認知症の人が嘘をつくのはなぜ?
作り話への適切な対応方法


認知症の方がたびたび嘘をつくようになり、周囲が振りまわされてしまうケースは珍しくありません。ありもしない被害を訴えることもありますが、認知症の方本人に説明しても理解されないため、ストレスに感じるかもしれません。

このような嘘や作り話は認知症からくる記憶障害によるもので、一般的な嘘とは別物と考える必要があります。周囲の方は、なぜそのような言動になるのか理解して対処することが大切です。

本記事では、認知症の方がつく嘘の具体例や嘘をつく理由、周囲の適切な対応方法などを解説します。

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嘘をつくのは認知症の人によくある行動の一つ

認知症の方は、事実と異なることを言うことがあります。これは認知症の症状を起因とした行動であり、珍しいケースではありません。ただ、内容によっては「嘘をついている」と周囲が感じてしまう場合もあるため、関係悪化やトラブル防止のためにも、あらかじめ認知症の方の言動パターンについて知っておくとよいでしょう。

認知症の方の作り話によくあるパターンの一つとして「身の回りで起きたことを誰かのせいにする」というものがあります。例えば「引き出しにしまったはずの財布がない。誰かが盗んだ」と物がみつからないのを誰かに盗られたせいにする、食事したのを忘れてしまい「家族が食事を作ってくれない」と主張するなどです。

ほかには、「忘れていることを忘れたと言わずにごまかす」というパターンもあります。例えば、今日の日付を聞かれたのに答えずに用事を思い出したふりで別の場所へ行って戻ってこない、朝食の内容を聞かれて「最近は食が細くて……」などとごまかす(実際は食べたことを忘れている)、などの例が挙げられます。

作り話だとしても会話自体は成立していたり、受け応えがしっかりしていてそれらしい流れに聞こえたりすることも珍しくありません。このような場合、周囲が認知症による症状と気付きにくい可能性もあり、注意が必要です。

認知症の人が嘘をつくのはなぜ?

認知症の方は、なくなってしまった記憶を想像で埋め合わせることがあります。想像は事実と異なる場合も多いため、周囲から見ると嘘をついているように見えるのです。

また、記憶がないことを「忘れた」と思えない、言えない心理が、作り話につながるという側面もあります。記憶がないことに対する不安や、会話している相手への気遣い、おかしいと思われたくないなどの心理です。

「例えば「今朝の食事はおいしかった?」と家族に聞かれた場合、食事の記憶がなくても「せっかく作ってくれたのに」という気遣いから作り話で話を合わせるケースもあるかもしれません。

注意すべきなのは、認知症の方の記憶障害は普通の物忘れと違い、忘れたという自覚を持てない点です。記憶の一部がぽっかりと抜け落ちているような状態になるため、自分のなかで現在の状況とつじつまを合わせようとした結果、それを事実と認識してしまいます。

例えば、駐輪場に停めていたはずの自転車が見当たらない場合、認知症でなくても、とっさに「盗まれた」という想像が働くことはないでしょうか。

通常であれば「そういえば、今日はいつもと違う場所に停めていた」などと気付けるかもしれませんが、認知症の場合はそれができず「盗まれた」という考えでつじつまを合わせてしまうのです。

この症状は、特に信頼している人の前で強く表れがちという特徴があります。外では問題ないのに家では作り話ばかりする、と家族がストレスを感じるケースもあるかもしれませんが、それも認知症の症状であるという理解が必要です。

認知症の人の嘘に対するNG対応3選

認知症の方の嘘をついているような言動に対して、避けたほうが良い対応パターンを3つ紹介します。

嘘を追求する

認知症の方は嘘をついている意識がないため、周囲が「嘘をつかないで」などと責めても意味がありません。本人は事実だと思っているのに嘘だと追及しても「自分を否定されている」という気持ちを与えることにしかならないでしょう。

このような対応を続けると、認知症の方が周囲に敵意を持ってしまいます。また、ストレスによって認知症の進行を早めたり、不安感から余計に作り話がエスカレートしたりと、症状に悪影響をおよぼす可能性もあるため注意が必要です。

説明や説得をする

作り話を責めるのと同様に、冷静に理屈を説明したり嘘をつかないように説得したりするのも意味がありません。

例えば、「財布を盗まれた」と訴えている人に「盗まれていない」という理屈や根拠をいくら説明しても理解は得られないでしょう。本人は盗まれたことが事実だとしか思えないため、説明によってむしろ混乱を招いてしまいます。

