親の介護をしたくない場合はどうしたらいい?
対策と事前にできる備え


親の老後を考えるとき、「正直、親の介護はしたくない」と感じる方もいるかもしれません。仕事との両立の難しさ、精神的・身体的な負担、家族関係のストレスなど、その理由は人それぞれです。

大切なことは、その気持ちを否定せず一人で抱え込まないことです。介護サービスや地域の支援制度を上手に活用し、家族と協力しながら負担を軽減することで無理のない介護の形を見つけられます。

本記事では、「親を介護したくない」と感じる理由やその場合にとれる具体的な対策、介護をしない場合の法的責任、そして将来の介護に備えて今からできる準備について解説します。

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親の介護をしたくないと考える4つの理由

 
「できれば親の介護は避けたい」と感じるのは、決して珍しいことではありません。

ここでは、多くの人が抱える4つの代表的な理由を見ていきましょう。

仕事と介護の両立が難しい

介護は、時間的にも精神的にも大きな負担をともないます。「仕事に支障が出るのでは」「自分の生活が崩れてしまうのでは」と不安になる方も少なくありません。

実際に、総務省の「令和4年就業構造基本調査」によると、介護や看護を理由に離職した人は約10万6,000人です。平成29年(2017年)と比べて約7,000人増えており、介護離職は年々深刻化しています。

キャリアの中断や収入の減少を考えると、「自分には介護を担う余裕はない」と感じるのも無理のないことです。

親との関係性が悪い

親子の関係がうまくいっていない場合、介護への抵抗感が強くなる傾向があります。

過去に確執があったり、長年疎遠になっていたりすると、「今更介護をしたくない」「顔を合わせるのもつらい」と感じても不思議ではありません。

また、関係が良好だった親子でも、介護をきっかけに感情のすれ違いが起きることがあり、「子どもに迷惑をかけたくない」「弱った姿を見せたくない」と親が介護を拒むケースも見られます。

感情がすれ違うと、どちらの立場にとっても精神的な負担が大きくなってしまうでしょう。

一人っ子で介護の負担が大きい

一人っ子の場合、介護の負担がすべて自分に集中しやすいという現実があります。兄弟がいれば分担できますが、誰にも頼れず、責任の重さを感じる方も少なくありません。

そのような状況では、親子関係が良好でも仕事や育児と並行して介護を担うのは大きな負担です。心身の疲れがたまり、孤立感やプレッシャーを感じてしまうケースもあるでしょう。

経済的な負担が大きい

介護は、心身の負担だけでなく経済的な負担も少なくありません。

公益財団法人 生命保険文化センターの調査によると、介護にかかる費用の平均は総額で約542万円*1、月額で約9万円*2とされています。さらに、施設に入居する場合は、入居時費用として約680万円※1が必要になることもあります。

親の貯金や年金でまかなえればよいですが、足りない場合は子どもからの支援が必要となるケースもあります。

介護離職などで自分の収入が減ると、生活全体への影響も避けられません。

*1 (公財)生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」より当社試算

*2 (公財)生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」

※1株式会社LIFULL senior 老人ホーム検索サイト「LIFULL介護」に掲載された全国の有料老人ホームの個室タイプの料金プランデータから、中央値を算出して相場としています。(2024年10月31日時点)

親の介護をしたくない場合の対応策

「親の介護をしたくない」と感じるのは、決して冷たいことではありません。大切なことは、その気持ちを一人で抱え込まないことです。専門家や制度の力を上手に借りながら、自分にできる形で介護と向き合う方法を考えていきましょう。

ここでは、無理なく介護に取り組むための具体的な対応策を紹介します。

地域包括支援センターに相談する

各市町村に設置されている「地域包括支援センター」は、介護に関するあらゆる相談を受け付けています。

センターには、社会福祉士・ケアマネジャー・保健師などの専門職が在籍し、介護や福祉、医療などの面から総合的に支援します。必要に応じて、介護サービスや医療機関、行政の窓口などにつないでもらえ、相談は無料です。

「どのような支援があるかわからない」「どこに相談したらいいのか迷っている」という方は、まずは地域包括支援センターに相談してみましょう。専門職の人が一緒に現状を整理し、今後の方向性を考えてくれます。

地域包括支援センターの役割や相談できる内容は、下記記事で詳しく解説しています。

地域包括支援センターとは?役割と相談できる内容・利用方法

介護サービスを利用する

公的介護保険制度を利用すれば、所得に応じて1~3割の自己負担で多様な介護サービスを受けられます。
自宅で介護を続けたい場合は、訪問介護・訪問看護・デイサービス・ショートステイなどを組み合わせることで、負担を軽減できます。例えば、「平日はデイサービスを利用し、休日は家族が介護を担当する」など、柔軟な使い方が可能です。

一方、要介護度が高いなどの理由から自宅での介護が難しい場合は、特別養護老人ホームなどの施設入居も選択肢となるでしょう。

なお、介護サービスを利用するには自治体から「要介護認定」を受ける必要があります。

介護サービスの申請や利用の流れ、種類はこちらの記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。

介護サービスの種類とは?3つの分類と各サービスの特徴

公的介護保険とは?公的介護保険申請から利用開始まで

兄弟姉妹などの親族と役割を分担する

介護を一人で抱え込むと、心身ともに疲弊してしまいます。兄弟姉妹などの親族がいる場合は、それぞれの得意分野や生活環境に合わせて分担しましょう。

例えば、「通院の付き添いは長男」「買い物支援は長女」「金銭管理は次男」といった形で役割を分けると、負担をバランスよく分担できます。

大切なのは、互いの状況を共有し、理解し合うことです。

ただし、介護の状況は時間とともに変化するため、定期的に話し合う機会を持つことをおすすめします。

親の介護をしないとどうなる?法的責任は?

