認知症と年齢—70歳が分岐点?
認知症のサインと予防法を専門家が解説


70歳を迎えると認知症になる人が多いといわれていますが、実際はどうなのでしょうか。

高齢になるにつれて認知症の有病率は高くなる傾向にあるものの、その理由は1つではありません。そのため、あらゆる視点から認知症のことを理解することが大切です。

この記事では、認知症における世代ごとの有病率や原因などを解説します。また、高齢ではなくても発症する「若年性認知症」と高齢者の認知症の違いも併せて解説するので、認知症への理解を深めたい方はぜひ参考にしてください。

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認知症は70歳から増加傾向|世代別の有病率

まずは、高齢者の認知症有病率を確認してみましょう。

年齢層

男性

女性

全体

6569

1.5

1.6

1.5

7074

3.4

3.8

3.6

7579

9.6

11.0

10.4

8084

20.0

24.0

22.4

8589

35.6

48.5

44.3

90歳以上

42.4

71.8

64.2

出典:厚生労働省「認知症施策の総合的な推進について(参考資料)」一万人コホート年齢階級別の認知症有病率

65~69歳では全体の1.5%であり、ほとんどの人は認知症になっていません。しかし、70代を迎えると2.4倍に増加していることがわかります。

2012年の段階では、約462万人(65歳以上の約7人に1人)と集計されている認知症患者数は、2025年には約730万人、2030年には約830万人(65歳以上の約5人に1人)にのぼると予測されています。

出典:65歳以上を対象として各年齢の認知症有病率が上昇する場合の数値を使用
内閣府「平成29年版高齢社会白書」、首相官邸認知症施策推進関係閣僚会議(第2回)資料、厚生労働省老健局 社会保障審議会介護保険部会(第92回)「介護保険制度をめぐる最近の動向について」より当社推計

また、2025年頃に認知症患者数の増加が予測されており、その背景には第一次ベビーブームに生まれた団塊の世代が後期高齢者になることが関係していると考えられます。そのため、2025年に70代半ばを迎える人にとっては、身近な問題に感じるでしょう。

認知症患者が70歳から増加するのはなぜ?

年齢を重ねるにつれて、糖尿病や高血圧といった生活習慣病などの病気に悩まされる人が増える傾向にあります。認知症は、さまざまな病気を発端に発症するとされており、70歳から認知症患者が増加するのは、このような影響もあるでしょう。

また、認知症を発症する可能性がある要素としては、ストレスホルモンの蓄積も挙げられます。70歳を迎え、すでに仕事のストレスから解放されている人もいるでしょう。一方で、日常生活のなかで生じるストレスの行き場は失われてしまう可能性があるため、溜め込んでしまうリスクに注意が必要です。

ほかにも、アルツハイマー型認知症の原因の一つ「アミロイドβ」が蓄積することで、脳機能の低下につながる可能性があります。アミロイドβが蓄積する明確な原因はわかっていませんが、20年以上の時間をかけて蓄積される物質のため、認知症は早めの予防が大切です。

若年性認知症と高齢者の認知症の違い

70歳未満など、比較的若い世代で発症する認知症のことを「若年性認知症」といいます。なぜ若年性認知症に罹患するのかという明確な原因は、いまだによくわかっていません。

ここでは、若年性認知症と高齢で発症する認知症との違いを解説するので、どのような違いがあるのかを確認しておきましょう。

1.発症する年齢

呼び名から読み取れるように、若年性認知症とは比較的若い世代で発症する認知症のことです。推定発症年齢の平均は※54.4歳と、まだ働き盛りといえる年齢に発症する傾向にあります。
あくまでも発症年齢で区分しているものであり、認知症の種類や症状は高齢になってから発症する認知症とほとんど変わりません。そのため、若年性認知症の原因疾患の多くは、アルツハイマー型認知症、次いで脳血管性認知症や前頭側頭型認知症となっています。

2.男女の有病率の割合

日本医療研究開発機構(AMED)によれば、全国の若年性認知症者数は3.57万人、18~64歳の人口10万人あたりにおける若年性認知症の有病率は50.9人と推計しています。

出典:厚生労働省「若年性認知症実態調査結果概要(R2.3)」
国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業「令和2年 若年性認知症の有病率・生活実態把握と多元的データ共有システムの開発」

