介護退職を考える前に
経済的・社会的リスクを回避するための介護者の支援制度


「親の介護が始まったら仕事を辞めなければならないのではないか」「仕事を続けながらの介護は体力的に厳しい」と考えている人は多いのではないでしょうか。しかし、介護退職には多くのリスクがともない、本当に辞めざるを得ない状況でない限りはあまりおすすめできません。

本記事では、介護退職の現状と介護退職のリスク、介護と仕事を両立するための支援制度、介護退職を考える前にできることについて解説します。

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介護退職の現状

働きながら介護をすることは難しいのでしょうか。
どれくらいの人が介護を理由に退職しているのか、どのような理由で介護退職に至るのか、まずは介護退職の現状についてみていきましょう。

介護退職をしている人はどれくらい?

総務省の「令和4年 就業構造基本調査」によると、2022年に「介護・看護のため」を理由に離職した人はおよそ11万人にのぼりました。15歳以上で介護をしている人は629万人、そのうち有業者は365万人です。すなわち、介護者の半数以上が働きながら介護しているということになります。

また、男女別で見ると、介護退職者数は女性のほうが多く、有業者数は男性が多い傾向にあります。しかし、2017年から2022年の5年間で女性の有業率は、30歳未満を除くすべての年代で上昇傾向です。

かつては、夫婦で介護を行う場合、収入が高い男性は仕事を続け、女性は仕事を辞めざるを得ないという風潮が一般的でした。しかし近年では、女性の社会進出や雇用機会均等に関するさまざまな法整備が進み、男性との所得格差は徐々に縮まってきています。

こうした社会の変化にともない、女性も働きながら介護を行えるような環境になってきているといえるでしょう。

介護退職の理由

厚生労働省による、令和3年度「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 報告書 労働者アンケート調査結果」によると、介護退職に至った理由はおもに以下の4点に分けられました。
  • 勤務先の問題
  • サービスの問題
  • 家族・親族等の希望
  • 自分の希望
このうち「勤務先の問題」の割合が43.4%と最も多く、具体的には「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業等を取得しづらい雰囲気があった」という理由が挙げられています。次に多かったのが30.2%の「サービスの問題」で、「介護保険サービスや障害福祉サービス等が利用できない・利用方法がわからない」という理由でした。

「自分の希望(仕事を続けたくなかった)」は22.0%で、「家族・親族等の希望」は20.6%となっています。
介護退職をした方の多くは、仕事と介護の両立が難しいと感じているようです。

介護退職のメリット

介護を理由に退職する場合のメリットは、おもに以下の2点です。
  • 時間的・精神的な余裕が生まれて負担が減る
  • 介護費用を削減できる
それぞれ詳しくみていきましょう。

時間的・精神的な余裕が生まれて負担が減る

介護と仕事を両立するストレスから解放されるという点は、介護退職の大きなメリットでしょう。

退職すれば介護に専念できるため、時間的にも精神的にも余裕が生まれるようになります。特に、仕事が忙しくて十分な介護ができていないと罪悪感を抱えていた場合、気持ちが楽になるでしょう。また、要介護者を常にみていられるという安心感や、コミュニケーションが増えることによって良好な家族関係にもつながります。

介護費用を削減できる

訪問看護やデイサービスなど外部の介護サービスを利用していた場合、退職して自ら介護することで介護費用を抑えられる点もメリットです。

プロの介護士による手厚い介護サービスを利用するとなると、場合によっては数百万円という高額な費用がかかるケースもあります。家族中心に介護しつつ、比較的負担の軽い公的介護保険を利用すれば、介護費用を最小限に抑えられるでしょう。

また、介護を理由とした退職であれば、失業保険や「家族介護慰労金」の支給対象となる場合があります。家族介護慰労金は、要介護度4~5の要介護者を介護する同居家族に支給される慰労金で、支給金額や支給条件は居住している自治体によって異なります。

できる限り費用が抑えられるに越したことはありませんが、要介護者に寄り添った十分な介護が行えるかという視点は忘れないようにしましょう。

介護退職の3大リスク

介護退職を選択することにはリスクもともないます。特に影響が大きいのは以下の3点です。
  • 収入減少による経済的負担
  • 復職が困難になる
  • 精神的負担が大きくなる
それぞれ詳しく解説します。

