要介護認定における「要支援」とは?
「要介護」と異なるポイントや認定されなかった場合の対処法


「要支援」という言葉を耳にしたことはあっても、具体的な内容についてよくわからない方も多いのではないでしょうか。
公的介護保険では、介護が必要な状態を「要介護」と「要支援」の2段階に分けており、それぞれ段階に応じて受けられる支援内容が異なる点が特徴です。
この記事では、要支援の概要や「要介護」との相違点、利用できる介護予防サービスや認定されなかった場合の対処法を解説します。

「要支援」とは?

「要支援」とは、日常生活で必要な介護の程度を示す指標の一つです。この指標は要介護認定の際に使用され、介護の度合いを表す「要介護度」の一部とされています。

要介護度の判定は、厚生労働省が定める要介護認定基準時間(介護にかかる時間)に基づき、要介護度は7段階で評価され、「自立(非該当)」を加えた全8段階で構成されています。

7段階のうち、介護の度合いが最も軽いものが「要支援1」、最も重いものが「要介護5」です。

要支援の段階では、日常生活の基本的な動作は自立して行えるものの、掃除や家事などには支援が必要です。要支援はさらに、「要支援1」と「要支援2」に細かく分類されます。

また、要支援の状態では、要介護状態への進行を防ぐための対策として、介護予防サービスの利用が効果的であるとされています。

要介護度認定について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。

関連記事:要介護認定と認定区分とは?8区分の違いや基準・認定の流れ

「要支援」と「要介護」の認定の分かれ目

「要支援」と「要介護」の区分の境界は、「要支援2」と「要介護1」の間にあります。この分かれ目は、以下の2つの観点から考慮されます。
  • 認知機能の低下
  • 状態の安定性
しかし、これらは判定の際の参考に過ぎず、最終的な判断にはさまざまな要素が考慮される点を理解しておくことが大切です。

なお、要介護度は聞き取り調査や主治医の意見書をもとに、一次判定と二次判定を経て判断されます。

認知機能の低下

「要支援2」の段階では、通常、判断力や記憶力などの認知機能の低下は見られません。適切な支援により要介護状態の進行を抑制することで、自立した生活が送れます。

一方、認知機能が低下し、要支援状態から回復することが困難な場合、「要介護1」と判定されることがあります。

状態の安定性

6カ月以内に心身の状態が大きく変化し、その結果、必要とされる介護量の増加が見込まれる場合にも、「要介護1」と判定されることがあります。

なお、ここでいう「状態」とは具体的な病状や健康状態ではなく、必要な介護の量や程度を指します。

「要支援」と「要介護」で異なる3つのポイント

混同されやすい「要支援」と「要介護」の違いを、3つのポイントに分けてわかりやすく解説します。

利用できる介護サービスや制度

「要支援」では、介護予防サービスを利用できます。

介護予防サービスは、生活機能の維持や向上と、要介護状態への進行の防止を目的とし、それぞれに適した内容・期間・方法で提供されます。

一方、「要介護」の場合は、介護サービスの利用が可能です。

要介護の状態では、日常的な介護が必要となるので、介護者の負担が大きくなります。そのため、介護サービスの利用は介護者の負担軽減につながります。

介護予防サービスや介護サービスの利用を始める手続き

介護予防サービスや介護サービスを利用するには、ケアプランを作成する必要があります。

ケアプランとは、利用者や家族の要望に応じて適切なサービスが受けられるよう作成される介護の計画書です。
「要支援」の場合、地域包括支援センターでケアプラン(介護予防サービス計画書)が作成されます。

一方、「要介護」の場合は、居宅介護支援事業所に所属するケアマネジャーや、利用者が入所している施設のケアマネジャーがケアプランを作成します。

1カ月当たりの支給限度額

介護予防サービスや介護サービスには公的介護保険が適用され、原則は1割(所得に応じて2~3割)を自己負担します。

居宅サービスを利用する場合、要介護度によって支給限度額(利用できるサービスの量)が異なり、居宅サービスの1カ月当たりの利用限度額は以下のとおりです。

要介護度

支給限度額(月額)

