なぜ「夕暮れ」に症状が出やすくなるのでしょうか。おもな原因について、「見当識障害」「体内時計の乱れと脳疲労」「過去の習慣・記憶」の視点から解説します。
認知症によって、時間や場所の感覚があいまいになる見当識障害が起きると、夕方の薄暗さが「今がいつなのか、ここがどこなのかがわからない」という不安を強めてしまいます。
さらに、影が伸びる、室内が暗くなるといった光の変化に加え、家族の帰宅や夕食の準備などで人の出入りが増える時間帯であることも、混乱を招く一因です。
時間や場所の感覚があいまいになっているため、こうした夕方の環境変化をきっかけに、日中は穏やかに過ごせていた方でも不安が表面化しやすいと考えられています。
認知症によって体内時計の働きが低下すると、昼夜の区別がつきにくくなります。加えて、一日の終わりに脳の疲労が蓄積し、夕方以降は認知機能がさらに低下しやすくなることも影響しています。
また、認知症治療薬やその他疾患の治療薬の副作用、睡眠障害が関係している場合もあるため、服薬状況に心当たりがある場合は、かかりつけ医に相談してみるとよいでしょう。
認知症の方は、直近の記憶を失いやすい一方で、若い頃からの生活習慣にまつわる記憶は比較的鮮明に残りやすいのが特徴です。
そのため、夕方になったら「仕事を終えて家に帰る」「夕食の支度を始める」といった長年の生活パターンが、帰宅願望などの行動として表れるケースがあります。「買い物に行く」「子どもを迎えに行く」など、過去の役割が現在と混在し、行動につながるケースもあります。
症状の背景がわかると、家族としてできる対応も見えてきます。対応する際は、「否定せず気持ちに寄り添う」「生活環境を整える」「夕方前のルーティンをつくる」という3つのポイントを意識するとよいでしょう。
「ここが家ですよ」と正論で否定するよりも、「帰りたいのですね」とまず気持ちを受け止めるほうが、本人の不安をやわらげやすくなります。
「少し一緒に歩きましょうか」など、気をそらしながら安心感を与える声かけも効果的とされています。徘徊が始まったときも無理に止めようとせず、そばに付き添いながら話を聞き、落ち着けるタイミングで休憩を促すとよいでしょう。
塗り絵や編み物など、本人が集中しやすい活動を用意しておくことも、気持ちを落ち着かせる助けになります。本人の不安を和らげる対応を優先しましょう。
夕方になると、光の変化や周囲のざわつきが本人の不安を高めやすくなります。室内の環境を意識的に整えておくことが、症状をやわらげるポイントです。
日が傾き始める前から室内を明るくしておくと、暗さによる混乱を抑えやすくなります。カーテンを閉めて、外の暗さが目に入りにくくするのも効果的です。
テレビの音量や人の出入りは控えめにし、夕食の準備や来客など家庭内が慌ただしくなる作業は、できるだけ本人から離れた場所で行うとよいでしょう。
空腹が原因で落ち着きのない様子が見られる場合は、温かい飲み物や軽食を用意しておくと、気持ちが安定しやすくなります。
症状が出やすい時間帯の前に、散歩や軽食、好きな活動といった「安定のルーティン」を設けておくと、不安が高まる前に気分を落ち着かせやすくなります。毎日同じ流れで過ごすことは、本人に「いつもと同じ時間だ」という安心感を与え、夕方の不安が高まりにくくなるからです。
また、日中に適度な活動を取り入れると疲労によって夜に十分眠れるようになり、生活リズムが整いやすくなります。その結果、夕方以降の不安や混乱が和らぐ場合もあるでしょう。
一度決めたルーティンも、その日の体調や様子を見ながら、無理なく続けられる形に少しずつ調整していくことが大切です。