認知症の影響で攻撃的になる?
攻撃的な言動の理由と対処法


認知症を発症した方のなかには、暴言や暴力など、攻撃的な言動が表れるケースがあります。攻撃的な言動に直面した家族は、どのように対処すべきかと悩んでしまうことも少なくありません。

攻撃的な言動が発生した際には、背景やきっかけなどの理由を理解するとともに、適切な対処法を把握しておくことが重要です。

この記事では、認知症の影響による攻撃的な言動とはどのようなものなのか、何が理由で引き起こされるのか解説します。併せて、攻撃的な言動への対処法や注意点、予防法についても紹介します。

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認知症の影響による攻撃的な言動とは

認知症を発症したすべての方に該当するとは限らないものの、なかには周辺症状の一つとして、暴言や暴力などの攻撃的な言動が見られることがあります。

その多くは認知症がかかわっているとはいえ、何の理由もなく行なわれるものではありません。健康なときには気にならなかったささいな事柄が、本人にとって攻撃的な言動の引き金となっているケースが少なくないのです。

認知症の影響で引き起こされる言動の例としては、物を盗まれた、もしくは家族に捨てられたなどと思い込む被害妄想、性的な嫌がらせや暴力などが挙げられます。暴力は、同性だけ・異性だけなど、どちらかのみが対象となる場合もあります。

そのほか、大声を出す、物を投げつける、突然怒り出す、もしくは介護をしてくれている相手を傷つけるような発言をしてしまうケースもあるでしょう。

認知症によって攻撃的な言動を取ってしまう6つの理由

ここからは、どのような事柄がきっかけで攻撃的な言動につながるのか、考えられるおもな理由を6つ挙げ解説します。

感情を制御できないため

認知症が進行すると、冷静に考えて行動するために欠かせない、感情の制御をつかさどる脳の前頭葉が委縮しやすくなるとされています。前頭葉の委縮が進んだ結果、感情のコントロールが難しくなる可能性もあります。

本人の意思やもとの性格に関係なく、そのとき生じた感情にともなって興奮しやすくなることに加えて、理解力の低下がともなうと、不安や苛立ちも感じやすくなるでしょう。

感情の高まりや不安、苛立ち、恐怖が引き金となり、攻撃的な言動につながってしまうケースが少なくないのです。

周りや身近な人の感情に影響されているため

認知症の方は、身近な人や周囲の感情を把握することに長けている場合があります。ただ、周囲の人の表情や態度で相手の感情の変化に気付いても、具体的に何が起きているのか、誰に対して向けられている感情なのかまで理解するのは難しいでしょう。

身近な人の不安そうな表情や困惑した態度から感情を察知した結果、認知症の方自身もその感情に巻き込まれ、攻撃的な言動を取ってしまう可能性があるのです。

不安を抱き混乱してしまうため

認知症の症状には、「自身が置かれている状況について理解できない」というものがあります。たとえ一度は理解できてもすぐに忘れてしまうため、不安や混乱を感じ、その不安を解消するために攻撃的な言動を取ってしまうのです。

また、病院など本人にとって避けたい場所は、覚えていなくても「知らない場所に連れていかれる感覚」もしくは「嫌いな場所」という感情由来の記憶が残っている可能性があります。
通院時などにその記憶をもとに不安や混乱が生じた結果、抵抗するために暴言や暴力に訴えてしまうケースもゼロではありません。

症状の影響により自尊心が傷ついてしまうため

認知症の方の多くは、自身の認知能力や身体能力の低下を自覚しています。そのため、例えば本人の行動に対して大丈夫かと過剰に心配するなど、家族や介護者にとってはサポートのつもりの言動でも自尊心を傷つけてしまいかねないのです。

自尊心が傷つけられることは、認知症の方だけでなく多くの方にとって怒りを感じるものでしょう。怒りや悲しみの感情が生まれた結果、家族や介護者に対する暴言や暴力につながってしまうケースも少なくないのです。

治療や服用している薬の副作用

ときに、認知症治療のために服用している薬の副作用で、攻撃的な言動が生じている可能性があります。認知症治療薬のなかには、副作用として暴力や徘徊、幻覚といった症状が強く表れるものがあるためです。