要支援1

5320

要支援2

105,310

要介護1

167,650

要介護2

197,050

要介護3

27480

要介護4

309,380

要介護5

362,170


出典:厚生労働省「サービスにかかる利用料」

通常、ケアプランは、支給限度額内に収まるように作成されますが、制限を超える利用を希望する場合は、超過額を全額自己負担することで利用が可能です。

要支援の方が利用できる介護予防サービス

ここでは、「要支援」と認定された方が利用できる介護予防サービスを、タイプごとにわけて紹介します。
 

訪問型サービス

l  介護予防訪問介護(市区町村の「介護予防・日常生活支援総合事業」としてサービス介入が可能)

l  介護予防訪問看護

l  介護予防訪問入浴

l  介護予防訪問リハビリテーション

l  介護予防居宅療養管理指導

通所型サービス

l  介護予防通所介護(デイサービス。市区町村の「介護予防・日常生活支援総合事業」としてサービス介入が可能)

l  介護予防通所リハビリテーション(デイケア)

短期入所型サービス

l  介護予防短期入所生活介護(ショートステイ)

l  介護予防短期入所療養介護(医療型ショートステイ)

福祉用具

l  介護予防福祉用具の貸与費の支給

l  介護予防福祉用具の購入費の支給

住宅改修

l  介護予防住宅改修費の支給

地域密着型サービス

l  介護予防小規模多機能型居宅介護

l  介護予防認知症対応型通所介護

施設などで生活

l  介護予防特定施設入居者生活介護

これらの介護予防サービスを適切に利用することで、要介護状態への進行を予防していきます。

要支援の方が入居できる施設

介護を必要とする度合いが比較的軽い「要支援」の状態でも、入居できる施設は存在します。

ここでは、要支援と認定された方が入居できるおもな施設を4つ紹介します。

サービス付き高齢者向け住宅

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は、国交省が推進するシニア向けの賃貸住宅です。高齢者が快適に暮らせるよう設計され、広さや設備にも配慮されています。

サ高住では、施設職員による安否確認や生活相談サービスが提供され、おもに要支援の方や要介護度が軽い方が入居しています。

一般的なサ高住では、常設の介護サービスは付帯していません。入居者が必要に応じて外部の介護サービス業者と個別に契約するのが一般的です。

ただし、一部には「介護型」と呼ばれるサ高住も存在し、施設内に常駐するスタッフが介護サービスを直接提供します。将来的に要介護状態へ進行しても、施設内で継続して適切な介護を受けることが可能です。

有料老人ホーム

有料老人ホームは、入居者が介護や食事、家事、健康管理などの日常生活の支援を受けながら暮らせる施設です。介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホームの3種類があります。

各施設では、入居条件や提供される介護、医療サービス、食事、レクリエーションなどの内容が異なります。特に、季節の行事やレクリエーションに力を入れている施設では、入居者間のコミュニケーションを深める機会が多く設けられており、社交的な環境を楽しめるのが魅力です。

シニア向け分譲マンション

シニア向け分譲マンションは、民間業者によって運営・販売されており、高齢者が快適に暮らせるようにバリアフリー設計が施されています。自立して生活を送る高齢者や要支援の方がおもな入居対象です。

施設には食堂やプール、ジムなどが併設され、日々の生活を豊かにする設備が整っています。また、見守りサービスやコンシェルジュサービスなどにも対応しており、身の回りのことを気軽に相談したいときに便利です。

一般的な介護施設とは異なり、月額利用料を支払う形式ではなく、購入や賃貸契約を通じて長期的に住み続けられます。

住居の購入により所有権を持てるため、将来的には資産として売却したり、家族に譲渡や相続を行ったりすることができます。

ケアハウス

ケアハウスは、家庭での生活が困難な60歳以上の高齢者に対して、低料金で食事や洗濯などの日常生活のサポートを提供する施設です。社会福祉法人や地方自治体、民間事業者などによって運営されています。

市区町村からの補助金を受けて運営されているため、ほかの高齢者施設と比べて入居費用を低く抑えられますが、入居条件は比較的厳しい傾向です。

また、夫婦での入居が可能なケアハウスもあり、どちらか一方が60歳以上であれば、夫婦ともにケアハウスで暮らせます。

要支援認定を受ける方法

要支援の状態の方が介護予防サービスを利用するには、要介護認定(要支援認定を含む)の申請を行う必要があります。

要支援認定を受けるための条件や申請先、認定の流れを紹介します。

認定の申請を行える方

申請を行える方は以下のとおりです。
  • 65歳以上の方
  • 初老期認知症や脳血管疾患など、加齢にともない発症する16種類の病気(特定疾病)により、介護や支援が必要となった40歳から64歳の方
なお、本人だけでなく、家族や地域包括支援センターの担当者なども代理で申請手続きを行えます。