「介護は無理かもしれない」と思っても、どこまで責任が生じるのか気になる方も多いでしょう。ここでは、親の介護をしない場合に生じる法的な義務や注意点をわかりやすく解説します。

親の介護は民法の扶養義務に含まれる

民法第877条では、「直系血族および兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある」と定められています。この「扶養義務」には、親の介護も含まれるとされています。

そのため、親に介護が必要だと知りながら放置した結果、けがを負わせたり死亡させてしまったりした場合、状況によっては「介護放棄」などで罪に問われる可能性があります。

なお、扶養義務があるのは直系血族、兄弟姉妹、配偶者です。配偶者とは介護される当人の配偶者で、子どもの配偶者に扶養義務はありません(民法第752条「協力・扶助の義務」)。

介護費用の負担でも扶養義務は果たされる

扶養義務には、次の2つの義務があります。
  • 生活面の世話をする義務
  • 経済的に支援をする義務
これらは必ずしも両方を行う必要はありません。そのため、介護する時間がない場合は、「介護費用の負担」という形でも扶養義務を果たせます。

さらに、家庭裁判所が「経済的な余裕がない」と判断した場合は、扶養義務が強制されることはありません。無理をして自分の生活を犠牲にする必要はないのです。

親を介護しない場合の法的責任は、下記記事でも詳しく解説しています。

親の介護は放棄できる?介護放棄の原因と解決策についても解説

親の介護に備えて事前にできること

要支援・要介護の認定者数は、2030年には約949万人※1にのぼると試算されています。また、同年には65歳以上の約4人に1人※2が要支援・要介護認定者となる見込みです。

介護は、誰にとっても「遠い将来の話」ではなくなりつつあります。以下では、将来の介護に備えて事前にできることを紹介します。

※1厚生労働省「令和4年度 介護保険事業状況報告(年報)」より当社にて推計

※2厚生労働省「令和4年度 介護保険事業状況報告(年報)」および内閣府「令和6年版高齢社会白書」より当社にて推計

親や兄弟姉妹と介護の方針を話し合う

介護が必要になる前に、家族でしっかり話し合う時間を作っておきましょう。

「自宅で介護を受けたい」「施設に入りたい」といった親の希望を確認しておくことが第一歩です。そのうえで、介護が始まった場合に誰がどのような役割を担うかを、事前に決めておくと安心です。

また、公的介護保険制度の仕組みや利用できる介護サービスについても、早めに情報を集めておくとよいでしょう。地域包括支援センターへの相談や自治体が主催する家族介護教室への参加は、介護が始まる前から利用できるため、より深く制度や介護を理解したい方におすすめです。

親の財産状況を確認しておく

どのような介護スタイルを選ぶにしても、一定の費用負担は必要になります。そのため、親の年金や貯金、保険などの財産状況を確認し、どの程度の支出に対応できるのかを把握しておきましょう。

親がまだ年金を受け取っていない場合は、「ねんきんネット」や「ねんきん定期便」で将来の受給見込み額を確認できます。また、経済的な備えとして、民間の介護保険を検討するのも有効です。

さらに、親が認知症になった場合に備えて、財産管理や契約手続きをサポートする「成年後見制度」や「任意後見制度」を理解しておくと、いざというときに慌てず対処できるでしょう。

成年後見制度の概要やメリット・デメリットは下記記事で詳しく解説しています。

認知症になると成年後見人が必要?制度のメリットやほかの対策

親の介護は一人で抱え込まず、無理なく行うことが重要


介護は、決して一人で抱え込むものではありません。

行政の支援や公的な介護サービスを積極的に活用し、家族や周囲と連携しながら無理のない形で続けていくことが大切です。

また、将来の備えとして民間の介護保険などを活用すれば、経済的な不安を軽減し、より安心できる環境を整えられるでしょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

小玉 有紀[介護福祉士]

1986年生まれ。福祉系専門学校にて介護福祉士・介護事務士を取得。介護業務を経験。その後、生活相談員・ケアマネジャーとしても勤務。全国展開する有料老人ホームにてアセスメントツールの開発事業に携わる。また系列施設で社員研修の講師となる。現在も、ケアマネジャーとして勤務するかたわら、ライターとして活動中。

資格:介護福祉士・介護事務士・介護支援専門員

公開日:2025年12月17日

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