また、認知症治療薬以外にも服用している薬がある場合、飲み合わせが悪く副作用として攻撃的な言動が生じていることもあるため注意が必要です。

体調不良によるもの

認知症の方は、自身の身体に生じている痛みや不調を把握し、周囲に伝えることが難しい場合があります。

どうして痛いのか・苦しいのか、原因が正確に理解できないストレスは大きく、苛立ちがつのった結果、暴言や暴力につながる恐れもあるでしょう。

そのほかにも、認知症の種類によっては、より顕著に攻撃的な言動が生じる場合があります。例えば、「脳血管性認知症」は、感情の制御が難しくなりやすい(感情失禁が起こりやすい)傾向です。

また、症状の一つである幻視から逃れるために暴力が生じかねない「レビー小体型認知症」や、暴力的な言動が起きやすい「前頭側頭型認知症」などもあります。

認知症の家族が攻撃的な言動を取る場合の5つの対処法

ここからは、認知症の方が暴言や暴力などの攻撃的な言動を取る場合、どのように対処すべきか、5つの方法を挙げ解説します。

本人の感情を受け止める

前述のとおり、攻撃的な言動には何らかの理由や原因があるケースが多いといえます。そのため、もし認知症の方が攻撃的な言動を取ったとしても責めるのではなく、まずは家族や介護者が本人の意見や感情を理解し、受け止めることがポイントです。

本人の立場になって、なぜ攻撃的になってしまったのか理由を探り、理解を示すことで、認知症の方自身が安心感を得ることにつながり、興奮が収まる可能性があります。

本人と物理的・心理的に距離を取る

一度生じてしまった暴言や暴力に巻き込まれないためには、できる限り物理的な距離を取ることが重要です。

冷静に対処できない場合や怪我の恐れがある場合、耐えられないと感じたときは無理をせず、可能であればいったんほかの人に任せて、安全な距離を保つとよいでしょう。

ほかに介護を担える人がいない場合は、ショートステイや施設などの介護サービスを活用して距離を取ることも手段の一つとなります。

物理的な距離に加えて、心理的な面でも適度に距離を取ることが大切です。攻撃的な言動を取られ続けることは、家族や介護者にとって負担が大きく、心身に悪影響をおよぼす恐れがあります。また、介護する方が感情的になってしまうことで、攻撃的な言動のさらなる悪化にもつながりかねません。

例えば、暴言や暴力が生じている間は、別のことや好きなことを考えるよう心がけたり、気分転換につながるものを見たりするなど、冷静さを保てるよう意識することが大切です。

また、前述のショートステイをはじめとした介護サービスの利用は、介護する方自身の休息時間を作ることにつながるため、心理的な距離を取るためにも役立ちます。

暴言や暴力から注意をそらす

暴言や暴力が発生してしまっても、認知症の方の注意を別の事柄にそらすことで、興奮が収まるケースがあります。

注意をそらす具体例としては、テレビをつける、好きな趣味の話をする、かわいがっている孫などの家族の写真を見せるなどが挙げられます。または、散歩に連れ出して一緒に気分転換を図るのもよいでしょう。

万が一、攻撃的な言動を取られたときに備えて、あらかじめ注意をそらす方法を考えておくと、よりスムーズに対処できるためおすすめです。

医療機関を受診し治療を行なう

前述のとおり、攻撃的な言動は体調不良が原因の可能性もあるため、かかりつけ医などの診察を受けてみましょう。

診察の結果、体調不良が原因でない場合や、ほかの対処法を試しても攻撃的な言動が改善しない場合は、投薬による治療も選択肢となり得ます。

投薬による治療では、興奮を抑える効果が期待できる薬や漢方薬、向精神薬、抗不安薬などが用いられます。

ただし、なかには副作用が生じる場合や特定の疾患にかかっていると使用できない場合もあるため注意が必要です。まずは医師や薬剤師の説明を受け、納得したうえで治療法を選択することが大切です。

第三者や専門家に相談し意見を仰ぐ

暴言や暴力がひどい場合は、耐えきれなくなる前に、介護にかかわらない家族などの第三者や、認知症および介護に関する専門家に相談することで、解決策が見つかる可能性があります。

認知症の方の攻撃的な言動について相談できる場所としては、かかりつけ医や病院の医療相談室、ケアマネージャーなどが挙げられます。また、地域包括支援センターや市区町村の認知症地域支援推進員、認知症家族の会なども選択肢となり得るでしょう。

