介護ロス症候群が起こる理由とは?
おもな症状・予防対策・治療法


介護が終わったあとに強い喪失感や虚無感を覚え、「何もやる気が起きない」「気分の落ち込みが続く」と悩んでいる人もいるのではないでしょうか。

このような心身の変化は、一般に「介護ロス症候群」と呼ばれることがあります。

介護に真剣に向き合ってきた人ほど、介護ロス症候群に陥る可能性があるため注意が必要です。

この記事では、介護ロス症候群が起こる理由やおもな症状、なりやすい人の特徴を紹介します。また、介護ロス症候群の予防法や治療における注意点についても紹介するので参考にしてください。

介護から解放されたあとに起こる「介護ロス症候群」とは?

 
介護ロス症候群とは、介護していた家族などを亡くしたあとや、施設入所などによって介護生活に区切りがついたあとに生じることがある状態を言います。喪失感からいつまでも抜け出せずに燃え尽きたような状態になってしまい、心身のバランスを崩してしまいます。

生活の多くを介護に費やし、一生懸命に向き合えば向き合うほど、見送ったあとの悲しみは大きいでしょう。「大切な家族を支えたい」という使命感で頑張ってきた人は、その使命を失ったときに、どうしたらよいかわからなくなってしまう場合があります。

介護ロス症候群になってしまう理由とは

介護は、精神的にも肉体的にも大きな負担がかかるものです。毎日くたくたになるまで身を削り、自分のやりたいことを諦める日々を過ごしていると、心身ともに消耗してしまうでしょう。

ただし、心身が消耗した状態でも、やるべきことがあるうちはなんとかなる場合も多いといわれています。憂鬱でつらい気持ちを抱えながらも、自分を奮い立たせて介護に取り組み、気を紛らわせられるためです。

しかし、介護から解放され、やるべきことがなくなって安心すると、それまで抑えつけていた憂鬱さやつらさが急に押し寄せてきます。心身の消耗が重く感じられるようになり、うつ病のような症状があらわれることもあります。

これが、介護から解放されたあとに起こる介護ロス症候群です。

介護ロス症候群になるとどのような症状が出る?

介護ロス症候群になると、大仕事を終えて重荷から解放されたあとに発症する「荷下ろしうつ病」の症状が出ます。

荷下ろしうつ病の症状はうつ病と同じです。具体的にどのような症状が出るのか、確認しておきましょう。

食欲がなくなる

食べたい気持ちがなくなり、食べようとしても食べられなくなるといった症状が出ます。好きなものを食べても「おいしい」と思えなくなり、ますます食べようとしなくなるため、体重の減少や体力の低下が起こりやすくなります。

睡眠障害が起こる

疲れているのに眠れない、眠れたとしても何度も目が覚めてしまうといった睡眠障害の症状が出やすくなります。明け方に目覚めてしまい、そのあと寝つけないまま朝を迎える早朝覚醒も、睡眠障害の一つです。

睡眠障害が起こると、思うように睡眠が取れないため、疲れや気怠さを感じる機会が増えます。不眠はうつ状態を悪化させるといわれているため、注意すべき症状です。

身体が動かなくなる

身体が疲れやすくなり、疲労感や倦怠感が抜けなくなります。家事や仕事など、何をするにも億劫になり、活動量が減って無気力になってしまうのです。

ときには身体が思うように動かず、ベッドでの起き上がりさえ困難になる場合もあります。何日も前から段取りをしておかないと、出かけられない状態になる日もあるほどです。

また、人によっては、重い肩こりや頭痛を感じるケースもあります。

気持ちが落ち込む

気分が落ち込み、人とのかかわりを避けて殻に閉じこもるようになります。頭が思うように働かなくなり、作業効率が下がるでしょう。

なかには人生に希望を持てず、世界から色がなくなったような感覚になる人もいます。物事を何でもネガティブに考えるようになり、「自分なんて必要ない」と自殺願望を抱いてしまうこともあるほどです。

