認知症にみられるBPSD(周辺症状/行動・心理症状)とは?


認知症になると、性格の変化や徘徊などの症状がみられる場合があります。認知症の方を介護する際に、このような精神面や行動面に現れる症状に悩んでいる方もいるのではないでしょうか。これらの症状は本人の生活の質を低下させ、介護者にも大きなストレスを与える可能性があります。

精神面・行動面に現れる症状は「BPSD(周辺症状または行動・心理症状)」と呼ばれ、症状を抑えるためには周囲の適切な対応やケアが重要です。ケアをする側の声かけや態度で症状が悪化したり改善したりするため、BPSDを正しく理解し状況に合った行動を心がけましょう。

この記事では、BPSDの概要や症状、治療法、適切な対応のポイントなどを解説します。

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認知症の症状は中核症状と周辺症状(BPSD)に分けられる

認知症によって引き起こされる症状は、「中核症状」と「周辺症状」の2種類に分けられます。

中核症状とは

中核症状とは、加齢や病気などによって脳の細胞が破壊され、記憶や認識などの機能に直接的な障害が起きている状態のことです。中核症状は認知症の方に共通して現れ、完治は困難とされています。

中核症状の代表的な例としては、以下のようなものがあります。
  • 記憶障害
  • 見当識障害
  • 理解・判断力の障害
  • 実行機能障害
  • 失行・失認・失語
認知症の中核症状について詳しく知りたい方は、以下もぜひご覧ください。

BPSDとは

BPSDとは、「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字を使った言葉です。日本語では「周辺症状」や「行動・心理症状」といい、認知症の方の行動や精神状態に現れる症状を指します。

中核症状とは異なり、BPSDはすべての認知症の方に現れるわけではありませんが、高確率で発症する可能性があります。東京都が行った調査によると、在宅認知症高齢者の79%になんらかのBPSDが認められたと報告されています。

BPSDは、中核症状に加え、周りの環境や体の不調、精神状態などの要因が重なることで引き起こされます。そのため、適切な対応で認知症の方の不安や混乱を解消できれば、抑制につながる可能性があります。BPSDの悪化を抑えて、本人や介護者の苦痛・負担を軽減させるためには、認知症の方に対して適切な対応や心のケアを心がけることが大切です。

BPSDにはどのような症状がある?

BPSDでは具体的にどのような症状がみられるのでしょうか。BPSDでみられるおもな症状や、認知症の種類ごとの特徴について解説します。

BPSDのおもな症状

BPSDによってみられるおもな症状は、行動症状と心理症状に分けられます。

行動症状

行動症状には、次のようなものがあります。
  • 徘徊
  • 焦燥
  • 叫声
  • 暴力や暴言
  • 介護拒否
  • 失禁
  • 異食
  • 弄便(ろうべん:便を素手で触ったり、周辺になすりつけたりすること)

心理症状

心理症状の代表例は以下のとおりです。
  • 不安や抑うつ
  • 妄想
  • 幻覚
  • 睡眠障害
  • 易怒性(いどせい:怒りっぽい性格になること)
このようにBPSDにはさまざまな症状があります。
平成27年度の厚生労働科学特別研究事業による、かかりつけ医約500人を対象としたアンケート調査では、家族が最も困る症状は、物忘れとともに、暴力や徘徊など興奮性のBPSDという結果になっています。

認知症の種類ごとにみられる症状の特徴

認知症には多くの種類があり、代表的なものは「四大認知症」と呼ばれています。それぞれ現れやすい症状の特徴が異なります。

アルツハイマー型認知症

日本で患者数が最も多いアルツハイマー型認知症は、アミロイドβなどのたんぱく質が脳から排出されずに溜まることが原因で発症するとされる認知症です。徘徊や妄想、うつや無関心(アパシー)などの症状が現れやすいとされています。

