認知症の夕暮れ症候群とは
夕方に表れる症状と家族ができること


「夕方になると急に落ち着かなくなる」「『家に帰りたい』と繰り返す」「そわそわして目が離せなくなる」といった、親や配偶者の様子に戸惑ったことはありませんか。

この行動は「夕暮れ症候群」と呼ばれる、認知症の行動・心理症状(BPSD)の一つです。原因を理解して適切に対応すると、症状がやわらぐケースもあります。この記事では、夕暮れ症候群の症状・原因や、家族ができる対応方法を紹介します。

夕暮れ症候群とは

 
夕暮れ症候群とは、夕方から夜の時間帯にかけて、不安や興奮、混乱が強まるBPSDの一つです。海外では「サンダウン症候群(Sundown Syndrome)」とも呼ばれ、焦燥感や攻撃的な言動、徘徊などが目立ち、その状態が続くことがあると報告されています。せん妄とは異なり、夕暮れ症候群は短期間で治まるものではなく、中長期的に続く点が特徴です。

夕暮れ症候群はすべての認知症の方に表れるわけではなく、発症する割合や詳しいメカニズムはまだ完全には解明されていません。

特定の時間帯だけ様子が変わるという点に、家族としては戸惑いを覚えることも多いのではないでしょうか。日中は落ち着いて過ごせていても、夕方になると別人のように不安定になることがあります。しかし、「わがまま」や「気のせい」ととらえず、症状の一つとして受け止めることが対応の出発点です。

夕暮れ症候群の3つの症状

 
夕暮れ症候群は、時間帯によって症状の表れ方が変わる点が特徴です。代表的な3つの症状を確認してみましょう。

帰宅願望を表す・外出しようとする

夕方ごろになると「家に帰りたい」「出かけなければ」と繰り返し訴え、玄関へ向かったり外に出ようとしたりする様子が見られます。「子どもを迎えに行かなければ」「会社に行かなければ」など、理由は本人によってさまざまです。

また、見当識障害によって、すでに自宅にいる場合でも「ここは自分の家ではない」と感じてしまうこともあります。

どの場合においても、本人にとっては「帰らなければ」という切実な気持ちから起こる行動です。

徘徊する・落ち着きがなくなる

じっとしていられずに部屋の中を行き来したり、同じ場所を何度も歩き回ったりする様子も夕暮れ症候群の代表的な症状です。落ち着きのなさは夕方から夜間にかけて強まりやすく、目を離した隙に屋外へ出てしまうこともあります。

転倒や道に迷うなどの危険もともなうため、早めに気付いて安全を確保できるように、玄関の開閉センサーやGPS付きの見守りサービスを活用するなどして工夫することが大切です。

興奮する・感情が不安定になり大声を出す

夕方ごろに、急に声が大きくなる、怒り出す、同じことを繰り返し言うといった様子も見られます。食事や着替えなどの介助を拒んだり、暴言のような形で表れたりすることもあり、対応する家族にとっては精神的な負担が大きくなりやすい症状の一つです。

これらの症状は、状況が理解できず不安や混乱が強まることが背景にあると考えられています。感情的に叱ったり無理に止めたりすると、かえって症状が悪化する場合もあるため、注意が必要です。

夕暮れ症候群が起こる原因

なぜ「夕暮れ」に症状が出やすくなるのでしょうか。おもな原因について、「見当識障害」「体内時計の乱れと脳疲労」「過去の習慣・記憶」の視点から解説します。

認知機能の低下による見当識障害

認知症によって、時間や場所の感覚があいまいになる見当識障害が起きると、夕方の薄暗さが「今がいつなのか、ここがどこなのかがわからない」という不安を強めてしまいます。

さらに、影が伸びる、室内が暗くなるといった光の変化に加え、家族の帰宅や夕食の準備などで人の出入りが増える時間帯であることも、混乱を招く一因です。

時間や場所の感覚があいまいになっているため、こうした夕方の環境変化をきっかけに、日中は穏やかに過ごせていた方でも不安が表面化しやすいと考えられています。

体内時計の乱れと夕方の脳疲労

認知症によって体内時計の働きが低下すると、昼夜の区別がつきにくくなります。加えて、一日の終わりに脳の疲労が蓄積し、夕方以降は認知機能がさらに低下しやすくなることも影響しています。