「介護ロス症候群」と似ている症状
「介護うつ」「燃え尽き症候群」の特徴

介護ロス症候群と似た症状として、「介護うつ」や、バーンアウトとも呼ばれる「燃え尽き症候群」が挙げられます。

いずれも気分の落ち込みや意欲の低下など共通する症状がみられるため、違いがわかりにくいと感じる人も少なくないでしょう。

以下では、介護うつと燃え尽き症候群それぞれの特徴を解説します。

「介護うつ」は介護中に発症することが多い

介護うつとは、介護による精神的・身体的な負担が積み重なって発症するうつ状態のことです。

介護ロス症候群が介護や看取りの終了後に喪失感から生じることが多いのに対し、介護うつは介護を続けている最中に発症するケースが一般的です。

介護うつの背景には、睡眠不足や慢性的な疲労に加え、介護と仕事の両立によるストレスや、終わりの見えない介護への不安などが関係しています。

介護うつになると、気分の落ち込みや意欲の低下、集中力の低下など、介護ロス症候群と似た症状があらわれる場合もあります。

「燃え尽き症候群」は介護以外の場面でも起こり得る

燃え尽き症候群とは、強い責任感を持って物事に取り組み続けた結果、心身のエネルギーを使い果たしたような状態になることを指します。

介護ロス症候群が介護終了後の喪失感と深く関係するのに対し、燃え尽き症候群は介護だけでなく、仕事や子育て、スポーツなど、さまざまな場面でみられるのが特徴です。

燃え尽き症候群は、介護中も発症する可能性があります。長期間にわたって献身的に介護へ取り組み、自身の休息や楽しみをあと回しにしていると、心身の負担が限界に達することがあるためです。

また、介護ロス症候群と同様に、真面目な人や責任感が強い人、完璧主義な人ほど、自身を追い込みやすく、発症リスクが高まる傾向があります。

介護ロス症候群になりやすいのはどのような人か

以下では、どのような人が介護ロス症候群になりやすいのかを解説します。

責任感が強く完璧主義な人

責任感が強くて真面目な人は、「すべて完璧にやらなくてはいけない」と抱え込んでしまいがちです。手を抜くことが苦手なので、自分だけの力で頑張ろうとする傾向があります。

しかし、介護は必ずしも自分の思いどおりにできるものではありません。人を相手にする作業であるため、思うように進まない状況も多く発生するでしょう。

その結果、頑張りすぎて疲れがたまり、心身ともに消耗してしまいます。

物事に熱中しのめり込みやすい人

時間を忘れて物事に熱中してしまうような、のめり込みやすい人も介護ロス症候群になりやすいでしょう。

物事にのめり込みやすい人も手抜きができず、自分の時間のほとんどを介護にささげてしまう傾向があります。介護が生きがいになっているため、介護から解放された途端、心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになってしまうのです。

人間にとって、大きな変化はストレスになります。これまで生きがいとしてきた介護から急に解放されると、脳がストレスを感じ、倦怠感や気持ちの落ち込みといった症状が出てしまうことがあります。

頼れる人がいない人

周囲に頼れる人や相談できる人がおらず、介護のすべてを自分で背負わねばならない人も、介護ロス症候群になりやすいといえます。

介護は重労働であり、一人ですべてをこなすのは非常に大変です。精神的な負担も重いため、悩みやつらさを相談できる相手がいないと、孤独感や虚無感が増していくでしょう。

また、介護のために仕事を辞めざるをえない状態になった場合は、収入面や社会と疎遠になることへの不安も増えます。その結果、ますますストレスが大きくなってしまうのです。

介護ロス症候群は他人事ではなく誰にでも起こり得る

介護ロス症候群は、介護に真剣に向き合い、長期間にわたって家族を支え続けてきた人ほど起こりやすいといわれています。

責任感が強い人や物事に熱中しやすい人は、「自分が頑張らなければならない」という思いから介護を優先し、自身の疲労やストレスを見過ごしてしまいがちです。

その結果、介護が終わったタイミングで心身の緊張が一気に緩み、それまで抱えていた不調が表面化するケースも少なくありません。

介護ロス症候群は、一部の人だけに起こる特別なものではなく、誰にでも起こる可能性があります。

「自分は大丈夫」と思い込まず、介護が終わったあとは自身の心身の変化に目を向け、普段との違いを意識しながら過ごすことが大切です。

介護ロス症候群を防ぐための対策5つ

 
ここでは、介護ロス症候群を防ぐ方法を紹介します。介護ロス症候群になりやすい傾向がある人は、少しでも多くの回避策を知っておくとよいでしょう。

自分を大切にする

「自分を犠牲にして介護に取り組む」という気持ちでいると、介護ロス症候群になりやすくなる傾向があります。すべてが介護優先になってしまうと、精神的に消耗してしまうため注意が必要です。

自分を犠牲にせず、自分のための時間をつくり、介護以外の生きがいを見つけましょう。

疲れやストレスへの自覚を持ち、悪化する前に早めに休みを取ることをおすすめします。たまには身体を休めて趣味を楽しむなど、心身ともにリフレッシュする時間も必要です。

介護を分担する

介護をすべて一人でやるのは困難です。自分だけで頑張ろうとすると、心身に大きなストレスがかかり、消耗してしまいます。介護する側はもちろん、介護される側にも悪影響をおよぼす可能性があるでしょう。