中核症状では、物忘れなどの「記憶障害」からゆっくりと進行し、自分がいる場所などがわからない「見当識障害」などが現れます。

BPSDでは、徘徊や妄想がみられやすく、自分の物を盗まれたと思い込む「物盗られ妄想」もしばしば現れます。

脳血管性認知症

脳血管性認知症は、脳卒中や脳梗塞など、脳の血管の病気が原因となって発症する認知症です。

おもな中核症状は、「記憶障害」や「判断力障害」であり、感情のコントロールができなくなる「感情失禁」は脳血管性認知症に特徴的な症状です。

ほかに無反応やうつなどの周辺症状もみられます。一日のなかで症状の現れ方に波がある「まだら認知症」が起こるのもこちらの認知症です。

レビー小体型認知症

レビー小体型認知症は、レビー小体という特殊なたんぱく質が集まって脳の神経細胞が破壊され、命令伝達がうまく行われなくなることで発症します。

レビー小体型認知症の特徴的な症状として、実在しないものが見える幻視があります。また、症状が一日のなかでも大きく変動する症状の日内変動、体が動かしにくくなるといったパーキンソン症状や、眠っているときに大声で叫んだり体を大きく動かしたりするレム睡眠行動障害があることも特徴です。

前頭側頭型認知症

前頭葉と側頭葉が萎縮することで発症する前頭側頭型認知症は、難病指定を受けている認知症です。

感情のコントロールや言語機能にかかわる脳の部位に障害が生じるため、初期段階では物忘れよりも異常行動や暴言、性格の変化などが多くみられます。

BPSDが発症する要因は?

以下では、BPSD発症のメカニズムと中核症状との関連性について解説します。

中核症状が基盤となり、身体的・環境的・心理的要因で発症する

認知症の方に中核症状が現れると、これまで当たり前にできていたことが困難になったり、新しいことが覚えられなくなったりします。本人は今までとの違いに戸惑いとストレスを感じ、不安に襲われる状況です。

中核症状があり困っているところに、認知症の方の元来の性格やストレス、周りの対応など、さまざまな要因が加わってBPSDが引き起こされます。

きっかけとなるおもな要因は以下の3つです。
  • 身体的要因:薬の副作用、別の身体疾患による痛みや麻痺
  • 環境的要因:周囲の不適切な対応、生活環境の変化、介護者との関係性
  • 心理的要因:本人の性格、中核症状による不安感や焦り
BPSDは、上記のように人間関係や生活環境で生じるストレスが発症の要因となるため、すべての認知症の方が発症するわけではありません。また、同じ人でもきっかけがなければ発症しないこともあります。つまり、きっかけとなる要因を取り除けば、BPSDの症状を抑えられる可能性があります。

BPSDの要因を取り除くための具体的な対応は、以下のようなものが考えられます。
  • ささいな不調も見逃さないよう、定期的な体調チェックを行う
  • 医師と相談し、薬の量を調整する
  • 部屋の室温調整や騒音対策など、生活環境を整える
  • 不安や焦りを軽減するための声かけを行う
周囲の適切な対応により、BPSDが発症しにくい、もしくは発症しても進行しにくい環境をつくることが重要です。

中核症状とBPSDの関連性

BPSDは中核症状の発症と併せて現れることもあり、中核症状により引き起こされる二次的症状であるとされています。中核症状の種類により、どのようなBPSDが発症するのか具体例を見ていきましょう。

例① 実行機能障害と抑うつ
  • 中核症状:実行機能障害により、今までできていた料理や洗濯ができなくなった
  • きっかけ:「なぜこんなこともできないのか」と家族に叱責された
  • BPSD:自信を失い、抑うつ状態になる
例② 見当識障害と徘徊
  • 中核症状:見当識障害により、時間や場所がわからなくなった
  • きっかけ:夕飯の準備のため買い物に行こうと家を出た
  • BPSD:自分がいる場所がわからなくなり徘徊してしまう
例③ 理解力の低下と介護拒否
  • 中核症状:理解力の低下により、他者の行動や意図を正しく理解できなくなった
  • きっかけ:介護者が適切な声かけをせずに介護行為を行った
  • BPSD:何をされるのかわからない不安から、介護者による手助けを拒否してしまう
このように、記憶障害や見当識障害、理解力の低下といった中核症状があるところに、きっかけとなる要因がBPSDを誘発させてしまいます。BPSDに対応するためには、中核症状とその影響を正しく理解し、認知症の方に寄り添ったケアを行うことが大切です。

BPSDの治療法は?