収入減少による経済的負担

退職すると収入が途絶える一方で、生活費や介護費などの支出のみが増えていく状況になります。介護には介護用品の購入や介護サービスの費用が必要ですが、これらを預貯金や親の年金だけでやりくりしていかなければなりません。そのため、これまでと同じ生活の維持が困難になることは避けられないでしょう。

これまでの貯蓄で何とか親の介護は行えたとしても、今後の貯蓄ができなければ自分自身の老後資金が不十分になってしまう恐れがあります。経済的負担が増えるリスクをよく考え、介護退職という選択肢が正しいかどうかを判断する必要があるでしょう。

復職が困難になる

介護のために一度退職して、仕事をしない期間が続くと再就職が難しくなります。特に、介護退職が多い傾向にある40代~50代という年齢になると、再就職できたとしても役職や年収は離職前より下がりやすくなります。

また、離職期間が長くなればなるほど働く意欲が低下し、そのまま復職を諦めるというケースも少なくありません。介護に支障が出ないペースで働くとなると、収入減になることもやむをえないでしょう。これまで築いてきたキャリアを失うリスクもよく考えて、介護退職を検討する必要があります。

精神的負担が大きくなる

仕事をしていると多くの人と関わりますが、介護退職をすると家族など限られた人としか接点がなくなりがちです。そのため、社会から孤立したような気持ちになり、精神的な負担が大きくなる可能性があります。

また、収入源がなくなれば、生活費や介護費用を切り詰めようと考えるかもしれません。そうなると、経済的負担からくる不安はもとより、家族に申し訳ないという感情も強くなってしまうでしょう。加えて、介護疲れからくる心労によってうつ病などの精神疾患を発症し、最悪の場合、介護放棄につながってしまう恐れもあります。

介護していくうえでの不安を緩和するために介護退職したにもかかわらず、逆に精神的負担が大きくなってしまっては本末転倒です。本当に仕事を辞めなければならないかどうか慎重に見極めるようにしましょう。

知っておきたい6つの介護者向け支援制度

国では、仕事と育児・介護を両立できるようにするため、育児や介護を行う人の支援を目的とした「育児・介護休業法」を定めています。この法律に基づいた以下のような支援制度を上手に活用すれば、介護退職せずとも仕事と介護の両立が可能です。
  • 介護休業
  • 介護休暇
  • 介護のための短時間勤務制度等の措置
  • 所定外労働の制限(残業免除)
  • 法定時間外労働の制限
  • 深夜業の制限
具体的な内容を一つずつ詳しくみていきましょう。

介護休業

介護休業とは、要介護状態の家族を介護するために、労働者が長期的に休日を取得できる制度です。要介護者1人につき、要介護状態に至るごとに3回までを上限とし、通算で93日まで取得できます。介護と仕事を両立するための準備期間として、まとまった長期休みを取りたい場合におすすめです。

介護休業を取得すると、休業開始前の給与水準の67%相当額にあたる「介護休業給付金」の支給を受けられます。ただし、休業中に支払われた給与がある場合、減額もしくは支給できない場合があるため注意が必要です。

介護休暇

介護休暇とは、要介護状態の家族を介護するために、労働者が短期的に休日を取得できる制度です。要介護の家族が1人の場合は年5日、2人以上の場合は年10日を限度として、時間単位から取得が可能です。そのため、通院の付き添いやケアマネジャーとの面談など、突発的な用事や短時間で済む用事などに活用できます。

介護休暇中に給与が支払われるか否かについての法的な規定はないため、会社が定める就業規則などに従いましょう。

介護のための短時間勤務制度等の措置

育児・介護休業法では、労働者が介護をするため、会社側は介護休業とは別に以下のいずれかの制度を少なくとも1つは設けなければならないと定められています。
  • 短時間勤務
  • フレックスタイム制
  • 時差出勤
  • 介護費用の助成措置
いずれの制度も、要介護者1人につき、利用開始日から連続する3年以上の間で2回以上取得が可能です。活用例としては、連続して3年間利用するケースや、介護休業の前後で取得するケースなどがあります。

所定外労働の制限(残業免除)

所定時間外労働の制限とは、「要介護状態の家族を介護する」という理由であれば、所定外労働が制限される制度です。所定外労働とはいわゆる「残業」のことを指します。

1回につき、1カ月以上から1年以内の期間で利用でき、回数制限はありません。ただし、事業活動に支障が出ると判断した場合、事業主は労働者の請求を拒否できるようになっています。会社とよく相談したうえで利用しましょう。