介護の負担により介護者が倒れてしまう、もしくは認知症の方と共倒れになってしまう前に相談することが大切です。

認知症による攻撃的な言動に対処する際の注意点

認知症による攻撃的な言動に対処する際は、力で対抗したり怒鳴ったりしないよう注意しましょう。力で抵抗してしまうと、認知症の方に恐怖心を与えてしまい、かえって症状をひどくしてしまう恐れがあるためです。

暴力などが見られる場合は特に、自分自身を守るため、やむを得ず抵抗しなければならない場面もあるかもしれません。

ただしその際も、力でやり返したり、相手の身体などを押さえつけたりしないことが大切です。身の危険を感じるような暴力が起こった場合は、前項でも紹介したとおり距離を取ることが重要といえます。

また、介護者側が怒鳴る、やり返すといった行為をしてしまうと、認知症の方との信頼関係がうまく築けなかったり症状を悪化させてしまったりするので気を付けましょう。

併せて、攻撃的な言動への対処に困った結果「手に負えない」と放置してしまうと、ネグレクトと判断される恐れもあるため避けるべきです。対処しきれない場合は、前述のように専門家などに相談し、必要に応じた支援を受けることが大切です。

認知症による攻撃的な言動(暴言・暴力)を予防する4つの方法

認知症の影響による攻撃的な言動を防ぐためには、その言動に至る背景や状況を把握したうえで、日頃から接し方に配慮することが大切です。

ここからは、暴言や暴力といった攻撃的な言動を予防する方法について、4つ挙げ解説します。

本人を否定しない

攻撃的になっているときに限らず、認知症の方は症状の影響により不安や混乱、パニックのなかにある可能性が高いです。そのため、本人の発言や意思を否定するのは避けるべきでしょう。

たとえ本人の言っていることが間違っていたとしても、主張を否定せず、まずは一度受け入れることが大切です。

また、「でも」や「だけど」といった言葉は、無意識であっても認知症の方からすると否定されたと感じやすいため、できるだけ使わないように注意しましょう。

本人の自尊心を尊重する

日頃から本人の主張や意思、自尊心を尊重できているか見直すことも重要です。例えば、本人が「できる」と言って取り組んでいることを否定していないか、「一人でも大丈夫?」などと過度に心配するような言葉を投げかけていないか見直してみましょう。

また、本人の自発的な行動を否定していないかどうかと併せて、本人の気持ちを無視して、介護者側がやってほしいことを無理にさせようとしていないかも見直すとよいでしょう。

丁寧なコミュニケーションを心がける

攻撃的な言動が起こるきっかけを生じさせないよう、普段から必要に応じて「こちらが何をするつもりなのか」「何をしてほしいのか」を丁寧に伝え、聞き出すことも大切です。

例えば、手助けが必要そうなときは、まず本人に必要かどうか確認を取るとよいでしょう。また、本人が何かをしてほしがっているときは、何を望んでいるのかを焦らず丁寧に順序立てて聞き出してみましょう。加えて、介助時に身体に触れるときは、前もって声をかけることも大切です。

日々の丁寧かつ密接なコミュニケーションは、攻撃的な言動の予防に加え、認知症の方がより快適に毎日を過ごすことにつながり、認知症の進行予防も期待できます。

家族や介護者自身の感情も大切にする

攻撃的な言動にさらされ続けていると、向き合っている家族や介護者自身がストレスを溜め込んでしまう恐れがあるため注意が必要です。

ストレスが蓄積した結果、介護者が抱く負の感情を察知し、認知症の方が負の感情をそのまま暴言や暴力で返してしまうこともあります。

疲労や苛立ち、不安などの感情は大きなストレスとなるため、自分自身の感情にもきちんと向き合い、定期的にストレス解消やリフレッシュの時間を過ごすことが大切です。

認知症の影響による攻撃的な言動には、適切な対処および予防策が重要


認知症の影響により攻撃的な言動が発生した際は、まず「感情を制御できていないのか」「体調が悪いのか」など、何が理由となっているかを把握する必要があります。

そのうえで、本人から距離を取る、必要な治療を受けてもらうなど、状況に合わせた対処法を試みることが大切です。

また、日頃から本人の自尊心を尊重したり、丁寧なコミュニケーションを心がけたりすることで、暴言や暴力を予防できる可能性があるため、対処法と併せて意識しましょう。

攻撃的な言動への対処に限らず、認知症の介護では、ときに施設をはじめとした介護サービスを利用しなければならず、経済的負担が発生するケースも少なくありません。あらかじめ民間介護保険への加入を検討しておくと、いざ介護が必要となった際にも安心です。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年1月26日

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