世帯分離とは、同じ住所に住み続けたまま、住民票上の世帯を分ける手続きのことです。同居している親子でも、生計が別であると認められる場合は別世帯にできる可能性があります。
なお、住民票上の世帯と税法上・健康保険上の扶養とは制度が異なります。それぞれの違いは次のとおりです。
| 制度 |
判定のおもな基準
|
世帯分離の影響
|
| 住民票上の世帯
|
住居と生計をともにしているか
|
世帯分離によって住民票上は別世帯となる |
| 税法上の扶養 |
生計を一にしているか |
別世帯でも、生計を一にしていれば「扶養控除」を適用できる場合がある |
| 健康保険上の扶養 |
収入や生計維持関係などを
満たすか
|
自動的に扶養から外れるわけではないが、収入や生計維持関係などをもとに保険者が判定する |
このように、世帯分離をしたからといって、税金や健康保険上の扶養関係まで自動的に変わるわけではありません。世帯分離を検討する際は、「どの制度に影響するのか」を正しく理解したうえで判断することが大切です。
「世帯分離をすると、介護保険料や介護にかかる費用が安くなる」と聞いたことがある方もいるかもしれません。
世帯分離によって負担が軽くなる可能性があるのは、公的介護保険のなかに、本人の所得だけでなく、世帯の住民税課税状況などをもとに負担額を決める仕組みがあるためです。
例えば、親の所得が少なく住民税が非課税でも、同一世帯の子どもに住民税が課されている場合、「同じ世帯に住民税課税者がいる」として扱われることがあります。しかし、世帯分離によって親の世帯が住民税非課税世帯と判定されれば、介護保険料などの所得段階や負担区分が下がり、費用負担が軽くなる可能性があるのです。
それでは、世帯分離によってどのような費用の負担を軽減できるのでしょうか。影響する可能性があるのは、おもに次の3つです。
| 項目 |
対象となる場面 |
世帯分離の影響 |
| 65歳以上の介護保険料 |
介護保険料を支払うとき |
介護保険料が軽減される
場合がある
|
| 高額介護サービス費 |
介護サービスを利用しているとき |
自己負担上限額が下がる
場合がある
|
| 特定入所者介護サービス費
(補足給付)
|
公的介護施設への入居や
ショートステイを利用しているとき
|
食費・居住費(滞在費)が
軽減される場合がある
|
それぞれ、順に解説します。
65歳以上の介護保険料は、「市区町村ごとの基準額×保険料率」で算出されます。保険料率は所得段階によって異なるため、
世帯分離によって所得段階が下がった場合は、介護保険料が軽減される可能性があります。
一方で、親本人の所得が一定以上ある場合や、世帯分離をしても所得段階が変わらない場合は介護保険料に影響しないこともあるため、注意が必要です。また、介護保険料の所得段階や基準額は市区町村ごとに異なるため、軽減される金額も一律ではありません。
介護保険料の仕組みについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
介護保険料の計算方法は?年齢別のシミュレーションや納付方法も紹介
高額介護サービス費の自己負担限度額が下がる場合がある
介護サービスを利用し、1カ月に支払った自己負担の合計が自己負担限度額を超えた場合、「高額介護サービス費」として超過分の払い戻しを受けられます。
自己負担限度額は、所得区分や世帯の住民税課税状況によって異なります。例えば、住民税課税世帯で課税所得が380万円未満の場合の限度額は月4万4,400円ですが、世帯全員が住民税非課税の場合は月2万4,600円です。そのため、世帯分離を行って住民税非課税世帯に該当すると限度額が下がり、介護サービスの自己負担額が軽減される場合があります。
特定入所者介護サービス費によって食費・居住費を抑えられる場合がある
特別養護老人ホームなどの公的介護施設への入居やショートステイを利用した場合、食費や居住費(滞在費)は原則として自己負担です。