プライドを傷つける声かけ

認知症の方が嘘をついていると感じても、幼児に教えるような言葉かけにならないよう気を付けましょう。認知症になってもプライドを失うことはないため、子ども扱いするような対応をすると、ばかにされていると感じさせてしまいます。

認知症の方がたびたび間違っていたとしても、あくまでも大人同士の適切な声かけで接することが大切です。

嘘をついていると感じたときの周囲の適切な対処法6選

認知症の方が作り話をしていると気付いたとき、周囲が理解を持って対処すれば、多くの場合は大きなトラブルや関係悪化などを避けられるでしょう。以下では、周囲のおすすめの対応方法を6つ紹介します。

言葉の背景を理解する

まずは、認知症の方の言葉を「嘘」として扱わないことが大前提です。前述したとおり、作り話の背景には本人なりの事情があります。また、作り話の根底にある、記憶がない不安や自尊心などを想像し、理解に努めることが大切です。

特に、本人のいるところで「嘘ばかりつく」などと発言すると、関係性悪化につながるため避けましょう。

傾聴する

認知症の方の言っていることが事実でなくても、まずは否定せずに話を聞いてみましょう。毎回じっくり話を聞くのは大変なので、時間がないときは「そうなんですね」「大変ですね」などの相づちを打ってさらりと流す対応でも大丈夫です。

聞いている姿勢を見せるだけでも、話している本人に安心感を与えられるでしょう。

なかには自慢話のようになるケースもありますが、アドバイスや賛同は不要なのでそのまま耳を傾けてみてください。

共感する

作り話であっても、その世界を肯定して共感の姿勢を持つことが大切です。理解が難しいと感じたときは、認知症の方の立場を実際に自分に置き換えて考えてみるとよいでしょう。

前述した自転車が見当たらない場合の例のように、「盗まれた」などの発言があっても、「そう考えるのも無理はない」と理解して対応することが必要になります。

そのうえで共感を示し、自分は理解されている・うれしいと感じそうな言葉をかけると本人の気持ちも落ち着くでしょう。

例えば、物を盗られたなど架空の被害を訴えたときは間違いを指摘するのではなく、「一緒に探しましょう」や「もう大丈夫」という声かけにもっていくのがおすすめです。

話題を変える

傾聴と共感の姿勢で話を聞いても本人が落ち着かない場合は、うまく話題を変えるのも一つの手です。「そうなんだね。そういえば昨日のテレビで……」などと、本人が興味を持ちそうな話題を投げかければ、気分が変わるケースもあります。

また、別の話題によって少し時間を空けることも、本人の気持ちを落ち着かせるのに有効でしょう。

周囲に打ち明けておく

可能であれば、日頃接点の多い近所の人などには、家族から認知症の症状について打ち明けておくのもおすすめです。

大切な物が見当たらないなど、認知症の本人が困ることが起きたとき、近隣住民や家族のせいにする発言はありがちで、場合によってはトラブルにもなりかねません。あらかじめ事情を説明しておけば、近隣とのトラブルや誤解の予防になるでしょう。

介護サービスを積極的に活用する

認知症の方が穏やかに生活するためには、周囲が話を合わせることも必要です。そのため、一緒に住んでいる家族にとっては真実でないことに同調せざるを得ないシーンも増えてくるかもしれません。

ただ、関係や心理的距離が近い家族だからこそ、作り話に対して傾聴や共感などをベースとした対応を日々続けるのは難しいものです。

このような状況では、積極的に介護のプロに頼ることも大切です。家族だとどうしても感情的になってしまいがちな場面でも、認知症を理解した介護のプロであれば適切に対応できるでしょう。

また、デイサービスなどの活用や利用回数を増やすことで認知症の方との接触頻度を下げるのも、双方のストレスを軽減して穏やかに暮らすためには有効な方法です。

認知症の方が嘘をつく背景を理解して対応しよう


認知症の方の作り話は悪意によるものではなく、認知症の記憶障害によるやむを得ないものです。

記憶がない部分を作り話によって補完しているケースや、記憶がない不安感からごまかすような態度をとるケースがありますが、周囲はその背景を想像して共感することが大切です。

周囲の理解が不可欠ではありますが、必要に応じて介護サービスなども活用しつつ、できる限り無理のない対応を心がけるとよいでしょう。

 

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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年6月4日

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