認知症による尿失禁はなぜ起こる?
原因と6つの予防策を知ろう


認知症の進行にともなって尿失禁が起こると、家族や介護する方はその対応に悩むことが多くなるでしょう。尿失禁は、原因を理解することで予防や対処が可能です。適切な対応方法がわかれば、本人の自尊心を守りつつ、介護する方の負担を軽減できます。

この記事では、認知症による尿失禁の原因や具体的な予防策について詳しく解説します。介護する方が気を付けるべき対応ポイントも紹介するため、適切なケア方法が知りたい方はぜひ参考にしてください。

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なぜ認知症で尿失禁をしてしまうの?

認知症の方が尿失禁をしてしまうのは、身体的機能に問題があるのではなく、脳の機能低下が原因です。以下では、尿失禁をしてしまう理由を詳しく解説します。

尿意を自覚できないため

認知症の方が尿失禁をしてしまう理由の一つは、尿意を自覚できなくなるからです。通常、膀胱に尿が溜まるとその情報が大脳に伝わり、トイレに行くよう指令が出されます。しかし、認知症になると伝達がうまくいかず、尿意を感じないまま尿失禁を引き起こしてしまいます。

認知症による尿失禁は「機能性尿失禁」と呼ばれます。本人がトイレに行く必要性を認識できないため、介護する方も対応が難しいのが課題です。

トイレの場所や使い方がわからなくなるため

もう一つの理由として、認知症の方はトイレの場所がわからなくなってしまうことがあります。また、便器の使い方や水を流す方法など、使用方法・手順を忘れてしまうケースも少なくありません。

尿意を感じていても下着の下ろし方がわからなかったり、便器であることを認識できなかったりして尿失禁につながることもあります。

認知症の進行段階と尿失禁の関係

アルツハイマー型認知症では進行段階が7つに分類されており、尿失禁はそのなかで「6段階:高度の認知機能の低下」に該当します。理解力や判断力が著しく低下しており、日常生活でも大きな支援が必要な状態です。

尿失禁の症状がある方は、日常生活で以下のような支障をきたすこともあります。
  • 適切なものを選べない:食事の際にフォークで汁物を食べようとする
  • 道具の扱い方がわからない:電子レンジを使った食事の温め方が理解できない
  • 適切な手順で物事を進められない:料理の手順がわからず、食材を生のまま皿に盛り付ける
ほかにも、周囲の環境を認識できず、徘徊や昼夜逆転といった症状が現れるケースもあります。尿失禁を予防するためには、介護する方が認知症の方をしっかりサポートする必要があるでしょう。

認知症による尿失禁の予防策6選

認知症による尿失禁を防ぐために、日常生活のなかでできる予防策があります。ここでは、尿失禁の予防に有効な6つの方法を解説します。

トイレのサインを見落とさないよう注意する

認知症の方はトイレに行きたいときに言葉ではっきりと伝えられないことがあるため、小さなサインを見落とさないようにしましょう。「落ち着きがない」「物陰に隠れている」などの行動が見られたときは、トイレに行きたいサインである可能性があります。

サインの出し方は個人によって異なるため、普段の様子をよく観察し、その方特有の合図を把握しておくことが大切です。普段と違う行動が見られた場合は、トイレに行きたいかどうかを聞いてあげるとよいでしょう。

トイレの表示をわかりやすくする

認知症の方がトイレを簡単に見つけられるように、表示をわかりやすくしておきましょう。例えば、ドアに大きな文字で「トイレ」と書いた紙を貼ったり、便器のイラストを使ったりすると、視覚的に見つけやすくなります。

また、トイレのドアを開けたままにして、廊下から便器が見える状態にしておくのも効果的です。夜間はトイレまでの道順に明かりをつけておき、場所や距離を把握しやすいようにしておくのも良いでしょう。視覚的な工夫によって、自立してトイレを利用しやすくなります。

定期的にトイレに行く時間を設ける

尿失禁を防ぐには、定期的にトイレに行く時間を設けることが重要です。起床後や食後、2時間ごとなど、決まったタイミングでトイレに誘導することで尿失禁のリスクを減らせます