申請窓口と必要なもの

要支援認定の申請は、本人が居住する市区町村の公的介護保険担当窓口で行います

一般的に申請には、要介護・要支援認定申請書、介護保険被保険者証、医療保険の被保険者証が必要です。詳しい内容は市区町村に確認しましょう。

認定の流れ

要支援認定の申請後の流れは以下のとおりです。
 

1:認定調査

介護認定調査員が自宅や施設、病院を訪問し、本人や介護者から心身の状況について聞き取り調査を行う

2:主治医に意見書の作成を依頼

市区町村が申請者本人の主治医に心身の状態に関する意見書の作成を依頼する

3:介護認定審査会による判定

調査票と主治医意見書をもとにコンピュータで一次判定を行い、その結果をもとに医療・保健・福祉の専門家から組織する介護認定審査会で審査・判定を実施する

4:判定結果の通知

申請から原則30日以内に判定結果が通知される

判定結果に応じて、要支援認定を受けた場合は介護予防サービスが、要介護認定を受けた場合は介護サービスが利用できるようになります。

関連記事:介護保険被保険者証とは?交付条件や利用手順・手続き方法

要支援認定で「非該当」となった場合の対処法

要支援認定の結果、「非該当」と判定された場合、介護予防サービスや介護サービスの利用はできませんが、ほかの支援サービスの利用が可能です。

市区町村が実施する「介護予防・日常生活総合支援事業(総合事業)」では、基本チェックリストに基づいた一定の条件を満たせば、介護予防・生活支援サービス事業を利用できる場合があります。

利用できるサービスは以下のとおりです。
  • ストレッチや器具を使った運動
  • 栄養相談
  • 口腔清掃の指導
  • 摂食・嚥下機能の訓練など
各サービスの実施内容や利用条件は地域によって異なるため、詳細情報や利用方法は市区町村や地域包括支援センターに相談しましょう。

介護予防サービス利用時の経済的負担への備え方

要支援の方が介護予防サービスを利用する場合、原則として支払う自己負担割合は1~3割です。しかし、公的介護保険の対象外のサービスを利用した際には、費用の全額を自己負担する必要があります。

要支援の状態が長期にわたったり、将来的に要介護状態になったりした場合には、たとえ1割の自己負担であっても、家計にとっては大きな負担となりえます。そのため、経済的な負担に備えることが大切です。

要支援の方が経済的負担に備える方法の一つとして、民間介護保険を活用する方法もあります。どのような状況でどのような保障が受けられるのかを確認して、生活設計に合った民間介護保険を検討するのもよいでしょう。

なお、親の介護に不安を抱えている方は、以下の記事を参考にしてください。

関連記事:親の介護の備え方・注意点

要支援状態に応じたサービスを利用して日常生活の負担を軽減しよう


「要支援」とは、要介護認定において日常生活で部分的な介護が必要な状態を示す指標です。「要支援1」と「要支援2」の2段階に分けられ、基本的な日常活動は自力で行えるものの、一部の家事などでは支援が必要となります。

要支援認定を受けた方は、訪問型サービスや通所型サービスなどの介護予防サービスを利用できます。介護予防サービスは、要介護状態への進行を効果的に予防する目的で提供されています。

また、要支援認定で「非該当」と判断された場合でも、市区町村の「介護予防・日常生活総合支援事業」を通じてさまざまなサービスを受けることが可能です。

必要に応じたサービスを活用することで、日常生活の負担を軽減し、健やかな生活を送りましょう。

 
朝日生命では、認知症などの介護の経済的負担に備えられる介護保険を提供しています。
将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

社会福祉士 萩原 智洋

有料老人ホームの介護スタッフとして、認知症の方や身体介護が必要な方の生活のサポートを行う。その後、社会福祉士資格を取得。介護老人保健施設の相談員として、入所や通所の相談業務に従事。第二子の出産を機にライターへ転身。現在は、これまでの経験を活かしてウェブコンテンツの執筆業務を行っている。

公開日:2024年5月24日

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