法定時間外労働の制限

要介護状態の家族を介護するという理由であれば、1カ月につき24時間、1年につき150時間を超える時間外労働が制限されます。

所定時間外労働の制限と利用期間と回数の規定は変わらず、1回につき、1カ月以上から1年以内の期間で利用でき、回数制限はありません。事業主による請求拒否が可能な点も同様です。

深夜業の制限

「要介護状態の家族を介護する」という理由であれば、深夜時間労働が制限されます。深夜時間労働とは、午後10時~午前5時の勤務のことです。 1回につき、1カ月以上から6カ月以内の期間で利用可能で、回数制限はありません。ただし、以下に該当する労働者は対象外となるため注意が必要です。
  • 日々雇用者
  • 入社1年未満
  • 1週間の所定労働日数が2日以下
  • 所定労働時間のすべてが深夜勤務
  • 次の1~3に該当し、介護ができる16歳以上の同居家族がいる
  1. 深夜に就労していない(深夜の就労日数が1カ月につき3日以下の者を含む)
  2. ケガや病気、または心身の障害にって介護が困難な状態ではない
  3. 産前6週間(多胎妊娠の場合は14 週間)、産後8週間以内ではない
深夜業の制限も、事業主の判断で請求拒否が可能です。

介護退職する前に検討すべき4つのこと

介護退職はさまざまなリスクをともなうため、できる限り働きながら介護を続けられる方法を模索している方は多いでしょう。介護退職する前に検討すべきことは、おもに以下の4つです。
  • 介護関連サービスの利用を検討する
  • 家族や親族に相談して協力を求める
  • 職場に報告・相談する
  • 相談窓口を活用する
それぞれ詳しくみていきましょう。

介護関連サービスの利用を検討する

仕事と介護を両立させるために、介護関連サービスをうまく活用しましょう。介護関連サービスは、公的介護保険が適用されるサービスと民間の介護保険サービスに分けられ、利用者のニーズに合わせたさまざまなサービスがあります。代表的なサービスは以下の3つです。
  • 訪問介護・訪問看護
  • ショートステイ
  • デイサービス・デイケア
公的介護保険のサービスであれば1~3割の自己負担額で利用可能です。多少の費用はかかりますが、収入がなくなって経済的不安を抱えながら介護をするより、ある程度費用をかけてでも介護サービスを利用したほうが心身の負担軽減につながるでしょう。

家族や親族に相談して協力を求める

働きながら介護を続けるためには、家族や親族など周囲に相談して協力を求めることも大切です。家族・親族に頼むのが難しければ、担当ケアマネジャーでも相談してみましょう。ケアマネジャーには守秘義務があり、介護者・要介護者双方にとって最も身近な相談相手といえます。

仕事と介護を両立するためには、自分ひとりで介護の悩みを抱え込まないことが大切です。

職場に報告・相談する

親族を介護していることを職場の上司や人事労務担当などと共有し、理解してもらうことも必要です。介護をしていると、要介護者の急な体調不良や介護サービスとの兼ね合いなどで、遅刻や早退を余儀なくされる場合もあるでしょう。職場に事前に相談しておくことで、周囲の理解を得つつ短時間勤務や休暇制度などの社内制度を活用しやすくなります。

相談窓口を活用する

家族で介護をしていると、どうしても問題を家族内で抱え込みやすくなってしまいます。地域包括支援センターや社会福祉協議会、保健所、国民健康保険団体連合会など、外部の介護相談窓口を積極的に活用するようにしましょう。

公的な相談窓口では、利用できる介護サービスや支援制度の情報提供を受けられるため、現在抱えている介護の問題解消につながる可能性があります。

制度の活用と周囲のサポートで無理なく介護と仕事を両立させよう


介護と仕事の両立に難しさを感じている介護者の方は多いかもしれません。しかし、介護退職には、収入減による経済的負担や社会的な孤立感からくる精神的負担などのリスクがともなうため、安易な選択は禁物です。

実際には介護者の半数以上が働きながら介護をしており、職場の介護者支援制度や介護サービスの活用など、工夫次第で介護と仕事の両立は可能です。介護退職すべきかどうか迷ったときは、家族や職場、ケアマネジャーなど周囲に相談し、無理なく介護を続けられる方法がないか考えてみましょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年8月9日

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