例えば、認知症の方の症状が進んで施設に入居したあと、配偶者や息子、娘が面会に行くと「どなたですか」といわれてしまうことがあります。
また、認知症の方は家族のことがわからなくなるだけでなく、自分の息子を亡くなった弟と間違えたり、「息子の○○ですよ」と話しかけると「息子は死んだ」といわれたりするなど、事実とは異なる認識をすることもあります。
実の父親や母親、夫や妻に自分のことがわかってもらえないことは、家族にとって受け入れがたいものです。忘れられた家族のなかには、仕事が手に付かないほどのショックを受ける方もいます。しかし、悲しみや恐怖を感じること自体は、家族としてあたりまえの反応でしょう。
では、なぜ認知症の方は、家族などの大事な人ほど忘れてしまうのでしょうか。
なぜ認知症の方は大事な人から忘れるのか
認知症の方は新しい記憶から消えていく
認知症の記憶障害では、新しい記憶である「短期記憶」から順に忘れていき、その後「長期記憶」やそのほかの記憶にも影響が出るといわれており、まず直近の情報を維持できなかったり思い出せなくなったりするのです。
なお、認知症の方が忘れていく記憶の順番の詳細については、のちほど解説します。
今いる家族の記憶は最新の記憶
なお、認知症では記憶障害と同時に、時間感覚や方向感覚・人間関係を正しく認識する能力が低下する「見当識障害」も見られます。見当識障害も、家族の記憶を忘れてしまう原因の一つで、症状が進行すると、家族の顔や名前、関係性を正しく認識することが難しくなってしまうのです。