認知症の症状の一つに「保続(ほぞく)」と呼ばれるものがあります。脳の損傷などにより思考の切り替えが困難になるため、同じ言葉や行動を繰り返してしまう症状です。頭を切り替えるのが難しくなるため、何度も同じ話をしてしまいます。
見当識障害も認知症で見られる症状の一つであり、時間の感覚があいまいになることで「いつ話したか」「何回話したか」などの把握が難しくなります。そのため、まるで初めて話したかのように同じ話を繰り返してしまいます。
また、「今日は何をする日なのか」「なぜここにいるのか」がわからなくなり、不安感から同じ質問を繰り返す場合もあります。
認知症の方は出来事の詳細を忘れてしまっても、そのときに感じたうれしさや不安といった感情は残りやすいとされています。そのため、強い感情をともなった出来事は印象深い記憶として残り、繰り返して話す傾向にあります。
また、同じ話をする背景には「気持ちをわかってほしい」「共感してほしい」という思いが隠れている場合もあります。
認知症の方が同じ話を繰り返すとき、周囲の対応によっては、本人の不安や混乱を強めてしまう場合もあります。同じ話を繰り返す相手に対して、やってはいけない対応はおもに3つです。
同じ話を繰り返し聞かされていると、イライラしてしまい「その話、さっきも聞いたよ」と強く指摘したくなるかもしれません。しかし、強く指摘すると認知症の方は「責められた」と感じてしまい、不安や混乱につながる可能性もあります。
本人は話をしたという行為自体を忘れていることが多いため、悪気があるわけでも、わざとやっているわけでもありません。強く指摘するのではなく、落ち着いて受け止める姿勢を意識しましょう。
事実と異なる内容であっても、頭ごなしに「違う」と否定することは避けましょう。認知症の方の発言には、本人なりの認識や感情があります。そのため、否定されると不安や混乱を強めてしまうことがあります。
「否定された」「怒られた」という嫌な感情だけが残り、本人の失敗体験として記憶されてしまう可能性もあるので、注意しましょう。
何度も繰り返される話に疲れやストレスを感じると、話を聞き流したくなるかもしれません。しかし、無視を繰り返したり完全に無反応だったりすると「自分は必要とされていないのでは」と、認知症の方の孤独感につながることもあります。
同じ話をするという行為自体が本人にとっての安心材料になっている可能性もあります。「そうなんだね」「それは大変だったね」など、短い相づちだけでも行うことで、本人の安心につながるでしょう。
同じ話を繰り返す認知症の方に、どう対応すれば良いか悩むこともあるでしょう。以下では、本人と家族の双方が負担を減らすための対処法を紹介します。
本人の話を注意したり否定したりしてはいけません。相手の話をしっかりと聞き、理解を示す姿勢が大切です。
認知症の方にとって、話すことそのものが安心を得るための重要な行為となる場合もあります。相手の気持ちを受け止めて共感し、本人の気持ちに寄り添いましょう。寄り添う気持ちは相手との信頼関係を築くきっかけにもつながります。
ただし、毎回同じ話に丁寧な対応をし続けるのは、家族にとって大きな負担になりかねません。無理のない範囲で話を聞きながら、家族自身の心身の負担にも配慮することが大切です。
同じ話をし始めたら、さりげなく別の話題へとつなげるのも効果的です。その際は、話している内容に出てくるキーワードを拾い、話題を広げるとよいでしょう。例えば、昔住んでいた場所の話であれば、その場所はどのようなところだったのかなど、話を広げることで、自然に別の会話へ移りやすくなります。
話を広げられるキーワードが見つからないときは、「お散歩に行く?」「テレビ見る?」など、別の物や場所へと関心が向くようなきっかけを作るのも方法のひとつです。