしても、すぐに生活が一変するわけではありません。支援制度や医療機関を活用しながら、本人と周囲が望む生き方を選択していきましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年11月28日

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