認知症と物忘れの違いは?
物忘れを引き起こす病気と改善方法


親や親戚などの物忘れがひどくなっている…と心配になったことはありませんか。加齢によって記憶力が低下することもありますが、その背後には認知症が潜んでいるかもしれません。

しかし、「単なる物忘れ」と「認知症」の違いがわからず、見逃してしまうケースも少なくないでしょう。

この記事では、物忘れと認知症の違いや物忘れを改善するためのポイントを解説します。また、物忘れが初期症状として現れる認知症以外の病気も紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

認知症と物忘れの違い

物忘れと認知症は似ているようで、実は明確な違いがあります。特に以下4つのポイントに着目すると、違いをより理解できるでしょう。

忘れる内容・範囲

物忘れと認知症では、忘れる内容や範囲が異なります。

物忘れの場合、地名や人名などの一般的な知識や、断片的な記憶を忘れる傾向があります。一方、認知症の場合は、自分の経験した出来事そのものを忘れるのが特徴です。

例えば、物忘れの方は買い物に行ったことは覚えていても、買うべきものを忘れることがあります。しかし認知症の方は、買い物に行った経験そのものを忘れてしまい、再び買い物に行こうとすることがあるのです。

自覚・進行の有無

単なる物忘れの場合、忘れたことに自覚があり、思い出そうとしてもなかなか思い出せません。ただし、ヒントやきっかけがあれば思い出すことがあります。

一方、認知症の場合は、記憶力に障害があります。忘れている自覚がないことが特徴です。また、症状の進行が少ない物忘れに対して、認知症では進行が見られることがあります。

学習能力・日常生活への影響

物忘れは、年齢とともに誰にでも起こり得る自然な老化現象です。学習能力や日常生活への影響はほとんどありません。

一方、認知症は、脳の病気によって記憶力や判断力が低下した状態です。物忘れだけでなく、学習能力や日常生活にも支障をきたします。

そのため、同じことを何度も繰り返し尋ねたり、食事をしたのにまた食べようとしたりといった言動や行動が見られます。判断力や理解力も低下し、特に物事を順序立てて進められなくなるのが特徴です。また、料理や掃除の手順がわからなくなることもあります。

さらに、慣れ親しんだ場所で迷ったり、約束を忘れたりすることがあり、周囲とのトラブルにつながりかねません。

感情や意欲

物忘れの場合、感情は通常どおりであり、特に変化は見られません。一方、認知症の場合は、怒りっぽくなったり、疑い深くなったりするなどの感情の変化が見られることがあります。周囲から性格が変わったと受け取られる可能性もあります。

また、認知症は物事に対する興味や関心、意欲が薄れる傾向です。何事もおっくうに感じ、やる気がないように見えることがあります。しかし単なる物忘れの場合は興味や関心、意欲は通常どおりです。

物忘れの5つの改善ポイント

物忘れを改善したい場合は、以下の5つの方法をぜひ試してみてください。

知識をアウトプットする

情報は、ただインプットするだけでなく、アウトプットすることで記憶がより定着しやすくなります。例えば、本やテレビで得た情報をただ覚えるのではなく、ノートに書き出してみると覚えやすくなるでしょう。

また、学習内容をテスト形式で問うことも、効果的なアウトプット方法です。間違えた部分だけでなく、正解した部分も再度アウトプットすることで、記憶の定着を促進できます。

ほかにも、日記を書くのもおすすめです。情報と感情を結び付けることで、記憶力を向上させる効果があります。その日の出来事を振り返り、自分の考えや気持ちを書き出すことで、記憶がより鮮明に残るのです。

食生活を見直す

物忘れを改善する方法のひとつとして、食生活を見直す必要があります。バランスのとれた食事を心がけるとともに、物忘れ予防に効果的な食品を積極的に摂取するのもおすすめです。