しかし、世帯全員(世帯分離している配偶者を含む)が住民税非課税で、かつ所得や預貯金などの資産が一定以下であれば、「特定入所者介護サービス費(補足給付)」によって食費や居住費(滞在費)の負担を軽減できる可能性があります。
なお、特定入所者介護サービス費の自己負担限度額は所得段階や利用する介護施設の形態、部屋の種類などによって異なります。
必ず費用負担が減るわけではない?世帯分離のデメリット
世帯分離をしても、必ず費用負担が軽くなるとは限りません。世帯における介護サービス利用状況や所得によっては、期待した効果が得られない場合もあります。
そのため、世帯分離を検討する際は、メリットだけでなくデメリットも理解したうえで、慎重に判断することが重要です。
制度によっては、世帯分離をすることで、かえって費用負担が増えることがあります。
高額介護サービス費は、同一世帯で複数人が介護サービスを利用している場合、世帯内の自己負担額を合算して上限額を判定します。そのため、介護サービスを利用している家族同士で世帯分離をすると、それまで合算できていた自己負担額が世帯ごとに判定されることになります。その結果、払い戻される金額が減り、家計全体で見ると介護費用の負担が増えることがあるため、注意が必要です。
国民健康保険料の算定方法は、市区町村ごとに異なります。世帯ごとに平等割を課している市区町村では、世帯が分かれることで家計全体の保険料が増えるケースがあります。
世帯分離によって別世帯になると、本人に代わって各種行政手続きを行う際に、委任状の提出を求められるなど、これまでより手間がかかる場合があります。
また、市区町村からの通知はそれぞれの世帯主宛てに送付されるため、書類の管理・確認が煩雑になることもあるでしょう。
親の介護や行政手続きを日常的にサポートしている場合は、こうした負担も考慮したうえで世帯分離を検討することが重要です。
世帯分離は、市区町村へ届け出れば必ず受理されるとは限りません。手続きをする前に、以下のポイントを押さえておきましょう。
世帯分離は、住民票上の世帯を実際の生活状況に合わせるための手続きです。そのため、同じ住所に住んでいても、それぞれが自分の収入で生活し、生活費や家計を別々に管理しているなど、生計が実際に分かれていることが前提となります。
届け出の際には、生活状況などについて確認を求められる場合もあります。介護費用の負担軽減だけを目的とするのではなく、実際の生活実態に基づいて世帯分離の手続きを行うことが大切です。
先に述べたように、世帯分離によって、親の介護保険料や介護サービス費などの負担が軽減される可能性があります。
一方で、扶養者である子どもを含めた世帯全体で見ると、子どもが勤務先から受け取っている家族手当がなくなる可能性があるなど、かえって家計の負担が増えるケースもあります。そのため、世帯分離を検討している場合は、家計全体への影響を確認したうえで手続きを進めることが大切です。
判断に迷う場合は、市区町村の窓口に相談し、世帯分離による影響を事前に確認するとよいでしょう。
子どもが会社の健康保険組合に加入し、親を扶養に入れている場合も要注意です。
世帯分離をきっかけに、実際の生計関係や収入、同居状況などを踏まえて扶養認定が見直されることがあります。親が扶養から外れて国民健康保険へ加入することになった場合、新たに保険料の負担が生じる可能性がある点に注意しましょう。
さらに、子どもが親を扶養している場合、世帯分離にともなって実際の生計が別になり、「生計を一にしている」などの要件を満たさなくなれば、税法上の扶養控除の適用を受けられなくなるケースもあります。
世帯分離は、住民票のある市区町村の窓口で手続きを行います。手続きの流れは、次のとおりです。
-
必要書類を準備する
-
市区町村の窓口に書類を提出する
実際に生計を別にした日などの変更があった日から14日以内に市区町村の窓口に届け出る必要があります。
手続きに必要となるおもな書類と持ち物は以下のとおりです。
必要書類は市区町村によって異なるため、事前に確認しておきましょう。ケースによっては、新たに国民健康保険へ加入するための手続きが必要になることもあります。