決して一人で抱え込まずに、家族と話し合うことが大切です。介護の負担はできるだけ複数人で分担することをおすすめします。

プロに相談する

介護に関する悩みがある場合は、一人で悩まず、信頼できる相手に相談しましょう。家族や友人でもよいですが、ケアマネジャーといった介護のプロに相談するのもおすすめです。

専門知識を持ったプロに相談することで、介護の正しい知識が身に付き、不安や悩みを解消できます。介護による社会的孤立を防ぐ効果がある点もメリットです。

ケアマネジャーのほか、地域包括支援センターや医師に相談するのもよいでしょう。自治体が行っている介護相談会に参加するのもおすすめです。

介護サービスで負担を減らす

心身の負担を減らすために、訪問介護やデイサービス、ショートステイなどの介護サービスを利用するのもよいでしょう。

介護の負担が大きければ、介護施設への入所という選択肢もあります。「大切な親を自分で介護しないのは親不孝ではないか」と思う人もいるかもしれません。しかし、必ず家族が自宅で介護をしなければいけないわけではないのです。

誰が介護を担うかよりも、介護者と被介護者の両方が幸せに暮らせる選択をすることが大切です。

介護が終わる前に今後の生活のことを決めておく

介護が生活の中心になっていると、介護が終わったあとに喪失感や虚無感を抱きやすくなる場合があります。

そのため、介護後の生活について、あらかじめ具体的に考えておくことも、介護ロス症候群への備えの一つです。

例えば、仕事への復帰を目指す、友人と会う機会を増やす、新しい趣味や資格取得に挑戦するなど、介護以外の目標や楽しみを持つとよいでしょう。生活環境の変化にも対応しやすくなります。

介護ロス症候群になってしまった場合の対応

介護が終わったあとに気分の落ち込みや意欲の低下、不眠などが2週間以上続く場合や、日常生活に支障を来している場合は、うつ病などの病気が隠れている可能性もあります。

そのような症状が続く場合は、心療内科や精神科を受診することをおすすめします。医師の指示に従い、治療を行いましょう。

医療機関では、症状や生活状況に応じて、「休養を取る」「薬物療法を行う」「精神療法を行う」などの治療法を検討します。

休養を取る

まずは十分な休養を取ることが、介護ロス症候群の治療の第一歩です。できるだけ睡眠時間を確保したりリラックスしたりする環境を整え、頭をしっかりと休ませる必要があります。

ゆっくりと休養を取り、過剰にかかっていたストレスを減らしましょう。

薬物療法を行う

回復スピードを速めたり、再発を防いだりする目的で、薬を用いる場合もあります。使用するおもな薬は、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬、漢方薬などです。

精神療法を行う

カウンセリングで問題の原因を探り、認知療法や行動療法によって改善を図るのが精神療法です。対話によって精神状態や思考の癖を改善します。

自己判断は禁物|心身の不調で治療を受ける際の注意点

精神科や心療内科での治療途中に症状が改善してきたように感じても、自己判断による治療の中断はおすすめできません。

医師から処方された薬を急に中止すると、症状の再発や離脱症状による体調悪化につながる可能性があります。

また、回復までの期間には個人差があります。自覚症状が軽くなったとしても、自身の判断だけで治療を終えずに、医師の指示に従って方針を決めることが重要です。

精神療法やカウンセリングも、効果を実感するまでには時間がかかる場合があります。そのため、焦らず無理のないペースで続けることが大切です。

治療方針の変更や服薬の中止を希望する場合は、必ず医師へ相談し、適切なタイミングや方法について指示を受けましょう。

早めの対策で、介護ロス症候群を防ごう


介護ロス症候群は、介護に向き合ってきた人であれば、誰にでも起こる可能性があります。

介護ロス症候群を防ぐためには、つらい状況を一人で抱え込まず、周囲に頼りながら介護を行うことが大切です。

また、介護が終わったあとの生活についてあらかじめ考え、介護以外の楽しみや目標を持つことも、心身の負担を和らげる助けになります。

介護の終了後も「自分は大丈夫」と思い込まず、自身の心身の変化に目を向け、不調が続く場合は医療機関への相談も検討しましょう。

 
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将来に備えて保険加入をご検討中の場合は、ぜひご活用ください。

久毛 希[作業療法士]

作業療法士として回復期病院や介護老人保健施設での臨床を経験後、リハビリテーション専門学校の専任教員や特別養護老人ホームでの機能訓練指導員の管理業務を歴任。現在はフリーランスのライター・ディレクターとして独立し、専門知識を活かした医療・介護系記事の執筆・編集・監修など幅広く手がけている。

資格:作業療法士・福祉用具プランナー・福祉住環境コーディネーター2級・認定心理士・薬機法・医療法規格協会 YMAA個人認証 取得
など

公開日:2026年8月17日

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