また、本人が尿意を感じていなくても、声をかけてトイレに連れて行くと排泄する場合があります。水分摂取量や排尿パターンを記録しておくと、適切なタイミングを見つけやすくなるでしょう。行動パターンを把握し、尿失禁を未然に防ぐ対応を心がけましょう。

トイレの環境を整える

認知症の方が安全にトイレを使用できるよう、環境を整えることも重要です。認知機能が低下すると、ゴミ箱や植木を便器と認識してしまうケースがあります。また、トイレの床にマットが敷かれていると、滑って転んでしまう恐れがあります。

トイレの安全性を高めるには、便器と誤認しやすい家具やインテリア、転倒のおそれがある敷物を置かないことが大切です。さらに、転倒リスクを減らすため、便座を高くしたり壁に手すりを設置したりすることも有効です。

着脱しやすい服を選ぶ

服の着脱で手間取ってしまい尿失禁につながるケースがあるため、普段から本人が着慣れている服を選ぶことが重要です。

具体的には、ボタンやファスナーの位置がわかりやすく、簡単に脱ぎ着できる服を選ぶとよいでしょう。ベルトやバックルが必要なズボンは避け、ゴムウエストなど上げ下げが簡単な服を選ぶのがおすすめです。

トイレに行きたい気持ちを伝えるよう促す

尿失禁を防ぐには、介護する方が「トイレに行きたくなったら、遠慮せずに教えてください」と伝えることも大切です。認知症の方は、トイレの介助を受けることに恥ずかしさを感じ、トイレに行きたい気持ちをうまく伝えられないことがあります。

介護する方が普段から積極的に声かけしておくと、認知症の方は安心感を覚え、トイレに行きたい気持ちを伝えやすくなるでしょう。

認知症の方が尿失禁した際の対応ポイント

認知症の方が尿失禁した際、対応方法を間違えると本人の自尊心を傷付けてしまいます。対応のポイントを知り、介護に活かしましょう。

怒らず穏やかに対処する

認知症の方が尿失禁をしてしまっても、怒らず穏やかに対応することが大切です。尿失禁すると本人は羞恥心にさいなまれ、自尊心が大きく傷付きます。そのうえ尿失禁したことを怒ってしまうと、強いストレスを与えかねません。

尿失禁してしまった際は優しく声をかけ、失敗を責めないようにしましょう。穏やかに接すれば認知症の方は安心でき、次回のトイレ誘導がスムーズに進む可能性が高まります。

介助を通じて自立をサポートする

身体が動く認知症の方に対しては、なるべく自分でトイレを利用できるように介助することが大切です。一度失敗したからといってすぐオムツやパッドを使うのではなく、できる限り自立を促しましょう。自立して行動できると自尊心が保たれ、本人の精神的な健康を守れます。

トイレまでの移動が難しい場合には、ポータブルトイレを活用するのも効果的です。ただし、慣れないものを導入する際は、介護する方が使い方をサポートしてあげましょう。

専門家の支援を活用する

介護が精神的にも肉体的にも大きな負担となっている場合は、無理をせず専門家の支援を活用しましょう。ケアマネジャーに相談したり、ショートステイや訪問介護サービスを利用したりすることで、介護の負担を軽減できます。

排泄ケアはデリケートな問題なので、周囲の人には相談しにくいこともあるでしょう。しかし、一人で抱え込むと介護する方の心身がもたなくなります。専門家の助けを借りれば、介護者の負担軽減や介護の質の向上につながるでしょう。

尿失禁と認知症の関係を理解して適切に対処しよう


認知症による尿失禁は、脳の機能低下によって尿意を自覚できなかったり、トイレの場所や使い方を忘れてしまったりすることで起こります。「視覚的に工夫してトイレを見つけやすくする」「定期的にトイレに連れて行く」などの対策をすれば、尿失禁のリスクを減らせます。

また、尿失禁してしまった際には怒らず穏やかに対応し、本人の自尊心を守りつつ介助を行うことが大切です。介護が負担となっている場合は、専門家の支援を活用して一人で抱え込まないようにしましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年10月3日

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