不飽和脂肪酸であるDHA・EPAやカテキンなどが含まれている食品は認知症予防に効果的です。サバやサンマなどの青魚や緑茶がその代表例となります。

また、葉酸やレシチンが含まれている野菜や大豆製品なども効果が期待できます。

一方、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸が含まれる肉の脂身やマーガリン・ショートニングなどの食品は、物忘れを悪化させるおそれがあるため、とりすぎないよう気を付けて摂取しましょう。

適度な運動を行う

適度な運動は血流をよくするため、脳の活性化につながります。また、生活習慣病の予防にも効果的です。どのような運動でも問題ありませんが、特にレジスタンス運動は物忘れの予防や改善が期待できます。

レジスタンス運動とは、繰り返し筋肉に負荷をかける運動です。代表的なものには、スクワットや腕立て伏せなどが挙げられます。自重だけでなく、ダンベルやチューブなどの道具を使って筋肉に負荷をかける方法もあります。

高齢者は特に、足の筋力を鍛えることが重要です。毎日10分程度の運動を、2~3日に1回行なうだけでも効果があります。

十分な睡眠時間を確保する

質の良い睡眠を確保することも、物忘れの改善に役立ちます。特に、眠りが深いノンレム睡眠の時間を確保することが重要です。そのためには、6時間半から7時間半程度の睡眠が最適です。

寝不足を感じている場合は、早めに眠りにつくよう意識してみましょう。また、日中に昼寝や10分程度目を閉じる時間を取ることも効果的です。これは脳の疲労回復にもなります。

また、寝る前の習慣や起床後の行動を見直し、良質な睡眠をとることを心がけてください。例えば、就寝の1~2時間前にお風呂に入って深部体温を上げたあと、体温が下がったタイミングで布団に入るようにすると、入眠がスムーズになります。

寝るときには照明を暗くし、朝起きたら太陽の光を浴びることも、質の良い睡眠に効果的です。

趣味や習い事を楽しみコミュニケーションを増やす

物忘れの改善には、趣味や習い事などを楽しむことも大切です。特に、手や指を使う活動は物忘れの改善に効果があります。

手や指を使う活動には、手芸やガーデニングなどがあります。また、頭を使う囲碁や将棋もおすすめです。

趣味や習い事を通じて、地域のコミュニティやイベントなどに参加するのもよいでしょう。家族以外の人とのコミュニケーションは、脳の活性化やストレス解消にもつながります。

物忘れが初期症状として現れる病気

物忘れはしばしば年齢とともに起こりますが、これは自然な現象です。しかし、以下の2つの病気では、初期症状として物忘れが現れることがあるので、注意が必要です。

高次脳機能障害

高次脳機能障害は、けがや脳卒中などによる脳の損傷が原因で発症する病気です。高次脳機能障害により、思考や記憶、言語など脳の一部の機能に障害が発生します。

この病気では、病気やけがの前の記憶はあるものの、新しいことを覚えるのが難しくなるという症状が見られることがあります。これは認知症による物忘れと似たような症状です。外見ではわかりにくい病気なので、認知症だと周りから誤解される可能性も高いでしょう。

うつ病

うつ病でも物忘れの症状が現れる場合がありますが、その原因は記憶障害ではなく、「記銘力」の低下によるものです。記銘力とは、新しい物事を覚える能力のことです。

つまり、うつ病になると新しい情報をうまく頭に入れるのが難しくなり、本の内容が頭に入ってこない、仕事の打ち合わせ内容を思い出せないといった症状が見られることがあります。

うつ病の治療には、薬物療法とカウセリングが一般的です。また、趣味や運動などでストレス発散するのも、セルフケアの一環となります。

認知症と物忘れの違いを理解しよう


単なる物忘れと認知症は、忘れる内容や自覚の有無、学習能力への影響、感情の変化などに違いがあります。

物忘れや認知症は、食生活の見直しや適度な運動、質の良い睡眠、情報のアウトプットなどで改善する可能性があります。趣味や習い事を楽しむのも効果的です。

また、物忘れや認知症のような症状が現れるほかの病気もあります。それぞれの違いを理解し、適切な対応を心がけましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年3月22日

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