前述したように、高齢者の認知症では女性の有病率が高い傾向でしたが、若年性認知症の有病率は男性のほうが高い傾向です。54.4歳という発症平均年齢を踏まえると、働き盛りというだけでなく責任のある仕事を担っている世代の人もいることが予想されます。

3.経済的な問題

働き盛りの世代の方が若年性認知症を発症した場合、仕事を辞めざるを得ない状況になる可能性が高いと考えられます。

さらに、若年性認知症を発症した方の介護にあたる人がパートナーである場合、仕事との両立が難しくなりパートナーの収入が減少する可能性もあるでしょう。

総合的に考えると、若年性認知症を発症した場合、高齢者の認知症よりも経済的な問題につながる可能性が高いといえるのです。

年齢も関係ある?「認知症による物忘れ」と「加齢による物忘れ」の違い

認知症を疑う症状の一つとして「物忘れ」が挙げられます。70歳という年齢を考慮した場合、認知症が原因なのか加齢が原因なのか判断が難しいものです。

ここでは、認知症による物忘れと加齢による物忘れの違いを解説します。物忘れに不安を感じている方は確認しておきましょう。

認知症による物忘れの特徴

認知症による物忘れの特徴としては、以下のようなことが挙げられます。
  • 新しいものごとを覚えられない
  • 体験したことをすべて忘れる
  • ヒントを与えられても思い出せない
  • 場所や日付などがわからない など
物忘れの症状はあっても、本人が自覚していないために受診に至らないことも珍しくありません。

ほかにも、知人と約束したことを覚えていなかったり食事をしたこと自体を覚えておらず何度も食事を催促したりすることもあります。このような症状が出ることから、認知症による物忘れは日常生活に支障をきたす可能性が高いでしょう。

加齢による物忘れの特徴

加齢による物忘れの特徴としては、以下のようなことが挙げられます。
  • 体験したことの一部が思い出せない
  • ヒントを与えられれば思い出せる
  • 場所や時間などがわかる など
認知症による物忘れとの違いは、物忘れを自覚していることです。

例えば、認知症の人が財布を紛失した場合、しまった場所を忘れただけだとしても、誰かに盗まれたと疑うことがあります。一方の加齢による物忘れは、財布をどこかにしまった記憶はあり、しまった場所を自分が失念しているだけであると自覚しています。

また、認知症の場合は症状の進行が見られますが、加齢による物忘れでは症状の進行や悪化が認知症ほど顕著ではありません。

70歳を迎える前に認知症を発見できれば治療できる可能性はある?

認知症には、治療できる可能性があるものと、ないものがあります。

脳血管性認知症や正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などは、予防することや治療することが可能です。アルツハイマー型認知症や前頭側頭型認知症、レビー小体型認知症などは、根本的治療法が現状では確立されていません。

完治を目指すことが難しい認知症はあるものの、早期発見や早期治療によって進行を抑えたり症状を緩和できたりする可能性が高まります。そのため、認知症が疑われる場合は早めに受診するのがおすすめです。

70歳からでも無理なく行える認知症対策

すでに70歳を迎えていても、以下のような予防対策は無理なく行え、有効です。
  • 適度な運動を行う
  • 飲酒や喫煙を控える
  • バランスの良い食生活をする
  • 適度な昼寝をする など
上記のような生活習慣の見直しのほか、<em>精神的にリフレッシュになるような対策を取り入れて、ストレスを溜めないよう意識することも大切</em>です。 例えば、家族や知人と会話したり、パズルなど脳トレになるような趣味を作ったりすることで、脳の健康維持に役立ちます。 発症リスクを抑えるという意味では、40代や50代から対策を講じても早すぎるということはありません。そのため、早めの対策を検討するのが望ましいでしょう。

認知症は70歳を迎える前から対策することで進行の抑制につながる


認知症は、病気や老化が顕著になりやすい70歳から増加する傾向にあります。また、ストレスホルモンも脳に悪影響をおよぼすため、可能な限りストレスを溜め込まないことが大切です。

認知症のなかには治療できるものもありますが、根本的治療方法が確立されていないものもあります。70歳を迎えてからでも可能な対策はありますが、より早い段階から対策を講じることが重要です。

「早すぎるかな?」ということはありませんので、早めの対策を心がけましょう。

 

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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年7月2日

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