認知症ケアでは、認知症の方の自尊心を傷つけないように、介護者は冷静な態度で接することが大切です。ここでは、ストレスやトラブルになりやすいシーンを例に、認知症の方の自尊心を傷つけない接し方を紹介します。認知症の症状や本人の気持ちを知り、落ち着いて対処するようにしましょう。
ただし、気になる症状があったり、暴れて対応が難しかったりするときには、無理せず専門家や医師に相談してください。
食べたばかりなのに何度も食事を催促されるのは、介護者にとってストレスでしょう。しかし、「さっき食べましたよ」といった事実を伝えても、かえって反感を持たれかねません。
このようなケースでは、「もうすぐですよ、少し待っていてください」などと伝えて納得してもらい、待っているうちに忘れてもらう、というのも一つの方法です。待っている間に話題を変えたり、散歩などに誘ったりするのもおすすめです。
また、ちょっとした口寂しさが原因のこともあります。その方の好きなお菓子や果物などを少し食べてもらうと、機嫌が良くなり食事の要求が抑えられる、ということもあります。
大切な家族である自分のことがわからなくなってしまったり、別の人に間違われてしまったりすると、ショックが大きいものです。時には怒りを感じることもあるでしょう。しかし、記憶がない以上は仕方のないことです。
もし、泥棒といった悪い人と勘違いして興奮しているようであれば、状況を複雑にしないためにも1回退室しましょう。一度姿を消してから、あらためて「こんにちは、〇〇です」というように現れて、正しく認識してもらうといった対処がおすすめです。
何もないのに、「誰かが見ている」「幽霊がいる」などと騒ぐことがあります。このような場合には、本人の不安や恐怖といった気持ちに寄り添い、安心感を与えるような対処をしましょう。
例えば、別の部屋に一緒に避難してみたり、一緒に悪者を退治しようとしてみたりするのがおすすめです。「そばにいるので大丈夫ですよ」といった声かけもよいでしょう。大丈夫だという安心感を持ってもらい、本人の気持ちを落ち着けることが大切です。
財布といった大切なものを盗まれた、と騒ぐことがあります。実際には、なくしてはいけないという気持ちから本人がしまったものの、しまったこと自体を忘れて、誰かが盗んだのではないかと疑っていることもあります。
犯人として疑われると否定したくなりますが、否定しても状況は悪化しかねません。こういった場合には、「困りましたね、一緒に探しますよ」と気持ちに寄り添い、探すのを手伝うのがおすすめです。
ただし、代わりに見つけてしまうと、犯人だから持っていると疑われることもあります。そのため、先に見つけてもそのままにしておき、「この中を確認してみましょうか」といって本人を誘導し、自身で見つけられるようにすることがコツです。そして、本人が見つけたときには、一緒に喜びを分かち合いましょう。
認知症の方がトイレを失敗すると、介護者は落ち込むことでしょう。しかし、認知症の方本人も自分の失敗にショックを受けているため、叱ったり責めたりすることで逆効果になることがあります。自尊心を傷つけないように、落ち着いて対処しましょう。
例えば、失禁したときには「ちょっと濡れていますね。新しい方が気持ちが良いので、替えましょうか」といった感じで平静な態度で話しかけましょう。また、トイレ掃除や汚れた下着の始末はさりげなく行なうようにします。その人の生活リズムから排泄のタイミングを見計らって、定期的にトイレに誘うのも効果的です。
認知症ケアを続けていくためには、介護する方自身のケアも大切です。ちょっとした息抜きの方法を見つけて気分転換したり、リラックスする時間を作ったりし、ストレスを解消するように心がけましょう。
また、精神的にも肉体的にも介護の負担を一人で抱え込まないようにするのも重要です。周囲の人に相談してみたり、デイサービスやショートステイ、訪問介護サービスを利用したりするなど、負担を減らす方法を見つけて活用しましょう。