BPSDの治療法は、非薬物療法と薬物療法があります。それぞれの具体例や特徴などを紹介します。

非薬物療法

BPSDの治療では、薬を使う前に非薬物療法を試すことが厚生労働省より推奨されています。薬を使わずに脳を活性化させる非薬物療法により、BPSDの症状が改善し、生活の質が向上する場合があります。

非薬物療法の具体的な方法としては、以下のようなものが挙げられます。

方法

特徴

回想法

昔の思い出話や写真で脳に刺激を与える

音楽療法

音楽鑑賞や楽器の演奏で、脳に刺激を与えたり心を安定させたりする

運動療法

体を動かして、脳の活性化や筋力の維持につなげる

芸術療法

絵画や粘土細工を通して、脳の活性化・感情の解放を促す

リアリティオリエンテーション
(現実見当識訓練法)

現在の状況を会話に取り入れたり、グループで名前や場所を確認したりして、現実認識を深める

薬物療法

厚生労働省の「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」には、非薬物療法で症状が改善されない場合に、薬での治療を検討することが記されています。薬物療法は認知症を完治させるものではなく、症状の緩和と進行抑制を目的としたものですが、本人や家族の負担軽減につながるでしょう。

BPSDの治療には、以下のような薬が症状に合わせて処方されます。
  • 抗認知症薬
  • 抗うつ薬
  • 抗精神病薬
  • 睡眠薬
  • 抗不安薬
薬には副作用がみられる可能性もあるため、自己判断をせず、医師と相談して服用しましょう。

また、薬物療法を開始した後も、非薬物療法を続けることが症状を改善させるためには重要です。薬物療法と非薬物療法を併用することで、より効果的な認知症ケアができるでしょう。

BPSDへの正しい対応ポイント3つ

BPSDがみられる認知症の方に対して、家族など周囲の方はどのように対応すればよいでしょうか。BPSDの症状がみられる方と接する際のポイントを3つ解説します。

相手の気持ちに寄り添い理解する

認知症になると、それまで当たり前にできていたことができなくなったり、わかっていたことがわからなくなったりします。家族など周囲の方にとっても、負担や迷惑に感じるような言動がみられるかもしれません。しかし、誰よりも戸惑いや不安、焦りを強く感じているのは本人だということを、まず理解することが大切です。

認知症の方は、起こったことを忘れたとしても、そのときに抱いた感情は残っているとされています。相手の気持ちに寄り添って思いやりを持ったコミュニケーションを心がけ、信頼関係を築きましょう。

なるべく環境を変えない

認知症の方は環境の変化に敏感で、わずかな変化でも大きなストレスになりがちです。ストレスによってBPSDの症状が悪化する可能性もあるため、認知症の方を介護する間はなるべく環境や生活リズムを変えないように注意しましょう。

変化の少ない安定した生活を続けることが、心の安定にもつながります。認知症の方が少しでも安心して過ごせる生活環境を確保しましょう。

自己肯定感を大切にする

認知症による劣等感や孤独感は、精神状態とBPSDを悪化させる原因になります。そのため、少しでも症状を抑えるには、認知症の方に自己肯定感を高めてもらい、心の安定を図ることが大切です。もし、認知症の方が何か失敗しても、責めたり笑ったりせず、思いやりを持って接しましょう。

また、「失敗するから」と家事などの役割から遠ざけるのではなく、認知症の方でもできそうな役割を任せることも、自己肯定感を高める方法の一つです。生活のなかで、「自分は必要とされている」という自信が持てる環境・習慣をつくるように心がけましょう。

BPSDを理解して適切な対応を心がけよう


BPSDとは、認知症による脳機能の障害が直接引き起こす中核症状と精神状態などが重なり、二次的に発症する精神面・行動面の症状を指します。不安や抑うつ、徘徊、妄想などさまざまな症状がみられ、本人だけでなく介護する家族への負担も大きくなります。

少しでもBPSDの症状を抑えて本人や家族の負担を軽減するためには、BPSDに対する周囲の理解と対応がポイントになります。

適切な対応を意識し、認知症の方がなるべくストレスなく安心して生活できるような環境づくりを心がけましょう。

 
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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2024年12月20日

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