また、認知症治療薬やその他疾患の治療薬の副作用、睡眠障害が関係している場合もあるため、服薬状況に心当たりがある場合は、かかりつけ医に相談してみるとよいでしょう。

過去の習慣・記憶が呼び起こされる

認知症の方は、直近の記憶を失いやすい一方で、若い頃からの生活習慣にまつわる記憶は比較的鮮明に残りやすいのが特徴です。

そのため、夕方になったら「仕事を終えて家に帰る」「夕食の支度を始める」といった長年の生活パターンが、帰宅願望などの行動として表れるケースがあります。「買い物に行く」「子どもを迎えに行く」など、過去の役割が現在と混在し、行動につながるケースもあります。

家族ができる夕暮れ症候群への対応

症状の背景がわかると、家族としてできる対応も見えてきます。対応する際は、「否定せず気持ちに寄り添う」「生活環境を整える」「夕方前のルーティンをつくる」という3つのポイントを意識するとよいでしょう。

否定せず気持ちに寄り添う

「ここが家ですよ」と正論で否定するよりも、「帰りたいのですね」とまず気持ちを受け止めるほうが、本人の不安をやわらげやすくなります。

「少し一緒に歩きましょうか」など、気をそらしながら安心感を与える声かけも効果的とされています。徘徊が始まったときも無理に止めようとせず、そばに付き添いながら話を聞き、落ち着けるタイミングで休憩を促すとよいでしょう。

塗り絵や編み物など、本人が集中しやすい活動を用意しておくことも、気持ちを落ち着かせる助けになります。本人の不安を和らげる対応を優先しましょう。

生活環境を整える

夕方になると、光の変化や周囲のざわつきが本人の不安を高めやすくなります。室内の環境を意識的に整えておくことが、症状をやわらげるポイントです。

日が傾き始める前から室内を明るくしておくと、暗さによる混乱を抑えやすくなります。カーテンを閉めて、外の暗さが目に入りにくくするのも効果的です。

テレビの音量や人の出入りは控えめにし、夕食の準備や来客など家庭内が慌ただしくなる作業は、できるだけ本人から離れた場所で行うとよいでしょう。

空腹が原因で落ち着きのない様子が見られる場合は、温かい飲み物や軽食を用意しておくと、気持ちが安定しやすくなります。

夕方前のルーティンをつくる

症状が出やすい時間帯の前に、散歩や軽食、好きな活動といった「安定のルーティン」を設けておくと、不安が高まる前に気分を落ち着かせやすくなります。毎日同じ流れで過ごすことは、本人に「いつもと同じ時間だ」という安心感を与え、夕方の不安が高まりにくくなるからです。

また、日中に適度な活動を取り入れると疲労によって夜に十分眠れるようになり、生活リズムが整いやすくなります。その結果、夕方以降の不安や混乱が和らぐ場合もあるでしょう。

一度決めたルーティンも、その日の体調や様子を見ながら、無理なく続けられる形に少しずつ調整していくことが大切です。

夕暮れ症候群への対応は、家族ができることから始めよう


夕暮れ症候群は、認知機能の低下や体内時計の乱れ、過去の生活習慣など、複数の要因が重なって起こると考えられています。

症状そのものをなくすことは難しくても、原因を理解したうえで気持ちに寄り添い、環境やルーティンを整えることで、症状をやわらげられる場合があります。まずは今日からできる小さな工夫を、ご家庭の状況に合わせて取り入れてみましょう。

 
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菊池 大和[医師]

医療法人ONEきくち総合診療クリニック理事長・院長。地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、活動が評価され2024年11月にTIMEアジア版に掲載される。

資格:日本慢性期医療協会総合診療認定医・日本医師会認定健康スポーツ医・認知症サポート医・身体障害者福祉法指定医(呼吸器)・厚生労働省初期臨床研修指導医・神奈川県難病指定医 など

公開日:2026年8月17日

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